Departure to a new time! Act2





(1)



まだ残暑が厳しい空気の中に秋の気配がほんのりに頬を掠めてゆく・・・・
汗が浮かぶ額を手の甲で拭い、古代はグッと背筋を伸ばす。

その背後ではそろいの白のTシャツにトレーニングパンツを身にまとったユキが
肩で息をしながらストレッチをはじめていた。

「あなたったら階段一気に駆け上ってきちゃうんだもの・・・後のもののことも少し考えてほしいわ」
荒い息を肩でしながら少しむくれたようにユキは古代に文句を言ってみる。
そんなユキの意地っ張りぶりがかわいくって古代は少し意地悪くなってみる。

「それに遅れを取らないとばかりに一気に駆け上ってきたのは誰だっけ?」
「置いてかれるのは・・・・いやなの!・・・・・知ってるくせに・・・・・進さんの意地悪っ!!」

どうやら・・・・・・
負けん気が強い彼女は古代に負けまいと一気に走ってきたらしい・・・・

二人の汗ばんだTシャツは少し肌に張り付く・・・・
揃って軽くストレッチをし、そばの水飲み場の蛇口を捻る。

少し温めの水ではあったが、1時間以上走り続けてきた顔を洗うにはなんの支障もない。

「進さん!」

頭から水を浴びる古代にユキはタオルを投げる。
そのタオルは・・・まるで糸にでも引き寄せられたかのようにラインを描き、
まだ頭ごと水を浴び続ける古代の延ばした手の中に納まった。


「プハァ〜!!最高だな!この瞬間は!」

蛇口から迸る水を浴びた頭を思い切りよく振り、古代はタオルで顔を拭った。
「もぉ〜・・・・周りにいる人が迷惑でしょ?こっちにまでお水が飛んでくるじゃない」

怒っているような口調とは裏腹に、ユキの表情は明るい。

そして自分も顔を洗うと古代からタオルを受け取り軽く拭った。

「ん〜♪気持ちいい」
「だろ?この一瞬がたまらないんだよな」
「そうね・・・・・」

高台のここを吹きぬけてゆく風はそのまま下方の海へと続いてゆく。


「海がきれい・・・・・」

朝の光を浴び、海面はさざ波に反射して煌いていた。

数隻の大型海洋船が浮かぶ海面・・・・それに迫るように山々が連なる・・・・

二人の目は自然にその山を向いていた。
そこは外面的には緑豊かな山に見えるのだが・・・・・

その内部は人工の宇宙戦艦用特殊ドッグであった。
そして今そこに座しているのは・・・・・


二人が愛してやまない・・・・・・・・艦・・・・・・がその巨体を休ませていることだろう・・・・・。


「ヤマトの改造計画の進行はどう?」
「ん・・・・・ま、90%強ってとこか・・・・・今回の目的は波動エンジンのパワーアップ。
それからそれに伴う主砲や波動砲なんかの兵器火器類の改善だから・・・・
そうおいそれとは片付かないよ」

「でも基本的な構造ところは変わらない・・・・・んでしょ?」

ユキは小首をかしげるように古代の顔を覗きこみ微笑みかける。
「・・・・・人の力で艦を動かしてゆく・・・・それがあなたの・・・・ううん、ヤマトのみんなのこだわりだものね」
「上の連中もアンドロメダの敗北がよほど痛かったんだろう・・・・・・
少なくともヤマトの全自動システム化なんていうバカな話だけは立ち消えになってくれたよ・・・・・だが・・・・」

そういいながらも古代の顔には不満げなものが浮かんでいた。

「ヤマトに関しては立ち入らないということになってくれたけどな・・・・・・
今度はばかげたものを作るって言い始めやがった・・・」

「・・・・・・・・・無人艦隊のことね?・・・・・」
ユキは小さくため息をついた。
防衛軍の最高司令官・・・・藤堂長官の直属の秘書をしている彼女のデータにも当然入っている案件事項であった。

「あなた・・・・そういうものが納得しがたい人ですものね」
「いや・・・・そういうものを完全に拒否してる訳でもないんだよ・・・・
ある程度は機械を利用したシステムも必要不可欠なものだということはわかってはいる・・・・
ただ・・・そんな無人艦隊を地球防衛の要に置くという案には賛成しかねるんだよ・・・・」


古代は前日の会議を思い出しつつ言葉をこぼした。
前日古代も出席した防衛会議で・・・・防衛軍上層部は手薄になった太陽系管内の防衛システムを今の有人パトロール艦隊
メインの防衛システムから無人艦隊主体の防衛システムへと移行させようという計画を発案・・・それが一部の反対を押し切り
承認されたのだ・・・・。(一部の反対というのは・・・もちろん古代たちことである)


「ガミラス戦に引き続いて勃発した白色彗星帝国との戦いのために人員が欠乏しているのは認めるよ。
そのために今現在現役の職員の勤務体制が限界に来ているのも理解している・・・・」
「ウフフ・・・・あなたみたいに休暇だと身体をもてあましてしまってじっとしていられなくなるような人ばかり
ではないものね・・・・・」

