9・
「でも・・・でも古代さん・・・・ヤマトでは普通だったじゃないですかっ?!」
古代の病院から帰ってきた島はその足で相原の部屋を訪れていた。
そこには古代の行方を心配していた南部、太田も集まっていた。
島の報告を聞き最初に叫んだのは太田だった。
「正常な指揮判断ができるようにうたれた薬だったそうだからな・・・・・。
南部・・・お前は何か気づいていたんじゃないのか?」
ジッと黙り込み何かを考えている南部に島は声をかけた。
「・・・・・・気のせいかと思っていたんですけどね・・・・」
「何か・・・・あったのか?」
相原が覗き込むように尋ねた。
「戦闘班のミィティングのとき・・・・何気に言ったんだよ・・・・古代さん・・・・
『よし・・・指示を仰いでくる』って・・・・あの時は何のことなのかな?ッて思ったんだけどね・・・・
今考えるときっと“沖田艦長”の指示を仰いでくるって意味・・・だったんだろうね」
南部はしみじみ考え込むようにつぶやいた。
「今・・・落ち着いて考えると・・・思い当たるフシが結構ありますね・・・ったく・・・
なんだってあのときに気づかなかったんだろう・・・」
「無理だよ・・・・あいつ自身無意識の上の行動だったんだからさ・・・」
頭を抱え込む南部の肩を島は慰めるようにポンポンと叩いた。
「指揮系統に何の問題もなかったから・・・・俺たち気づきにくかったんですね・・・・
短期決戦で俺たち自身・・・・余裕というものを全くなくしていたし・・・・」
胡坐をかいた両膝に肘をのせ・・・顎を手に置いた格好の太田がつぶやく・・・・
全員・・・いつもの覇気がない・・・・
いつもみんなの中心になっている・・・・
いつもみんなのムードメーカーになってる“あいつ”がいない・・・
たった一人・・・その一人は・・・・誰よりもここの連中に愛されてる・・・・ヤツがいない・・・・
「それで・・・・?」
「古代のヤツ・・・・沖田艦長が・・・・ヤマトに残って・・・波動砲の引き金を引いたと
思い込んでしまっていたそうだ・・・古代の代わりに・・・・沖田さんが犠牲になったと・・・・
そのことが古代の心を・・・・完全に・・・・」
「な・・・・そんな・・・そりゃ・・・もし・・・もしだよ?もし、沖田さんが生きてみえたら・・・・
あの人ならきっとそういうことに
なるかもしれないと思う・・・・だけど・・・だからといって自分が犠牲になったなんて絶対に考えもしないよ!
そんなこと言ったりしたら・・・・あの人のことだ、一喝じゃすまないよ・・・きっと・・・・」
「わかってる!そんなこと・・・・わかってるさ・・・・だが・・・・病んだ古代の心はな・・・
そう受け取ることができなかったらしい・・・」
「さっきの話を総合すると・・・島さんが“死んだ”と思いこんだこと・・・・
それから沖田さんが犠牲になったと
思い込んでしまったことに加え、ヤマトを失った事実が古代さんを今の状況に追い込んだということですね・・・・」
「でも・・・・」
「なぁ・・・」
相原たちは互いに顔を見合わせた
「ヤマトを・・・・ヤマトを自沈させたのは・・・・俺たち全員の手で行ったことだったのに・・・・」
島を除く全員・・・思わず自分達の手を見つめてしまった・・・・・
ヤマトに引導を渡したのは・・・・古代だけではない・・・・
地球を救うために・・・・全員の手でヤマトの最後に関わったのだったから・・・・・
10・
傷つき瀕死の状態に陥った島を医務室の集中治療室に運び込んだ後・・・・・・・
ヤマトはワープした。
現状の元凶の地へと・・・・・
ワープアウトしたヤマトはその身を荒れくるうアクエリアス上空に留めた。
古代は全乗組員に対し展望室へと集まるように命じた。
「ヤマトを・・・・・アクエリアスの水柱が地球に到達する寸前で波動砲を発射・・・
ヤマトは・・・そこで自沈する」
ヤマトをアクエリアスに着水させた際・・・古代は全乗組員を前に告げた。
ヤマト艦内にアクエリアスからくみ上げた重水(トリチウム)を満たし、アクエリアスの水柱をヤマト自身の爆破の波動によって食い止める・・・・それが古代の考えた作戦だった。
ヤマトを自沈させるなんて・・・・・!
