Departure to a new time! -Act6-
1.
「ワープ終了・・・・・・・」
歪む室内がはっきりと現実の感覚へと戻り、自らの体内で暴れまわっていた不快感が一層されるのと同時に
島の声が艦橋内に響いた。
その声はスピーカーを通じ艦内津々浦々に響き乗務員達をホッとさせた事だろう・・・・。
結局・・・・この3日間、日に3回の長距離ワープで時を稼ぐこととなりその結果、
艦内の新人達を震え上がらせつつもその身体を徐々にワープに対する耐久を付けていったことになった。
ワープに対する耐久がついた事は・・・・別時の耐久力も増したということで・・・・。
そのことは実戦はまだ味わってはいない新人達にとって少なからずの自信となって日々の生活に現れてきていた。
初めの頃こそ、ワープ終了のたびに医務室へ担ぎ込まれる山のような新人達ではあったが・・・
(おかげで本来第一艦橋に在籍し、ワープ時もその場に席を置いているはずのユキも
佐渡と共に医務室へ待機する羽目になっていた)
ワープの回数を稼ぐにつれ、その人数は徐々に減ってゆき・・・・
とうとう、ここ数回のワープ後に運び込まれるワープ酔い患者は0になり・・・・佐渡に喜ばしい暇を与えていた。
「ヤマト現在地・・・・・マゼラン星雲・・・・・サウザー太陽系外周部より約50万宇宙キロの位置です」
太田が現在地を計測し報告する・・・・・。
「ヤマト艦内・・・・全て異常なし・・・・・」
ほっとしたような真田の言葉に全員の顔にも安堵の表情が浮かぶ。
「ったく・・・・随分ムチャな連続ワープでしたな。以前のエンジンではオーバーヒートを起こし、
またエネルギーの暴走でも起こしかねませんでしたよ」
エンジンルームの異常を知らせるシグナルもオールグリーンなのを確認し、山崎が苦笑しながら島に話しかける。
「山崎さんと真田さんが二人がかりでエンジンの総メンテナンスと改造をしてくれましたから・・・・
俺は何も心配していませんでしたけどね?」
前方を見たままシレッと答える島に
「そんなに俺達の仕事を全面的に信用しきっても構わないのか?
もしかしたらとんでもない計算ミスを仕出かしてる可能性だってあるんだぞ?」
真田は窓に映った島の意味ありげな笑顔に苦笑いを投げかけた。
「ご謙遜を・・・・真田さん・・・・・真田さんが計算ミスを仕出かすのなら・・・・
絶対に予想以上の結果が出てしまった・・・・ってことでしょうからね」
「おいおい・・・・・」
「そこに・・・・山崎さんの腕が加わってるんですから・・・・
今のヤマトは無限大の力を発揮しても不思議でもなんでもない・・・・ってとこでしょうかね?
それこそ・・・・何十万光年彼方にでもあっという間に行ってしまえるように改造しつくされてるんじゃないんですか?
今のヤマトは・・・・」
「島さん、うまいこというなぁ〜」
島の言葉に相原が思わず感嘆の言葉をこぼす。
だが、島の方はといえば・・・いたって冷静で、
「いや?俺は本当のことしか言わないぞ?」
「真面目な顔をして冗談をいうのもそのくらいにしておけよ・・・・島」
あまりに真面目くさった顔の島に古代が思わず苦虫を噛む・・・・
「お前のそんな顔・・・・冗談とも本気ともつかんぞ?」
「だから・・・・俺はいたって真面目だってば・・・・・さ、古代」
「え?!」
「ハッハッハ・・・・さすがに航海長の目はごまかせないか・・・・・」
「・・・・真田さんっ??」
「実はな・・・・・俺自身ヤマトの性能がここまでUPしてることに正直驚いているんだ。考えても見ろ?
以前は数ヶ月かかったイスカンダルへの行程が・・・いくら途中に妨害がなかったといっても・・・・
僅か一週間あまりで到達できているんだぞ?それも余裕を持ってな・・・・。
今のヤマトなら冗談抜きで50万光年先だろうが・・・いや、100万光年先へでも行って戻ってくることは可能だな・・・・・」
「・・・・・・真田さん、一体どういう改造をしたんです?」
南部が恐いもの見たさの気分なのか・・・・恐る恐る尋ねる。
「イスカンダルから帰還後、提供された金属を使用してエンジン部の主要部を補強したのだが・・・・
その部分をより効率よく稼動できるように計算し改造を加えたんだ。タービン部とかは・・・以前のままだったしな・・
この際思い切って全面的にイスカンダルの金属を使用し新たに作り直し使用した・・・・。
つまりタービンを中心にエンジンの耐久が格段に上がったんだ。どんな荒業をしかけても、
今のヤマトなら耐えられるぞ?」
「・・・・・・・・・それって目いっぱい中身は新品ということなんじゃないんですか?」
「・・・・・そうともいうな」
「そうともいうな・・・・って山崎さん〜〜〜〜〜!!」
山崎の妙にうれしそうな笑顔に太田が思わず悲鳴のような声を上げた。
「どうりで・・・・・ヤマトのメンテナンスなんて言いながら・・・・なんで何ヶ月もかかってるんだろうな・・・・って
不思議には思っていたんですよ・・・・いくらなんでもメンテナンスにそうそう何ヶ月もかかるわけがないですしね・・・・」
操縦桿に突っ伏したようにぼやく島の横で、古代が大きなため息をついた。
「よく上から文句が出ませんでしたね?」
「そんなもん・・・・・あの状況では文句のいいようもなかろう?」
あの状況・・・・・つまり・・・・・
ヤマト以外戦艦が存在しない・・・・・
ヤマトしかまともに飛べる艦がない状況では、どんな改造を申請しようともやりたい放題・・・・だったようだ。
「おかげでいい出来になりましたよな、真田さん」
「そうですね、山崎さん・・・・・満足のいく結果も得られましたしね」
楽しげに握手を交わす年長組の二人にしてやられた若年組のメンバー達は呆れるようにため息をつくしかなかった。
いや・・・・もっと呆れていたのは艦橋内唯一の新人・・・北野であろう。
自分の目の前で交わされてる会話に対し、すでに理解不能な状態だった。
だが・・・・北野自身この数日でこの場合どう対処したらいいのか・・・わかり始めていた。
触らぬ神に祟りなし・・・・・・終りよければ全てよし・・・・・
そう・・・・・・
徐々にこの艦橋内の雰囲気に馴染み始めていた北野は大きなため息を一つつくと、
諦めたように前方の窓外に目をやるしかなかった。
2.
「相原・・・・ガミラス艦隊に至急打電だ」
「はい!」
古代の言葉に相原は即座に目の前の通信機に張り付いた。
コンソールの上をすばやく・・・そして的確に指が流れてゆく・・・・。
「ガミラス艦隊・・・・・・応答願います・・・・・こちら地球防衛軍・・・宇宙戦艦ヤマト・・・・」
「太田、そちらの状況は?」
「はい」
ワープアウトし、マゼラン星雲サウザー太陽系に進入し始めた際古代は太田に惑星観測を指示していた。
艦が揺れる・・・・・
島が操縦桿を握り締めながら悪戦苦闘していた。
この恒星系で起こりつつある異常な現象が少なからず空間にも影響を与え始めていた。
「艦長代理!デスラーからの情報の通り、ガミラス星はすでに崩壊しているようです。」
太田は緊張の面持ちで報告し始めた。
「それで!イスカンダルは?」
「イスカンダルは本来の軌道をはずれ、徐々にサウザー太陽の重力場に引かれつつあるようです・・・・
まだそれほどの勢いはないようですが・・・・・おそらく飲み込まれ消滅するのは時間の問題かと・・・・・」
歯切れの悪い太田の言葉に古代の頬から血の気が引いた。
が、表情は変えることはなかった。
「おそらく・・・・イスカンダルの地上は・・・・激しい磁気嵐に襲われていることだろう・・・・」
太田がはじき出したデータを読み取りながら真田が呟く。
「以前立ち寄った、ダイヤモンドパレス内は素晴らしく科学技術の推移を尽くした建造物だった。
おそらく防衛機能も充実していることだろう・・・・・
あの建物内にいる限り守やスターシャは心配することはなかろう・・・・今のところはな・・・・・」
「真田さん・・・・」
「とにかく・・・・どうあれ一刻も早くあの二人をあの星から脱出させないことには・・・・・
取り返しのつかないことになることは目に見えている・・・・・」
呻くような真田の意見に古代は頷いた。
今は一刻も早く・・・・・・・・
艦橋内全員の心は一致していた。
その時だった
「古代艦長代理!!」
通信に集中していた相原が突然叫んだ。
「ガミラス艦隊と連絡がつきません!!」
「なんだと?!」
古代は戸惑った。
今・・・・おそらくガミラス艦隊が集結しているのはこの太陽系のどこかである・・・・
この距離で通信が傍受できないはずはない・・・・・
「どういうことなんだ?相原」
「あらゆる波長の通信を送ってみたんですが・・・・・・どうやら妨害電波がこの一帯に流されているようです!」
不審気な古代に答えるように相原は必死に通信機を調整しながら返答した。
相原の指が細かくボリュームを調整する・・・・・・と・・・・・・・・
耳障りな雑音のような音波がスピーカーを通じ古代たちの耳に飛び込んできた。
ここに到着するまで・・・何度かガミラス艦隊に向けて通信を流してきた・・・・
が、返信は一度として送られてはこなかった。
そのことは古代たちに不安を煽る一因にもなっていた・・・・・が、ここに来てその原因がはっきりしつつあった。
妨害電波が流されている・・・・
ということは明確な敵対心を持つ何者かがこの界隈に救っているということ。
古代の頭の中がカッと燃え盛るように熱くなった。
どこだ・・・・・?どこにいる?!