事実・・・・・今日の古代自身の休暇もなんと4ヶ月前の結婚のための長期休暇以来という有様だったから・・・・
ユキの口からも苦笑まがいの皮肉がこぼれてしまう。

もっとも・・・・・ヤマトの改造の関係と今後の出航計画の関係でここのところずっと地上勤務だった・・・
というところも古代にとってはストレスがたまってしまっている原因ではあったのだが・・・・・。

「でもそろそろ・・・・先行きが見えてきたんでしょ?」

ユキはチラッと愛するものの顔を覗きこむ。
古代の顔は口ではなんだかんだいいながら・・・・・明るいものも浮かんでいることを彼女は見逃さなかった。

「チェッ・・・・ユキには隠し事できないよな・・・・・」
にこやかに笑った古代の顔に朝日が反射し輝く。

「新人達のトレーニングも最終段階を迎えたんだ。このまま行けば予定通り、
15日後には新人達をヤマトに乗せて新人訓練に出航できるめどが立った。」
「よかったわね」
ユキは我がことのように古代の喜びを感じた。

「新人さんたちがちゃんとヤマトに乗艦してもモノになるようになるのか・・・・あなた本当に心配していたもの・・・・。」
「ま・・・・のんびりやらせてやるのも今のうちさ・・・宇宙に出たらみっちりしごいてやる」
『あらあら・・・・・訓練生さんたち・・・大変ね・・・・』
古代のガッツポーズにユキは彼の相手をさせられている訓練生達のことを思わず同情せずにはいられなかった。

「でも・・・・あなたみたいにやんちゃな宇宙戦士が増えてしまっては・・・軍内でも問題になってしまうかもね★」
思わずユキは心の中で苦笑してしまう・・・・。


古代の地上での勤務・・・・それは新人達の訓練教官であった。
白色彗星帝国との戦いのため、彼の乗艦できるような戦艦・・・及び駆逐艦、パトロール艦の類・・・
そして艦載機も全てその乗組員達とともに全滅していた・・・・

新たな地球防衛軍艦隊の造艦とともにそれを担う新たな地球防衛軍戦士の育成が
今の防衛軍にとっての第一課題だった。

古代たち生き残ったヤマトの戦士たちも最優先で今、地球でそのプロジェクトに全員従事していた。


造艦のプロジェクトに参加しているもの・・・・・そして人員育成に従事しているもの・・・・様々ではあったが・・・・


「ヤマトの改造も順調に進んでいることだし・・・・このまま行けば無事予定通りには訓練航海に出航できるよ」

古代の顔はまるで子どものように輝いていた。
そんな古代を眩しそうに見つめるユキの瞳に・・・・・一瞬影が浮かんだ。

古代にとってヤマトの出航は何よりもの喜び・・・・それはユキ本人にとっても喜ばしいものではあった。
だが・・・・・

それはこれまで数ヶ月幸せに過ごしてきた二人っきりの新婚生活の終わりを告げるものでもあった・・・・・。

そのことが一瞬ユキの心を過ぎったのである。

“新人訓練航海では・・・・私の乗艦許可は出ないわね・・・・・絶対・・・・・”

『緊急出航』時・・・・・
その時はヤマトのメインスタッフであるユキは長官秘書の任を解かれヤマトへ乗艦することが最優先される・・・・・
だが、普通の任務航海のときは・・・・彼女は長官秘書の任が最優先となり・・・・・・・


ヤマトへの乗艦許可は下りることは皆無であった。

それは・・・・・藤堂長官とユキ・・・・そしてヤマトの艦長代理である古代との約束であった。

「あぁ〜一走りしたら腹減った」
感情を押し殺したユキの憂鬱に気づかない古代は、彼女の方を向き直りおどけて腹の辺りに手をやった。
「ほら見てみろよ、背中の皮と腹の皮がくっ付いちまいそうになっちまってるぜ★」


プッ!!


そんな古代の様子にユキは吹き出さずにはいられなかった。

「ったく・・・今朝食べた朝食は一体ドコに行ってしまったのかしら?
あなたのおなかはサルガッソーかブラックホールにでも繋がってるの?」

「ひでぇな〜・・・俺そんなに食うか?」
「もぉ〜わかったわ・・・・その先のカフェでブランチにしましょ」
「やった!ユキ!!愛してるよ」

“15日後・・・・あなたはまた宇宙に旅立ってしまう・・・・
でも・・・・・今あなたは私のそばで私を見ていてくれるわ・・・・・それだけでいい・・・・ね・・・・進さん・・・・・”

ユキは心の中でそう愛しい古代につぶやくと先を歩く古代の後を小走りに追いかけて行った。



(2)


二人がカフェでの食事を終え、食後のお茶を優雅に楽しんでいたときであった。

二人のポケットに潜ませてあった互いの携帯が同時に鳴った。
その両方が・・・・・・『緊急シグナルメール』

緊急時のみかかってくる特別メールであった。

それまでゆったりと微笑みあっていた二人の顔に緊張が走った


「何かしら?」
ユキの顔が不安が浮かぶ・・・・・この緊急メールシステムが整備されたのは前戦いのすぐ後・・・・
つまりこの緊急コールが実際に使用されたのは今回が初めてだった。
(試験で鳴ったことは一度あったが・・・)

