Departure to a new time!Act9
1.
イスカンダルを背負うように現れた巨大な要塞はヤマトとガミラス艦隊を威嚇するかのように
前方に立ちふさがった。
それは・・・・
まさに漆黒の化け物といった風情の代物だった。
ヤマトの第一艦橋内も・・・・そしてデスラー艦艦橋内も一様に異様な空気に包まれていた。
漆黒の化け物に毒気を抜かれたように全員がただ呆然と目の前の物体に目を奪われていた。
が、・・・・ヤマト艦内の古代、そしてデスラー艦内のデスラーがほぼ同時に我に返り、
互いにモニター内の敵をキッとにらみつけた。
その怒りに震える空気に他の者達も我に返ってゆく。
「全砲門、前方の敵巨大要塞に照準を合わせたまま待機!!」
古代から飛んだ令をすぐさま南部が伝令管を通じそれぞれの部署に通達してゆく。
「要塞の動きをくまなくチェックしておけ!それから要塞そのもののデータもチェックするんだ!!」
太田、ユキそして真田も言葉なく・・・・しかし、指先は手元のコンソール上をめまぐるしく走る。
相原も敵からの電波を傍受し、その正体を探ろうとモニターに釘付けになっている。
山崎はヤマトの動きに支障が出たりしないよう、機関室に檄を飛ばし・・・・・
島も操縦桿を握り締め、前方を見据え・・・・・・
その隣に待機する北野も補助用の操縦桿を握り脂汗をかいている。
(敵の要塞に一番威圧されているのは間違いなく彼であろうが・・・・・・)
おそらく・・・・ガミラス艦の方でも同じような光景が繰り広げられているであろう・・・。
ヤマトの右舷に並ぶように待機しているガミラス艦隊の隊列に目をやりつつ、
古代は複雑な胸中に顔を曇らせた。
2.
「敵、要塞から電信!!」
通信機の変化を目を凝らすようにチェックしていた相原が弾かれるように叫んだ。
「メインパネルに接続しろ!!」
古代は間髪いれず命ずる。
古代の声が消えるか消えないか・・・・ほどの瞬間メインパネルがノイズと共に反応し、
それまで映し出していたイスカンダルを背負った敵要塞の姿が消えた。
と、同時に人影がパネルに映し出された。
「!!」
初めて目にする敵の姿に、古代はグッと足を踏みしめ上目使いでにらみつけた。
だが・・・・画面内の敵は・・・・・古代のことなどさほど眼中になどなく・・・・
さもつまらなそうに自分を睨みつけてくる相手を小動物でも眺めるかのようだった。
いや・・・・ヤマト自体『敵』とみなしてはいないということか・・・・
『・・・・物資補給部隊相手とはいえ・・・・わが暗黒星団帝国の艦隊を相手に見事な戦いぶりであったと
褒めておくべきかな?』
細身の相手からこぼれた言葉に古代ははらわたの煮え返る思いがした。
「貴様らは一体何者なんだ!!この星系・・・いや、
消滅した惑星と今貴様の背後にある惑星に何の目的がある!」
『こんな辺境の星系になど私自身はなんの興味も持たぬ。
我々が興味あるのはそれぞれの惑星から採取される地下物質のみだ』
いかにも《名乗る必要もないものにこれ以上声などかけたくはない》と見下した様相で敵の要塞の司令
(と思しき人物)は手を払いながら告げた。
『ガミラシウムは我が暗黒星団帝国が現在遂行中の星間戦争において非常に利用価値のある地下物質と判明したのだ。
光栄なことであるというのに・・・・下等な貴様らはその栄誉を棒に振ってしまったとはな・・・・』
「何が栄誉なことか!!平和利用のためならいざ知らず・・・・
宇宙の平和を乱すためのような行為を見逃せると思ってるのか!!」
『何をほざく・・・・・まぁ・・・・よい・・・・どこの馬の骨とも知らぬが・・・
我が暗黒星団帝国にたて突いたことを後悔するがよい・・・・・』
そういうと敵の司令はサッと右手を挙げ合図をした。
わずかに「ハッ」と言う声がパネルを通じこちら側へも流れてきた。
「な・・・・何をする気だ!!」
古代の顔から血の気が引いた。
『知れたことよ・・・・・・あの星・・・・イスカンダルにはわずかばかりではあるが知的生命が存在するということで
こちらも配慮をしたが・・・・・もう必要あるまい。あの星の生態系は当の昔に崩れ去っておるのだ・・・・・』
「な・・・・・」
今まで黙って二人の会話を聞いていた第一艦橋のメンバー達も我を失って座席を蹴って立ち上がった。
案外血の気の多い相原など1・2歩足を踏み出しその形相は怒りに紅潮していた。
3.