平和に幸せに暮らしていたイスカンダルの二人を危機に貶めたやつ・・・・・
自分達の安住の地を求め旅立ったはずのデスラーたちに戦火を向けたやつ・・・・
「艦長代理!イスカンダル星周辺域にエネルギー反応多数!未確認の飛行物体が感知されます」
太田の言葉に古代がサッと翻った
「第一級戦闘配備!!ただいまよりイスカンダル星へ、直行する!!!!!」
古代の言葉に全員の顔が引き締まった。
鋭いシグナルが艦内を轟きわたり・・・・・ヤマトは非常戦闘配備へと突入していった。
3.
遥か彼方に太陽系サウザーが煌く・・・・
その煌きは2年ほど前に初めてこの星域に到達したときにみたそれとなんら代わることはない・・・
変わったのは・・・・・自分達の置かれた立場か?
古代は窓外に広がる空間に目をやりつつため息をつくしかなかった。
そして・・・・・かつての救世主の星はまだ肉眼では見えては来ない・・・・
ギリリリ・・・・・・
締め付けるような胃痛がここのところ古代を苦しめる。
一刻も早くあの星にたどり着きたい・・・・・
だがその理由・・・・・
建前:かつて手を指し伸ばしてくれたあの星の危機に駆けつけるべく・・・・・
本音:たった一人自分に残された肉親をなんとか連れて地球へ戻りたい・・・・
この二つの狭間で古代のストレスは最高潮になってきていた。
表面上は何も変わらない・・・・誰にも気づかせぬとしている古代の状況を気づいていないものは・・・・
実のところ新人の北野のみだった。
他のメンバーは古代の辛い立場を嫌というほどわかっていたし、古代の苦しい心情も嫌というほど理解していた
だからこそ、あえて口にはしない・・・・。
口に出したところで古代を苦しみから開放できる訳ではないし、ましてみんなに気づかれまいと気を張っている
古代に余計な気遣いをさせてしまう・・・・
互いを思いやる信頼関係・・・・・ここにはそれが満ち溢れていた。
「艦長代理、イスカンダルの進路経過データが立ち上がりました」
太田の声に声もなく頷いた古代はデータが表示された、太田の席の背後に歩み寄った。
それにあわせるようにその場に居合わせた全員が集まってくる。
「これが今後のイスカンダルの進路予想です」
太田の指がコンソールを走るのと同時にモニター上映し出されたイスカンダルを示した光点が移動を始めた。
その動きは・・・・・他の惑星の重力場に影響されながらも少しずつ確実に・・・・・・
「・・・・・太陽に落ちるな・・・・」
真田の声が重苦しく響く。
他の者達は言葉すらない。
あの蒼く美しかった星が・・・・・消滅する。
「ガミラス星の消滅はすでにイスカンダルだけでなく、この太陽系内の各惑星に影響を与え始めています。
それぞれの軌道がずれ始め太陽系としてのバランスを失いつつあります。
イスカンダルは現在太陽の重力場に囚われ徐々に落ち始めています。」
「イスカンダルが落ちるまでに残された時間は?」
「おそらく・・・・一年もたないと判断します。というか・・・」
太田は一息ついた。それほど状況は重苦しいものなのだろう。
「太陽に落ちて消滅するよりずっと早く・・・イスカンダルに生物が存在不可能になるでしょう」
「そんなっ!」
思わずユキが悲鳴をあげる。
「だいじょうぶさ、ユキ・・・・そうなる前にあの星の二人を助け出せば・・・・話は済むことなんだから」
「そうですよ!ユキさん」
何も言うこともできず、顔を蒼白にしているだけの古代の代わりに島と相原がユキを励ました。
「イスカンダルは地球なんかよりずっと科学力が進んでいるんだ・・・・だいじょうぶ、二人はきっと無事だよ」
真田も顔を覆うユキの肩を軽く叩いた。
「とにかく・・・・デスラーと連絡がつかないことには話にならない・・・・
太田、イスカンダルの軌道観測と共にガミラス艦隊の消息のチェックを怠らないでくれ・・・・
相原は妨害電波の発信源を探り敵の動向をチェックしてくれ」
「はい!」
「了解!」
二人がそれぞれの任務に戻るのを確認すると
「俺は・・・・敵確認と同時にコスモタイガー隊と共に出撃する。北野、攻撃指示はお前に任す。
南部、北野の補佐を頼む・・・・・出撃前の点検に行って来る。状況がはっきりしたらすぐに連絡をくれ」
と告げると古代は第一艦橋を足早に後にした。
4.
「進さん!!」
古代の後を追って出てきたのだろう・・・・
ユキが心配げに駆け寄ってきた
「あなた・・・・だいじょうぶ?」
先日負傷した肋骨の骨折が完治したわけではない・・・ましてイスカンダルの二人のことを思うと心が縮みだれる
古代の身体を心配しているのだろう・・・・
「むちゃ・・・・しないで・・・・お願いだから・・・・」
ユキもイスカンダルの二人のことに心を痛めているせいであろうか・・・・顔色が心なしか優れない・・・
「ユキ・・・っ!第一級非常体勢の真っ只中になんだ!!」
ユキの心遣いは心底うれしい・・・・
が、今の古代は心を鬼にすることでしか自分を奮い正す術を持ち合わせてはいなかった。
「第一級非常体勢なのは100も承知よっ!」
ユキは少しむっとしたように呟き古代の両手をグッと掴んだ。
「・・・・そんな余裕のない状態で・・・・事がうまく進むと思うの?!」
ユキの鋭い視線が古代を射抜く。
耐え切れなくなったように古代はユキの視線を避けるかのように顔を背けた。
「・・・・・みんながあなたのことを心配してるわ・・・・・意地を張らないで・・・・ね?」
「意地なんか・・・・張ってやしない」
「うそ・・・・・無表情を装っても私にわからないと思ってるの?」
ユキは古代の右腕を全身で押さえ込むように抱え込むとそのまま歩き出した。
「お・・・おい!!」
「コスモゼロの方は整備の皆さんがやってくださってるんでしょ?・・・・
どうせ胸のバンテージも巻きなおしたほうがいいんだから・・・・医務室へ来なさい・・・
乗る人間だってメンテナンスは必要なのよ」
ウもすもない・・・・・・
古代はユキのなすがままにされながら医務室へたどり着く羽目になった。
「なんじゃ?!お前さんら」
「先生!作戦前に艦長代理の怪我の様子を見たいと思いまして・・・・・」
いきなり現れた二人に一瞬呆れたような声を上げた佐渡ではあったが・・・・すぐに状況を察知した。
「は・・・・ま、ゆっくり話すことも必要じゃて・・・・ユキ!わしゃ薬物棚のチェックしとるからな!