「二人同時に入ってくるなんて・・・・・」


ただ『至急連絡乞う』とだけの文字を浮かばせた端末モニターを見つめ、ユキが不安げにつぶやいた。
二人に対し同時に緊急を要すると要請してくるということはただ事ではない。

「だが・・・・この出頭要請が科学局ってのもげせないな・・・・」


科学局といえば・・・・・・ヤマト工作班班長である真田がその筆頭に立っている部署である。

「科学局からの要請とすれば・・・やはり真田さん関係絡みか?」
「またテレサからの通信のようなものを傍受したのかしら・・・・?」


前回・・・・・白色彗星帝国との戦いの発端は・・・・・
宇宙のどこからか送られてきた通信だった。

その通信は白色彗星帝国の脅威を全宇宙に知らしめようとテレサという女性が発した警告通信だった。

その通信を頼りにヤマトは地球から『謀反』という形で発進し、様々な苦難を乗り越え彼女の元にたどり着き、
その敵の正体を知った。

その間・・・・・
ヤマトの航海班長であり、古代の親友でもある島とテレサとの儚く切ない想いと別れを経て、
ヤマトは白色彗星帝国との戦いに身を投じた。



そして・・・・・

その彗星帝国に身を寄せヤマトに対する憎悪の想いにのみ糧を得ていたかつてのガミラス帝国の総統・・・
デスラーとの死闘があった・・・・・

古代の地球に対する純粋な想い・・・・
その彼を命と身をかけ愛し守りぬこうとするユキの想いに圧倒されデスラーは
地球・・・・ヤマトに対する憎悪の念を昇華し、古代・・・そしてユキに対し親愛の情を持って別離し
宇宙の彼方へと去っていった・・・・・


その後の・・・悲惨とも言うべき旧地球防衛軍艦隊の全滅、次々に散ってゆく仲間達・・・・
ヤマト自身満身創痍になりつつも戦い抜いた。


最後は古代自身・・・・そしてユキ自身がヤマトとともに死を選ぼうという寸前のところまで追い詰められた・・・・・。

ヤマトの・・・・古代とユキの命を救ったのは、島に対する想いを抱き続けていたテレサの愛ゆえだった。

島を想うテレサの愛の前に二人はなす術もなかった。

テレサの愛の前に地球は救われたのだ。ほろ苦い思いのみを人々の胸に残して・・・・




「またあんなことが起こらなければいいのに・・・・・」
『テレサをただ見送ることしかできなかった自分の無力さ』に怒りさえ覚えた・・・・
あんな空しい思いもう二度と味わいたくはない・・・・・・
苦悩に満ちたユキの思いは古代も同じだった。


「そんなことを言ってる間もない・・・・急ごう、ユキ」
「そうね・・・・とにかく何が起こったのか確認することが先決よね」


二人は店外に出ると、今までのささやかな幸せに背を向けるかのように前を見据え走り始めた。






「真田さん!」
「あぁ・・・二人とも悪かったな、休暇中に・・・・」

科学局のメインコンピューターシステムに直結した巨大モニターの前・・・・
トレーニングウェアのままの二人を真田は振り返り迎えた。

「何があったんですか?」
「これをとにかく聞いてほしい・・・・」

真田は二人にインカムを渡すと限りなく並んだスイッチの一つを押した。
二人の耳につけられたインカムから流暢な言葉が流れてくる・・・・・




<・・・・・・この通信を地球・・・・・ヤマトの古代に託す・・・・・
こちらはガミラス総統デスラー閣下からの要請で送られたものである・・・・・・
今我々は・・・・・大マゼラン星雲・・・太陽系サウザー・・・旧ガミラス本星空域にて交戦中・・・
敵は未確認・・・・戦闘によりガミラス本星が爆破消滅し・・・イスカンダル星との重力場に異常を来たし・・・・
イスカンダルがサンザー系へと落下を始めた。我がガミラス艦隊は現在イスカンダルを追尾中・・・・
ヤマト至急来られたし・・・・繰り返す・・・・・>




「真田さん・・・これは・・・!!」

インカムから流れてくる言葉に思わず互いの顔を見合わせた二人はそのまま真田の方を向き直った。
「どう思う?古代・・・・」
真田は二人の反応を確認してから声を発した。


「お前達はあの時直接デスラーと接した。お前達の考えを聞きたい」
「俺は・・・・この通信を信じてもいいと思います」
古代の言葉にユキも同意するかのように頷いた。

「デスラーは民族の長であると同時に一人の戦士です。今の彼は信じるに値する相手だと確信しています」
「私達は彼と直接対峙しました。彼は傷つき倒れたこの人を・・・・・撃ち倒すような卑怯なことをしなかった。
この人を守ることしか頭の中になかった私に対しても紳士的な態度で接してくれました・・・・・
そんな彼が送ってきてくれた通信です。信じられることだと思います」