誰もが承諾しがたい作戦ではあった・・・・しかし・・・誰にも・・・
真田にすらその作戦以外可能な方法を思いつくことができなかった。
「古代・・・・おまえ・・・妙なことを考えてやしないな・・・」
誰もいなくなった展望室で真田は古代を捕まえて尋ねた。
「妙なことって?真田さん俺が今更何をしようって言うんですか?」
さりげなく・・・だが妙に清々しい表情で古代は真田に答えた。
その表情自身が・・・・古代の考えを告げていることに・・・気づかない真田ではなかった。
「バカなことを考えるな・・・古代・・・・お前を犠牲にして誰が喜ぶと思ってるんだ?」
「何のことです?」
さらりと・・・・白々しく答える古代に真田は怒りを覚えた
「・・・・お前は何年俺たちと付き合ってるんだ?お前の考えなんか・・・全員にお見通しだ。
俺が代表としてお前を押さえに来たんだ」
「ハッハ・・・・・えらく簡単に全員引き下がったと思ったら・・・・そういうことだったんですか・・・・」
古代はこめかみを手で押さえ・・・力なく笑った。そしてそのまま・・・真田の方に目線だけ向けた。
だがその目線は・・・・真田を捕らえきってはいなかった。
古代は自分の中の誰かに語るかのようにつぶやく
「誰かが波動砲の引き金を引かなければ・・・・この作戦はうまくはいかない・・・・とすれば自分しか・・・・」
「お前・・・自分の言ってることわかって言ってるのか?!」
真田は古代の両肩に手をかけ大きく揺さぶった。
「あ・・・・?あぁ・・・真田さん・・・・」
古代は大きく息を吐きながら・・・ようやく真田をその視点の中に収めた。
「真田さん・・・・ならどうしますか?もう・・・ヤマトを自沈させるしか手はない・・・それも・・・
アクエリアスから地球へと水柱が渡りつく前に・・・・主水柱の真正面を捉え・・・ヤマトを
その瞬間的に爆破させなくてはならない・・・・寸分の狂いも許されない・・・・
遠隔操作ではだめですよ?そんな細かい作業・・・・」
「ある!・・・誰も犠牲などならず済む方法があるんだよ・・・古代」
古代の問いかけに真田は力強く答えた。
「いいか?・・・・ヤマトのコンピューターをそのまま冬月のメインコンピューターにリンクさせてしまうんだ。
そうすれば冬月からヤマトをそのまま操縦させることができる・・・」
「でも・・・それじゃ、遠隔操作と全く代わりませんよ?遠隔操作では正確に波動砲を打ち込むことができる
可能性は5%にも満たないって・・・試算が出ているんです。やっぱり誰かがヤマトに残って波動砲を発射させないことには・・・・」
「だれがお前の犠牲を喜ぶんだ?といってるのがわからないのかっ?!」
真田は激しく古代の胸倉を掴んだ。
いつもは冷静沈着な真田がこうも激昂することも珍しい・・・
「だれも犠牲になることはない・・・・もちろんお前もだ。いいか・・・冬月自体をヤマト化させるんだ。
冬月のメインブリッジでヤマトを操作する。
冬月のメインパネルに映し出される画像はヤマトのメインパネル画像となんら代わることはない。
他のレーダー関係もだ。問題は・・・冬月には本来設置されていない波動砲の操作パネルを開設させなくてはならない・・・
といった点だが・・・これも両艦の技術屋連中をフル活動させればギリギリ何とかなる問題だろう・・・・いいか?古代・・・
絶対に馬鹿なことは考えるな・・・・これ以上・・・お前が犠牲になることは何一つないんだ」
真田は古代の瞳を見据え・・・・有無を言わさない力強さで説いた。
「これは・・・・賭けだ。俺たちの・・・・ヤマトの底力を信じるんだ。俺たちを数万光年も離れたディンギル星域から運んでくれた
ヤマトには俺たち同様意思がある・・・・・ヤマトの心を信じるんだ・・・・地球を思うヤマトの・・・みんなの心を信じるんだ」
“ヤマトの心を信じる・・・・”
とても技術者にはあるまじき考えかただ。しかし・・・今の真田は本気で信じていた。
“ヤマトには・・・・・・・意思がある”と・・・・・。
「そう・・・・ですね・・・・真田さん・・・・ヤマトを・・・・信じるべきですよね・・・・」
しばらくの沈黙の後・・・やっと古代は肩の力を抜いたかのようにつぶやいた。
「・・・・・だそうだぞ!お前ら・・・・・」
その言葉を聞くと真田は背後の扉に向かって声をかけた。
「聞いたか?お前らの心配はとりあえず回避されたようだぞ」
そこには・・・・・ぞろぞろと古代の様子を心配した乗務員達が聞き耳を立てていたようであった。
「お・・・お前ら・・・・」
「やっぱり真田さんだ!」
「嫌な予感したんだよな・・・古代さんが素直にヤマトを爆破させるなんて簡単に言うから・・・
また一人でどさくさにまぎれて
残っちまうんじゃないかって気が気がじゃなかったんだよなぁ」
「古代さんは前科者だから・・・油断も隙もないんだよね」
「ったく・・・ろくなこと考えないもんな〜・・・この責任者は・・・・一人で背負い込むなよな!
