Departue to a new time! Act8
1.
宇宙空間にも風は吹くのだろうか・・・・
今古代たちの目の前の空間には不思議な光景が広がっていた。
大気がないはずの宇宙空間に大気が渦巻いているのだ。
流れの元は・・・かつての蒼い星・・・・・
イスカンダルから流れる大気の流れは・・・・
まるで激流を思わせるように激しく断末魔の悲鳴をあげながら後ろへと長い帯を伸ばしていた・・・・。
元々・・・星を統べる女王のようなたおやかな女性を思わせるフォルムを持ち合わせる星のはずなのだが、
今はその面影が幻のようである。
・・・・だが、その激しいうねり時も徐々に収まりつつあった。
「マグマの流出が収まりつつあります」
イスカンダルの状況を見逃すまいとじっとモニターに目を凝らしていた太田が報告をしてきた。
その言葉を裏付けるかのように、窓外の・・・そしてメインモニターに拡大され映るイスカンダルの姿も
徐々に落ち着きを見せ始めていた。
「一時的ではあるが・・・・マグマの噴出が収まったんだろう・・・・おそらく地表を襲っていたはずの磁気嵐の影響も
今ならかなり収まっているはずだ」
「相原、すまないがイスカンダルへの打診をし続けてくれ」
真田の言葉に間髪をいれず古代が発した。
既にイスカンダルへの打診を始めて数十分・・・・
相原は・・・・一瞬『わかってますって』とでもいいたそうに苦笑をするとグッと身体を伸ばし、
「よしっ!」と気合を入れると再び自分の与えられた任務に没頭する。
「真田さん・・・・」
古代はモニターをじっと見詰める真田の元に寄り、同じくイスカンダルが映るメインモニターを見詰めた。
「美しい星だよな・・・・・古代・・・・・」
「えぇ・・・・本当に美しい星ですよね・・・・」
彼らの脳裏には・・・・かつての哀しくも美しいイスカンダルの大地の姿が鮮やかに蘇ってきていた。
14万8千光年もの旅を満身創痍の姿でクリアしてきたヤマトを、あの大地は優しくその腕で抱きしめ受け止めてくれた。
地球に最後の機会を与えてくれた女王・・・・・スターシャのように・・・・
静かで穏やかな入り江に着水したヤマトをイスカンダルの女王・・・
スターシャは温かくも威厳を持って出迎えてくれた。
“自分の未来は・・・・自分の手で切り開かなくてはいけません・・・・だから私はあなた方の勇気に賭けたのです。
あなた方の・・・・『生きる勇気』を私は見せていただきました・・・・・”
彼女がそう言って微笑んだのを古代ははっきり憶えていた。
『彼女のあの言葉が・・・・あの後の俺を立ち上がらせてくれた。彼女のあの言葉によって我々は生きて行く
戦いの術を受け止めたんだ・・・・・』
全ての住民を失い・・・・
そして・・・ヤマトの来訪により・・・・唯一の肉親・・・妹のサーシャの死をも受け入れなければいけなかった孤独な女王・・・・・・
儚げで・・・・しかし気高いその姿に圧倒された・・・・
その姿に魅入られたのは古代たちヤマトの乗員達だけではなかった。
いや・・・この男が一番魅入られてしまったのだろう・・・・
だから全てを・・・・自分の血の元も人生も星をも全て投げ出し、この星に身を投じたのだろう。
「あの星に・・・・古代守がいるんだよな・・・・」
真田は誰に言うともなしに呟き、古代は静かに頷いた。
あの瞬間・・・・忘れようにも忘れられるはずがない。
二度と巡り逢う筈がないと諦めきっていた者に思いもかけず再会し、その喜びもつかの間・・・・・
相手は全てを投げ捨ててこの星に根を下ろすことを望んだ。
哀しげな瞳に囚われた男はこの星の土に・・・・なることを望んだのだ。
だが・・・一度目の別れとは明らかに違う・・・・希望に満ちた別離だった・・・・・
二人の幸せは永遠に続くはずだった・・・続かねばならなかったのだ・・・・・・永遠に・・・・・
2.