顔を見合すように語る二人の言葉に真田は頷いた。


「イスカンダルの守義兄さんやスターシャさんが心配だわ・・・・
イスカンダル星本体の重力場に異常をきたしているのなら・・・・きっと地上は大変なことになってるわ・・・・・」

「そうだ・・・・ユキ・・・・ガミラス星が崩壊したのが事実だとすれば・・・・
おそらくイスカンダルの地表は異常気象を起こし非常に激しい磁気嵐が吹き荒れているだろう・・・・
それにサンザーへと引き寄せられているのだとしたら・・・・
その地上表面温度も常識では考えられないほど上昇していくことは間違いはない・・・・
いや・・・既に二人の身が危険にさらされていることが充分考えられる・・・・
古代・・・早速だが藤堂長官にヤマトの出航要請を出してほしい。そのために二人にここに来てもらったんだ。
ここに申請に必要なデータは全て揃っている」


そういいながらデータチップを差し出す真田の言葉に古代の顔が一瞬にして曇った。
「どうした?古代・・・・?何か不都合なことでもあるのか?」
「・・・・僕にはできません・・・・ヤマトの発進要請を出すことなんて・・・・」


「古代!」
「進さん!!」


古代の言葉を俄かには信じられなかった。
イスカンダルの恩恵を誰よりも感じているであろう古代の言葉とは・・・・・・思えなかったのだ。

「イスカンダルには古代守が・・・・君の兄がいるんだぞ?!」
「そうよ!進さん!!あの星にはお義兄さんがスターシャさんといっしょに・・・・・」

「だからこそ出来ないんだよ、ユキ・・・・私情を絡ませたようなヤマトの発進要請を・・・・俺には出来ない・・・・」
そう苦悩に満ちた・・・しかしきっぱりと言葉を残すと古代は踵を返し、部屋から出て行ってしまった。




「あの意地っ張りめ・・・・」
残された真田は頭をかきむしると、穿き捨てるようにつぶやいた
「だれよりも助けに飛んで行きたいんだろうに・・・・・」

「どうしたら・・・・いいんでしょうか?真田さん・・・・あの人・・・素直には応ずるとは・・・・」
「そうだな・・・・まぁアイツのことだからおそらくこんなことを言い出すんじゃないかとは思ってはいたんだよ・・・
ヤマトが長期航海発進することになると・・・君にはまた寂しい思いをさせることになるかもしれないがね・・・・・」

「真田さん・・・・・そんなことはないですよ・・・・・私がヤマトのことに対して大人しくしているとお思いですか?」

クスッと笑うユキの顔を真田は一瞬不思議そうに眺めつつ・・・すぐに何かに気づいたように微笑んだ。

「そうだったな・・・・ユキ・・・・君は・・・・森生活班長だったな・・・・」
「もちろんですわ・・・真田技師長」

ニッコリ微笑むユキの胸に既に秘められた決意に真田は舌を巻かずにはいられなかった。



(4)


“兄さん・・・・・・”

科学局の中庭のベンチに古代はうずくまるように座り込んでいた。

その脳裏には兄と別れたときの状況が鮮明に浮かんでは消えていた。
“守兄さん・・・・・スターシャさんとイスカンダルで二人・・・
平和に幸せに暮らしているものとばかり信じていたのに・・・・・・
何故そんなことに巻き込まれるような羽目になったんだ・・・・”


「出来るものなら今すぐにでも飛んで行きたい・・・・けど・・・・・」

古代は頭を抱えるようにうずくまったまま、髪をかきむしった。
おそらく・・・・自分が今の兄と同じ状況に陥ったとしたら・・・おそらく兄に『来る』ことを拒むであろう。
わかっていた・・・・


わかっていただけに古代の心は乱れずにはいられなかった。


兄をすぐにでも助けに飛んで行きたい自分と、それを拒む自分・・・
地球を思うが故・・・・自分の利己のために発進をさせるわけには行かないという思いの狭間に古代の心は苛まれた。


「まだこんなところにいたのか?」
いきなり背中を思いっきりどつかれ、古代は前につんのめった。

「し・・・島!」

「俺たちも真田さんから連絡を受けた。話も聞いてる。何を悩むことがあるんだ?
サッサと発進要請を出しちまえ!この大ばかやろう!すっきりするぞ」

「・・・・自分の感情のみでヤマトを発進させていたら・・・また前の戦いの二の舞になっちまう・・・
まして今のヤマトには・・・・すぐに乗務可能なメンバーと言えるのは前回の戦いの生存者だけ・・・・
僅か18人なんだぞ・・・・?その人数でどうやって発進させるって言うんだ・・・・・?」
「フン!・・・・・お前・・・・今回はずいぶんと逃げ腰なんだな・・・・」
「!!き・・・貴様に・・・何がわかる!!」

憮然とした島の言葉がよほどカチンと来たのだろう。
古代の瞳に怒りがこみ上げ、その場に立ち上がると島の胸倉に掴みかかった。

「俺が・・・・俺が先走ったりしたりしなければ・・・・ヤマトの乗務員が18名なんてことにはならなかったんだ!
加藤も・・・山本も・・・・徳川さんも・・・・・・まして斉藤なんか巻き込まれたりしなかったはずなのに・・・!!」