『ばか者どもよの・・・・・我とてむやみな殺生は好かぬ・・・・
ゆえ生命反応が途切れているガミラスの採取から手をつけてやったというものを・・・・・』
いかにも勿体つけたようないい方の敵司令にガミラス側が吼えた。
『何をほざくか!!我が母なるガミラスをあのような姿に貶めておった輩が!!』
ヤマトと敵の通話を傍受していたのであろう・・・
モニターを割るようにデスラーの怒りに狂った姿が浮かび上がった。
『たとえ・・・・既に生きとし生けるものが存在せぬ星であろうとも・・・・・我が母なる星に変わりはない!!
それをのうのうとそのような戯言をほざきよって・・・・・』
握り締めた拳がワナワナと震えている・・・・・
『生きるものが存在せぬ星など・・・・星とはいわぬわ・・・・・・それほど大切な星であれば・・・・
何故離れるようなことをしたのだ?かつてのガミラスの支配者よ・・・・・』
敵の言葉にデスラーが言葉をなくしたことに古代は気づかずにはいられなかった。
その原因を作ったのはデスラー自身であり・・・・
そしてその「結果」を招いたのは間違いなく自分であったから・・・・・。
『それほどに自ら育みし星を求めるのであれば・・・・・・』
次の言葉に古代たちは耳を疑った
『いかにしようとも・・・・いかなる姿にしようとも自らの手で放棄すべきではないのではあるまいか?
おぬしらはこの星を見捨て去ったのだ!捨て去りしもの共に存在する価値などあるはずもなかろうが!!』
『放棄したつもりなど毛頭ない!!』
相手の言葉はデスラーの怒りを買った
『放棄するはずもない・・・・・だが・・・・我が民族の再興のためには・・・・・放棄せざるえないこともあるのだ・・・・・』
その呟くような言葉は・・・・まるで自らの胸に言い聞かせているかのようだった。
『民族の再興だと?そのような世迷言を・・・・・・』
敵の馬鹿にしたような高笑いに比例するかのようにデスラーの形相が《夜叉》の如く代わってゆく。
『自らの星を守れもしないような輩に何が出来ようぞ!!』
『ほざけ!!』
デスラーの足元が動いたのを古代は見た。その足元からせり出してきたものに・・・・古代は愕然とした。
“あれは・・・・デスラー砲の発射トリガー?!”
『うぬのそのような減らず口・・・・・我がデスラー砲が粉砕してくれようぞ!!』
デスラーの指がトリガーを引き絞った。
4.
デスラー艦の砲口が・・・・・一気に放ったエネルギー波は確実に敵の側面を捉えた。
“やったか?!”
デスラーもだが・・・・ヤマトの艦橋の古代たちもそう・・・・確信した。
デスラー砲はヤマトの波動砲と匹敵する威力を持つ・・・・・デスラー艦(ガミラス艦隊)最強の武器だ。
(タキオン粒子を放つヤマトの波動砲とは仕様エネルギーが違えども・・・・基本的な理論はあまり変わらないもの
であった(イスカンダルからの情報で設計され構築された武器なのだ・・・・充分ありえることである)
デスラー砲をまともに受けた要塞は一瞬妖しく煌いた・・・・・・・が、次の瞬間
「!!!!!」
古代たちは目の前で起こったことが信じられなかった。
要塞は無傷であった・・・・・・
『愚か者どもめ・・・・・そのような豆鉄砲のようなエネルギーなど・・・・・このゴルバの前では無力だわ・・・・・・!!』
きらめきが収まり黒光りする巨体が再び姿を現した時・・・・・・敵司令の勝ち誇ったような高笑いと同時に
古代たちは初めて敵の要塞の名を知ることとなった。
古代たちも・・・そしてデスラーもただ言葉もなく立ち尽くすしか出来なかった・・・・・
5.