何かあったらすぐに言ってくれ」
と、こちらを振り向くこともなく手をヒラヒラさせながら去っていった。
ユキは備品棚から固定用のバンテージを取り出し、シップと共に用意をすると手際よく古代の上着を脱がし
その身に巻かれていた物を外していった。
古代の汗を含んだ包帯はしっとりと湿気を帯び、長く取り替えられていなかったのを物語っていた。
「私がここにいなくても毎日抗生剤と炎症止めを打ちに来るように言っておいたはずよ?」
ユキは完治せず、未だ熱を帯び腫れが引ききらない古代の胸元にそっと手を添えた。
冷蔵庫からシップを取り出してきたユキの指先はひんやりと冷たく・・・・
古代はその冷たい感触をホンのひと時楽しんだ。
「本当に・・・・馬鹿な人・・・・・」
「馬鹿で悪かったな」
思わず呟いたユキの言葉に古代は毒づいた。
「本当に・・・・馬鹿よ。あなたは・・・・・」
グッと涙を堪えたユキは何事もないような表情でサッサと治療を施した。
「痛みがひどくなって・・・・どうにもならなくなってからじゃ遅いンだから・・・・」
「・・・・ごめん・・・・・」
「あなたの性格じゃ・・・・素直にはなれないかもしれないけど・・・・
でも実のおにいさんの心配をして文句を言うような人・・・・・どこにもいやしないわ」
「あの星にいるのが実の兄なんかじゃなければ・・・・こんなに悩みはしないよ。
きっと兄さんだって同じことを考えると思う・・・・」
「血統なの?不器用なのは・・・・古代家の?」
「かもな」
「やな血統・・・・・困った人たち・・・・・」
ユキは苦笑を浮かべながら古代の手をとると、その二の腕に注射器を押し当てた。
一瞬顔をしかめた古代は腕を押さえながら立ち上がった。
「これ・・・胃薬よ・・・・ストレス性のものだろうから・・・・気を楽にすれば胃痛も収まるとは思うけど・・・
しばらくは無理でしょうし・・・」
「ありがとう」
古代はユキから差し出された薬を口に含むとグッとかみ締めた。
苦味のある薬臭さが口の中いっぱいに広がり、今の古代の心の中そのもののようだった。
「にげ・・・・」
「薬だもの・・・・苦いのは当たり前よ」
クスっ・・・・・
微笑んだユキは備品を片付けるために古代に背を向けた。
その背が・・・・あまりに小さく見えて古代の心を締め付けずにはいられなかった。
《古代艦長代理!》
スピーカーから流れた呼びかけに、古代はすぐにそばのインターフォンに飛びついた。
「俺だ!」
「すぐに艦橋に戻ってください」
「どうした」
「ガミラス艦隊発見しました」
その言葉に最後まで聞くこともなく、古代は医務室を飛び出していた。
5.
「ガミラス艦隊を発見したのか?!」
上半身に上着を肩に引っ掛けた形で駆け戻ってきた古代の姿に艦橋の人間は一同一瞬驚いたような表情を浮かべた。
だが・・・その胸に巻かれた真新しいバンテージが目に飛び込むと全員ほっとしたように息をついた。
「報告を頼む」
そんなメンバー達の様子に気づいたのか・・・あえて無視したのか・・・・
古代は意に解することもなく自分の席にドッカと腰を下ろした。
上部のメインパネルにスィッチが入る。
鈍い機械音に続き、ぼんやりと惑星らしきものが浮かび上がってきた。
「イスカンダル・・・・・・」
「イスカンダルだ・・・・・」
美しきイスカンダル・・・・・
懐かしい姿に全員がその名を口にした
かの星はかつてとあまり変わることなくその澄んだ青さを保っているように見えた・・・・
が・・・・よく目を凝らしてみると・・・・・・・
イスカンダルの表面にいくつもの黒いしみのような影が無数に浮かんでいるのが見て取れた。
「現在も妨害電波の影響をかなり受けていますから・・・・・画像が鮮明ではありません」
微妙な調整に苦慮しながら相原は報告をする。
「ヤマトの現在位置・・・イスカンダルより280万宇宙キロ・・・・第10惑星軌道上です。」
「妨害電波の影響が大きくてレーダーが使用不可能状態です」
相原の言葉に合わせるかのように太田が申し訳なさそうに呟く。
「だが、ガミラス艦隊の場所を特定したんだろう?さすがだな、太田」
すかさずフォローに入る島の言葉に少し安堵の表情を浮かべながら太田は次のデータを指し示した。
「レーダーが使用不能のため・・・・熱感知によるエネルギー源探査を使用しました」
・・・・・・戦艦等・・・・宇宙船舶はそれぞれ独自のエネルギーを発生させている。
ヤマトも然り・・・・当然ガミラス艦隊も・・・・
発生させているエネルギー波は各艦により異なったものを発生させていた。
かつてヤマトと戦闘を交えたことのあるガミラス艦隊のエネルギー波のデータは
当然のようにヤマトのデータバンクに収納されていた・・・・。
「ガミラス艦隊のエネルギー波です。」
太田の声にあわせるかのように青い光点の集団が惑星上空に集結しているのが見て取れた。
そして・・・・・所属不明をあらわす真っ赤な光点がその青い光点を追い詰めるかのように動いているのもわかる・・・
「イスカンダルに追い詰められているのか?!」
「時おり激しいエネルギーが発生していますから・・・・現在交戦中と思われます」
モニターに映る点滅は・・・・激しい交戦の表れ。
はるか後方にいるヤマトの中にいる古代たちにはどうすることもできない。
モニターの点滅を見つめ、古代はグッと唇をかんだ。
デスラーが・・・・あのデスラーが・・・・
かつての宿敵は自分を信じメッセージを送ってきた。
今もこの艦の訪れを信じ、自分を・・・部下達を奮い立たせ闘っていることだろう・・・・
だが、その闘いはかつて彼が経験し尽くしてきた侵略とは違う・・・・
何の見返りもしない・・・・美しき星を守護するためだけの戦い・・・・
「・・・・ヤマト・・・・エネルギー全開!!全速力でイスカンダルへ向かえ!!」
古代の低く鋭い声に触発されるように艦内は慌しく本格的に戦闘準備へ突入してゆく・・・・。
6.
目の前のガミラス艦隊に全ての目が集中しているためか・・・・
それとも自らの力を過信しているからか・・・・・
イスカンダルの目の前まで到達しても未知なる敵からはなんの反応もなかった。
目の前のイスカンダル・・・・
今は敵艦もガミラス艦も視界には入ってこない。
その両方ともが今は荒れたイスカンダルの雲の下に存在した。
有視界航行・・・・・
機械に囚われすぎることのない・・・・ヤマトの強さが最も発揮されるところでもあった。
島はあまり役には立たないレーダー類を気にすることもなくヤマトを自在に操りイスカンダルの大気圏に近づいた。
「イスカンダルの大気圏内まで後5分です」
太田の声を確認するように頷くと古代は自席を蹴るように立ち上がった。
そして目の前の艦内マイクを掴み取り叫ぶ
「コスモタイガー隊出撃用意!!」
《了解!!!》
今頃・・・・隊員達の控え室で武者震いをしていた連中が「待ってました」とばかりに格納庫へ向かって
走り始めていることだろう・・・・。
・・・古代もまた艦橋内に目をやりその場に居合わす全員に視線を送る。
艦橋内のメンバー達も何も言葉を発することなくただ小さく頷く。
自ら先頭に立って闘いの場へ赴く彼への手向け。
そして・・・・・最後に一点に視線を送る。
視線を受け止めた相手は華やかとも言える美しい微笑を送る。
『私たちはここを守る・・・・あなたはあなたのなすべきことをやり遂げてきて・・・・・』
そう思いを込めて・・・・。
本当なら・・・・引き止めたい・・・・
止められるものなら・・・・死と隣り合わせの世界へ愛するものを送り込みたいものなど・・・・いるだろうか?
だが・・・・あえてそれを表に出さない優しさもある。
今から闘いの場へ旅立つものに送るのは・・・・『信頼』のみ・・・・
互いに全てを理解しあえている間柄だからこそ・・・・何も必要はない。
あるのはただ・・・・微笑だけ。その微笑だけで安心して赴ける。
その微笑を見届けると古代は安心したように笑い返し、艦橋から走り出て行った。
古代の背中を見送った艦橋内はすぐに全員前を向き直った。
「・・・・・イスカンダルの大気圏内突入直前にコスモタイガー隊は発進・・・・先行攻撃を開始。
ヤマトは敵艦隊背後につき援護射撃をします。
コスモタイガー隊は敵艦載機群を撃滅後ヤマト上空に散開ヤマトの護衛に入ってもらいます・・・・
その後ヤマト主砲により敵本体と交戦開始・・・・・で、いいでしょうか?南部さん」
「・・・艦長代理はお前に戦闘を任す・・・・っていったぞ?北野・・・・」
緊張でイスカンダルから目が離せないままの北野に南部はウィンクしながら笑いかけた
「任すっていうことは・・・艦長代理はお前の力量を信じてるってことだ・・・・やりたいようにやればいいさ。
バックは俺達がいるから・・・・安心してやりたいようにやってみろよ?」
南部のさりげない言葉に北野は自分の緊張が春の雪解けのように溶けてゆくのを感じながら
今度ははっきりした意思を持った視線で前方の星を見据えた。
そんな北野の背中を艦橋内の人間は温かく見守っていた。
闘いの火蓋は間もなく落とされようとしていた・・・・・・。
7.