「てめぇ・・・それ以上言うとあいつらマジにバケて出てくるぞ・・・・」

胸倉をつかまれたまま・・・島は上目使いで古代をにらみつけた。その声は静かではあるが・・・怒りに打ち震えていた。

「お前はまだそんなことを言ってるのか?あの戦いはお前一人がどうこうというものではなかった・・・
って何回言われたら気がすむって言うんだ?!第一・・・よく考えても見ろよ・・・
あの時お前が先頭を切って出て行ったからこそ地球の被害は最小限に食い止められたんだぞ?」

「それは・・・あくまでも結果論だ。」

古代は島の胸倉を掴んだままうな垂れた。
今にも泣き出してしまいそうな表情の古代に島は一つため息をつきながらその肩に腕をまわした。

「お前がこんなんだからだれも放っておくことが出来ないんだよな・・・・・
ったく・・・・なんだってこんな手のかかるやつに惚れたんだろうねぇ〜ユキもさ・・・
自分から何も苦労を背負い込まなくたっても彼女にはもっといい男がゴマンと言い寄ってくるだろうに・・・・・」


「・・・・・・・手がかかるから惚れたって話もあるんですよ、島さん」

「き・・・きさまらっ・・・・一体いつから?!」

島の背後の木立の影から・・・・現れた毎度のメンバーに古代の開いた口はふさがらなくなった。

「緊急呼び出しはあんたにだけかかったってわけじゃないっすよ、古代さん」
「どうせこんなことだとは思ったけどさ・・・・」
「難しいことを考えずに、サッサとイスカンダルに行ってみましょうよ」

「お前ら・・・・簡単にことをいうけどな・・・・人員はどうするんだ?!
今ヤマトに常務可能なのははっきり言ってほとんどいないといっても過言ではない状態なんだぞ?!」

「固いことをいうなぁ・・・あんたらしくもない・・・・いるじゃないっすか・・・・・人員なら・・・・」

「ま・・・まさか南部・・・・お前・・・・」

「俺たちが鍛えている連中・・・・・どうせ訓練航海に引っ張り出すんでしょう?
俺たちが叩き込んできたんです。そんじょそこらの連中とは一味も二味も違いますって」

あまりにこともなげにいう南部に古代は頭を抱えた。

「役に立ちますよ?あの連中・・・なんていったって俺たちが直接たたき上げた奴らですからね・・・」

「しかし・・・・新人にいきなりの長期航海は・・・・・・」
『無理だろう?』と古代が口にする前にその口を島が後から羽交い絞めをして抑えた。

「・・・・・・俺たちがその新人のときと同じことをあいつらに体験してもらうだけだ。
何もわからなかった・・・その上途中で何度も攻撃を食らいながら航海をしていったあの旅に比べたら・・・・
遠足の延長みたいなもんだ・・・ま、やってみないことには結果は生まれてこない・・・
というもんではないのか?ん?」

島の目は“そうだろう?”と物語っているようだった。
思わず辺りを見わたすと・・・・どの瞳も頷きながら“心配することはない”と物語っていた。

『そう・・・か・・・・俺たちと一緒のことをしてもらうだけ・・・・・か・・・・そうか・・・そうだよな・・・・
俺たちもあの時は新人だったんだ・・・・・

今度は俺たちがあいつらを導いてやる番になっただけの話なのかもしれない・・・・
俺たちに出来たことだ・・・・あいつらにできないはずはないよな・・・・』



 羽交い絞めを外そうともがきながら、古代は心の中で呟いた。





(5)



だが・・・古代の心の中にはまだ大きなわだかまりが残っていた。
イスカンダルに存在する人物・・・・・


その一人は地球にとって救世主ともいうべき存在であって古代自身すぐにでも救いに飛んで行きたいと思わせた。
しかし・・・・・もう一人は・・・・・・・・・


出来ればすぐにでも救いに行きたい。
何をおいても・・・・・・
『救世主』といえる人物なんかよりも最優先で救い出したい・・・というのが本音・・・・

しかし・・・・それを求めることを古代には出来なかった。
彼自身の心がそれを許すことが出来なかった。

なぜなら・・・・『もう一人』の人物が・・・・たった一人の身内・・・・・。この世界でたった一人の『兄』・・・


個人的事情・・・・・・


その思いがどうしても古代の決断を躊躇させていた。


救いにいきたい・・・・だが・・・・許されるはずがないし、兄もそんな自分を許すはずがない・・・



そのジレンマが古代を追い詰めつつあった。

「何を迷っているんだ?この大バカ野郎が・・・・」
古代の表情からそのことを感じたのであろう・・・島がつぶやいた。

「いい加減にしておけよ・・・・古代・・・・
お前がイスカンダルへ行ったとして一体誰がお前を攻め立てるというんだ?
イスカンダルにはスターシャさんがいる。その人は地球にとって恩人・・・いやそれ以上の存在だ。
その人を救いに行くんだ。何をためらう必要がある。
お前の兄さんだって・・・元をただせば地球のために戦ってくれていた宇宙戦士だ。
その上今ではスターシャさんの配偶者だ。そう考えれば何の問題もなかろう?」