「・・・・・・・・」
コンピューターがはじき出した敵要塞のデータを眺めつつ・・・真田は眉間にしわを寄せていた。
「真田さん・・・・?」
真田の様子を不審に思った古代は彼に近づいて手元のデータを覗き込んだ。
そのデータの数値に古代の表情も見るまに曇ってゆく・・・・・。
「真田さん・・・・」
「気づいたか?古代」
真田の鋭い視線に古代は頷く
「あの敵要塞がどんな構造上の物質を使用して建造されているかは・・・・現段階ここではデータ不足で判断つきかねるが・・・・
あのデスラー砲を反射させた防御に使用されたエネルギー物質の分析は可能だった・・・これがその結果だ・・・・・・・」
「・・・・・これは・・・・もしかして」
手にしたデータから目を上げた古代の言いかけた言葉を真田が紡ぐ。
「ガミラシウムとイスカンダリウム・・・・双子星の特性とでも言うべきか・・・・この二つの物質は
ぞの分子構造上も極めて似通っている・・・・。エネルギー物質として極めて効率がよい物質でもある。
防御エネルギーとしての利用価値もあるが・・・・・ガミラスのデスラー砲のように・・・・・」
「攻撃用エネルギーとしての利用価値もある・・・・・か・・・・」
「敵の要塞の全表面にこのガミラシウムと構造上極めて似通った物質が防御バリアーとして張り巡らせてある・・・
ヤマトの波動砲のタキオン粒子を利用したエネルギーではたしてどれほどの影響を与えることが出来るのか・・・・・・」
真田の言葉に古代は呻くしかなかった。
ヤマト最大の武器・・・・・波動砲を持ってしても立ち向かえないかもしれないほどの相手・・・・・
古代は背筋に冷や水が走ったような気がした。
「しかし・・・・いくらなんでも・・・・あれほどのエネルギー波でもかすり傷一つ負わせられないなんて・・・」
窓外で不気味に浮かぶゴルバを凝視しながら北野が呟いた。
「表面のメッキを引っ剥がさないことには手に負えないってことかよ!!」
南部が激しく手元のコンソールに両手をたたきつけた。
グローブをしていなかったら間違いなく彼の手は血で染められたことだろう・・・・・
グローブの留め金の脇から覗く素手の部分が赤く腫れ上がっているのが見て取れた。
手が打てない悔しさをかみ締めているのは戦闘班だけではない。
ヤマトに乗合わす全乗員・・・・同じ思いであった。
だが・・・・自分達には何の策も思いつかない・・・
ジレンマばかりが室内に充満し、もどかしさだけが周囲を支配していた。
6.
悲痛な沈黙が辺りを支配する中・・・・・突然不気味なまでの低い笑い声が聞こえてきた
《愚かなものよの・・・・・ようやく自分らの無力さに気づきおったか・・・・》
それはゴルバからの一方的な通信だった。
かなり強引な電波がヤマトの通信網を支配し、勝手にこちら側の通信施設を支配していた。。
勝手に流れ込んでくる電波をシャットアウトしようと相原は機器にかじりついたが・・・・
結果は彼のプライドを傷つけただけであった・・・・
完全にシャットアウトされているはずのヤマトの通信網に無理やり割り込んでくる・・・・
こちら側の意志等お構いなし・・・・
まさにウィルスとも言うべき代物であった。
《今の結果を見たであろう・・・・そなたらがなすべきことは唯一つ・・・・この場から立ち去るか・・・・
我がゴルバの餌食になるか・・・・・・・二つに一つだ!》
「我々は・・・・・・」
古代はモニターに映る高飛車な相手を睨み吸えた
「貴様のような卑劣な奴らにひれ伏すような事はしない!」
《ほぉ・・・・・》
一瞬・・・・・古代の言葉に黙った敵ではあったが・・・・それは気が臆したわけではない・・・
というのは誰の目にも明らかだった。
《では聞こう・・・・・・何ゆえ我らが卑劣だと申すのだ?貴様は・・・・・》
「ほとんど抵抗する力も防衛する力もないような星を蹂躙するような輩を卑劣といわずに何が卑劣というのだ?」
・・・・人を小ばかにしたような敵の態度に、殴りつけたい気持ちをグッと堪え古代ははっきりと告げた。
《・・・・・そなたは我らのこと全くわかっていないと見えるな・・・・》
敵司令は古代の言葉に、呆れたような・・・そしてバカにしたように悲哀を込めながらため息をついた。
《我らはあの星を蹂躙した訳ではないぞ?我らは今の今まで・・・・
あの星の住人どもに手一つ下してはいぬわ・・・・・》
「屁理屈を言うな!!!」
古代のすぐ背後にいつの間にか立っていた太田が叫んだ。
その脇で大田の肩を押さえている島も憎憎しげにモニター内の敵を睨みつけていた。
「確かに・・・・貴様らは。手は下してはいない・・・・・直接的には手も汚してはいないようだな?
・・・・だが・・・・貴様らの行為は充分あの星を追い詰めてたことに間違いはないんじゃないのか?」
島の言葉にも敵は鼻でせせら笑うだけであった。
《なればそなた達に問おう・・・・・何ゆえそなた達は我が艦隊を攻撃したのだ?
