WITH YOU
−Chapter 1−
白色彗星との戦いがようやく終わり・・・・・・
古代 進はまた忙しい毎日を過ごしていた。
前回の生存者18名・・・・・・
その大半がまだ入院中と言う事もあって動ける身体である進の負担は大きな物になっていた。
勝利で終わったとは言え・・・・・・
反逆者としての汚名を着ての戦いであったのでまずは査問委員会にかけられる事になった。
ヤマト側の代表として選ばれたのは、艦長代理として進と生存者を代表して森 ユキ、佐渡 酒造、真田 志郎の4名が選出された。
実はその進の身体も満身創痍なのである。
火星で受けた背中の火傷も・・・・デスラーとの一騎撃ちの前に負傷していた肩も・・・・・。
帰還してしばらくは入院していた進ではあったが犠牲者の多かったこの戦いにおいて責任者として果たしたい事があると無理に退院し全身を包帯に巻かれたまま遺族に遺品を届ける事を日課としていた。
誰もが進に治療を続けさせたがっていたが、進が言い出した事を最後までやり通さない限りこっちの言い分を聞くような男で無いと知っていた為見張り役としてユキを同行させる事を条件に渋々承知したのだった。
査問委員会に呼び出された今も控え室で呼ばれるのを待つ進の顔色は誰の目から見ても悪く付け替えられた義足の調子を見る為に車椅子で参加している真田よりも重症に見えた。
防衛軍の制服の下は白い包帯によって上半身を巻かれているのであろう・・・・時折痛みを堪えて寄る眉間の皺が痛々しいほどだった。
だが敢えてユキも真田も主治医である佐渡も何も言わなかった。
3人とも理解していたのだ。そんな身体の傷よりも心に受けた傷の方が辛い事を・・・・・。
遺品を携えて遺族を訪問した時中には進を糾弾する者もいた。
何故あの時制止を振り切ってまで発進したのかと・・・・・
白色彗星帝国が降伏を求めた時何故ヤマトだけが反発したのかと・・・・・・。
その事が勝利へと繋がり今の地球があるのだが、遺された者にとってまだ心の傷の方が大きい時である。
悲しみと悔しさを進にぶつけながら人々は亡くなった事を乗り越えているようだった。
それでも進は遺族訪問を止めなかった。
まるで生き残った事を恥じるように・・・・・。
「あの子の分まで生きてくださいね」
そう言われて深く頭を下げて立ち去った後エアカーの中で何度も唇を噛み締める進の姿をユキは見ていた。
生きている事は恥ずかしい事・・・・・・・。
進がそう思っているのではないのか・・・・・・
今日の査問委員会も自分の所為にしてしまうのではないのか・・・・・。
それだけがユキの気がかりだった。
「宇宙戦艦ヤマト艦長代理古代 進。どうぞこちらへ」
参謀付きの係官がそう呼んだ時進は一瞬肩をビクッと震わせてハイと返事をして立ち上がった。
その瞳には決意の光が点っていた。
ユキは声をかけようとして一瞬躊躇しもう一度口を開いた時ポンと肩を叩かれて何も言えなかった。それは真田だった。ユキが顔を見た時真田はコクンと頷いた。
進が委員会場になっている会議室へ消えた後真田は口を開いた。
「古代は全責任を取る気でいる」と・・・・・・・。
ユキは何も言えずただ目をうるませていた。
「決めたのは全員の意見だ。発進も降伏を覆したのも・・・・・だが、アイツは自分が言わなければこんな事にならなかったのだと思っている。判ってるよ。ユキ・・・・・アイツが責任を取ると言う事を止める事は出来ない・・・・・だが、俺達にも出来る事はあるんだ。」
そう言って隠し持っていたある封筒をユキに見せた。
「嘆願書だ。一通は生き残った全乗組員の物で、もう一通は遺族からだ」
「遺族?」