格納庫から古代の愛機が待機するカタパルトへはもう一階分階段を駆け上がることになる。
その階段の終着するところ・・・・・カタパルトへの扉の前に、古代の出撃用の備品を格納しておくためのロッカーが
備えられている・・・・。
勢いよく階段を駆け上ってきた古代はその勢いのままロッカーの扉を開いた。
その目に、2つのヘルメットが飛び込んできた。
一つは・・・・・元々古代自身が使用してきた愛用のもの。
そしてもう一つは・・・・・・・
傷だらけでメット表面の塗装もはげかけているところも見える・・・・ところどころ小さな落書きすらある。
ただ・・・・・他の部分に比べ、バイザー部だけ妙に真新しいヘルメット・・・・・
古代は迷うことなくそのヘルメットを手に取るとグッとその腕に抱きしめた。
「・・・・・・加藤・・・・待たせたな・・・・お前の弟の初陣だぞ?・・・・」
愛しげになでるように古代はヘルメットに語りかけた。
「約束だったからな・・・・・俺とお前・・・・二人でお前の弟を見守ってやろうってさ・・・・・」
「おい・・・・古代・・・・」
地球艦隊と彗星帝国との決戦により傷ついたヤマトがガニメデ基地でその巨体を横たわらせているころ・・・・
負傷し医務室監禁の憂き目にあっていた古代の元に加藤が訪れてきた。
「なんだ?加藤・・・・お前の方はもういいのか?」
「んぁ?あぁ・・・・・俺らはいっつも完璧に愛機をメンテナンスしてるからな・・・・こんなときは慌てず騒がずさ」
修理終了と同時に彗星帝国に最後の戦いを挑もうとしていたヤマト艦内は乗務員達が走り回っている。
CT隊の加藤も忙しくはないはずはない・・・・
「・・・・CT隊の連中がさ・・・・お前が大人しくちゃんとしているかを気にしていてさ・・・
俺が代表で様子見に来た・・・・ってわけだ」
「もうすぐにでも動けそうな気分なんだけどな・・・・佐渡先生とユキが許しちゃくれない」
古代の苦笑に
「・・・・・そりゃ〜こんなときにしかお前を独占できないユキの気持ちも考えてやれって!」
と、怪我人に対してそれはないだろ?というくらい思いっきり背中をどつく。
「なぁ・・・・お前に・・・以前話したことあったよな・・・・」
ひとしきり差しさわりのない話で盛り上がった後、加藤が真剣な顔で古代に向き直った。
「ん?」
「俺の弟・・・・俺さ・・・・あいつの初陣は見届けてやりたいんだよ・・・」
「加藤・・・・」
「俺んち・・・・4人兄弟なんだよ・・・・」
“そんなの名前みりゃ〜簡単にわかるぞ?”
というツッコミを入れたいのをじっと堪える古代を前に加藤が淡々と語り始めた。
「四郎・・・・あいつがさ・・・末なんだよな・・・・おれってさ・・・上から3番目っつぅことでさ・・・
親にも別に顧みられない立場だったんだよな・・・ところがさ・・・遊星爆弾の影響もあって・・・
2番目の兄貴が逝っちまった頃からかな・・・・親が妙に俺に干渉するようになってきてさ・・・・
俺・・・・それが凄く嫌で嫌でさ・・・・・親に反抗しまくってやりたい放題荒れ放題・・・していたんだよな・・・」
学生時代の・・・妙に突っ張ったところがある加藤を思い出し、古代はなんとなく納得していた。
「そんな俺に愛想を尽かしたんだろうな・・・親の視線は末っ子の四郎に集中するようになった。
あいつも・・・元々人がいいって言うか・・・・素直な性格で・・・・親の言うなりになっていたらしいんだよ・・・・・
結局・・・おれは親の言うなりになるのはイヤだって言いながら・・・飛ぶことが忘れられなくって自分の意思でこの道に入った。
四郎は・・・・親父の意思を引き継いでこの道に入ってきた・・・・
あいつは・・・もしかしたら本当は何か別のことをしたかったかもしれないのに・・・・
だけどな・・・・四郎のやつ・・・俺がこのヤマトのCT隊の隊長ってことを・・・・自慢してるらしいんだ・・・・
こんな自分勝手な兄貴だってのに・・・・自分の何よりの自慢の兄貴だって・・・吹聴してるらしいんだ・・・・・俺・・・・
すっげぇうれしかった・・・・・」
弟の姿でも思い出したのだろう・・・・懐かしげにフッと思い出し笑いをする加藤の横顔を古代は
何も言わずただ見つめていた。
「・・・・・俺さ・・・あいつの初陣を飾ってやりたいんだよ・・・・あいつに最高の宇宙を教えてやりたい。
危険も夢も・・・・全部詰まった・・・・この宇宙を体験させてやりたいんだ・・・・・・」
「いいじゃんか・・・・お前の弟ならきっと一発飛べば宇宙のよさを全て理解できるさ・・・
いいよなぁ〜お前は弟がいるからさ・・・・・俺には兄貴しかいなかったから・・・・ちょっと羨ましいぞ」
正直、弟の自慢をうれしげに話す加藤に嫉妬せずにはいられない古代は苦笑いを浮かべた。
「・・・・だからさ・・・・お前にも協力願ってるんじゃないかよ・・・・
俺の弟に最高の宇宙を飛ばせてやって欲しいんだよ・・・・・!」
加藤の言葉に古代は目を丸くした
「協力って・・・・おまえなぁ・・・・」
「俺の弟は際立って優秀だからな♪あいつがここに配属になるのは目に見えているから・・・・
いっしょにあいつを鍛え上げてやろうぜ」
ニカッ・・・・・・
白い歯が光る加藤の自信に溢れた笑みは古代の心に深く刻み篭められた。
「おまえ・・・・俺に宿題を残しやがってさ・・・・・バカヤろう・・・・
おれは学生時代から強制されたことは大っきらいだったこと・・・知ってだろうっての・・・・・」
暗い通路の隅で古代は腕の中のヘルメットを軽くコついた。
コツン・・・・・小さく鈍い音がこぼれる。
真新しく見えるバイザー・・・・・
加藤が最後にこれを被っていたとき・・・割れてしまっていたバイザー・・・・・
古代は真田に修理を依頼した。
壊れかけたヘルメットを修理して使用するような酔狂なものはいない・・・・
宇宙空間で空気漏れでも起こしたらそれこそコトだから・・・・
だが、真田は黙ってヘルメットを受け取ると壊れた部分を丁寧に修理した。
他の・・・・・懐かしい傷には手を加えないように気をつけながら・・・・
古代は改めてヘルメットを持つ手に力を込めると、それを自ら被った。
「行こう・・・・加藤・・・・お前の弟の初陣だ」
カタパルトにセットされた古代の愛機・・・CT−0がそんな彼を迎えるかのように鈍く光っていた。
古代は機体に足をかけるとその勢いのままコクピットに身を躍らせた。
手際よく各スィッチをONにしてゆく・・・
鈍いエンジン音がコクピット内に振動を与えてゆく
上部のドームが閉じ、機体を固定していたカートリッジが外れる
「コスモタイガー隊!発進せよ!!!」
古代の声が各無線を通じ待機する各機に通じる
ヤマト下部から生み出されてゆくCTの機体を目にしつつ、古代も操縦桿を握った
「コスモゼロ発進する!!!」
イスカンダルからの薄明るい光り溢れる空間の中、古代を乗せたCOSMO−ZEROが身を躍らせ飛び出していった。
8.