ヤマトはあんた一人のもんじゃねぇぞ」
「そうだ!ヤマトはみんなのもんだ・・・
みんなでこいつの望むように最後まで付き合ってやるのが当然じゃないか!」
古代の驚いた表情を他所に連中は明るい表情を一様に浮かべていた
「みんなお前のことを心配していたんだよ・・・・」
真田は呆然とした表情を浮かべている古代の肩を軽く叩いた。
「ほら!お前ら・・・・安心したらさっさと戻って仕事をしろっ!
さっき言ったのは冗談でもなんでもない。時間は切羽詰っているんだ。
ヤマトにアクエリアスの重水を積み込んで、なおかつ冬月のコンピューターデータとリンクさせてあっちで操作できるように 改造もしなくてはならん・・・・時間は足りないくらいだぞ!」
真田の言葉を受け・・・今度こそ全員持ち場へと散っていった。
「さ・・・なださ・・・・ん・・・・」
「ん?ヤマトを心のそこから大事に思ってるのはお前だけじゃない。みんな・・・ヤマトに命をかけた連中だ。
ヤマトのために何が必要なのか・・・・わかってる連中だよ・・・・」
「・・・・・・・・」
「ヤマトを失うのは・・・・みんな辛いんだ。だが・・・・
地球を生かすために生まれかえってきたヤマトだ。
今、地球を生かすために帰ってゆくのもまたヤマトの望みだとすれば・・・・
それに対し精一杯のことを 全員の手で行うのもまたヤマトのためだ・・・・
ということだ。古代・・・・お前はいつも自分を追い詰め、
辛い立場を先頭に立って背負って生きてきた・・・・だが・・・・
今度は全員でその立場を背負うっていうのも いいんじゃないのか?」
「・・・・・そう・・・ですね・・・・・」
「さぁ・・・おれも急がないとな・・・・なにせ冬月の方のチェックもしなくてはならないからな・・・・」
真田はもう一度古代の肩を叩くと展望室を後にしようと踵を返した。
・・・・その一瞬、古代の瞳が虚ろになった
「・・・でも・・・・・んは・・・きっと・・・」
「ん?何か言ったか?」
「え?いえ・・・何も・・・・さぁ!真田さん、忙しくなりますよね・・・俺も気合入れますよ・・・」
真田が古代のほうに目をやった・・・・がその時にはもういつもの古代がそこにいるだけであった。
11・
ヤマトに対し・・・・できうる限りのことをした・・・・
冬月のメインコンピューターとヤマトのメインコンピューターのリンク作業もことのほかうまく行った。
冬月のメイン艦橋操作をヤマト用に譲り渡し・・・冬月本来の艦橋作業をサブ艦橋に移行する作業も既に終了した。
ディンギルの母艦は地球を支援に現れてくれたデスラーの手によって葬り去られた・・・・
今はただ・・・・アクエリアスと地球の命運が残るのみ・・・・
古代は真田と共にヤマトの最後の作業を施した。
波動砲口を封印する・・・・。
それにより本来放出されるはずのタキオン粒子が逆流を起こし・・・・
ヤマトは一瞬の内に消滅されるであろう・・・
アクエリアスからの水柱と共に・・・・。
考えただけで・・・・いや・・・考えたくもない・・・
しかし・・・そうすることしか今の自分達には地球を救う統べはない・・・
古代も真田も自分達の思いを押し殺し、作業に没頭した。
「真田さん・・・・」
最後の・・・・・レバーを引く瞬間がとうとう来てしまった。
古代は真田の方に目をやる・・・・真田は・・・何も言わず静かに頷いた。
古代は・・・・・レバーに右手をかけ・・・そしてそれを支えるかのように左手もかけた。
そして・・・・・静かに・・・誰に言うともなしにつぶやいた
「さらば・・・・・」
ぐっと力を込めてレバーを倒した。
低い唸りと軽い衝撃が二人の身体に響いた。
今・・・・ヤマトは新たなる旅への用意を終えたのだった・・・・。
「さ・・・・行こう・・・・古代・・・・後は冬月での作業だけだ・・・・」
真田は静かに古代に話しかけた。
古代は・・・・・・・・天井の方を見上げ何かつぶやいていた。
「古代?」
いぶかしんだ真田が彼の肩を揺さぶった。
「だいじょうぶか?!古代!! 」
「あ、すみません・・・真田さん・・・急ぎましょう・・・・」