「兄さんは・・・おまけか?」
島の言い分に古代は思わず苦笑した。

そう考えてしまえればどれほど楽だろう・・・・・。

「だが・・・あそこにいる人物が俺の兄である現実は曲げることはできない・・・・事実だ」

『このやろぉ〜〜〜〜!!!どうしてそうも堅物なんだ!!』

あまりの頑固さに思わず島が声を荒げようとした・・・・その瞬間。





<古代 進宇宙戦艦ヤマト艦長代理、至急防衛軍本部長官執務室ニ出頭シテクダサイ。繰リ返シマス・・・・>
機械的な声がスピーカーを通じ辺りに響き渡った。


「悪い・・・島、呼び出しだ・・・・その話は・・・・・・おしまいにしてくれ・・・・」
言葉を濁しその場を力なく去ってゆく古代の背中を苦々しげに見送る仲間達の姿があった。

「うまいこと逃げたね・・・古代さん」

「ったく・・・素直じゃないよな・・・古代さんもさ・・・」
「仕方がないよ・・・なんていったって『古代 進』なんだからさ・・・・」

「で・・・俺たちはどうしたらいい?島さん」
「わかってるだろ?・・・・長官からの呼び出しを食らったっていうことは・・・・さ」

島は仲間達の方に妖しい笑みを浮かべながら振り返った
その笑顔に一瞬たじろいだメンバーではあったが・・・・
誰ともなしに笑みがこぼれ・・・その後大笑いになった。


「説得できるところまではしたということで・・
・あとは真打ちに任せて俺たちは俺たちにすべきことをしておこうじゃないか・・・・ということだ」

ひとしきり笑いあった後・・・・島は全員を見渡した。
「・・・ということは・・・・・早速発進準備だね」
「あいつが我慢できるはずがない。・・・もう心の奥底では飛び立ちたくてウズウズしているはずだ。
俺たちはあいつの決心が固まったらあいつが迷う間もなくサッサとヤマトに放り込んで宇宙に出ちまう。
それが一番手っ取り早い問題解決だ」

「しかし・・・・そこまで言われちゃう古代さんって・・・・・」
「今に始まったこっちゃない。これがあいつや俺たちの付き合い方なんだからな」
「そりゃそうだ!」

「だが・・・結局のところ・・・古代にに立ち上がってもらわなくては・・・な・・・
何事も始まったりはしないんだから・・・な」

互いの顔を見合わせ大きく頷きあう。
『イスカンダルへ・・・・行こう・・・・俺たちの手で出来ることをすべきだ・・・』
その思いが全員の心を強く占めていた。



(6)


重い足を引きずるように・・・・古代は防衛軍本部の廊下を歩いていた。

自分を思う仲間達の気持ちはよくわかる・・・
いや・・・
古代自身、すぐさまイスカンダルへと飛んで行きたい気持ちは・・・・誰よりも強い。

だが・・・・それを素直に受け止めることが出来ない自分がいることも確かだった。
とはいえ・・・古代の心は少しづつ宇宙へと傾きつつあるという事も確かなことだった。



全てはきっかけが必要だった。



「古代 進・・・・入ります」

長官執務室前のインターフォンに向かって自己申告をするとドアは躊躇もなく開いた。
そのまま中に進む。

中には・・・いつもいるはずの存在がなかった。
かわりにインフォメーションアンドロイドが彼を出迎え、彼の来訪をその部屋の主に伝えた。
そこでいつも彼を出迎えてくれるはずの存在は・・・・先ほど真田のところで別れてきた。

