Departure to a new time!Act 11





1.


第一艦橋内を行ったり来たり・・・・・・

古代はいらただしい歩き回っていた。

「鬱陶しい!!少しは大人しく座ってろ!!!」

自席の操縦席に座って腕組みをして目をつぶったまま、島がりきんだ。

「なんだとっ!!」
島の背中に古代が噛み付く。
「鬱陶しいのを鬱陶しいって言ったのが何が悪い!!黙って立っているくらい出来ないのか!」
噛み付いてきた古代を受けて立つように振り向いて、こちらも険悪な表情のまま返してくる。


「お・・・・太田さん!南部さん!!相原さん!!放っておいてもいいんですか?!艦長代理と航海長・・・・・」


にらみ合ったまま一発触発状態の二人からやや離れて・・・・・
オロオロしながら北野は雁首をそろえた3人組に助けを求める・・・・が、

「あんなの・・・・今に始まったことじゃないし・・・・」
「あの状態の二人の間に割って入ったほうが分が悪すぎるし・・・・」
「触らぬ何とかに祟りなしってヤツだしな・・・・・」

と、取り合ってももらえない。

というより・・・・実のところこの3人もソワソワ・・・・・足先は先ほどから何度も床を叩いている。

それというのも・・・・・・



第一艦橋のオアシス・・・・というよりヤマト艦内において大切なオアシスであるべき存在のユキが先ほど倒れ、
医務室に運ばれていったのは・・・・・今より1時間ほど前のこと。

じゃ、何故ここで全員がここでいらついているのかというと・・・・
本当は全員(操縦桿を押し付けられた北野を除き)運ばれるユキにくっ付いて医務室までついて行ったのだが・・・・・
オロオロ全員で医務室の前の廊下を右往左往していると・・・・・。


「なんじゃ?!こんなところにウロウロされても邪魔じゃ!邪魔じゃ!!
サッサと艦橋に戻って出航準備でもしとらんかい!!!」

と、佐渡に追い戻されてしまった・・・・というわけだった。
(そのユキの旦那であるはずの古代もその例外ではなく・・・・アナライザーによってまとめて撤廃されてしまった
(既に物扱いに近い扱い方で))

さりとて・・・・第一艦橋に戻ってきて、さて出航準備に取り掛かろうとしてみても・・・・
ユキのことが気がかりで気がかりで・・・・とはいってもそこはベテランのヤマト戦士たち。

頭より身体が先に動いてしまい・・・・・。さっさと出航準備は終ってしまい・・・・・
その後の仕事は手もつかない状態・・・・といった情けない有様であったのだ。

イラつきを隠し切れない若造どもを、山崎と真田も半ば呆れ顔で眺めながら、互いに顔を見合わせ小さくため息をつき・・・・
とはいってもやはり落ち着かない様子で手元のパネルの調整などをやるとはなしにやっていた。





2.


「なんじゃなんじゃ?!お前さんらはぁ〜?!・・・・」


そのとき入り口のエレベーターが開いた。全員の視線が一斉に集まる。
エレベーターから艦橋内に足を一歩踏み入れようとした佐渡は、その雰囲気に思わず腰を引いてしまった。