我が艦隊は少なくともそなた達にはなんら危害を加てはいなんだはずではなかったか?》
その言葉に全員グッと言葉を飲み込んでしまった。
確かに・・・・・『ガミラス』と『イスカンダル』にかけられた危害である・・・・。
少なくとも『地球』にはなんら痛むところはない・・・・・。
だが・・・・・
古代はモニター内の敵司令官に臆することもなくグッと睨みつけて叫んだ。
「友好を結ぶものに危害を加えられれば、守ろうとする・・・・そうだろう!
まして・・・・イスカンダルは我らが地球にとって守るに値すべき星なのだ!!
我々は・・・いかなる状況に陥ろうと諦めはしない!!」
《ッたく・・・・片腹痛いとはこのことだ・・・・・というより・・・そなたらのような貧弱な者どもにたたき伏せられるような連中が我が暗黒星団帝国に存在したこと自体信じられぬことではあるのだが・・・・・。
そなたらはあの星を守るに値するというて我が艦隊を葬り去った。まぁ・・・・そのような弱き者・・・・残るに値すべきものではないのではあるがな・・・・・ようは戦うことになんら意味もないのだ・・・・!!ただ強きものが弱きものを従える・・・それが世と言うものよ。
まぁよい・・・・・貴様らのような下等な輩と禅問答を繰り返す気など我にはない・・・・どれ・・・・そろそろ目に物を見せてやろうか・・・・・・》
敵はさもつまらなそうにこちらを一蹴すると・・・・・背後の部下に手だ合図を送った。
その合図の『意味』を感じたヤマトの面々は顔色を失った。
空気がない宇宙空間に音は伝わるはずはない・・・・
だがヤマトの面々はゴルバの動き出す闇の底から響くような不気味な唸るような音をはっきりと聞いたような気がした。
ゴルバの不気味な巨大な砲口が突き出・・・・・・・
見開いた古代の瞳は、怯え戦慄くイスカンダルへとその矛先を向けられたのを捉えた。
7.
「・・・・そなたたち愚か者どもに目に物を見せてくれよう・・・・・・・」
歯軋りを噛む古代達を一瞥すると、彼の手がサッと上がった。
次の瞬間・・・・・・ゴルバの巨体の中央から伸びていた砲口が吼えた。
巨大な火の玉が蒼い惑星に襲い掛かった。
緑豊かな大地は一瞬にして吹き飛び・・・・
清らかな水を湛えた湖・・・・そして星全体を覆う聖なる海は一瞬にして沸き上がり・・・・
イスカンダルの象徴とも言うべきダイヤモンドの大陸も崩壊し・・・・
星の深部・・・・・マントルにまで傷が及んだのであろう・・・・
星のあらゆるところに亀裂が生じマグマを噴出させてゆく。
かなり痛めつけられた惑星とはいえ・・・・
今だその美しさを留めていたイスカンダルは見るも無残に崩壊して行く・・・・。
蒼を辛うじて留めていた星はみる間に危険な炎の色へと変化して行った・・・・・。
「古代君・・・・!!」
あまりの惨劇に耐え切れず、目を覆っていたユキが突然叫んだ。
ショックのあまり顔色を失ったユキが指差していたのは・・・・・
激しいマグマの流れの中・・・・・・淡い光を保ちながら辛うじて持ち堪えているイスカンダルの王宮・・・・
ダイヤモンドパレスの姿だった。
それは・・・・まるで・・・・
紅蓮の炎の中に佇む・・・・・・孤高の女神そのもののようであった・・・・・。
8.