そのことに古代は少しホッとする。

今、彼女の顔を見ることは辛かった。
やっと掴んだ彼女の幸せを今また・・・この手で壊そうとしているかのようで恐ろしかった。

「わるかったな、古代・・・休暇のところを・・・・」
「いえ・・・・長官・・・私こそこんな格好で失礼します」

古代はばつ悪そうに自分の身にまとったものを一瞥した。
白のTシャツにトレーニングウェアー・・・・・
あまりにその場にそぐわない格好だった・・・・

「いや・・・構わんよ、本来君は休暇中なんだ。まして緊急の呼び出しだ。だれも何も言うまい?」
そういいながら笑う長官の執務机の前で古代はサッと略礼をとった

「お呼びでしょうか?長官」
「君も聞いたのであろう?イスカンダルのことを・・・・」

藤堂はすっと席を立つと、古代に背を向け窓外に目をやりながら言葉を続けた。
「どう思う・・・・デスラーの言葉を・・・・」


その言葉には僅かにではあるが不信感もまぎれているのを古代は感じた。


無理もない

かつてガミラス・・・・デスラーはこの地球を壊滅寸前にまで追い込んだ相手だったのだ。
もし・・・もしイスカンダルからの救いの手が伸びてこなかったら・・・

今頃地球人類は滅亡しガミラス民族がこの星に蹂躪していたことであろう・・・・

そして・・・ほんの数ヶ月前・・・白色彗星帝国の先鋒としまたヤマトを襲ってきた・・・・

地球に・・・ヤマトに対する恨みだけを抱き蘇った・・・・・男だった・・・・


だが・・・・・・

「デスラーの言葉・・・私は信じてもいいと思います」
古代は藤堂の不信感を一掃するかのようにはっきりと進言した。

そう言い切れる自信が彼にはあった。

デスラーはその瞬間まで・・・確かに敵だった。

それも恐ろしいほどの執念を抱きヤマトを・・・古代を追い詰めてきた。
あの戦艦の艦橋で彼と対峙したところまでははっきりと憶えている・・・・
しかしその後何があったのか・・・

あの時古代は怪我による出血のため意識を失ってしまった・・・・

まさか・・・・その直後飛び込んできたユキが彼を助けるためにデスラーの銃口の前に
その身を投げ出し自分を守ろうとしたとは・・・
そしてそのことがデスラーのかたくなな冷え切っていた心を揺り動かし、
二人に敬意を抱き去っていったことなど・・・・古代が知る良しもなかった。

だが・・・・何かはあった。
そのことがデスラーのかたくなな心を揺り動かし地球に・・・ヤマトに対する恨みを洗い流した。

古代にはその事実だけははっきりわかっていた。


そして・・・その敬意を抱いたままデスラーは宇宙の彼方へと去っていった。
その彼が今更自分達を追い落とすようなことを考えはしまい。


古代にはそう言い切れる確信があった。

「そうか・・・・」

しばらく窓外を見つめ考え込んでいた藤堂が何かを決心したようにそう呟くと、サッと古代の方を向き直った

「古代進・・・・!」
緊張感に満ちた藤堂の言葉に古代はサッと姿勢を正した。

「すぐにイスカンダルへ向かえ。そして現状況を把握し必要であれば
イスカンダルの住民を緊急救助してくるのだ」

「!!」
「何を遠慮する必要がある?かつて地球はイスカンダルに救われたのだ。
今度はあの星の危機に地球が手をさしを差し伸べて何の不都合があるというのだ?」

そこまでいうと藤堂は古代の両肩を力強く握り締めた。

「今、イスカンダルを救いにいけるのは・・・古代・・・お前達しかいないのだ・・・行ってくれるな?」
「しかし・・・・ヤマトは未だ全面改造中ですし・・・乗員にしても・・・揃ってはいません」

今地球には即戦力となる人員が乏しい・・・
その状態ですぐに使えるような人員をヤマトに乗せるわけには・・・・


「いるではないか?・・・君達がその手で育て上げてきた乗員達が・・・・」

古代は言葉を失った。
“古代たちが育て上げた乗員”

それが彼らがこの4ヶ月で訓練してきた“訓練学生”であることは・・・明白だった。

「!!で・・・・ですが長官!!彼らは未だ訓練生で・・・・」

「だが・・・君達が育ててきたのは特務クラス・・・つまりヤマト乗務員養成のためのクラスのメンバーだ。
今、地球に残っている人員の中で彼ら以上にヤマトに適した人材がいるかね?」

・・・・・・・そうであった。

古代たちが地球に足止めになっていた間に育ててきた訓練生達は・・・・・
ヤマトの乗務員になるべく育ててきた人材たち・・・・だった。


確かに・・・不安はある・・・。だが・・・・・

古代の心の中に島の言葉が響いてきた。


“・・・・・・俺たちがその新人のときと同じことをあいつらに体験してもらうだけだ。
何もわからなかった・・・・・・・ま、やってみないことには結果は生まれてこない・・・
というもんではないのか?”

『やって・・・・・みるか・・・・・悩んでいる暇はないはずじゃないか・・・・!』

「・・・・・・・わかりました。古代 進、イスカンダル救出の任につきます」

「頼んだぞ!!古代」

古代は緊張の面持ちで藤堂に敬礼の姿勢をとると藤堂も改めて返礼をする。

そんな上司に踵を返すと古代は新たなる戦いへと馳せ参ずべく走り出した。



(7)



