宇宙戦艦ヤマトFINAL」から・・・・・・After Story


ブロークン・ハート



プロローグ



「島・・・・島ァ〜!!」

古代の叫びが第一艦橋に響き渡った・・・・。
その瞬間、時が全て止まってしまったように凍りついた。

ユキのすすり泣く声だけが時の流れを感じさせた。
古代は抱きしめた島の身体が次第に冷えてゆくのを感じた・・・。

次の瞬間古代は佐渡の脇の医療キットに飛びつき、シートのようなものを取り出し、眠るような島の口元にセットすると・・・・
そのまま覆いかぶさった。

「・・・・・?」

古代の意外な行動にその場にいた全員が疑問を抱いた。が、すぐに古代が何をしようとしているのかに気がついた。
古代は・・・島を蘇生させようとしていた。

古代は島の喉を引き上げ、気道を確保すると、口移しに直接空気を送り込んでいたのだ。
何回か空気を送り込んだ後、島の胸元で心臓の位置を確認すると、両手の平に力を込めて心臓マッサージを始めた。

「古代・・・さん・・・」
「島は・・・島は・・・・死んじゃいない・・・・こいつが死ぬ訳がないんだ・・・・」

古代は熱にでもうなされているかのように呟き続けながら、島の蘇生行動を続けた。

「よし・・・・わかった!古代!!もう少し頑張っていてくれ!すぐに医務班に生命維持装置のセットと緊急オペの準備をさせよう」
佐渡は相原を通じ医務室に指示を通達すると、自分もまた走っていった。

「古代さん・・・俺が補助します。心臓マッサージは任せてください。」

汗を滴らせながら蘇生法を続ける古代の姿に、南部がたまらず声をかけ島の胸に手を置いた。

戦闘班の二人は訓練学生時代必須科目の一つとして緊急蘇生術をマスターしており、二人とも救急救命士の資格も保持していた・・・・

的確な蘇生術が二人のプロの手で島の身体に施されてゆく・・・。

どれほどの時間が流れたのだろうか?

実際にはそれほどの時間は流れてはいないのだろう・・・・が、第一艦橋内を流れる時間は永遠にも感じられた・・・・。

その間、古代はひと時も休むことなくタイミングよく島に空気を送り込み続け、そのタイミングを測り南部が島の心臓に
刺激を与え続けてゆく・・・・・・・・・

“死ぬな!島・・・・お前は今・・・こんな時に死ぬようなヤツじゃないんだ!!逝ったら俺は永遠にお前を許さないぞ!!!”
2人とも心の中でそう叫びながら・・・・・

ゲフッ!!!

激しい咳き込みとともに、島の口からドス黒い血液の塊が迸った。
気道に詰まっていた血液が人工呼吸が刺激となって体外に放出されたのだろう・・・・

それと同時に・・・島の顔にわずかばかり苦痛の色が浮かび、一瞬大きく胸が動いた。
それまでわずかな変化も逃すまいと島の首筋の頚動脈をチェックし続けていたユキの目が鋭く光る・・・
と同時にユキの手がすかさず強心剤を島の腕に打ち込んだ。
島の・・・・心臓が再び鼓動を打ち始めたのだ。


その時、医務班と佐渡が移動生命維持装置キットを抱えてタンカとともに飛び込んできた。
佐渡は班員から蘇生キットを受け取るとユキを助手に手際よく島の身体に装着する。
その気道を確保すると、極細のカテーテルをその気道内に挿入し気道でその呼吸を邪魔している凝固しかけた血液を
カテーテルを使って全て吸い出した。

酸素マスクを装着され、蘇生装置をセットされた島はそのまま医務処置室へと転送されていった・・・・・。


「古代くん・・・・・」
第一艦橋のドアからタンカで連れ出されてゆく島を見つめ、呆然としている古代にユキは静かに声をかけ、そっとハンカチを差し出した。
「口・・・・・・」

古代はその時初めて、自分の口の周りに島が吐き出した血液がいくらか飛び散っていることに気がついた。
古代は目を伏せユキの差し出したハンカチを無言で断った・・・・。
グイっと制服の袖で口を拭う。