ヤマトを発進してすぐ、古代たちCT隊はイスカンダルの濃い大気の中厚い雲の中に突入した。
空気の流れに蠢く雲の中を何も見えぬまま古代は操縦桿を操った。
すぐ近くにいるはずの友軍機の姿も捉えることが出来ない・・・・
が、雲を突き抜けると一気に視界が広がった。
そこには・・・・見覚えのある小さな人工物が無数に存在していた
デスラー機雷・・・・・
かつての戦いの折、ヤマト自身この機雷の罠にはまりかけ、ガミラス人にとっては
想像に絶する方法で窮地を脱したことがあった・・・・
おそらく・・・デスラーはこの機雷で敵にわなを仕掛けていたのだろう・・・・
古代たちCT隊は機雷の間をすり抜け一気にイスカンダルの空へと躍り出た。
宇宙空間から見ていたときはかつてとあまり変わらず・・・美しさを留めていたこの星・・・・
だが・・・・目の前に広がった現実の世界・・・・あまりの痛ましい星の姿に古代は思わず目を背けたくなった。
イスカンダルは・・・・崩壊一歩手前という状況下に陥っていた。
ガミラスが崩壊した影響をモロに受け、自分を育んできた母なる星へと落下を始めたその星は・・・・
磁気嵐が吹き荒れ、大地は崩壊しマグマがあちこちで噴出しているのが見て取れる。
地震も頻繁に襲っているのだろう・・・・地割れが広がり、大地が崩れ落ちてゆく様が見て取れる
かつて緑溢れていた大陸は自然発火した火が猛威を奮い、瞬く間に全てを飲み込んでゆく・・・
そんな中・・・・ダイヤモンドパレスは存在した。
この星を統べる女王の威厳を放つように・・・・最後の瞬間すら誇りを保つかのように建っていた
目の前には懐かしいマザータウンの海・・・・
ガミラス艦隊はダイヤモンドパレスを守護するかのようにマザータウンの海に着水し、
上空に不気味に浮かぶ見たこともない艦隊と対峙していた
見覚えのある旗艦を中心に集まっているガミラス艦隊は・・・・もう何艦か撃墜されてしまったのだろうか?
僅かな艦数しか見て取ることは出来ず・・・・
残っている艦のあちこちからも煙を噴き出し、まさに風前の灯といった様相を呈していた。
敵の主砲が・・・・デスラーが乗る旗艦に照準を合わせているのが見てとれた。
「全機・・・攻撃開始っ!!!!」
古代の発した合図と共に、雲霞の如く敵戦艦周辺に浮かぶ艦載機の集団に襲い掛かった。
思いもかけず背後から攻撃を受けた敵は一瞬何が起こったのか・・・理解不能だったろう
CTに攻撃され右往左往しているのが手に取るようにわかる。
機体数こそ、こちら側のほうが限られていたが・・・技量の違いは一目瞭然だった。
CT機が反転し華麗に宙を舞うたびに一機・・・二機・・・・・と次々に敵艦載機は撃墜されてゆく・・・・
慌てふためくように艦隊の方向転換をしようとする敵に対し・・・今度は海からの砲撃が襲い掛かった
ヤマトの到着を心待ちにしていたのだろう・・・・
戦況の変化を指をくわえて見ているだけの男ではない
デスラー艦から放たれたうねる光の束が駆逐艦と思しき艦隊を一気に貫いた。
それを合図と見て取ったか・・・・
ガミラス艦隊の勢いが俄然増してきた。
「デスラー・・・聞こえるか?!デスラー!!こちら古代!!」
《古代・・・・・待ちかねたぞ・・・・・よく・・・・来てくれた・・・・》
CTのスピーカーから雑音に混じりながら、デスラーの低い声が流れてきた。
「無事だったか!デスラー」
《・・・私はそうは簡単にはやられたりはしないよ・・・・》
キレギレながらにこぼれてきたデスラーの声に古代は複雑な思いと共に妙な安堵感を感じていた。
かつて・・・古代たちを苦しめ続けた敵・・・・だったデスラーの安否がこれをほどまでに気になるとは・・・
実際、ここに来るまで半信半疑だった。
あのデスラーが隣星のよしみとはいえ、イスカンダルのために行動を起こしてるなどということが・・・
信じられなかったのだ。
だが、現実にその身を張っている姿を・・・
・実際に目の前でこの星を守ろうと盾になっている姿を見てしまうと放っておくことを出来るはずがない。
古代は機体を安定させるため操縦桿にグッと力を込めた。
海上のガミラス艦隊に目を向けると・・・・・ヤマトの到着に士気が上がったのか?
よろめきながらも海から艦体を浮上させ、敵艦追尾の体勢を取ろうとしている・・・
「全機・・・戦線離脱!!ヤマト防衛圏維持」
上空にいた艦載機小型機を一掃した古代はその機体を一気に反転・・・・ヤマトへと向かった。
古代機の動きに合わせるかのように、他の機も反転・・・ヤマト上空へと機体を翻した。
9.
「CT隊・・・・敵と遭遇、交戦を開始しました!」
太田の報告で艦橋内の空気が一気に緊張をました。
「敵艦ヤマト射程距離まであと50宇宙キロ!!」
「前方にデスラー機雷群が点在しています。」
「ヤマト前進・・・・デスラー機雷後方で待機、CT隊の護衛に入ります。パルスレーザー砲砲撃開始!」
ユキの言葉を確認するかのように頷くと北野は一息ついた後はっきりと告げた。
「了解!」
北野の言葉を受け南部は自分の手元のスィッチを入れパルスレーザー発射命令を下した。
ヤマトから放たれた花火のような火花は確実に敵小型機を撃墜してゆく。
ヤマトからの攻撃に気づいた敵が直接攻撃を仕掛けようとこちらへ向かってこようとしているのだが、
その前にCT隊の餌食になりっけなく撃墜されてゆく・・・・。
「よし!北野・・・そろそろ主砲発射の準備をしておいたほうがいいぞ」
前回のことがある・・・あまりにギリギリすぎると焦った北野がまた主砲発射のタイミングを外す可能性もある・・・
そう考えた南部はあえて早めに北野に進言した。
「はい・・・お願いします」
北野は前方を見据えたまま南部の言葉に同意し、振り向くことはない。
その視線は戦況を自らの目で判断しようと光っているのがわかる。
南部はフッと笑うとスピーカーを通じ主砲コントロールルームに準備指示を送った。
戦況は今のところこそヤマト側の有利ではあった。
が、敵も早々やられてばかりではない。
CT機がデスラー機雷群をすり抜けヤマトの上空に戻ってきた頃には体勢を整えなおし、
その背後を追って攻撃を仕掛け始めてい。
《CT隊機!ヤマトの防空圏を死守しろ!》
オープンになった無線から各機に送られる古代の声が艦橋内にも轟く。
古代の声にあわすようにヤマトの左右をCT隊機が華麗に舞いヤマトの周囲に展開体勢を整える。
その間にも徐々に敵の攻撃がヤマトの装甲を襲い始めていた。
時おり襲う振動の中、南部は焦りを感じ始めていた。
“北野のヤツ・・・・敵の攻撃にビビっているんじゃないのか?!”
南部から見えるのは北野の動じることのない背中のみだった。
ゴゥン・・・・・・
敵駆逐艦からのかなり口径の大きい砲からの攻撃が掠めたのだろう。
ヤマト艦体全体が震え上がるとさすがに南部も落ち着きを失いかけた。
“いかん!!北野のヤツ・・・やっぱり攻撃にびびってやがるんだ!!”
「き・・・北野!!!主砲発射だ!!」
思わず口走った南部の思惑とは裏腹に・・・・北野は不敵な笑みを浮かべながら振り返った。
「まだまだぁ〜・・・どうせやるなら・・・・一発でしとめなくっちゃ・・・・エネルギーが勿体無いですよ、南部さん」
「?!」
北野はニヤッと笑うと再び厳しい表情を浮かべながら前方に目をやった。
ハッ・・・・・・・・
南部は呆れたように一瞬大きな息を吐くと思わず笑みをこぼした。
“こいつは・・・・・一皮向いたらとてつもない大物になりそうだよ・・・・”
「よし、北野・・・お前が思うようなタイミングでやれ!!任せた!」
「南部さん・・・・・・・・・はい!!!」
南部の言葉に一瞬驚いたように目を見開いた北野はにこっとうれしそうに笑った。
「敵、ヤマト射程距離まで後5000!!」
太田の声が艦橋内に響き渡る。
艦橋内の全員が北野の感を信じた。
10.
・・・・いよいよ敵艦隊が目の前に迫ってきた・・・・
島の巧みな操舵のおかげで直撃こそは免れてはいたが・・・・
敵から放たれるエネルギーがヤマトを掠めるたびに艦全体が悲鳴をあげるかのように振動を繰り返している。
ヤマトの艦内にも徐々に被害が出てきているらしい
艦内マイクを通じ各ブロックの被害状況が伝わって、それに伴い真田の目の前の艦内モニターの
赤点滅の数が見る見る間に増えつあった・・・・。
巨大な敵艦隊の一機一機の姿が肉眼でも判別可能になってきた。
だが・・・北野は手元のコンソールに手をついたまま身じろぎもしない。
「敵艦ヤマトまであと10宇宙キロです」
「敵艦隊・・・・戦艦1駆逐艦と思しき艦10小型艦30・・・・艦載機無数接近です!!」
その声に思わず北野の背中に視線が注がれるが・・・北野の視線が揺らぐことはない
「あと7宇宙キロ」
「あと4宇宙キロ」
緊張の増したユキが敵艦までの正確なデータを読み上げる声のみが艦橋内に響き渡る
“まだなのか・・・・まだ・・・・・攻撃態勢には入らないのか・・・・!?”