「先生っ!!!」
「ユキは?!」
「ユキさんはどうしちゃったんですか!?」

口々に叫ぶ。

「こりゃこりゃこりゃ!!全員がいっぺんにしゃべるじゃない!!ったく・・・・おぅ!島」

古代を中心に走りよってきた連中に囲まれてしまい困惑しつつ・・・・佐渡は島を呼びつけた。

「悪いが帰りの航海は観光艦並の操縦をしとくれ!」
「はっ?!」

いきなりの佐渡の申し出に今度は島が困惑の表情を浮かべた。

「先生っ!ユキは・・・・ユキはどこかひどく悪いんですかっ?!先生でもどうにもならないんですか?!」
古代は佐渡に詰め寄った。

その表情は今にも怒っているようにも泣き出しそうにも見て取れた。

「なんつぅ情けない顔をしちょるンじゃ!!お前さんは・・・・・ま・・・・確かにありゃ〜ワシの専門外ではあるがな・・・・・」

「先生の専門外って・・・・・ユキは・・・・一体・・・ユキッ!!!」

今にも走って艦橋を飛び出してしまいそうになった古代の腰のベルトを佐渡はしっかりと捕まえた。

「なぁにを勘違いしちょる!ったく・・・・・お前さん・・・・身に覚えがあろうが・・・・・」

「はっ!?身に覚えって・・・・・一体何を・・・・・?」

ベルトを捕まえられ腰が引いた状態のまま、古代は佐渡を振り返った。
佐渡のニヤニヤした笑いの意味を始めに気づいたのは・・・・艦橋内で唯一の妻帯者である山崎で・・・
間髪いれず真田も「あぁ!!」と気づいた。

「確かに・・・・古代さん・・・・責任重大な結果ですな!」
「確かに!!こりゃ責任重大だな!古代!」

わっはっは・・・・と笑う二人を見ていて・・・・
他の連中も次々と「あっ!!」「そっか・・・・!!」と思わず赤面を浮かべつつ気づいてゆく。






だが・・・・肝心の当の本人は全く気づかない。
(この際未成年の北野が首をかしげているのは当然の例外と言うことで放っておくとして・・・・)

周りの様子をいぶかしげに首を傾げつつ・・・・・さりとて未だ不可思議そうに首を捻る古代に佐渡は痺れを切らし・・・・



「ばっかもん!!いい加減に気づかんかい!!」

・・・・・・と・・・・・、古代の下半身に肘鉄を食らわせた。



「グッ!!!!!」

「お!!佐渡先生!!ナイス♪」
「確かに・・・・責任箇所だもんな〜〜♪」
「古代!サッサと自覚しろ〜〜〜♪」

いきなりの佐渡の攻撃に思わず腰砕け状態の古代に容赦ない仲間達の洗礼が降り注がれる。


「自覚って・・・・・え?!えぇ?!

古代はようやくある『思い当たり』に到達した。

「え?まさか・・・・・」

「そのまさか・・・・じゃ!おめっとさん!親父さん・・・ユキは現在妊娠2ヶ月目に入るか入らんかっというところじゃわ!」


佐渡は古代の素っ頓狂な顔を眺めながら腰に手を当てて大笑いをする。

「な・・・・だって・・・乗艦前健康診断では・・・・」
「ん〜〜〜〜〜ま、なんだかなぁ・・・・航海も既に4週間強あまり・・・・・おそらく・・・・まぁ・・・・こういっちゃなんだがなぁ・・・・・・
航海前ギリギリにできた子・・・・・っということになるわなぁ・・・・・

・・・・と、古代の耳元で佐渡は囁く。
それを聞き逃すようなものがこの艦橋内に存在するはずがない。


「まぁ・・・・切羽詰ってる時のほうがその気になるとはいうけどなぁ〜」
「うんうん・・・・でもまさか古代さんにもそれが当たるとはね」


「う・・・・うるせぇやい・・・・てめぇら・・・・」


こうなると・・・・何を言われても立つ手がない古代であった。





「んで・・・ユキは?今どうしてるんです?そんなに体調が悪いんですか?」
自分がからかわれてることはともかくとして・・・古代の心配は今はユキのことだった。

「いや・・・・一応念のために病室にいてもらっとるだけじゃ・・・・今まで何もなかったことのほうが
不思議なことじゃからなぁ〜・・・・」

佐渡の言葉に全員が頷く。

「確かに・・・・航海前半のあの強行連続ワープといい・・・・激しい戦闘中といい・・・・」
「よくもまぁ・・・・・なんともなかったもんだよな・・・・」

「知らぬが何とか・・・とはよく言ったモンだよ」
「やめてくださいよぉ〜〜〜知っていたら恐くてユキさんの方を見てなんかいられませんよぉ〜」

「・・・・・の前に知っていたら乗せるか!!!!」

最後の捨て台詞はもちろん古代である。

「そいつは無理と言うもんだ・・・・ユキ自身気づいとらんかったようじゃしなぁ・・・・・
の前に医者のワシが気づいとらんかったのが一番問題か?!」

佐渡の言葉に『全くだ』という顔をする艦橋のメンバー達であった。

その時であった。

ピッピッピッピッピ・・・・・

通信機の反応に相原の表情がサッと締まり・・・・・自席に飛びつく。
イヤホンをセットし受信機を操作する・・・・。

受信機を操作していた手がはたっと止まり・・・・・相原が振り向いた。

「ガミラス艦のデスラー総統から入電です」

「わかった。メインパネルに接続しろ!」


“もう・・・・別れの挨拶をするのか・・・・デスラー・・・・”
古代は一抹の寂しさを憶えつつ・・・・パネルの前に立った。




3.