戦闘班のシンボルカラーがその親友のどす黒い血に汚れた・・・・
一瞬・・・・艦長席のほうに目をやった古代は空っぽの艦長席を見つめ・・・・・ジッと何かと語っているような表情を浮かべた。

そしてそのまま古代はきびすを返すと叫んだ。

「ヤマト・・・・ワープしたアクエリアスを追って発進する!総員発進準備にかかれ!!!」


ユキはその時ふと・・・・・古代が遠いところに行ってしまうのではないかと不安を感じずにはいられなかった・・・・・。






あの闘いから・・・・・3ヶ月あまりの月日が流れた・・・・・。

ヤマトを完全に失ってしまった旧ヤマト乗組員達はしばらくの間、放心状態に陥ったが・・・
やがて地球が救われた事を素直に喜ぶようになり、地球の復興のために再び立ち上がり始めていた。

 そんな中、あの戦いの際重態まで陥っていた島は順調に回復し・・・リハビリがてら防衛軍本部に出向いてきていた。

もう病院のリハビリセンターと自宅の往復も飽きてきていた。
そんなリハビリなどもう必要がないほどに島の体調は回復してきていた。(と、自分では思っていた)
身体が疼いて仕方がない彼は、自分の今の状態でも勤務可能な職場がないものかとチェックに現れたのだ。

ヤマトの他の連中はもう、地球復興のため全力を注いでいることだろう・・・
特に親友の古代など・・・・自分の退院以来顔も見せることもない・・・・
それほどの激務に身を投じているに違いない・・・・(古代というヤツはそういうヤツなのだ)
おもわず、そう考えるだけで苦笑いが浮かんでしまう・・・・。
自分だけ、なんか世間に取り残されてしまったような気がして焦りを感じずにはいられなかった島だったのである・・・・

顔なじみの本部のエントランス受付嬢が久しぶりに現れた島に対し懐かしそうに声をかけてきた。
それに軽く挨拶をすると、島は地下のコンピュータールームへと足を向けた。

誰もいない・・・・シンとした冷えた空間に島の乾いた足音だけが響く・・・・
やがて彼は一つの端末を確保すると、その端末のカードスキャナーに自分の身分を示すカードを挿入した。

金色に輝くそれは・・・・TOPクラスの士官を現す・・・・
とはいっても、彼のカードには今のところ星が一つ輝いているだけであったのだが・・・・
(戦艦の副官クラスのカードである)

すぐに、端末が反応した。島はすぐに自分が今求める防衛軍内人事用のコンピューターにアクセスを開始した・・・・・

島は自分のデータを引っ張り出すと、アクセスコードを入力する。

すると、島の名前は傷病軍人リストの中で点滅を始めた・・・・。これで勤務コンピューターの方にコードを再入力すれば、
今島が勤務可能な職場がリストUPされるはずであった。


が、島は自分の名前が点滅を繰り返す傷病兵のリストの末端に・・・・信じられない名前を発見してしまった。


S・KODAI・・・・・・


しかし・・・そこには「TOP
 secret」の文字が点滅していた。

“どういうことなんだ?”
島はいぶかしんだ。古代は・・・・宇宙で今も元気で働いている・・・・今のいままでそれを信じきっていた島なのである。





「なんなんですか?これ・・・・」
防衛軍本部・・・中央司令室のブース内で一枚のメモを手に相原は眉を潜めた。
そばには同じく・・・・苦虫を踏み潰したような顔をした島、南部、太田・・・・・

「そいつは俺の方が聞きたいんだ・・・どういうことなんだ?これ」
メモをつまみ島は他のメンバーをジロ・・・・・と一瞥。

「俺たちだって今の今まで古代さんは宇宙勤務だと思っていましたからね・・・・なんですか?この“傷病者リスト”は?」
南部はメガネのブリッジを右人差し指で軽く持ち上げながらため息をつく。

普段のおどけた様子などこにも見受けられない・・・・・。
「最近全然連絡がないとは思っていましたけど・・・・」
「にしたって・・・・普通気づくだろ?!あいつなら定期交信だって・・・してくることあっただろうし」
「・・・・艦隊勤務ならそれもありますけどね・・・・毎日の交信は義務付けられていますから・・・・
でも基地勤務はそれの範囲外なんです」