「お前・・・この前から気になっていたのだが・・・・だいじょうぶなのか?」
「何が?」
古代は意外そうな瞳で真田を見つめた。
「俺・・・別にどうもありませんよ?」
「そうか?・・・・それなら別にいいんだがな・・・・無理だけはするな?古代・・・・お前は一人じゃない・・・・」
「わかって・・・いますよ?俺・・・・」
古代は真田の言葉を少しはにかむような表情で笑いながら受け取った。
その表情は・・・いつもの“古代 進”そのものだった・・・
「ん・・・ならいいんだがな・・・・」
“俺の気の回しすぎだったか?”
真田は古代の様子を見て少し胸をなでおろした。
彼には少し前から妙に気になることがあったのだ・・・・
それは・・・時おり見せる古代の“表情”。
普段は鳴りを潜めているのだが・・・・・フッとした瞬間に虚ろになるその“瞳”
以前の古代ではありえなかったこと・・・・
しかも島のことがあって以来・・・・気づくことが多くなってきている・・・・
“島のことがそれほどショックだったか・・・・”
真田は大きく息をついた。
だが・・・今古代に抜けられてしまっては・・・・正直この最後の作戦は古代の双肩にかかってるといって等しい・・・
全乗組員たちの総力にかかってはいるが・・・その集中する先は・・・・古代の腕・・・・
その波動砲のトリガーにかかる指一本・・・・・それにかかっている。
“すまん・・・古代・・・・またお前に負担をかけてしまうことになりそうだ・・・”
真田は声にならない声で先を急ぐ古代の背中に語りかけた。
12.
「待ってましたよ・・・古代さん」
冬月の艦橋に案内された古代たちを待っていたのは・・・・・見慣れた「ヤマト」の第一艦橋スタッフであった。
「さぁ・・・ヤマトの旅立ちに華を添えてあげましょう・・・・俺たちの手で・・・」
「南部・・・・相原・・・太田・・・・山崎さん・・・・」
「私もいるわ・・・・」
それまで島に付き添っていたユキがいつの間にか古代のそばに寄り添うように立っていた。
「私も・・・・ヤマトの旅立ちのお手伝いさせてね・・・・」
ユキは静かに微笑んだ。
「当たり前だ・・・・このメンバー・・・一人として欠けたりしたらこの作戦・・・うまく行かないんだからな・・・・」
「ワタシモオテツダイサセテクダサイヨ、コダイサン」
微笑むユキの脇をすり抜けるかのように真っ赤なボディの・・・ロボットが古代の前にしゃしゃり出てきた。
「はっはっは・・・お前は最重要な課題を担ってるんだ。当たり前だろ?アナライザー」
古代は明るく笑うとアナライザーの丸いドームをバンと叩いた。
「ヤマトハワタシニトッテダイジナセンユウデス・・・・メカドウシデス。
サイゴマデミトドケタイトオモッテイマシタ。 アリガトウゴザイマス・・・・・」
アナライザーは胴のつなぎ目を90度に折り曲げ、古代の前でお辞儀をした。
その頭部の点滅が青黄・・・・とめまぐるしく変わる・・・・まるで泣いているかのように・・・・
「アナライザー・・・・メインの航海士シートにつけ。太田はサブのシートだ。
いいか・・・太田・・・・正確なポイント計算が必要だ。
わずかなずれも許されない・・・・。アクエリアスからの水柱との距離・・・
ヤマト艦体全体に与える影響も考慮してヤマトがもっとも適切なコースを選択しアナライザーに伝えるんだ。
アナライザーは・・・・わかってるな。お前の持つ操縦桿はヤマトに繋がってるんだ。
お前は冬月のコンピューターを通してヤマトのメインと接続・・
ヤマトの操縦をするんだ。いいな・・・」
「了解」
「リョウカイ・・・マカセテクダサイ」
「島は・・・・島はもう・・・・いないんだ・・・・・もうヤマトをコントロールできるのは・・・・
お前達だけなんだからな・・・・」
古代は・・・・グッと唇をかみ締め・・・・目線を落とした。
「古代さん?」
冬月艦橋の砲術コントロールシートに身を沈めた南部はふと・・・・古代の言葉に違和感を感じた。
まるで・・・・もう島が“いない”とでも言っているのか・・・・・・・?