やがて・・・・何も映っていなかったパネルにノイズが走り・・・・デスラーの姿が浮かび上がった。

故郷の星と・・・・拠り所としていたものの消失に負ってしまったという自責の念が彼の心に深い傷を負わせている
・・・・ということがその表情から読み取ることが容易に出来るようだった。

パネルに浮かび上がるデスラーは影がどことなく薄く・・・それでも「大ガミラスの総統」というプライドが彼を
毅然と立ち振る舞っている・・・・といった感じであった。



「もう・・・・行くのか?デスラー・・・・」
古代の問いかけにデスラーは静かな笑みを浮かべ頷いた。

「思いは尽きぬが・・・・・・いつまでも思いだけに捕らわれている訳にもいくまい・・・・・」




この星域は思い出が深いだけに・・・・留まることも辛かろう・・・・
デスラーの胸中を思うと古代は居たたまれない思いに苛まれた。

「そなたがそのような顔をするものでもあるまい・・・・」

古代の表情があまりに辛そうなのを見取り、デスラーのほうが思わず笑みを浮かべた。

「我らは・・・・・既に母なる星をなくした流浪の者だ・・・・・・だが我らは諦めぬ・・・・・
この先幾年つきかかろうと・・・・・必ず新たなる我らの新国家となるべき星を探し出して見せようぞ」


デスラーは改めてパネルの中に映る青年の顔を見た。




まさか・・・・・この男と真正面からこんな風に語らう日が来るとは・・・夢にも思わなかった。
第一・・・・・この男は地球の代表者でも地球防衛軍の首脳でもなんでもない・・・一介の・・・・戦艦の責任者・・・・

このような男に何故これほど惹かれるのか・・・・自分の胸の内ながら理解しがたかった。

『あぁ・・・・・この目だ・・・・我の心を捉えてはなさぬのは・・・・・』


古代の自分を真正面から捉える目を見て初めてわかったような気がした。

自分の周りにいつも存在したのは・・・
何かしら媚びるような目・・・・
自分の一挙一動に恐怖を浮かばせるような目・・・・
いつ何時陥れようか・・・・といつも画策しているような目・・・・

自分の周りに存在していた目の持ち主達に・・・デスラーは決して心を許すことはなかった。

信頼を置けると頭ではわかっているはずの腹心の部下達さえも・・・・


それにより・・・信用置けぬ部下を幾人も葬っても来たが・・・・それと同時にかけがえのない部下も失ってきた。

自分の命を投げ打って忠義を果たしてくれた部下も
我が身を省みず注進してきた部下も・・・・


まっすぐに自分に向けられた目・・・・
デスラーにとってその存在はある意味初めてのものだった。

それがたとえ・・・・敵として自分を捉えた目であろうとも・・・・
逃げることを許さない・・・・鋭い瞳・・・・・それは小気味がよいほどに彼の心を捉えた。

その持ち主の存在を・・・・客分の身になりつつも心のどこかで忘れることはなかった・・・・。


その目に気づき・・・・改めて自分の周りの目にも気づいた・・・・。


常に自分とともに生きて行こうと決心してくれている者達の目・・・・・・・。
この者たちとともに我は行こう・・・・・・


デスラーは固く誓わずに入られなかった。


「古代・・・・我は必ず新たなる新国家を建国するであろう・・・・・いずれその時に・・・・・」

デスラーの言葉に古代は静かに頷いた。

「また・・・・いつか再会することもあるだろうか・・・・?」

この永遠ともいうべき宇宙で出会えたこの一瞬を・・・古代は惜しんだ。
古代の言葉にデスラーはフッと笑いながら軽く手を上げた。

「互いに生きてさえいれば・・・・いつの日かまた運命が交わることもあるであろうな・・・」


デスラーの新たなる旅は過酷なまでに厳しいものになるであろう・・・

「さらばだ・・・・古代・・・・いつの日にか・・・また会おうぞ・・・・・」

デスラーの姿が静かにパネルから消えた。

それから程なくして・・・・
数艦のみの編隊となったデスラー艦を中心としたかつてのガミラス艦隊が静かにヤマトから離れ・・・・・
静かに艦影もレーダーから消えていった

再びあえる日が来るのだろうか・・・・?
かつての敵であるこの“友人”との別れは希望に満ちたものであることを祈らずにいられなかった。




4.