「どういうことだ?」
「島さんが入院中は防衛軍全体が緊急処置状態でしてね・・・・それぞれの基地の復興作業が急ピッチで進められていたんです。
いちいち定期通信なんか・・・・・エネルギーの無駄ということで、しばらくの間緊急通信以外の惑星間通信は行われていなかったんですよ。
その代わりそれぞれの基地勤務の者達が責任を持って基地復興に尽力を注ぐということで・・・・・
ヤマトの乗務員も何人も基地に派遣されていますよ。古代さんもてっきりそっち勤務だとばかり・・・・・・・・・・」

太田の言葉に・・・・相原がハッとした・・・・
「・・・・・ユキさんが・・・・」

相原のつぶやきに全員がそっちに顔を向ける
「ユキさんの姿が長官の傍らにみえないから変だなって思っていたんですよ。いくら同じ部署勤務の晶子さんに聞いても
“特別任務のようなの”としか教えてくれないし・・・・・いや・・・晶子さん自身本当にそれ以上知らなかったようだし・・・
まさか長官ご本人に尋ねるわけにいきませんしね・・・・晶子さんも何度か長官に直接尋ねてくださったようだけど・・・・・・
教えてもらえなかったようですしし・・・・・」

「一体、古代さんたちはどこに消えたんでしょうか?」
太田は首をひねった。

消えた・・・・・
何の痕跡も残さず・・・・・・としか思えなかった。

しかし・・・・コンピューター上“Top Secret”の文字があるということは・・・・・軍が二人の居場所を把握してることは間違いない。


しばらく考え込んでいた島は、相原の肩をガシッと掴んだ。
「し・・・島さん?」
その思いもかけない強い掴みに相原の眉はゆがんだ。
「相原・・・・・」

真剣な表情の島の顔が相原の顔面に近づく。
「・・・・・防衛軍の管理コンピューターに潜り込め・・・・・」
小さな声で相原の耳元に囁いた。

「し・・・・島さ・・・・・!」
島の思いもかけない言葉に相原・・・・いやそれを聞いた南部、太田も固まってしまった。

軍の規律違反の常連の古代ならともかく・・・(いや・・これはこれで困ったモンなのだが★)
いつもなら、ヤマト乗務員達の間では比較的軍の規律を守る立場に立つ島が・・・・自分から・・・・・・

「古代の居場所・・・・探してくれ・・・・頼む・・・・」
「・・・・・・言われなくても・・・・・やるつもりでしたよ」

島の言葉に相原はニヤッと口元に不敵な笑みを浮かべ席を立った。

「ここじゃ・・・・さすがにちょっとまずいですからね・・・・・僕のコパーメントに行きましょう。
ハッカー防止のフィルターを削除するシステムを立ち上げてあるんですよ」

「・・・・・・・やったことあるのか?」
「・・・・実際に使用したことはありませんけどね・・・・趣味で作ったシステムなんですよ。まさか役に立つとは思いませんでしたけどね」

通信機器の取り扱いのプロの相原・・・・そのつながりか、コンピューター関係にもめっぽう強く・・・・

「ちょっと厄介でしたけどね・・・・ヤマトの真田さんが管理しているものに比べたら・・・・甘いもんですよ♪」
と、管理者が聞いたら激怒しそうな言葉を残し相原は先にたって歩き出した。

他のメンバー達も慌てるように彼の後を追って部屋から出て行った・・・・・。




コンコン・・・・
「ハイ・・・・」

聞き覚えがある・・・・しかし、島の記憶の中にないほど力のない声がドアの中からこぼれ、ドアが音もなく開いた。

声の主は島の顔を見ると一瞬・・・その瞳を大きく見開き・・・そして険しく美しい眉をひそめた。

「島君・・・・・」
「ユキ・・・・君がここにいるということはやっぱりあいつが・・・・・一体何があったというんだ?」

島はユキの顔を見ると思わず声を荒げてしまった。が、すぐに今自分がいる場所を思い出し、言葉を詰まらせた。
「す・・・すまない・・・・」

「島君、ここではちょっと・・・・お願い・・・・外に行きましょう・・・」

ユキはそんな島に気をとめるとでもなく、部屋の中を少し気にしながら廊下へと出てきた。
そしてすぐそばのナースステーションに声をかけ、黙って先にたって歩き出した。
島も何も言わずその後を追った・・・・。

