Departure to a new time! Act1
<全世界のみなさま!お聞き下さい!!この歓声を!!!
今まさに世紀のウェディングを今や遅しと待ち焦がれている人々の歓声がこの『英雄の丘』周辺に轟き渡っています。
我らが英雄カップルの晴れ晴れしい姿をひと目見ようと数え切れない人々が集まってきております!!
空はこの結婚式を祝福するかのように爽やかに晴れ上がり・・・・・
まさに若いカップルの門出に相応しい様相をかもし出しております・・・・・・>
『地球は・・・・この一ヶ月で信じられないくらいの復興を遂げた・・・・・
だが・・・・こんなふざけた復興のためにあいつらは戦ったのか?
これでは白色彗星に攻撃される以前となんら変わったところなんかないじゃないか・・・』
・・・・・テレビの画面を前にこれでもかと大きくため息をつく・・・・・
本日の主役・・・・・古代進は浮かない顔をしながら新郎の控えの間に当てられたこの部屋に詰めていた。
「古代さん!せっかくの晴れの舞台なんですから・・・ほら!にこやかに!!」
今日の空模様とは裏腹のような表情を浮かべた古代は目の前にいきなり現れたカメラフレームに一瞬たじろぐ。
「元々こんな顔だよ!このヤロウ!!」
相原が廻すカメラフレームに向かって悪態をつく。
「それにしても・・・何故士官服なんです?今日くらいちゃんと正装したっていいのに・・・・。」
「この服が俺には一番なんだよ!うるさいな・・・・」
「ったく・・・ちゃんと俺がタキシードをコーディネイトして用意したのに・・・・本当につれない人なんだよな・・・この人は・・・・・」
「どうせ俺をからかうために用意したんだろう!お前らの魂胆なんざ見え見えなんだよ!!」
本日の主役以上に・・・ビシッと決まった式服の南部が呆れたようにつぶやく言葉を聞き逃さず、噛み付く始末である。
「だいたいなぁ〜今日の結婚式はユキと二人っきりで・・・っというか・・・
身内だけで密やかに済まそうと思っていたのに・・・ったく・・・なんなんだ?!この騒ぎは!」
「まぁ〜いいじゃありませんか!お披露目が早くなったってだけのことなんだから・・・・
どっちにしたって記者会見は逃れられなかったんですからね!」
「そうそう!絶対記者会見させられたに違いないんですから・・・
それが一発で全て終ってしまうと思えば問題ないんじゃないんですか?」
「なんで一介の一般士官の結婚式に記者会見なんざしにゃいかんのだ?!そんなに地球は暇なのか?!」
「ったく・・・自覚なさ過ぎだなぁ〜古代さんは・・・・」
窓際に腰をかけていた太田が大げさにため息をついた。
「俺たちならともかく・・・あんたは『宇宙戦艦ヤマト』の艦長代理なんだよ?
既に一介の軍人なんて存在じゃないっての・・・・好む好まざる関係なく・・・・おわかり?
そんな人物の祝い事を放っておくほど地球人は甘くはない。ってことなんだな〜」
「・・・・・・復興の兆しが見える今、この結婚式はその象徴でもあると思うんだけど・・・・な」
太田の言葉に続きカメラをまわしながら相原が相槌を打つ。
「人のことは放っておいてくれって言いたい・・・・・」
「そいつは無理だな。」
「うん・・・無理だと思う」
「同感・・・というより当然ということだよな・・・・」
頭を抱えイスにへたり込む古代に対し、第一艦橋のお馴染みメンバーが互いの顔を見わたして駄目押しを食らわせる。
その返答に反論する余地すら見つけることが出来ずに余計にへこむ古代・・・・
そこには『宇宙戦艦ヤマト』の艦長代理であり、部下及び同僚・・・はては上司からも『鬼の古代』と恐れられた姿の片鱗も見られない・・・・・
そこにいるのは・・・・・
ただ今の状況にうれしくもあり・・・しかし困りきったただの少年のような男がいるだけだった。
(2)
「第一・・・・・いくらなんでも何でこんな騒ぎになったんだ?!」
顎に手をやりつつ・・・・憮然とした表情で古代はつぶやいた。
「ご・・・・ごめんなさいっ!!!」
突然声がして・・・古代たちが驚きそちらに目をやった。
そこには・・・・一人の少年が男に付き添われてちょうど入ってきたところだった。
「ごめんなさい!古代さん!!」
半泣きの少年が勢いよく頭を下げ謝り続けるので・・・謝られた古代のほうが面食らった。
「ど・・・どうして次郎君が謝るんだ?!おい!!島っ!!」