だけど・・・島は・・・・今現在・・・この冬月の集中治療室で・・・・・・
だがこの窮地にそんなことにこだわって入られない
“きっと島さんが倒れてこの場にいないっていいたかったんでしょうね・・・・島さんだってきっと
意識があれば何が何でも・・・それこそ這いずってでもこの場にいたいような人なんだから・・・・”
古代はきっとそんな島がこの場にはいられない・・・もうあの見事な操縦技術をヤマトで見ることはできない・・・
そのことを言ってるんだろう・・・・・と南部は判断することにした。
「相原・・・お前は地球との通信を常にオープンにして情報を収集してくれ・・・・
地球からの影響も考慮しなくては計算がうまく行かないからな・・・」
「了解」
「ユキ・・・・君はヤマトと冬月に対する障害物をチェックするんだ・・・・今のヤマトは丸腰どころか・・・
何もできない状態なんだからな・・・・」
「了解」
「南部・・・お前は冬月の主砲を使ってヤマトに近づく障害物を打破するんだ。たとえ岩辺の一つ辺りともヤマトに近づけるな」
「了解」
“俺の・・・気の廻しすぎかもしれませんね・・・・こんな状況下なんだから・・・
気が高ぶってるんでしょう・・・・
まだまだですね・・・・俺も・・・・”
南部は自分の違和感を打ち消すかのように古代のほうに視線を送り力強く頷いた。
「山崎さん・・・あなたは冬月のメインコンピューターからヤマトのメインにアクセスして・・・
ヤマトの補助エンジンシステムと波動砲システムを操作作動作業に入ってください」
「了解」
「真田さん・・・全ての総括を・・・お任せします」
「わかった・・・古代・・・・わかってるだろうが・・・・」
「はい・・・・・失敗は許されません・・・・でも・・・みんなの心が一つになってる・・・・失敗するはずがありません」
そういうと古代は窓外に今まさに動き出そうとするヤマトの方に目をやる。
「・・・・あの人とも・・・・今俺たちは一つなんですね・・・・」
「古代?」
「・・・・沖田艦長が・・・・ヤマトと一つになって今旅立とうとしているんです・・・・
俺たちは目を逸らさずに・・・ あの人の旅立ちを見届けなくてはなりませんよね・・・・・
でしょ?真田さん」
「そうだな・・・・古代・・・・きっと沖田艦長の魂は今・・・ヤマトと共にある・・・・あの人の魂が・・・・
仲間たちの魂がきっとヤマトを守ってくれて・・・絶対にこの作戦をいいほうに導いてくれるだろうよ・・・・」
真田は・・・・古代は“沖田艦長の魂が今ヤマトを導いている”と言っていると思っていた・・・・
しかし・・・このとき古代の頭の中では・・・・現実に沖田がヤマト艦内に・・・・
あの艦長席に座り・・・ ヤマトを導いている姿がありありと浮かんでいたのだ。
古代の中では・・・・ヤマトは沖田が・・・・操縦し・・・・最後の航海へと旅立とうとしていた・・・・
自分はここで見守ってることしかできないのだと・・・・思っていたのだ。
たとえ・・・・その行動は違うことをしていても・・・・。
既にこの時点で・・・古代の中でもう何かが崩壊していたのかもしれない・・・・・。
13・
「冬月で操作しているにも関わらず・・・・ヤマトの動きは・・・信じられないくらいに・・・・スムーズだったんですよね・・・あの時」
「あぁ・・・まるで・・・島さんが操縦してみんながヤマトの艦内にいるのとなんら変わらない位にね・・・」
太田と相原はまるでその場を思い出すかのように・・・つぶやいた。
そうなのだ・・・
冬月にいながら・・・・その時、全員ヤマトの第一艦橋にいるような錯覚に捕らわれていた。