全員の握り締める手の平に汗がにじむ・・・・・
額に浮かぶ汗が伝い目に入ろうと全員身じろぎもしなようともしない。
全員の緊張が頂点に達しようとしていた・・・・・・
その時だった
「主砲発射!!目標敵艦隊!!!」
北野の声が艦橋内に轟いたと同時に“待ってました”とばかりに主砲が轟音と共に火を吹いた。
主砲類を管理する砲術科の連中も待ちかねていたのだろう・・・・
主砲は一発・・・二発と勢いを増すが如くうねるエネルギーを弾き飛ばしてゆく・・・・
その激しいうねりは確実に敵の駆逐艦の胸元に飛び込み、火柱の餌食に貶めてゆく・・・・
次々と火柱を上げてゆく敵艦に留めの攻撃をCT隊が畳み掛けてゆく・・・・
イスカンダルの上空に轟音が響き渡った・・・・
「やったぁ〜!!!」
艦橋内に歓喜の声が渦巻いた。
「凄いぞ!!北野!!やったな!!」
南部は思わず自席から飛び出し、北野の肩を乱暴に叩いた。
「はい!!」
北野は南部の乱暴な歓喜に顔を歪ませながらもにこやかに笑った
《よくやったな!!北野!!砲術班も上出来だったぞ!!》
スピーカーからこぼれてくる古代の声も心なしか浮かれ気味のようだ。
「はい!!ありがとうございます!!艦長代理!!」
古代の激励の言葉に北野の顔が緩み声も弾む・・・・弾みついでに心も弾んだのか・・・・
「早く波動砲も撃たせてください!!」
などと余計な言葉まで口走る始末である。
「バカ・・・・調子に乗るヤツがあるか!」
古代は口では北野を叱咤しながらも、その頬には苦笑が浮かんだだけだった。
むしろ北野の成長を心強く思うのであった・・・・・・
11.
北野の絶妙なタイミング(ギリギリまで敵を引っ張ったタイミング?)のおかげで第一波の攻撃こそ成功を収めたが・・・・・
だが敵もただ手を拱いて見ているばかりではなかった。
凄まじい猛攻がヤマトを襲い始めた
敵の攻撃が炸裂するたびに艦全体が激しく振動する
艦内のあちこちで火花が炸裂する。
そのたびに乗務員達は吹き飛ばされつつ・・・・しかし各自の持ち場にしがみついて、それぞれの戦いに身を投じていた・・・・・
激しい振動に襲われているのは第一艦橋とて例外ではなかった・・・・・
床に叩きつけられないように身体を座席にベルトで固定はしているものの・・・・
激しい振動のたびに体を振られ、たまらず手元のしがみつけるものにしがみつき体勢を整えつつ次々と指示を飛ばしてゆく・・・・
その中で・・・・操縦桿にしがみつきつつ艦の安定を保とうと躍起になっていた島は・・・・我が目を疑った。
少しマグマの流出が収まってきたイスカンダルの地上から何かが飛び立ってきたのだ。
「あれは・・・・!!」
「水雷艇です!!小型の水雷艇がイスカンダルより発進しました!!」
島が言葉を出し切る前に太田が叫んだ・・・と同時にメインパネルにイスカンダルの地表の様子が映し出される。
その中央部・・・・・岩陰に隠れるように旧式の小型の水雷艇がイスカンダルの地表すれすれを飛んでいるのが見て取れた。
「イスカンダルから飛び立ったって?!」
真田が思わず自席を蹴るように立ち上がった。
その顔からは血の気が引いていた。
室内がシーンと水を打ったように静かになった。
時おり腹の底から響くような鈍い爆音のみが艦橋内に轟く
今の状況でイスカンダルから飛び立った水雷艇を操縦しうる人物は・・・・一人しか思い当たらない
「守・・・・・・・っ!!」
真田のうめくような呟きに艦橋内は息を吹き返したようにざわめいた
「あれは・・・・古代のお兄さんが操縦してるんじゃないのか?!」
「一体・・・・何をしようとしてるんだろう・・・・?」
水雷艇の動きを目で追いつつ・・・相原が疑問を口にした
相原の疑問ももっともなものだった。
イスカンダルの地表から発進した水雷艇はその地表部すれすれを低く何度も旋回を繰り返していた。
その場所の下方には・・・・マグマが未だ渦巻いているのが容易に見て取ることが出来た・・・・・
「・・・・・・おそらく・・・・イスカンダルを再び暴走させようと試みてるんだろう・・・・」
真田は苦しげな表情を浮かべて呟いた
「イスカンダルの・・・・暴走?!」
その場に居合わせた全員・・・・真田の方に向き直った
「そうだ・・・・ほら・・・・見てみろ」
真田の指先・・・・水雷艇がなにやらばら撒いているのがわかる。
「・・・・・・外部から地表の亀裂を拡げ、マグマの流出を促し噴出させイスカンダルを再び暴走させようとしているんだ・・・・・・」
「・・・・・なっ?!」
イスカンダルの暴走を助長させるようなことをしたら・・・・・それこそこの星の運命は・・・・・
全員・・・・言葉もなかった
「なぜ・・・・何故そんなことを!!」
「・・・・おそらく・・・・ガミラスの被害とヤマトに対する攻撃を見ていて・・・・あの二人が思い立ったのだろう・・・・。
これ以上・・・・・我々の犠牲を増やさないようにと・・・・・」
真田は苦汁を舐めたように苦しげな表情を浮かべた。
その手は・・・・ギュッときつく握りこぶしを握り締めている・・・・
「あの・・・・・大バカ野郎が・・・・・!!!お前を犠牲にして・・・・誰が喜ぶとでも思ってるんだっ!!!」
真田は遥か地表を飛ぶ水雷艇に向かって罵声を浴びせずにはいられなかった。
12.
ヤマトの第一艦橋で水雷艇が発見されていた頃・・・・
もっと地表近くを飛行していた古代がその機影に気づかないはずはなかった。
もちろん、その機体を誰が操縦しているか・・・などということも気づかないはずなかった。
“兄さん!!!”
古代は一瞬・・・・無意識に機首をその水雷艇のほうにむけようとした・・・・
だが・・・・次の瞬間・・・・古代の脳裏に兄の声が響いたような気がした。
『馬鹿野郎!!進・・・・お前は何のためにここに来たんだ?!』
“兄さんっ!!”
『お前は・・・・俺を救いにこんなところまで来たはずはないだろう?お前は・・・・
この星を救いにここに来たはずだ・・・・違うのか?』
“そうだけど・・・・そうだけど兄さん!!”
古代は遥か下方を飛ぶ小さな水雷艇に目をやった
水雷艇の動きに気づいた敵の艦載機がその小さな機影に攻撃を仕掛けようとしていた。
「兄さん!!」
思わず古代は叫んでいた。
おそらく・・・その水雷艇には武器らしい武器すら積載されてはいないのだろう・・・・。
敵の攻撃こそ見事な操縦裁きで逃れてはいるものの・・・・このままでは・・・・時間の問題だった。
なにせ・・・たった一機の小型の水雷艇に雲霞の如く敵の艦載機は襲い掛かっていたのだから・・・
古代はグッと唇をかみ締めた。
口に中に血の臭いが染み渡る・・・・
古代はジレンマに陥っていた・・・・
今自分のすぐ目の前で敵に襲われているのは・・・・たった一人の身内・・・
実の兄である・・・・
出来ることなら今すぐ自分の立場などかなぐり捨てて・・・・飛んで行きたい・・・・
おそらく・・・以前の古代ならなんのためらいもなく、すぐに実行に移って・・・・兄を救いに飛び出していたことだろう。
しかし・・・・・今の自分は「昔」の自分ではない・・・・
これでもヤマトという艦を統べらなくてはならない立場である(例え代理とはいえ・・・・)
自分の肩にかかっているのはもはや「自分」だけではない・・・・・。
その時だった・・・・
《古代!!何をためらってるんだ!!あそこで交戦中なのはお前の兄貴だろう!すぐに助けに行け!!》
それは・・・・・島の声だった。
おそらく、第一艦橋にいるメンバー全員が自分のことを案じていてくれている・・・・
そのことは痛いほどわかっていた。
だからこそ・・・・・助けには行けない・・・
《何を遠慮してるんですか?!古代さん!!》
《古代さん!!すぐに行って下さい!!ヤマトはだいじょうぶです!