「風が・・・・収まってきたな・・・・」
古代は宇宙空間を航行しているものにとって一番似つかわしくない言葉を呟いた。
窓の外に浮かぶイスカンダルは・・・・徐々にではあるがその勢いを落としつつあった。
動きが収まって来たのと同時に・・・剥ぎ取られそうになっていた星の大気も落ち着きを取り戻そうとしていた。
「この風のように・・・イスカンダルの運命も留まってくれればどんなにか・・・・」
古代の呟きを他のメンバー達は同じ思いで聞いていた。
この凪のような時間が・・・・できるだけ長く続いてほしい・・・・・あの二人を無事救出するまで・・・・
その時だった。
長い時間、通信機のチューナーと格闘しつつ微弱な信号も逃すまいとしていた相原の手が止まった。
「・・・・・っ!」
相原の耳が何かを捉えた。顔が一瞬の内に紅潮する。
「イスカンダルからの通信を傍受しました!!」
その言葉に艦橋内から歓声が上がった。少なくとも二人は元気で無事なのだと・・・・・
「相原、繋げてくれ!」
「了解!!」
慌しく相原の指がコンソール上を走り、「こちら宇宙戦艦ヤマト!イスカンダル応答せよ」と数度呼びかける。
《コ・・・・・イスカ・・・・ル・・・・・スター・・・・・》
その声に呼応するかのように手元のスピーカから微かな声が流れてきた。
懐かしいその声に、第一艦橋の空気が緩む。
「メインパネルへ!・・・・」
古代の言葉が終るか終らぬうちにメインパネルが作動を始めた。
「ごきげんよう・・・ヤマトのみなさん・・・・」
僅かなノイズと共に・・・・・懐かしい姿が映し出された。
記憶の中のまま・・・威厳に満ち、だがどこはかとなく女性らしい優しさを増したスターシャの姿が
スクリーンいっぱいに広がった。
その姿に全員胸の中が熱くなり、言葉を失った。
「みなさんのお元気そうな姿を見て、私もうれしいですわ・・・・」
スターシャは懐かしげに微笑んだ。
平素の・・・ただの訪問時であればそれもよかろう・・・だが・・・今は一刻を争う時だった。
「スターシャ!今は一刻を争う時です。お願いします!どうかヤマトに移ってください」
古代は叫ぶようにスクリーンの中に呼びかけた。
その叫びにスターシャは優しい微笑を返す
「進・・・・・わざわざこのような危険なところにまで来てくださって本当に感謝しています・・・・。
でもわかってください。私は・・・・この星を離れるわけにはならないのです・・・・」
母が子どもに語りかけるように・・・・だがスターシャはきっぱりと拒否の姿勢を示した。
だが・・・・そんな一言で引き下がる訳にはいけなかった。
彼女を・・・地球の救い人たる人を迎えるために自分達はここまでやってきたのだ
「スターシャ!!我々はあなたの救いの手にしがみつきようやく今の繁栄を掴んだんです。今度は我々にあなた
を救う機会を与えてください!お願いします!!」
再度の古代の言葉にもスクリーンの中のスターシャは哀しげに微笑み・・・静かに首を横に振った。
“もう・・・・運命に定められたこと・・・・これを購うつもりもない・・・・”
スターシャの伏目がちな瞳には決心の色が浮かんでいた・・・・。
3.
ふと・・・・スターシャが画面の中央からすっと身体を寄せた。
そして・・・・隣に懐かしい男の姿が映る・・・・
「・・・・・・・・!」
古代は言葉にならなかった。
懐かしさのあまり言葉すら失った。
『進・・・・・元気そうで何よりだなぁ・・・・いや・・・以前より随分立派になったな』
言葉にならない古代に対し・・・・スクリーンの向こうの相手はにこやかに笑いかけた。
『なんて顔してるんだ?・・・・・・たった一年あわなかっただけで俺の顔忘れちまったのか?薄情な弟だなァ』
「・・・・・・んなわけないだろ・・・・・にいさん」
兄の言葉に思わず苦笑してしまった。
こんな危機的状況だというのに・・・・・この男はなんとおおらかなのだろうか?