謝られオロオロする古代は・・・・次郎の後ろに付き添うように入ってきた島の方に声をかけた。
「ど・・・どういうことなんだよ?!」
「どうもこうも・・・・次郎のヤツ・・・お前の結婚式に招待されたことがうれしくって、学校で言いふらしちまったんだと。
で、同級生の子供達どころか・・・学校中の子供達のの羨望を浴びてな・・・
んでもって、そのことを家で話した子供達がいたらしいんだな・・・
そのままどこまでも広がった結果が今の外の状況らしい・・・・」
「ぼ・・・僕もまさかこんな状態になっちゃうなんて思いもしなくって・・・」
しゅんとする少年に古代はフッと笑いながらその頭に手を置いた。
クシャ・・・・少し乱暴なくらいに頭を撫でる。
膝を落とし、目線を次郎にあわせ話しかける・・・・。
「君が学校でばらしたくらいではこんな騒ぎにはなったりしないよ、次郎君」
「古代さん?でも・・・・僕が学校でしゃべっちゃったりしなかったら・・・・」
「原因の大半は・・・そこの連中だよ・・・・な?!3人組!!」
いきなり振られ、振られたほうはその背が直立不動になる。
「大体・・・相原がヤマト全乗組員にメールを送りまくったことが最初の発端なんだよな。
ヤマトの関係者がいったいどれだけいると思う?その連中は太陽系中に配属されているんだよ?
そこに俺たちの結婚の旨を知らせたメールが送り込まれたんだ。そんなの・・・・広まるなという方が無理な話だよ・・・・・・
なっ!!」
最後の『なっ!!』の強さに相原はブンブン派手に頷く。
「そ・・そうだよ!!次郎君!!僕が送りまくったメールリングの力・・・
すごいだろ?!あっという間にあんなに広まっちまったんだよ」
「おまけに・・・南部重工の御曹司がてぐすね引いて披露宴の会場の手配をしやがったんだ。
これでどうやって秘密に出来る?!こいつが動くということは・・・・俺に繋がってるということ・・・
今時のマスコミは知らないわけがない。だから目立たないようにお前がでしゃばるのはやめろって言っただろうが!!
あぁ〜?!南部!!」
同じく・・・・最後の『!!』に今度は南部が大きく頷く番。
「・・・・で、そこら辺りを地上勤務の奴らがうまいこと抑えてくれればいいのに・・・
余計に参加希望者を募ってあおりやがったもんだから・・・・・・ッたく!!」
これに対しては『やぶへびだ〜〜』と思いつつ成り行き上頷くしかない太田だった。
「とにかく!!君のせいでもなんでもない。わかるかい?」
「ほらっ!お前のせいなんかじゃないって俺も散々言っただろ?!」
古代の言葉に続き、兄の呆れたような声に次郎は初めて泣き笑いをしたいような表情になった。
「だって・・・・僕・・・・・」
「ったく・・・・いくら兄の俺が何を言っても『古代さんに迷惑をかけた!』の一点張りで聞く耳持たないんだからな・・・・こいつ!!」
島はゲンコツで軽く次郎の頭をこついた。
「いってぇ〜!!何すんだよっ!!にいちゃん!!」
「そのくらい当然だ。この兄のいうことより古代なんかの言葉を信用しやがって・・・・・
ほら!!納得したらサッサと席に行け。親父達が待ってるぞ。」
「う・・・・ん」
「あ・・・・それとも一人じゃ戻れないか?!ん?」
「!!一人で戻れるよッ!!僕をいくつだって思ってるんだよ!大介兄ちゃんは!!」
少し、プンッとふてくされつつ・・・・次郎は部屋から出て行った。
「古代さん!またね」
と古代に対してはドア越しににこやかに手を振りながら・・・・・
3
「次郎君のせいなんかにゃできないからな・・・・」
次郎が去ったのを確認しつつ、古代はホォとため息をついた。
「まさかあいつも自分の同級生の親がマスコミ関係者だったなんて気づかなかっただろうからな・・・・。
本当に悪かったな、古代」
実のところ・・・次郎がうれしさのあまり、ポロッと友達にもらした『古代の結婚式』情報を
その同級生の親であるマスコミ関係者から思いっきり外部に漏れていったというのが事実だった。
だが・・・・そんなことで小さな心を傷つけるようなことをするような古代たちではなかった。
「・・・・・・・でも俺が言ったこともあながち嘘じゃないんだよ・・・・・なぁ!こらっ!!」
「は?なんのことでしょ?」
「白々しいヤツだな!相原・・・・・必要以上の軍部関係者がうろちょろしてるのはお前の仕業だろう?」
「ンナことを言われましてもねぇ〜・・・僕がしゃべらなくたって防衛軍関係者のほうは勝手に広まったんですよ?