「島君・・・出歩けるようにまで回復したのね・・・よかったわ」
中庭の・・・・明るい日差しの下、ユキは島の方を向き直った。
その顔は努めて明るく振舞おうとしているのだが・・・・彼女の目元には青黒くクマが浮き出ていて、肌には張りがなく・・・・頬はこけて・・・・
一目で彼女が疲れきっていることが長い付き合いの島には手に取るように感じた

「一体・・・・古代はどうしたんだ?ユキ・・・さっき、あいつは部屋の中にいたんだろう?声もしなかったが・・・眠っていたのかい?」

島の言葉に、ユキの肩がビクっと震えた。
「・・・・・・眠ってくれたら・・・どんなに幸せか・・・・」
「ユキ?」
「あなたにだけは知られたくなかった・・・島君・・・きっとあの人も・・・・・ね?・・・・どうして知ったの?ここのこと」
「始めは防衛軍の人事コンピューターだ。そこの傷病者リストに古代の名をみつけた。それもご丁寧に“TOP Secret”ときてる。
相原に頼んでハッキングしてもらってここを探り出した」


「わざわざ防衛軍中央病院に入院しないでこんな離れた病院を佐渡先生に紹介してもらったのに・・・・意味がなかったわね・・・・・
防衛軍の管理コンピューター・・・・真田さんに言ってもっと強力なガードつけてもらわなくっちゃ・・・・・」
ユキはふっとため息をつくと力なくうつむき呟いた。

そう・・・・ここはTOKYOメガロシティからリニア・カーで1時間以上離れた九州地区の病院だったのだ。

ユキは自嘲気味に髪をかきあげた。
「古代はどうしたんだい?事故か何かで大怪我でもしたのか?・・・・眠ってくれればって・・・あいつ、さっき起きていたのか?」
「えぇ・・・・起きていたわ・・・事故なんかでもなんでもないの・・・」
「じゃ、何故・・・・?」

「今の古代くん・・・何も見えてはいない・・・・何も聞こえてはいない・・・・。眠るどころか・・・・食べることも・・・・飲むことも・・・・
生きる全てを放棄してしまったような状態になってしまっているの・・・・」

「どういうことなんだ?見えてない、聞こえないって・・・・どういうことなんだ?!」
「薬の副作用なの」
「薬って?あいつ・・・・何かやばい薬でも常用していたのか?」
「・・・・・馬鹿にしないで!あの人が・・・あの人がそんな・・・・自分から逃げるようなことするはずがないじゃない!」

ユキの鋭い言葉が走った。その目に怒りがこみ上げている。しかし・・・・すぐに目を伏せた。
「・・・・ごめんなさい・・・・島くんが本気で言ってるわけではないこと・・・・わかってるはずなのに・・・・・ちょっとイラついてしまっていて・・・・」
「疲れているからだよ・・・・ユキ・・・・顔色がすごく悪い・・・・無理してるんじゃないのか?」

島は優しく彼女の肩に手をかけた
「ありがとう・・・・ごめんなさい・・・島くん」
ユキの気が瞬間的に緩んだのか・・・・その双瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「ユ・・・・ユキ・・・・・」

いきなりのユキの涙に島は焦った。


「ごめんなさい・・・・少し安心しちゃったみたい・・・・島くん優しいから・・・・」

しばらく声もなく涙をこぼしていたユキは・・・・落ち着いたように涙を抑え寂しげに笑った。
「いったい・・・・本当に何があったんだ?教えてくれ・・・・ユキ」

ジッと目を伏せて考え込んでいたユキは・・・・何かを決心するかのように島の方を向き直った。

「・・・・・あの人の身体・・・・放射能に犯され続けたままなの・・・・あのときの・・・・・その治療というか・・・・
一時的にあの人の身体を活性化させるために使った薬の副作用で・・・・今あの人は死のふちに立ってるの・・・・・」
「あ・・・・・あの古代が?」

“古代が・・・・?あの古代が死と闘ってるというのか?!”
信じられない・・・・という口調の島にユキは静かに語りだした。

「古代くんの様子が変なことに気づいたのは・・・・島君、あなたが退院した直後のことだったわ・・・・・」

ユキは重い口を開き・・・・・・語り始めた・・・・・・・







NEXT