「ほぉ・・・・さすがはイスカンダリウムのことだけはある・・・・・・」
ゴルバの一段高い指令席に深く腰を下ろした司令官は感心したように呟いた。
「見よ・・・・・・あれだけのマグマの激流の中において毅然とたっているあの美しい宮殿の姿を・・・。
あれこそイスカンダリウムの力を持って他ならぬというものだ・・・・」
まるで・・・・極上の宝飾でも眺めるかのように眩しげに・・・・
そして嘗め尽くす獣のような視線で画面の中を見詰めていた司令官は・・・・・・
やがて・・・・・クックック・・・・・と喉の奥から搾り出すような笑いをこぼした。
「イスカンダリウムのバリアが宮殿そのものを包囲し守っているのか・・・・」
ヤマトのメインパネルに浮かんだ淡い光に包まれたダイヤモンドパレスを見詰めながら真田もまた呟いていた。
「あの淡い光そのものがイスカンダリウムということなんですか?」
真田の言葉に古代は思わず訊いてしまった。
「・・・・・以前・・・・イスカンダルに来たとき・・・・あのダイヤモンドパレス全体が美しく煌き輝いていたのは・・・・
イスカンダリウムがあの宮殿本体を包み込み、そのエネルギーを周りに放射していたのか・・・・」
古代の質問が聞こえたのか・・・・聞こえなかったのか・・・・・
真田はメインパネルから目を離すこともなく呟いた。
「スターシャさんが以前おっしゃってたわ・・・・イスカンダルもかつてはガミラスとなんら代わることのない・・・
自分達の力に邁進していたような文明を築いていたと・・・・・。
だけど・・・・あるとき・・・・星の命運に気づいた人々は自分達の星の文明の愚かさに気づき・・・・・
やがて・・・・星の命運を受け入れる生き方を求め・・・・今のイスカンダルがあるのだと・・・・・・」
熱にうなされたようにユキもまたメインパネルから目を離せなかった。
こんな状態になっても未だこの星と共にしようと思っているであろう・・・・この星の女王と・・・
そして彼女と共に生きることを選んだ男の心を思い・・・・・。
「でも・・・・・でも・・・・・生きることを考えたとしても間違ってはいないはずなのに・・・・・」
固くその胸で握り締められた拳に爪が食い込み・・・・・微かに血がにじんでいるのを古代は気づいた。
「ユキ・・・・・・」
古代はその固く握り締められた拳をそっと包み込み開かせると・・・・血のにじんだその手の平に優しく触れた。
「・・・・・・二人が生きることを選ぶことに意義を唱えるような者がいるというの?・・・・・ね?・・・・・教えて・・・・」
大きな瞳からこぼれそうな涙に古代は頷くしかなかった。
《美しい光景だ・・・・・》
再び敵から交信が強引に流れ込んできた。
《実に美しい光景だとは思わないか?》
「何が美しいんだっ!!これ以上あの星に危害を加えるな!!!」
《我らは・・・・・あの星の物質を欲してるまでのこと・・・・マグマとなりあの地表に流れ出たイスカンダリウムを容易に
採取できる今の状況はこちらとしては大変ありがたいことでもあるしな・・・・・》
「!!」
《しかし・・・・例えそうであっても・・・・やはりいかに愚かな生命体であろうとも・・・・存在されていては・・・・
少々疎ましいというものでもあるな・・・・・・》
「き・・・・貴様・・・・・何を・・・・」
古代の怒りは頂点へと達しようとしていた。
だが・・・・・ヤマトの武器は波動砲も含め、相手に傷を負わすことすら可能かどうか・・・・
先ほどのデスラー砲の例もある・・・・・
波動砲すら役に立たないとしたら・・・・今のヤマトに何ができよう・・・・
その瞬間・・・・その時点で全ての命運は・・・・・尽き切ってしまう・・・・
古代は迷った。
その迷いをあざ笑うかのように敵の指令の言葉がその耳に突き刺さった。
《バカな貴様らへの見せしめにもなりうるしな・・・・・・見よ・・・・あの星のものたちの最後をその目で!!》
ゴルバの一部がそそり立ち一段と巨大な砲口がイスカンダルを捕らえたのを古代は見た。
あまりの光景に・・・・ヤマト艦内は静まり返った。
次の瞬間・・・・・起こったことに・・・・
目の前に起こった現実が信じられず・・・古代は我が目を疑わずにはいられなかった。
9.
目の前の光景を・・・・古代は一生忘れることはないであろう・・・・・
いや・・・・古代だけではない。
その場に居合わせた全ての目撃者がその光景を忘れることはないはずである。
それほど・・・・・思いもかけない光景が目の前に広がっていた。
止める間もなかった・・・・・
それほど思いもかけない彼の行動であり・・・・そして信じられない出来事だった。
・・・・先ほどまでヤマトのすぐ脇に並列状態で立ち尽くすしかない状態であったデスラー艦が・・・・・・・
今は・・・・ゴルバの砲口に突き刺さった状態で存在していたのだ。
「デスラー・・・・・デスラー・・・・・!!!」
古代は呻くように飛び込んだ好敵手の名前を叫んだ。
目の前のデスラー艦は衝突のショックで艦の装甲のいたるところに亀裂が走り・・・・
そこかしこから炎がちらついているのすら見て取れる。
サッと見て取れるだけでもデスラー艦のダメージは致命傷に近いものであることが容易に想像できた。
ところが・・・・・突っ込まれたゴルバ側のほうはどうであろう!!