艦内は活気が漲っていた・・・・・。


この航海の始まりの時は何をするにつけてもいつも自信なさげに行動していた新人たちが・・・・
今は先頭を切って自らの意思で艦内活動を執り行っている。

たった一度の長距離航海が新人達を一回りも二回りも大きな存在にしていた。

今回の戦闘で死亡者こそ出なかった・・・・
が、身近で味わった本当の戦闘が彼らを一人前の「戦士」に成長させていた。


第一艦橋では・・・・・
託された操縦桿を安定した操縦技術で操る北野の姿があった。
その横に・・・・時々不安げに何かをいいたそうな表情を浮かべつつ、フッとため息をつきながら苦笑いを浮かべる
島の姿もあった。

北野はこの航海が終ったら戦艦業務からは辞退するという・・・・

それは・・・・以前のように流されるままの「出世欲」からではなかった。
自分のなすべきことはこうした戦艦の乗務員達が安心して航海することが出来るようバックアップをすることだ
・・・・・という思いに駆られたらしい。


「ヤマトに乗艦して心底思いました。何をするにしても統べてるのは結果「人間の力」だということを・・・・。
それだからこそ・・・・本当は宇宙勤務を希望したいです・・・・でも自分みたいな人間は後方支援のほうが向いている
のだと思うのです・・・・・ほら・・・・人間適材適所というでしょう?」

今後のことを島に尋ねられ、北野はそう笑ったらしい・・・・・。
彼のように頭脳明晰であり・・・・その上今回の航海により培われた「感覚」を重視出来る人間が本部勤務になれば
今後の防衛軍の防衛体制もいい意味で代わっていくのではないか・・・・


それはすぐには無理なことであろうが・・・。







機関室では徳川太助がエンジンオイルにまみれながら必死で波動エンジンと格闘していた。

彼は・・・今後もヤマト乗務を希望している。
彼にとってこのヤマトのエンジンルームは今は亡き父親との会話する場所でもあるようである。

他の機関員の話では・・・・時々写真を眺めつつブツブツやってるそうだ(本人は気づかれてないと思っているらしいのだが・・・・・)それはともかくとして・・・・


「おい!N6ユニットを調べたいから検知器取ってくれよ!」
エンジンの下に潜り込んでいた太助が顔を出す。


オイルにまみれた顔に浮かぶ汗を捲り上げた袖で拭う。
その姿はまさに・・・・・かつての「徳川機関長」を髣髴とさせた。


「おい、ほら!太助!!ユニット検知器!!」
他の機関員が検知器をサッと投げてよこす。
が、太助は手を滑らし検知器を思いっきり滑り落とした。

「ばかやろう!!何をしてるんだ!!太助!!グズグズしてるから凡ミスを仕出かすんだ!
今は多少ゆっくりでもいい・・・・だが一つ一つ完璧にやるんだ!!一人の小さなミスがヤマトの命取りになるんだ!
わかったか!!」

慌てて拾おうとした太助の頭上から山崎機関長の叱咤が飛ぶ。

「はぃ〜〜〜〜!!!」
太助が首をすくめ飛び上がるように返事をし、再び真剣な表情を浮かべながら太助はエンジン下部に潜り込んだ。
手際よく目的のユニットに検知器をセットしメンテナンス作業を施してゆく・・・・・。


『さすがだな・・・・・・・やはり“血”は争えないようですよ・・・・・おやっさん・・・・・』

山崎はかつての上司に胸の中で語っていた。

その時・・・・・ガッシャン!!激しい音がエンジンルームに響き渡り・・・・
台車から落っこちた太助が仲間達に助けられる姿が山崎の目に入った。

『ま・・・・一人前になるのは当分先のようですけどね・・・・・とりあえず・・・
あのドジぶりだけはどうにかしてもらいたいモンですよね・・・・おやっさん』

呆れ苦笑いを浮かべつつ・・・・「ったく・・・・こんなところで怪我している場合か!」と怒りながらも山崎の心の中は晴れやかだった。




5.