なんといったって・・・・ユキさんは防衛軍本部の中でも特出たる存在ですから・・・・
男性でも女性でも彼女に憧れてるものが大勢なんですよ♪
その人たちがユキさんの結婚式を黙って指をくわえていると思いますか?え?どう思います?
自分で考えても見てください!古代さん」
相原は『なんか文句でも?』とでも言いた気に古代に突っかかった。
そこまで言われてしまうとグゥの根もでない古代である。
それをいいことにそれぞれがいいたいことをいい始めた。
「大体さ!古代さんとユキさんの結婚式を身内だけで済まそうって考えること自体が大間違いなんだよな」
「そうそう!なんていったって主賓の『防衛軍長官』を始め、来賓の顔ぶれがまたとんでもないのに・・・
絶対控えめな身内だけの結婚式なんて不可能ってもんだよな」
「古代さん、過去あなたの艦に配属された部下だけでもこの防衛軍内に何人いるのか・・・把握してます?
ユキさんの方の関係者だってかなりいますしね・・・・合わせたら軽く100名を越えてしまいますよ?
おまけにあんたは自分がわかってなさ過ぎる」
「『古代 進』という名前だけに憧れ騙されている若者が一体何人・・・・・・・・・・・」
「おい!!ちょっと待て!!俺の名前に騙されてるたぁ〜ドォ〜いう意味だ?え?太田!!」
それまでいいたい放題言われていた古代が噛み付いた。
「大体てめぇらいいたい放題いいやがって・・・・来賓の方はともかく・・・
このマスコミ関係者を呼び込んだのはお前達だって半分はグルだろ?!軍の内部のマスコミはともかく・・・
民間のマスコミまで大騒ぎなのは南部!お前の関係だろ!!」
「え?!いやぁ〜・・・・そういうつもりはなかったんですけどね〜・・・次郎君サイドから漏れたのと、
俺の関係者方面から漏れちゃったのが相まって・・・・・アッハッハッハ・・・すっごいことになりましたよね〜
全世界同時中継ですって?」
「アハハじゃねぇ〜!!・・・・どうするんだよぉ・・・・この収拾収まらない有様を・・・」
情けない顔を浮かべる親友に対し、島はクックックと笑いを堪えながらその方を軽く叩いた。
「ま、諦めるんだな・・・・古代。ここまで来たらまな板の上の鯉も同然なんだ。腹くくってまな板の上に横たわって来い」
「貴様・・・人ごとだと思って・・・・・」
「・・・・・・・・・・人ごとだ」
「このぉ・・・・裏切り者!!!!!」
「貴様に裏切り者呼ばわりされたくないよな。誰がこの大衆の中で恥をかいてやるんだと思ってるんだ?」
島の言葉に言葉もない。
彼は今日の古代側の介添え人の一人をやることになっていたのだ。
「お前みたいな厄介なヤツを介添えをやってやるんだ。ありがたく思え」
その言葉に古代は一瞬言葉に詰まった。
「・・・・すまない・・・・島」
「な・・・・なんだよ?!いきなり」
突然自分に頭を下げた古代に、島の方が面食らった。
「お前が病み上がりの上に・・・・その・・・・・俺たちだけが・・・・幸せに・・・・・」
「貴様・・・・それ以上言うと青痣作ってユキの前に出る羽目になるぞ・・・・・」
「だが・・・・!」
「病み上がりなのは事実だが・・・・俺はこの一ヶ月あまりの休暇ですっかり傷も癒えている。
テレサのことをお前は気にしているんだろう?だがな・・・それは余計なお世話というもんだ。」
「余計とはなんだ!余計とは!!」
「俺がテレサを愛したという事実は事実だ。そして彼女を永遠に失ったというのも事実だ・・・・・」
島は大きく息を付いた。そして古代の方をキッと見返す。
「だが、それはただの事実であって、本質じゃない。俺はあの短い時間の中で彼女と巡りあい、心を通わせた。
彼女との別れがたとえどうしようもない運命だったとしても俺は彼女と過ごしたあの時間を悔いることはない。
それとお前達のことは全く別問題だ。こんなところでばかげたことを言うと・・・・・」
「・・・・・」
古代に言葉がなかった。
「古代・・・・ユキを幸せにしてやってくれ・・・それが出来るのは・・・お前だけなんだぞ・・・・・
わかってるのか?」
「島・・・・・・」
「ユキさんの幸せは俺たちヤマト乗組員全員の悲願でもあるんですよねぇ〜」
重くなった空気を一掃しようとするかのように、南部が少しおどけたように話しに割って入ってきた。
「俺たちの代表を古代さんに預けただけなんですから・・・・ね♪島さん」
「あぁ!そうだ!!」
南部からふられ、島がいつもの調子を取り戻した。
「お前がユキを幸せにする自信がないんだったらいつだって降り立っていいんだぜ♪」
「バック体制はしっかり整っていますよぉ〜」
「いつでも諦めてください!古代さん♪」
「あ、ユキさんにもその旨言っておきましょうか?」
「な・・・・なにをぉ〜〜〜〜!!」
思わぬ展開と緊張から古代の頭の中はプッツン★
「てめぇら!!〜〜〜〜ユキは俺のもんだ!!絶対に誰にも譲らないぞ!!!