確かに・・・・デスラー艦の直撃を受けた砲口自体には亀裂も走り・・・・
わずかばかりではあるが煙が流れているのも見て取れる。
しかし・・・・その本体にはほとんどといっていいほど・・・・・・・何のダメージも受けてはいなかった。
『あれほどの・・・・戦艦一隻の直撃すらヤツにはなんの影響すら与えないのか?!』
目の前で激しい煙と炎を上げるデスラー艦を古代は悔しい思いで見詰めるしかできなかった。
それは・・・・同じ光景に目がクギ付けになっている他のメインスタッフ達の心境でもあった。
その時であった。
イスカンダルからの地場による激しいノイズの影響を受けながらデスラー艦から通信が飛び込んできた。
「デスラー!!無事だったのか!!デスラー」
古代は思わず噛み付くように叫んでいた。
10.
『我がデスラー艦のもてる全てで飛び込んでもこの程度しか破壊できぬとはな・・・・・』
古代の紅潮した顔とは対照的に・・・・デスラーの表情は思ったよりも冷静であった。
「デスラー・・・・なんて早まったことを!!」
『かつての私にはとても信じられぬことではあるが・・・・・な・・・・』
古代の言葉にデスラーは自嘲気味に笑った。
穏やかにも近いデスラーの笑い顔を、古代は悲壮な思いで見つめた。
『かの戦いの際・・・・・私は目の前で見たものが信じられなかったのだよ・・・・・古代・・・・だが・・・・
この場立って、ようやく理解できたような気がする・・・・・』
古代には・・・・デスラーのいっている意味が理解出来難かった。
「何を・・・何を言ってるデスラー!!早くその場から離脱しろ!!ヤマトが援護をする!!」
『その必要などないのだよ・・・・古代・・・・・私の目的の半分は既に達成できたのだから・・・・』
古代の・・・・いや・・・・その周りの人間達の不審そうな目に気づいたのであろう・・・
デスラーは小さくため息をつき・・・・笑った・・・・。
『古代・・・・・波動砲を撃て・・・・・・!!』
そして、静かに・・・だが意を決したようにはっきりと告げた。
「な・・・・・?!」
その言葉に古代は絶句した。
『波動砲を撃つのだよ・・・・古代。それしかこの場を好転させる統べはない!!』
言葉を失う古代に対し、スクリーン内のデスラーは更に迫った。
「そ・・・・そんなことを出来るはずかないじゃないか!!デスラー」
“長い戦いの末に分かり合えた相手に対し引き金を引くことなんて・・・・・俺には出来ない!!”
古代はデスラーの言葉を否定するかのように大きく頭を振った。
だが・・・・・デスラーの言葉に偽りはなかった。
デスラー砲は・・・・完全に弾き返された。
今のヤマトの全砲門を開いて戦いに挑んでみたところで・・・・・
あのゴルバに致命傷を与えられる確率は限りなく0に近いものであろう・・・・。
『要塞全体をバリアで覆われているこのゴルバに対して・・・・外からいくら攻撃しようとも・・・
おそらく傷一つ負わせられるものではない・・・・・だが・・・・今我がデスラー艦がつけたこの傷・・・・・
この僅かな傷からならゴルバ内部へと波動砲のエネルギーを打ち込むことも出来よう・・・・・』
「古代・・・・・」
デスラーの意図を真田ははっきりと理解した。
「デスラーは・・・ヤマトの波動砲でゴルバの内部から破壊できるよう・・・・あの砲口へ飛び込んだんだ。
おそらく・・・・唯一バリアの影響を受けていないあの砲口へ・・・・・」
そう言葉にする真田の表情は苦渋に満ちていた。
古代の脳裏には・・・・かつての“白色彗星”・・・・・いや・・・・
“彗星都市帝国”との壮絶とも言うべきあの戦いがまざまざと浮かんでいた。
11.