同じ血が流れているはずなのにこの差は一体なんなんだよ・・・・
古代は胸の中が詰まるようだった。
自分の人間としての小ささを見せられたような思いがしたのだ。
「とにかく・・・頼む、兄さん。スターシャさんといっしょにヤマトに移ってくれ。
こちらはいつでも受け入れ態勢は整っているんだから!」
「俺達のためによくここまで来てくれた・・・・・もう充分だ。感謝している。
お前達こそ早く地球へ帰ってくれ・・・・・」
先ほどまでのにこやかな顔とは打って変わり・・・・守は穏やかではあるが真剣な表情を浮かべ古代に答えた。
「何故だ!何故なんだ!!兄さん!!スターシャさん!・・・・スターシャさん!私たちに《生きる》ことの厳しさと大切さを説いてくれたのはあなただったじゃないですか?!」
被り振って叫ぶ古代の瞳には涙すら浮かんでいた。
そんな古代の姿を兄も・・・・そして寄り添うスターシャも哀しげに見詰めた。
古代の・・・・弟の気持ちがわかない守ではなかった。
むしろ・・・危険を推してまでこんなところにまで自分達のために来てくれた弟とその仲間達に感謝こそすれ・・・・
迷惑なはずあるはずがない。
だが・・・・・守には守らねばならぬものがあった・・・・
この星を決して離れることはできない妻を・・・・・・・そして・・・・・・
「守!何故脱出をしないんだ!!・・・お前の弟の・・・・古代の気持ちも察してやってくれ!・・・・
こいつはどんな思いでここまで来たと思っているんだ!」
真田はたまらなかった。
彼には・・・・どちらの思いも理解できたから・・・・・・
兄を救いたいという思いに駆られつつ、今現実の宇宙の危機にも目をそらすことの出来ない弟の思いも・・・・・
弟に感謝をしつつ・・・・自らの信念を曲げることを良しとしない兄の気持ちも・・・・・
どうしてこの兄弟は・・・・・・・他のものの事ばかりを考え自らを大切に出来ないのだろうか?!
真田は何にでもいいから殴りつけたい思いに駆られた。
だが・・・・彼の理性がその感情を辛うじて推し留めた。
もし・・・・・・理性が感情に負けていたら・・・・・・
第一艦橋内のどこかの機器が破壊される運命から逃れられることはなかっただろう・・・・・・・
「・・・お前がそんな風に感情的になるのを目にできるとは思わなかったな・・・・」
「ふざけるな!守!!」
守の言葉に真田は一瞬カッとなった。
そんな真田の様子に守はうれしげにモニターごしに笑った。
「そんなに怒るなって・・・・・・真田・・・・俺はうれしいんだよ・・・・お前や・・・
進がそれほどまでに俺達のことを思っていてくれて・・・・・・本当にもう充分だ・・・・だがな・・・・わかってほしい・・・・・俺は・・・・この星と共に生きるとあの時決めたんだから・・・・・」
守の穏やかな表情にウソ偽りは全くない・・・・・
本当にこの星と運命を共にするという決意のみ読み取ることが出来た。
4.
「守さん・・・・いえ・・・・お義兄さん!!」
ユキがスクリーンの前に躍り出た。
「お願いします!いっしょに・・・いっしょに地球へ帰ってください!!私たちといっしょに・・・・」
両手を胸の前で組み、目に涙をいっぱいに溜めてユキはスクリーンの中の二人に必死に語りかけた。
スターシャのおかげで今地球はどれほどの繁栄を見せているのか・・・・
地球はスターシャの想いを無駄にしないよう、宇宙の平和のために尽力を尽くそうと試みていること。
(その中心に立っているのが自分達だとは決して口にはしなかったが・・・)
地球人類はその恩恵に感謝していること・・・・
『家族を・・・・・お義兄さんのことを誰よりも愛して求めてやまないこの人の気持ち・・・・判ってあげてください!