てめぇらになんか指一本触れさせてやんねぇぞ!!」
「やったぁ〜!!!!」
相原の歓喜の声にやっと古代がハッと我に返った。
「絶対このセリフ入れておきたかったんですよぉ〜♪」
「うぅ〜〜ん♪さすがは古代さん・・・・熱いですねぇ〜♪」
「ま・・・・まさか・・・・今の・・・・」
「はい♪しっかり録音させていただいています。古代さん!
そんじょそこらのマスコミなんかに負けないくらいのドキュメントビデオを制作させてもらいますから安心してください」
「今のは・・・全員・・・・グルだったのか?!」
「い〜や、即興で盛り上がっただけの話だ。」
『わかってるのに・・・・わかってるのに・・・・こいつらに乗せられて・・・・』
シレッと応える島に古代は自己嫌悪状態。
その時だった。
「新郎様、式場の準備が・・・・・・・・・」
案内人が部屋へ入ってこようとし・・・部屋の中の異様な雰囲気に一歩後ずさった。
が、いっしょに現れた男はそんな雰囲気などものともせず、部屋へと入ってきた。
「お前達・・・一体何を騒いでるんだ?!」
本日のもう一人の介添え人・・・・真田だった。
現在地球に身内がいない形の古代にとって・・・兄の親友である真田は兄と勝るとも劣らない存在である。
「お前達は・・・こんなところにいても大騒ぎだな・・・・ったく」
第一艦橋スタッフの中では年長者に当たる真田はこの連中のまとめ役でもあった。
「サッサと式場でスタンバインしろ!お前達は・・・・・」
サッサと3人組を追い出し、自分は島と二人・・・古代の両脇を固めた。
「・・・・・・な・・・・なんか連行されるような感じですね・・・真田さん」
「似たようなものかもしれないぞ?何せお前を確実にユキの元へ届けるという重大な任を背負ってるわけだからな・・・
俺たちは・・・・な、島」
「まさしくそのとおりですね」
「下手するとこいつはまた結婚式を放り出しかねないからな」
「今更逃げも隠れもしませんよ・・・・・」
古代は苦笑いを浮かべ真田の方に目をやる。
「ここまで来て逃げ出すはずないでしょう?俺だって待ち望んだ日なんだから・・・・」
「俺たちは二度とユキの涙を見たくはないからな・・・わかってるな?古代」
真田の言葉に古代は大きく頷いた。だがその目は目の前の幸せとは違うものを見つめていた。
「でも・・・真田さん・・・・本当に地球はこれで・・・・」
「古代・・・・・」
真田はまっすぐ見据えたままつぶやいた。
「今は己・・・・お前とユキのの幸せのみを考えるんだ。・・・・今はそういう時間だ・・・・わかるな?」
「・・・・・・・・・はい」
古代はまっすぐ見据えた。
通路の光の先に・・・・・今日の日があった。
<全世界のみなさま!!ごらん下さい!たった今新郎が入場してきました。
その凛々しい防衛軍の制服姿にどれほど多くのファンが魅了されていることでしょう!
そして・・・・・ただいま新婦が父上に付き添われ入場してきました!なんと清楚な美しい花嫁でしょう!
こんな美しく清楚で気品あふれる花嫁がかつてあったでしょうか?!
今・・・・お父上の手により新婦は新郎の元へ・・・・・・・・託されました!・・・・・
世紀のウェディングが今まさに・・・・・・始まろうとしています・・・・・・・・・・・・・>