「アイツが訪問した遺族達が糾弾したお詫びにと持って来た物だ。これを使う・・・・・それと佐渡先生が持っている物はアイツへの一般からの手紙だ」
真田の言葉に佐渡もポケットに入れてあった。束になった封筒を見せた。
「古代がな。入院してた時から今まで届いた手紙じゃ。「ありがとう」と「これからもヤマトで頑張って下さい」と書いてある。一般からの意見を無視する訳にはいかんじゃろ?」
ニヤッと笑う佐渡を見てユキの瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
「ユキも今まで見てきた事感じた事を洗いざらい話すんだろ?どれだけ古代が苦しんで悔やんで来たかを・・・・・・それともう一つ頼みたい事があるんだ。」
「真田さん?」
「アイツに生きている事の素晴らしさを教えてやって欲しい。キミにしか出来ないことだ。」
暗に含まれた言葉を読み取ってユキは微かに頬を赤らめた。
「判ってるな。無理は禁物じゃぞ。アイツも本来ならまだ入院中なんだからな」
「佐渡先生っ!」
もっと頬を赤く染めるユキを二人はニヤニヤしながらそれでも微笑ましく見ていた。
査問委員会は途中で中断される事となった。
自分の所為だと主張する進とそんな進の行動を全部話したユキ。
そして乗組員の意思を伝えた真田と一般からの嘆願を怒声と共に言う佐渡に圧倒されたのだ。
「やってくれましたね。真田さん、佐渡先生」
進は待合室でジロッと二人の顔を見た。
だが隣のユキが余りにも恥ずかしそうだったのでそっちの方に目を奪われた。
「ユキ?どうしたんだい?」
進の声にピクリと身体を震わせて真っ赤になるユキを不思議そうに進は見ていた。
「な、何でもないの・・・・・・古代君」
「何でもないって顔じゃないだろ?それに俺の方を全然見ないし・・・・・・」
「見ないんじゃなくて見れないんだよな・・・・・・」
「意識し過ぎると出来ないぞ・・・・・・」
「もう!イヤだ!先生っ!真田さんっ!!」
顔を隠してしまったユキをきょとんとした顔で見る進には何があったのか判らないでいた。
その後査問委員会はもう一度後日開かれる事となり4人は一旦解放される事となった。
防衛軍本部から出てきた4人は二手に別れる事となった。
中央病院へ戻る佐渡と真田と進の自宅へ行く二人と・・・・・・・・・。
進は不思議だった。いつもなら口うるさいほどに「病院へ行け」と言う3人が揃いも揃って「今日は疲れただろうから早く帰って休め」と言うのだから・・・・・・。
「いいんですか?本当に?」
進はエアカーに乗り込んでも不思議そうな顔で聞き返した。
くくっと真田が笑いあーあと頭を抱え込む佐渡を見てユキは益々顔を真っ赤にさせた。
「古代・・・・・・生きる事は時には辛い事かも知れない・・・・・・だが思い出せ。お前には守るべき人がいるんだ・・・・・判るな。お前は誰の為にもう一度生きようと思ったんだ?」
「真田さん?」
「その人は今のお前を見てどう思ってるか一度考えてみるがいい・・・・・・その人はお前の一番近くにいるんだからな」
そう言われて進は隣にいるユキを見た。あの時もう一度二人で生きようと約束した人・・・・・・誰よりも大切で愛しい女(ひと)・・・・その瞳には自分が映っていた・・・・・今の自分が・・・・。
「改め直して考えてみるんだな・・・・・・二人の事を・・・・・・お前の一番悪い所だ。自分を後回しにするのは・・・・・・・」
「真田さん・・・・・」
「後は二人で考えろ・・・・・・・いつもお前のそばに誰がいるのかを・・・・・判ったな」
進の瞳にあの光が差し始めていた。強い意志の光が・・・・・・進はしっかりと頷くとエアカーを発進させた。
(背景:Silverry moon light)