守さん!!』
ユキは必死で心の中で呼びかけた
大きな印象的な瞳からこぼれそうになる涙を堪えながら彼女はじっとスクリーンを見詰めた。
そんな彼女の肩を暖かな大きな手を包み込んだ・・・・
それに気づいたユキは自分に廻されたての主のほうを振り返った。その哀しげな瞳の中に自分を見たとき・・・・
たまらなくなった。
『あなたっ!!』
思わずユキは古代の胸に顔を埋めてしまった。声にならない嗚咽が艦橋内に静かに響く・・・・
その震える背中に手を廻し宥めるように優しく叩く・・・・
そんな二人を他のメンバーはただ静かに見守っていた。
この二人の辛さ、苦しさはここのメンバー達は痛いほどわかっていた。
「進・・・・一緒に生きて行ってくれる人を見つけたんだな・・・・お前も・・・・・・」
そんな二人の様子に守とスターシャは互いの顔を見合わせ微笑んだ。
「お前のことだけが気がかりだったんだよ・・・・俺は・・・・・よかったな・・・・・進・・・・」
「兄さん・・・・・」
「悪い兄貴だな・・・・いつも肝心なときにそばにいてやらなくて・・・・・親父とお袋を失った時も・・・・
お前が苦しんで復讐に走ってしまった時も・・・・・イスカンダルへの辛い航海の時も・・・・・いつもいつも・・・
肝心な時にはいてやれなかった・・・・・だが・・・・共に歩いてくれる人がもうお前のそばにはいる・・・・・・」
守は安心しきったように大きく安堵の息をついた。
「ユキ・・・・・妹サーシャの面影を持つあなたが進と共に歩んで行って下さると言うことを・・・・
私は本当に幸せに感じます。」
守に寄り添いスターシャは自分の肩に添えられた彼の手にそっと自分の手を添えながら微笑んだ。
「妹サーシャは哀しい事ながらあの子の役目を全うこそすれ・・・・
この星へ戻ってくるという願いはかなえられることはありませんでした。
でもその代わりのようにあなたはこの星に降り立ち、サーシャの魂をこの星に戻してくださいました。
そのあなたが・・・・進と結ばれ私の本当に妹となったのです・・・・その姿をこの目で見ることができた幸せ・・・・・
感謝にたえません。」
「私も・・・・・私もあなたをお義姉さんと呼べることをどれほど待ち焦がれていたか・・・・・スターシャさん・・・・
いえ、お義姉さん!お願いします!!お願いですから・・・・私たちと地球へ・・・・・」
「ありがとう・・・・ユキ・・・・その気持ちだけで私たちは充分なのです・・・・・守もいうよ・・・・ウ・・・・・・コ・・・・」
いきなりスクリーンの画像が乱れ、二人の姿がかき消された。
「!!」
嫌な予感に古代は胸の奥がキリキリと嫌な痛みを発するのを感じた。
5.
シ・・・・・・ン・・・・
艦橋内にピンと切り詰めた空気が流れた。
全員の異様に張り詰めた緊張に空気すら肌に刺すように感じる。
沈黙の中・・・・エンジンの低いうねりだけが周囲を支配していた。
コンソールに置かれた古代の拳の中に嫌な汗がにじむ・・・・。
静かな嫌な雰囲気の中、時が静かに刻まれてゆく・・・・・。
ピッピッピッピッピ・・・・・
その時、ヤマトのレーダーが異常を察知した。
ハッとした太田が手元のモニターの数値を読み取ろうと食い入るように目を凝らす・・・・
次の瞬間、その顔からサッと血の気が引いた。
「巨大な物体がイスカンダルの背後より現れました!巨大要塞の模様です!」
「何っ?!」
全員の目がメインパネルに集中する。
その目に・・・・・信じられないものが映し出された。
イスカンダルの背後から湧き出でるかのように黒々とした不気味な光沢を放つ
信じられないほど巨大な要塞のようなものが現れたのだ。
第一艦橋でその姿を目の当たりにした古代たちは息を飲んだ。
さきほどの戦闘で撃破した艦隊の背後にはかなりの戦力を持つ輩が存在しているだろうとは考えられた範囲だった。
だが・・・・・まさかこれほどまで強大な要塞が現れようとは・・・・・想像もつかなかった。
現状・・・・この要塞一隻のみが現れたところを見ると、おそらくこの星域空間を管理する中枢を担うのがこの要塞なのであろう。
ということは・・・・・・これほどまでの要塞をいくつも持つ星間国家がこの宇宙のどこかに存在しうる・・・・
ということが容易に想像ついた
この星系に派遣されていたのはおそらく・・・・物資の探索供給部隊・・・・戦闘に対する主力部隊ではなかったはずである。
だから要塞もこの一隻のみ派遣されていた・・・・と考えられ・・・・・
そんなとてつもない軍事力を持つ・・・・・・・遥か彼方の宇宙空間に存在する巨大星間国家・・・・・
もしかして・・・・・俺達はとんでもないものに巻き込まれてしまったのか・・・・?
古代は自分の背中を冷たいものが貫くのを感じた。
「古代・・・・・」
自分の名を呼ぶ声にハッと辺りを見わたした。
同じ思いを隣の島も・・・・そしてここにいる全員が感じているのだろう。
古代を見詰める全員の顔からも血の気が引いていた。
イスカンダルを・・・・その星で生きる二人を救いたい・・・・その想いだけに駆られてここまで来た・・・・
だが・・・・・
そのために今まで関わりもなかったどす黒い何かに巻き込まれようとしている・・・・・
イスカンダルの陰から突如として現れた要塞は、次第に全容を露わにし、
ヤマトと・・・・ガミラス艦隊をあざ笑うかのようにイスカンダルの前面に立ちふさがった。
それは・・・・まるでヤマトやガミラス艦隊を構成する戦艦群が玩具のように見えてしまうような・・・・
それほどまでに恐ろしい威圧感だった。
6.