彗星都市帝国との攻防も悲壮としかいいようのない戦いの連続であった。
かつての敵の防御体勢にもどれほど苦しめられたことか・・・・。
“古代・・・・・かつてのガミラス本星での闘いを憶えているか?・・・・・・真上と真下・・・・脆いものよ・・・・・・”
倒れた古代をかばい単身デスラーに立ち向かったユキに対し、デスラーは都市帝国の攻略のヒントとも言うべき
言葉を残し立ち去っていった・・・・・
その言葉に従うようにヤマトは都市帝国へ攻撃を仕掛けた。
だが・・・・・都市帝国の強固な防御体制・・・・激しく強大な攻撃力の前にヤマトの力は徐々に削り取られていった。
その時・・・・ヤマトの・・・・古代たちの取った捨て身とも言うべき手こそ・・・・・“内部爆破”であった。
あの機械の化け物の腹の中・・・・古代たちは決死の思いで駆けて行った・・・・。
その時・・・・どれほど多くの命が儚く散って逝ったか・・・・・
“古代”という希望に全てを託し・・・・ヤマトという艦に願いを込めて・・・・。
故郷という名の惑星の永遠の平和を願い・・・・。
あの時も・・・・・他に選ぶ道はなかったのか・・・・・・
後に古代は苦しむこととなった・・・・・。
人は残るものに思いを託し散ってゆく・・・・
託されたものの思いは・・・・・・?
尊い犠牲の上に成り立ったあまりに辛く苦しすぎる“結果”・・・・・。
最後の最後まで自分達の無力さを実感したに過ぎなかった“終結”
無残なまでの“敗北感”だけが残った・・・・・闘い・・・・。
今・・・・・またその二の舞を踏もうとしているのか?!
何か・・・・何かないのか?!
古代の噛んだ唇の端から一筋の血が流れた・・・・・。
12.
『古代・・・・迷っている時間はないのだよ・・・・・!わからないのか!!!』
パネルの中のデスラーが叫んだ。
衝撃によるデスラー艦の被害が艦橋にまで影響を与え始めたのだろう・・・・
時おり背後でかすかな爆発音が響くたびに、デスラーの身体が揺らぐ。
『古代・・・・・あのとき・・・・お前達が我らに見せた姿が今になってようやくわかってきたのだよ・・・・』
「デスラー・・・・・?」
『お前に傍らに常に存在する女性・・・・・・君が私に見せたものだ・・・・・・』
古代の傍らには・・・・・、潤む眼差しでパネルをじっと見詰める・・・・ユキの姿があった。
『古代・・・・お前の意識が途切れた瞬間・・・・・彼女は飛び出してきたのだよ・・・・
私の持つ銃のことなどものともせずに・・・・・・・』
「・・・・・!!!」
ことの成り行きを固唾を呑んで見守っていた第一艦橋の面々は思わず彼女に目をやった。
ユキのみ・・・・・“今更そんなことを・・・・”といった表情で俯くばかりであった。
あの時・・・・互いに対峙したことだけは憶えていた・・・・が、その後のことを古代は一切憶えてはいなかった。
気づいた時・・・・古代の身体はヤマトの医務室のベッドの上に横たえられ・・・
傍らに涙ぐみながらも微笑むユキの姿があった。
自分が気を失った後・・・・。何がどうなったのか・・・・。
ユキは詳しくは古代には語らなかった。
ただ・・・・・デスラーの残した言葉のみ・・・・古代に伝えたのだ。
『自分の身の危険など顧みることもなく・・・・・愛するもののことのみを思い・・・
私に銃口を向けてきた彼女の心の中を・・・・・・あの時は知る由もなかったが・・・・
今はわずかばかりでも理解できるような気がする・・・・』
デスラーはフッと僅かに笑った。
『私はようやく気づいたのだよ・・・・・・自分の胸の中の思いというものにね・・・・・』
古代は・・・・・いや・・・・他の者達もデスラーの思いにようやく気づいた・・・・。
デスラーが・・・・かつての隣の星の女王を心のそこから慈しみ・・・・そして愛しているということに・・・・・・。
13.
“スターシャを愛している”
それは・・・・スターシャ本人に気づかれることもなく・・・・
いや、デスラー本人すら気づかぬままその胸に秘められ続けていた思いだったのだろう。
デスラーにとってイスカンダルという星は決して犯してはならぬ聖域であった。
ガミラス民族としての本能以上に・・・・決して手を下してはならぬ女神が君臨する星・・・・。
イスカンダルを見詰めると胸がかき乱されるほどに切なかった・・・・。
その思いがどこから来るものなのか・・・・・デスラーには理解しがたかった。
ガミラス星をうち捨て荒ぶる思いをかつての敵にぶつけ荒涼たる宇宙原(うなばら)をさすらっている間も・・・
彼の心奥底の支えとなっていたものは死せる星と化した故郷(ガミラス)と・・・・
そして対となるイスカンダル星・・・・
あの時・・・・・
傷つきながらも自らを省みず・・・・・地球のことのみを憂いでいた古代・・・・
その彼を身を挺し守ろうと飛び込んできた影にデスラーは我が目を疑った。
それは・・・・・非力とも言うべき女性だった。
彼女は倒れ意識を失った古代を庇うかのようにデスラーの銃口の前に身を投げ出した。
ただ・・・・・愛するものを守るために・・・・
涙を浮かべつつ古代が落とした銃を震える手で自分に向けキッと睨む彼女の姿に愕然とした。
・・・・・あの女王の姿と重なった。
・・・・抱きしめあった二人の姿が眩しかった。彼には眩しすぎる光景であった。
互いのことだけを思い・・・・互いのことだけを見詰めている・・・・・・。
その光景の中に彼が見た初めての“無償の愛”の姿があった。
デスラーは銃を下ろした。
傷つき果てながら・・・・それでも地球のことのみを憂う古代・・・・。
そして愛するものをその細い腕でかき抱き、その胸で抱きしめる女性・・・・。
そんな二人に向ける銃を彼は持ち合わせてはいなかった。
その時彼の胸中に浮かんだのは・・・・・蒼の星の女王の姿だった。
彼は自らの心の中に問いかけた。
何故今このときにスターシャの姿が我が胸に蘇る?