目の前のモニターに映しだされた光景はヤマトのメインモニターに映し出されたものだった・・・
今自分の前で表示してる画像は・・・・ヤマトのレーダーに映し出された画像だった・・・・
コンピューターがはじき出す数値は・・・・ヤマトのコンピューターがはじき出した数値だった・・・・
今・・・全員・・・・再びヤマトの第一艦橋と一体化しているような錯覚さえ覚えていた。
あの・・・いつも味わっていた・・・ヤマトそのものと一体と化してるような・・・・そんな錯覚・・・・
「ヤマト・・・所定位置に到着・・・・艦体同空間に固定・・・・」
「波動砲・・・・発射作業開始」
「かなり揺れが激しい・・・・逆噴射をしつつ艦体を固定せよ・・・
それと同時に波動砲へのエネルギー注入」
「了解・・・・艦体を固定します。波動砲エネルギー90%・・・・」
最後のカウントダウンへ・・・・作業は粛々と進んでゆく・・・・
モニターに映し出されるのは・・・・・今にも襲い掛かってきそうな激流の束・・・・。
それを見つめる全員の顔からは血の気が引いている・・・・。
しかし・・・それでもどの瞳も目の前に繰り広げられる壮絶なドラマから逸らす事がなかった。
いや・・・・逸らす事すらできなくなっていた。
「波動砲内・・・・タキオン粒子圧力上昇・・・・波動砲エネルギー充填120%、波動砲内・・・
限界点へ・・・・」
全員・・・対閃光防御を下ろす
「波動砲・・・・発射10秒前・・・・」
古代の声のみ・・・・艦橋にこだまする・・・・・・・
「あの瞬間のこと・・・・目の前に起こったことだったのに・・・・今だ信じられないって気がして・・・・」
相原のつぶやくような言葉に他の二人が頷きあった。
「俺たちは・・・・みんなでヤマトを見送った・・・んだよな・・・・本当に・・・・・」
窓外に広がったあの閃光・・・・忘れようにも忘れられるはずもない・・・・
全員の目に焼きついていた・・・・
そして・・・直立不動のまま・・・・ただ涙を流し最敬礼をし続けた古代のあの背中・・・・
それに惹かれるように・・・・全員最敬礼のまま立ち尽くした。
ヤマトとのリンクが解き離れた冬月のメインモニターには・・・・今漆黒の宇宙を映し出されていた。
その中央には・・・アクエリアスからも・・・地球の重力からも離された水柱の残骸が・・・・
氷の塊となり闇の空間に漂っているばかりだった。
「古代さん・・・・いつまでも見つめていたよな・・・まるで・・・・
その場にまだヤマトがあるようにさ・・・・」
「あぁ・・・・俺たちが声をかけようとしても・・・・ちょっと声をかけられなかった・・・」
「なんか・・・・あのままどこかに行ってしまいそうって言うか・・・・
どこか違う次元に立っているっていうか・・・
あのときの古代さんの感じは・・・・そんな雰囲気だった・・・・」
“別次元に立ってる古代・・・・・”
3人の話を聞きながら島は今古代のいる状態を考えていた。
今の古代は・・・・・心をどこかに置いてきてしまっている状態なのかもしれない・・・・
あまりに辛い現実を見定めてこなければいけなかった・・・若い魂・・・・
今まで心の・・・魂の拠り所としていたヤマトさえも失われてしまった。
いや・・・・古代の中では・・・ヤマトだけでなく・・・・沖田も・・・・
そして島自身も失われてしまっているのだという・・・・
彼にとってあまりに大きなものが一気に失われてしまった(と思い込んでしまった)現実(妄想)
それが・・・今古代の心を蝕んでいる状況だった・・・・。
“だけど・・・・俺は信じてるぞ・・・・古代・・・・お前はそんなに弱いヤツじゃないはずだ・・・・・”
島は心の中で古代に呼びかけた。