艦内を巡回し、各部署の新人たちの様子を見ながら、古代の足は艦載機格納庫へと向かっていた。

艦載機格納庫も他の部署と変わりなく、新人達が所狭しと動き回っている。

あるものは艦載機の機体に磨きをかけている。
あるものはジャッキをかけ艦載機の機体そのものを持ち上げその下部に入り込み、メンテナンスをする。
またあるものは操縦席に潜り込んだまま細部チェックに余念がない。


各々が各々の機体に愛着を持ち、自らの手でメンテナンスを施す・・・・。

整備兵たちからは「コスモタイガーのメンテナンスは自分たちの出る幕がない」とぼやかせながらも・・・・
自分の機体に愛着を持つと言うことの重要性からヤマトでは当たり前の光景となっている。



そんなコスモタイガー隊員達の中の一人に古代は声をかけた。

「加藤!!」

操縦席の中に入り込み、機体の外から覗く坂本となにやら話をしていた加藤が顔を上げた。
「はい!なんですか?艦長代理」
サッと機体から飛び降りると、古代の元に走りよってきた。


以前の拗ねた様子は今の加藤には微塵も感じられなかった。

「ちょっと・・・・いいか?」

そういうと古代はくるりと踵を返し、後部甲板カタパルトへと続く通路へ向かった。
その後を加藤がついてゆく・・・・・・。



カタパルトへ続くドアの寸前で古代は立ち止まり、壁際に手をかけた。
そこには艦載機に使用する古代の備品類が格納されている・・・・・・。


古代は一つのヘルメットを取り出すと、「ほらっ」と加藤に渡した。

「これは・・・・もうお前のだ」

いきなり渡されたヘルメットを加藤はいぶかしげに眺め・・・・ハッと目を見開いた。

そこの内部には・・・・・・一つの名前が記されているのが見て取れた。

「今までは・・・・俺がそれを預かっていた・・・・。お前の兄貴との約束だったからな・・・・
お前が一人前になるのを一緒に見届けるってことが・・・・・」
壁に目をやったまま古代は静かに呟いた。

「あいつはそれを見届けることができずに逝ってしまった。だから・・・・
これは本当は葬儀の日に遺品としてお前の家に持っていったんだよ・・・・。
だが・・・加藤の・・・お前の長兄さんから頼まれたんだ。俺からお前にこれを譲り渡してやってくれとね・・・・・
あいつと同じ道を目指すお前がコレを渡す価値に値すると俺が認めたときに・・・・・」

「兄さんが・・・・・」


加藤は改めて腕の中のメットを見つめた。




悲惨な戦闘だったと・・・・・かつてその戦闘を経験した古参の乗務員からこの旅の途中に聞いた。
当時のコスモタイガー隊員達はその作戦のときに殲滅し・・・・・ようやくの思いで帰還したのが・・・・
加藤が操縦する機体に乗った古代と真田であった。

加藤は瀕死の状態でありながらも最後の力を振り絞り・・・・・・任務を遂行した。
自分の状態を最後まで古代に気づかせることも無く・・・・・。


兄は最後まで古代を守りきって逝った・・・・・。
おそらく・・・・いや疑う余地も無く、それは彼にとって満足のいく結果だったのであろう・・・・

古代がここにいる・・・・・その事実がそう物語っていた。


自分の尊敬した兄が最後に身につけていたヘルメット・・・・・。
それを大切にし、ともに自分の成長を見守ってくれた古代・・・・・



加藤の意志とは関係なく・・・・・頬を涙が取り止めもなく流れた。
それは・・・・兄の死から初めて流した涙だった。

ヘルメットを抱きかかえたまま床に座り込み、加藤は号泣した。


『なぁ・・・・加藤・・・・・お前の弟は下手するとお前よりも腕いいぞ』

“何をぬかす!あいつなんかまだまだヒヨッコだよ!天才の俺様の足元にも及びかよ!!・・・・・・・・・
・・・・・・・・だけどな・・・・古代・・・・・あいつは俺の代わりにいいお前の片腕にはなるぞ・・・・・
それは俺が保障するぜ!”