人の上に君臨することを知ってはいても、対等に“愛する”ということを知らなかった彼の
心の中に初めて芽生えた“思い”に戸惑わずにはいられなかった。
その答えを求めるかのようにデスラーはかつて君臨した地へと戻ってきた。
故郷の星と・・・嫉妬と憧れと愛しさを抱き続けた蒼の星に別れを告げるために・・・・・
それがまさか・・・・このようなことが待ち受ける結果になろうとは・・・・・・!
自らの意思に反していたとはいえ、自らの星を目の前で失ったばかりか・・・・
対なる星も決定的な危機に陥れてしまうことになってしまった。
スターシャの身の危機を目の前にしてデスラーは初めて自らの思いを理解した
自分の胸の中で燻っていたのは、スターシャに対する熱い思いであったことを・・・・・。
イスカンダルに砲口を向けられた瞬間・・・・・
“イスカンダルが・・・・・スターシャがやられてしまう!!!”
熱に浮かされたように呟いたデスラーの口から次の瞬間附いて出た言葉は・・・・ゴルバへの特攻命令であった。
デスラーにも・・・そして彼に付き従ってきた部下達にも何の迷いもなかった。
部下達もまた彼の思いを感じていたのだ。
それ以上に・・・・・自分達がかつて憧れを抱いていた星をむざむざやられたくはない。
「何をしている!!!撃て!!・・・・・早く私ごと波動砲を撃つのだ!!!」
“古代・・・・・・これ以上私に哀しい思いをさせないでほしい・・・・・。
スターシャの愛を得ることが出来なかった男のせめてもの思いをかなえさせてくれ!!!”
デスラーの声にならない声が古代の胸に突き刺さった。
グッと・・・・・固く目を閉じ唇をかみ締めていた古代が僅かに瞼を開いた。
辛い・・・・・辛いその視線の先に・・・・・・モニターごしにデスラーの静かな笑みが浮かんでいた。
“何も言わずとも・・・・・我の思いを組んでくれるのはお前であろう・・・・・共に刃を向け合った友よ・・・・・”
「古代・・・・・」
「あなた・・・・・・」
古代の辛い思いを感じている仲間達はかける言葉がなかった。
古代が望むことではない・・・・・
理解っている・・・・・・
だが・・・デスラーの言うとおり他に有効な手立てが見つからない今・・・・
デスラー艦へ波動砲を打ち込むより他ない・・・・・。
・・・・古代は決断するしかなかった。
「・・・・・・・波動砲の発射は・・・・いつでも可能です・・・・・」
山崎の言葉に古代は即されたように下した。
「・・・・・・・・波動砲・・・・・発射10秒前・・・・・!対ショック対閃光防御!」
悲痛な思いを抱いたまま・・・・波動砲発射カウントが進んでいった。
「7・・・・6・・・・・」
“デスラー・・・・・あれほど憎みあいながらこれほど理解しあった好敵手・・・・・”
「5・・・・4・・・・・・」
“君をこのような形で撃つ事になるとは・・・・・・!”
歯軋りをかみながら古代は握るトリガーに力を込めた。
「3・・・・2・・・・・・」
“せめて・・・・君の思いを無駄にしない!!!”
「い・・・・・・・・・」
『やめてぇ〜!!!!!』
1・・・・・・・
最後のカウントが散る瞬間・・・・・・
空間を切り裂く悲痛な叫びが響き渡った。
その瞬間・・・・・まさに咆哮を上げようとしたヤマトの艦首の光が収縮していった。
Act9完
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