《古代・・・・・・》
突如通信回線が開き、デスラーの姿がメインパネルに現れた。
《あれが・・・・・我がガミラスを破壊した敵の母艦というわけか・・・・・・》
デスラーの声も上ずっているように感じる。彼自身、目の前の要塞の姿に戸惑いを隠せないようだった。
「デスラー・・・・この近隣であのタイプの要塞を有するような星間国家が存在するのか?」
古代はパネル内のデスラーにやっとの思いで問いかけた。
その問いにデスラーは激しく頭を振った。
その表情は『信じられない』もしくは『信じたくもない』といったところか・・・・・?
《我らが・・・・・母なるガミラスを離れる際まではあのような輩などこの近隣には現れたことなど一度たりともなかったわ・・・!》
デスラーは苦々しそうに別モニター上に浮かぶ敵要塞を横目でにらみつけた。
《おそらく・・・・この星系に出没するようになってから日も浅いのであろう・・・・でなければあのような輩・・・・
我らがとうの昔に排除してくれておるわ!!》
吐き捨てるように言い放つその表情には嫌悪すら浮かんでいる。
無理もない話であろう・・・・・
ほんの一年ほど前までこの空間は彼の独壇場の舞台だったのだ。この星系は彼の手の内だったはず・・・・
ところがたった一年の間に見ず知らずの輩に土足で踏みにじられ・・・・
それを排除せんがために自らの手で母なる星を傷つけ失ってしまった痛手に苛まれ・・・・・
デスラーのその誇り高いプライドはズタズタに切り裂かれたような思いであろう・・・・。
今は目の前に悠然と浮かぶ敵の・・・・
ほんの一角と推測される、要塞の異様な姿を目の前にし、我を失いそうになるのを必死に推し留めているかのようだった。
「おそらくここ数ヶ月でこの星域に現れて、ガミラス星の星分析をし、その地下物質に目を付けていよいよ試験的な
採掘に入ろうとした矢先・・・・・といったところだったんだろう・・・・
でなければもっと大規模な採掘プラントくらい建設して採掘作業をしていただろうからな・・・・」
真田の言葉にパネル内のデスラーも頷く。
《我らがガミラスの残存艦隊が半年ほど前までこの空域に展開していた・・・・
その後私の呼びかけに応じその艦隊は白色彗星帝国の元に移動した。
その直後にあやつらが現れたと見て間違いはなかろう・・・・》
・・・・・あまりの屈辱に唇をかみ締めてしまったのであろうか・・・・・
デスラーの口元から血が一筋滴り落ちた。
《我も・・・・・わが帝国も地に落ちたものだな・・・・・まさかこのような屈辱的な目に陥ろうとは・・・・
夢にも思わなんだわ・・・・》
その血をグッと手の甲で拭うと、自嘲気味に笑った。
「デスラー・・・・・・・」
そのデスラーの屈辱に満ちた日々のきっかけを作ったのは・・・・他ならぬ自分達であることを古代は自覚していた。
それは・・・まさに星と星の繁落の決した戦いであったのだが・・・・・
その結果・・・・古代たち・・・・ヤマトの勝利により地球は再び繁栄の道を歩み・・・・
デスラーが導くガミラスは没落の煮え湯を飲んだ形となった・・・・。
もう・・・・ヤマトへの恨みは消えた・・・・・
デスラー自身がそう語っていた・・・・・と、かつてその言葉をユキから伝え聞いた・・・・
それは彼の本心から出た言葉だと今の古代は信じていた。
しかしそのような心境になるまでこの激しくプライドの高い男はどれほどの屈辱を味わい続けてきたのであろう・・・・
そして・・・・・・・また、今まさにその屈辱を再びその心に味わっているのだ。
《あのような・・・・・不埒な輩を許しておけるものか・・・・・・!!!》
今は不気味な沈黙を保つ敵の要塞を前に、デスラーの怒りは頂点へと達しようとしていた。
ACT8完
背景:イスカンダル<美馬龍樹さん
スターシャ<ひとみ