古代は懐かしい友がそううれしげに笑ったのを感じたような気がした。




6.




第一艦橋の裏部の位置する展望室・・・・・
古代は佇み窓外に広がる空間を見るとは無しに眺めていた。

艦内巡回し・・・・ヤマトの帰還航海ももうすぐ始まる。

往路は急く心を抑えきれず記録的な航海を実施したが・・・・帰りはそうも行かない状況ができた。

小さな命を抱えていた。
一つはイスカンダルの忘れ形見・・・・・・
もう一つは・・・・・・・・



展望室のドアが静かに開き、誰かが入ってきたことに古代は気づいたが、振り返ることは無かった。
その足音の持ち主を古代は・・・・・・知っていた。

「無事に渡せたの?」
足音の持ち主は静かに語りかけた。

「・・・・・・あぁ・・・・・」
「よかったわね・・・・本来の持ち主に返せて・・・・・」

ユキは古代の傍らに立ち、微笑んだ。
その腕に・・・・サーシャが・・・・スターシャと守の娘が小さな寝息を立てていた。

「すっかり懐いちゃったな・・・・・」
「こんなにかわいい子を残していかなくてはいけなかったスターシャさん・・・・辛かったでしょうね・・・・」

腕の中の温もりを確かめるように頬擦りをしながらユキは涙ぐんだ。
「この子は幸せになって欲しいわ・・・・・絶対に・・・・」
「この子だけじゃない・・・・・」

古代は背後から静かにユキを抱きしめた。
そしてその腹部に優しく手を添える。

「ムチャして・・・・・ったく・・・・・」
「航海中はストレスもあるからよく・・・・狂うの・・・・だから・・・・・気づかなかった・・・・」
「君やこの子に何かあったら俺はどうしたらいいか・・・・・」

ユキを抱きしめる腕に力を込め、古代はその髪に顔を埋めた。
ユキの甘い髪の香が鼻腔をくすぐる。

「あのね・・・・・あの瞬間・・・・私スターシャさんを感じたの・・・・」
古代の息を感じつつ、ユキは身体をもたれさせた。

「あの瞬間って・・・・・あの?」
「うん・・・・・あの光に包まれた瞬間・・・・・私の前にスターシャさんが立ったのよ・・・・そしてね・・・・彼女の身体が私
をすり抜けたような感じがした・・・・・暖かかった・・・・」
「無茶をする君を彼女が助けたのかもしれないな・・・・」
「え?」

古代の思わぬ言葉にユキは首をめぐらせ目を丸くした。

「あのまま放っておいたらますますムチャなことを仕出かしかねないって思ったのかもしれないね」
そんなユキの頬にKissを一つ降らせ、古代はいたずら気にウィンクをした。

「ひどぉい!」

一瞬の沈黙の後・・・・・
声を立てて笑う古代に頬を膨らませ抗議しようとしたユキの腕の中で・・・・サーシャが小さなあくびを浮かべ目を覚ました。
そして自分の頭上の二人の顔をきょとんと見つめるとにこっと笑いかけた。

その笑みに互いの顔を見合わせ、古代とユキも微笑んだ。


「・・・・もうすぐ・・・・あなたも・・・・・ね」
ユキは古代の耳元に囁きかけた。


「パ・パ・・・・・・・♪」

その呼びかけに古代の顔は紅潮した。







ヤマトはサウザー星系空域を離脱した。
この星系は近いうちに消滅の憂き目にあうことであろう・・・・・。
そして・・・・この星域に魔の手を伸ばしてきた輩の存在・・・その背後の巨大な力の存在・・・・

宇宙の彼方に展開する不気味な存在をいやでも感じさせられた今回の一件・・・・




悪夢の予感に捕らわれつつも・・・・今ヤマトは希望のみを信じ地球を目指し帰還の途についた。


・・・・・・イスカンダルとガミラスを襲った悲劇は地球に降り注がれる事態への序章でしかなかった。








Departure to a new time!.............End

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