CT隊を引き連れてすぐにお兄さんのところへ!!》
メンバー達の声が重なりながら古代に救出に向かうことを促す・・・・・
《進さん!!早くお兄さんを援護してあげて!!》
悲鳴にも似たユキの声がコクピット内に響く
古代はその声を遠くに聞きながら・・・・ただ下方を飛ぶ水雷艇を凝視するしかできなかった。
《古代君っ!!!!!早く・・・・・早く援護を!!》
《古代!!俺達はどうしてここまで来たんだお前の兄貴を見殺しにするためにここまで来た訳じゃないだろう!!!》
島の声に古代はグッと瞼をきつく閉じた・・・・・耳を両手で塞いでしまいたくなる
“兄さん・・・・ごめん・・・・・”
「すまない・・・・・みんなが・・・・兄貴のことを心配してくれるのは・・・・・うれしい・・・・だが・・・・」
古代は前方をきっと見据えた。
その視線の先には・・・その正体すら未だはっきりとはしていない巨大な戦艦がまさにヤマトに向かってくるところだった。
「見てみろ・・・・敵の主力戦艦がヤマトに迫ってきている・・・
このままCT隊を率いてあの水雷艇の援護に行ったら・・・・それこそ貴重な戦力を失ってしまう・・・・
おれは・・・あいつらを犬死などさせたくはない・・・・」
グッと言葉を呑む・・・・・と古代は吹っ切るかのように叫んだ
「CT隊!全機帰還せよ!!!」
《こ・・・・古代君!!!待って!!そんなことをしたらあなたが後悔してしまうことに・・・・・!!》
古代はスピーカーから流れてくるユキの叫び声から逃れるようにスイッチを切り天を仰いだ・・・・
“ごめん・・・・・ごめん・・・・・にいさん・・・・・・俺・・・・・兄さんを・・・・・・”
古代の両眼からとりとめも泣く涙がこぼれた・・・・。
『いいんだ・・・・進・・・・お前は間違ってはいない・・・・それでこそその艦を統べるものだから・・・・
ヤマトの戦士だからな・・・・・』
守の誇らしげで静かな声が古代の脳裏に聞こえたような気がした・・・・・
13.
「あの・・・・・大馬鹿野郎・・・・・!!ったく兄弟揃ってどこまで世話を焼かすんだ!!」
第一艦橋からメンバー達が古代を説得している頃・・・・真田は既に古代の行動を察知していた。
あいつは・・・・絶対に援護になど向かわない・・・・それがあいつだ・・・・
真田はグッと唇をかむと、すぐそばでやり取りの様子を見守っていた山崎の肩に手をかけた。
「山崎さん・・・・・ちょっと出かけてきてもいいですか?」
真田の言葉に一瞬不審そうな表情を浮かべた山崎ではあったが・・・すぐに真田の意図を理解した。
「どうぞ・・・・思う存分に・・・・ここのことは任せておいて下さい」
片方の唇を上げて山崎がニッと笑うと真田は少し照れくさげに笑い返した。
だが・・・それはホンの一瞬だった。
山崎以外・・・・誰にも気づかれることもなく、真田は第一艦橋を後にした・・・・
「すぐに予備のCT機をカタパルトに上げてくれ!!すぐにだ!!」
格納庫に駆け込んできた思いもかけない人物の言葉に一瞬整備兵たちは戸惑った。
だが・・・・・その強い口調に反論することも出来ず・・・・予備の機体をカタパルトに固定した。
ヘルメットを装着した彼を乗せたCT機はカタパルトから颯爽と宇宙空間へと放出されて
きれいな弧の軌道を描きヤマトの装甲の脇をすり抜けていった・・・・
と同時に、戻ってきたCT隊機の間をすり抜けてゆく・・・・・
古代は愕然とした
その今発進したCT機の機体の中に見覚えのある男の姿を見咎めたから・・・・・
「真田さん!!!!」
古代は思わず後方を仰いだ。
・・・・・が、真田を乗せたCT機は遥か彼方へと飛び去った後であった
「真田さん!!戻ってください!!発進命令出しちゃいません!!」
《馬鹿野郎・・・!こんな緊急時に発進命令もなにもないだろう・・・?
・・・・ったく、お前ら兄弟は直接動かなくては理解できないっていう厄介なところが・・・・・
本当にそっくりだから困ったものだな・・・・・ま、帰ったらバツでも何でも・・・・聞いてやるから・・・・
今は黙って行かせてくれ》
真田の声が古代のヘルメット内の通信機を通じ流れてきた。
「黙って行かせてくれもなにも・・・・行っちゃったんだから・・・・・どうしようもないでしょう・・・・・」
古代は大きくため息をつくしか出来なかった。
「とにかく・・・・生きて戻ってください・・・・・コレだけは絶対命令です。真田さんといえどこの命令違反は許しません」
《了解・・・・・》
古代は真田がフッと笑ったのを感じた。
真田を乗せたCT機はあっという間にイスカンダルの地表近くに飛来した。
目の前には・・・・水雷艇を追い回している敵の艦載機が見に飛び込んできた。
おそらく・・・敵は水雷艇に武器が搭載されていないことに気づいているのだろう・・・・
まるで傷ついた草食動物を悪戯に追い回す肉食動物のように、水雷艇をいたぶっているかのようだった。
真田は照準を見定めると・・・迷うことなくトリガーを握り締めた。
いきなりの後方からの攻撃にひとたまりもない。
敵の艦載機は火達磨となりイスカンダルのマグマの中へと落ちていった・・・・
「だいじょうぶか?古代!!」
《真田っ!?》
真田の耳にほっとしたような・・・・それでいてバツが悪そうな感が否めない守の声が届いた。
思ったよりも元気そうな守の声に真田はほっとした。
《何を考えてるんだァ?お前は・・・・・ヤマトの技師長さんがこんなとこに出てきていいのかよ》
「何を言ってるんだ!見るに見かねて出てきてやったやったというのに・・・・その言い草はなかろう?」
相変わらずに口の悪さに苦笑いしつつ昔と変わらない守の口調が懐かしい真田だった。
《ま・・・・・なにはともあれ・・・・・礼は言っとく・・・・・助かったよ・・・命拾いした》
「お前・・・イスカンダルを暴走させる気なんだろう?」
核心を突く真田の言葉に守は“隠しても無駄”だと悟り小さくため息をついたのがわかった。
《あぁ・・・・今のままじゃ・・・ヤマトのガミラスも・・・・手の打ちようがなくなる・・・・・二人で話し合った結果だよ・・・・》
「そうか・・・・」
『二人で話し合った結果』なら真田には口の挟みようがない・・・・今は・・・・その結果に『幸運』を祈るばかりしかない・・・・・・
真田はグッと機体を翻らせた。
もう敵の攻撃の気配はない・・・・自分の役目は終った
「守・・・・・・生きろよ・・・・・帰って来い」
真田はもう一度守に呼びかけた・・・・・が、その言葉には何の返答もなかった・・・・。
真田を乗せたCT機はグッと上昇し・・・・上空に待機するヤマトへと吸い込まれていった。
14.
真田を乗せたCT機の動きを固唾を呑んで見守っていた第一艦橋のメンバー達は・・・・
水雷艇もCT機も無事なことを確認しホッとし息をついた
「すっげぇ〜真田さん・・・・・」
「ふぇ〜〜〜〜〜★技師長なんかにしておくの勿体無いなぁ〜」
艦橋内のあちこちで感嘆の声が沸きあがる。
「よかった・・・・・」
と、思わず呟くユキの傍らで古代は苦虫を潰したような顔をしていた。
が、実のところ一番ほっとしているのが古代であることは誰もが一番感じていることであった。
《のんびりしている暇はないぞ!!敵の主力が目の前に迫っているんだからな!!》
スピーカーから響く真田の声に数人が首をすくめ・・・席に走り戻っていった。
「真田さん、艦尾着艦口を開けてあります。気を付けて戻ってください」
《わかった》
敵からの攻撃の手が緩むはずはない・・・・
激しい振動があいも変わらず艦を揺るがしている。
ミサイルが被弾した艦内のあちこちが炎上する。
緊急の防御体勢が働き、たちどころに炎上は食い止められるが・・・・・艦の被害はひどくなるばかりである。
その状況下・・・・真田を乗せたCT機はものの見事に艦尾着艦口から滑り込んで、今度は待機中のCT隊員達の喝采を浴びた。
「真田さん!!」
艦橋に走り戻ってきた真田の姿を見つけた古代はすぐに駆け寄った。
思わず差し出しされた古代の右手を真田はしっかり握りしめた。
「すまんな・・・古代・・・・勝手なことをして・・・・」
「いえ・・・・・」
“自分が身を挺してでも行きたかったのに・・・・・行くことを許されない・・・・感謝したいのに・・・・・感謝の言葉すら出せない・・・・”
古代は今ほど自分の立場というものを呪ったことはなかった。
そんな古代の苦悩を感じたのか・・・真田は軽く古代の肩を2度3度と叩くと、自席に戻り
隣の太田の賞賛の声を受けながら艦の被害状況をチェックしていった。
「敵・・・・ミサイル第2波・・・・接近してきます!!」
緊張を帯びた太田の声が響いた
「迎撃ミサイルで応戦せよ!!」
古代が叫ぶのとほぼ同時に迎撃ミサイルが発射されたが・・・・そのミサイルを逃れ数弾が流れ込んできた。
激しい爆音と共に艦全体を揺るがすような振動が乗務員達に襲い掛かった。
足元をすくわれるような錯覚に陥る。
「第2艦橋・・・・被弾!!・・・・被害は軽微のようです」
「ミサイル発射口も被弾・・・・大破!!」
被害状況が艦橋によせられる。
今のところ・・・致命傷と言えるような被害こそはないものの・・・・・艦全体が痛めつけられつつあるのも事実である
「主砲にて応戦します」
北野の唱を得て、ヤマトの主砲が火を吹いた。
ところが・・・・・・
駆逐艦、小型艦は見事なほど一撃必殺で打ちのめしたヤマトの主砲であったが・・・・・
敵の主力戦艦と思しき巨大戦艦には傷一つ付けられない。
連発で攻撃を繰り返したが・・・・・その表面を覆うバリアのようなもので拡散されその本体は微動だにしなかった。
「しゅ・・・主砲が・・・・まるで通じないっ!!」
南部が喉の奥から搾り出すような声で呻いた・・・・・・
信じられない・・・・・ヤマトの主砲がまるで通じないなんて・・・・・!!