「おかえりなさい」

決心を固め、勢い勇んで準備のために自宅へ戻った古代を出迎えたのは、ユキの微笑であった。
その微笑をみて古代は一瞬たじろいだ。


ユキは何か決心を固めたとき・・・・古代ですら見惚れるほど美しく微笑んだ。
今、彼女の浮かべている笑みが・・・・まさにそうなのだ。


『見透かされている・・・・・俺が考えていることを・・・・・』
そう思わずにはいられなかった。

「ユキ・・・・」

「・・・・・わかってる・・・・行くのよね・・・・」

「・・・・・そうだ・・・・行ってくるよ・・・・」

静かに微笑むユキの言葉に古代は答えるしかなかった。

「わかっていたわ・・・・あなたのことだもの・・・・きっと行くって・・・・・」

古代はユキの瞳をまっすぐ見ることができなかった。古代の心の中を見透かすかのように射るような瞳・・・・
たまらず顔を背けてしまう。

「・・・・・どうしてこっちを向かないの?」

「別に・・・・・」

「やましいことがなければ私の目を見ればいいじゃないっ!!何かやましいことでもあるの?!古代 進!」
「!!なんだとっ!!」

挑発的なユキの言葉に一瞬カッとしユキの瞳を凝視した。

それを待っていたかのようにユキは古代の頬を強引にその白い両手で捕まえた。
そのまま彼の唇を奪う。激しく古代の唇を食らう・・・・・


何度味わっても味わい足りないくらい・・・・・彼女の甘露な唇・・・・
古代は思わずその唇を激しく貪リ返した。

ユキは彼のするがまま身を任せた。


「俺は・・・・俺としては・・・君を今度の旅へは連れて行きたくはない・・・・・」

長い・・・・長い時間の後・・・・・
ようやくユキの唇から離れた古代の唇から漏れた言葉・・・・だった。

「やっと本音を言ったわね・・・」

『そういうとは思ったけど・・・・・』
ユキは遠慮がちに漏れた古代の言葉にクスッと笑いがこぼれた。

「・・・・・・・・じゃ・・・・私はここであなたの帰りを大人しく待っていればいいの?」
少し意地悪くユキは言ってみる。

「待っていて・・・・・くれるのかい?」
自信なさ気な古代にユキは挑むように言葉を継いだ。

「悪いけど・・・私・・・そんな気サラサラもないんですからね・・・・・
あなたならその意味がよくわかっていらっしゃると思うけど・・・・・・・・」

「・・・・・・・ここで俺が『くるな』といって大人しくここに留まっているような女が俺の奥さんなら・・・
俺はこんなに悩んだりしてはいないよなぁ・・・・・・」

思わず、頭を抱えてしまう。

危険な場への旅だからできれば置いていきたい・・・・
古代の願いをユキは一蹴した。

「最近古代君よくわかってくれるようになったわね・・・私のこと・・・」
「下手に置いていったりしたら・・・また密航しかねないような女を野放しになんかできるものか!」

古代のふてくされたような様子にますます笑いが我慢できなくなってしまう。

「随分ひどいいい方ね・・・・・でも・・・そうよ・・・・
私はあなたが行くなと言ってもきっとついてゆくわ・・・・。
私だってヤマトの仲間の一人・・・・ヤマトが旅にたつなら・・・・私もいっしょよ?
・・・・って前のときも言ったわよね?」

「あぁ・・・・君は俺がわざわざ残してきたって言うのに・・・・
ご丁寧に密航してきて・・・見つけた俺に向かってそう・・・・言い放ったんだったよな・・・・」

「そうよ・・・・あなたが旅にでるなら私も一緒に・・・・だってあなたがヤマトと一心同体って言うなら・・・
私にとってもヤマトはかけがえのない大切なものなのよ?
あなただけ行ってしまうなんて・・・・絶対に許さない・・・・」

『まだ何か言うつもりなの?!』
目で訴えるユキの姿に古代は苦笑した。

「今度は置いてゆくつもりなんかなかったよ・・・ユキ」
「ほんと?」
古代の『置いてゆくつもりなかった』という言葉に彼女の顔が一瞬にして華やいだ。

「・・・・・君は大切なヤマトの第一艦橋スタッフだ・・・・
今君に降りられたら・・・・・こっちが困ってしまうことになるよ
・・・・・っというより・・・・もう懲りたよ・・・・」

「そうね・・・第一あの癖のあるヤマトの旧式レーダーを扱えるのはきっと私だけでしょうからね」

「確かに・・・あのじゃじゃ馬レーダーを扱えるのはじゃじゃ馬しかいないだろうな・・・・・」
小さく呟いた古代の言葉を聞き逃すような彼女ではなかった。

「なんですって?!・・・・・・・聞こえたわよ・・・・・・あ・な・たっ!!」
「事実を語ったまでだ・・・・」

古代のおどけたいい方にユキの方も負けてはいない。
思わず互いの顔を見合わせ・・・・・・吹き出してしまった。


「・・・・・・俺は・・・・君と離れていたくない・・・・って言ったら・・・・わがままかな?」

ひとしきり笑いあった後・・・・古代は一言呟いた。

普段強気に物事にぶつかっている彼であったが・・・・・
本来気弱なところも見え隠れするようなナイーブな性格であった。

誰よりも人を深く愛し、誰よりも愛されたがっている・・・・・


「・・・・それは・・・私も一緒・・・・・離れたりしたくはない・・・・・」

誰よりもそのことを理解している女はそっと彼の顔をその両手で包み込んだ。
「・・・・・・いっしょに行きましょ?・・・・・スターシャさんとお義兄さん・・・・
この地球にお迎えしましょう・・・・ね?この地球で・・・今度こそお二人に幸せになっていただくの
いい考えでしょう?」

「あぁ・・・・・・・そうだね・・・本当に・・・・・そうなったらいいな・・・・」


二つの影が一つに重なって倒れこんでゆくのをみていたものは・・・・・誰もいなかった。





ACT2  完







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