全員愕然とした。
ヤマトは敵の巨大な能力を前になすすべもなく立ち尽くすしかなかった。
15.
「一体どうしたら・・・・主砲も通用しないなんて・・・・」
南部の呟きはそこに居合わせる全員の思いと重なるものだった・・・・
主砲が通用しない・・・・
以前とは比べ物にもならないほどに強化されたはずの主砲すら通用しない敵に対する有功な手立ては・・・・・
「波動砲しかありません!!!」
沈黙を打ち破り北野が進言した
「波動砲を撃ちましょう!一気に叩きのめしましょう・・・それしかありません!!」
今にも席を立ち上がりそうな勢いの北野の背中に島が水を浴びせかけるような言葉を呟いた。
「・・・・・それでイスカンダルも消滅させるのか?」
はっとした北野が窓の向こうに目をやった。
敵は・・・・イスカンダルを背に背負ったままヤマトの前に立ちふさがっていた。
「このまま撃っては・・・・イスカンダルまで巻き込んでしまう・・・・・」
苦しげな島の言葉に北野は絶句した。
イスカンダルを守るためにここまで来て・・・・イスカンダルを巻き込むなどということは・・・・考えられないことなのだ。
「島・・・・・コースターン・・・・」
じっと窓の向こうを苦々しげに見つめていた古代は席に座り直り島に進言した。
「それと同時に波動砲へのエネルギー充填作業を行ってください」
「了解!!波動砲へのエネルギー注入開始します!」
「了解!反転 左90度・・・・コースターン」
山崎と島がほぼ同時に答え・・・・ヤマトは徐々に波動砲発射態勢を整えつつあった・・・・
グググ・・・・・・
イスカンダルから艦首を背けるかのようにヤマトは方向転換をした。
この方向ならば・・・・波動砲を撃ち敵を消滅させ・・・・なおかつイスカンダルへの被害は一切ない・・・はずだった。
だが・・・・敵は・・・・・
おそらくヤマトの動きを察知したのだろう・・・・・
敵はヤマトの動きにあわせるが如く、イスカンダルを背負う体勢を続けていたのだ。
このまま撃ってはイスカンダルを巻き込む・・・・
「島・・・・・コースターン・・・・なんとか敵をイスカンダルから外せ」
「了解」
島は巧みに操縦桿を操りヤマトを動かしてゆく・・・・・
だが・・・・敵はヤマトの動きにぴったりとあわせ、イスカンダルを背負っている・・・・
何度となく双方の動きは繰り返され・・・・・状況は一切変わらなかった。
“クソ・・・・・このまま撃ってはイスカンダルが・・・・・”
古代は苦々しい思いで前方でヤマトを見据えているような敵巨大戦艦を睨み付けた。
「波動砲・・・・エネルギー充填完了・・・・」
「艦長代理・・・・一体どうすれば・・・・」
「チャンスを待て!・・・・・待てば・・・・自ずとチャンスは生まれてくる!」
山崎の報告を耳にし、不安げな北野を叱咤しつつ・・・・だが、古代には肝心の打つ手が思いつかなかった。
“どうしたら・・・・・一体どうすればいいんだ?!”
流れ落ちる汗を拭うことも忘れ古代は敵戦艦から凝視していた・・・・・・。
16.
ピッピッピッピッピ・・・・・・・・
小さな警告音が太田の手元のモニターから発せられた。
窓外の敵戦艦に気を取られていた太田がハッと我に返り、モニターを操作し・・・・顔色を失った。
「イ・・・・イスカンダルが・・・・・動き出しましたっ!」
「何?!」
古代たちも慌ててメインパネルに映し出されたままのイスカンダル本星に目をむけた。
そこには・・・・自分達の立場の上位を誇示するかのように立ち塞ぐ敵戦艦の背後に佇む星影・・・・・
が、その地表部分に僅かずつ変化が生まれつつあるのを・・・・・見逃さなかった。
星を覆う蒼の色の中に・・・・部分的に炎の色が浮かび上がりつつあったのだ。
それは・・・・・・先ほど守が捨て身の行動で水雷艇からわずかばかりの機雷を投下していた場所・・・
守の行動がようやく動きを見せ始めたのだ。
機雷の誘爆により弱りきったイスカンダルの地殻(マントル)が地表へと吹き上がり始めていた。
激しいマグマの放出と共に、地上では激しい揺れを引き起こしている・・・・
それがまた呼び水となりイスカンダルは再び不安定な状態へと陥り始めようとしていた。
が、それは・・・・・現状を打破するための唯一の方法でもあった。
イスカンダルは・・・・・徐々にではあるがマグマの吹き上げるエネルギーの影響を受け・・・・・動き始めた。
それは・・・・本当に僅かずつな動きであったため、イスカンダルを真正面から凝視していたヤマト側では捉えることも出来た・・・・・・
が、イスカンダルに背を向けている敵側は気づいてはいないようだった。
・・・・・まさか・・・・わずか数発の機雷如きで星全体が移動を始めるなどと・・・・常識では考えもおよばないことなのだ。
だが、すでに星の寿命は尽きかけていたところに追い討ちをかけるかのように暴走を始めてしまっていたイスカンダルの中心核に
致命傷を及ぼすには充分すぎるエネルギーだったのだ。
「北野・・・・・・すぐに波動砲を撃てる体勢を取っておけ・・・・・合図は俺が出す」
低く搾り出すような古代の声に北野は黙って頷き、波動砲の照準器を敵戦艦に合わせた。
「波動砲・・・・エネルギー充填120%・・・・・すぐにでも使用可能です」
山崎の報告に古代はただ頷く。
その間にもイスカンダルは僅かずつ動いてゆく・・・・・
ホンの僅かずつ・・・・ゆっくりと・・・・・しかし確実に・・・・・・
異様な喉の渇きを覚え、古代の喉がゴクリと鳴った。
“まだだ・・・・・まだダメだ・・・・・”
事を急いては仕損じる・・・・・たった一回のチャンス・・・・逃すわけには行かない・・・・・
だが・・・・・永遠とも思うような時間の流れの中・・・・古代は焦りを覚えずに入られなかった。
あまりにゆっくりしていると・・・・敵が・・・・気づく。
“もう少し・・・・・あと・・・・ホンの少・・・・・・・・”
その時古代の中で何かがはじけた。今だ!!!
「北野!!」
古代の叫びと同時に北野の手がコンソールを走る。既に照準を合わされ、発射一杯のところで押し留められていた
波動エネルギー波は北野がそのトリガーを引き絞ったと同時に一気に放出された。
ヤマトから一気に飛び出した光りの束はイスカンダルを掠めるかのように消え去った。
後には・・・・・・何も残っていなかった。
文字通り敵は一気に消滅されたのだった。
「島・・・・ヤマト発進・・・イスカンダルの動きをおってくれ」
「了解」
サウザー系太陽の重力に引き寄せられ徐々にスピードが上がってゆくイスカンダルを追うようにヤマトは発進した。
ACT6 完
背景: CTU・・・ドラえもんさん