天 使 が 舞 い 降 り た
Chapter 5
気ままなドライブのつもりだったけど、しばらく行っていなかった両親と、
兄の家族が眠る三浦半島まで足をのばしてみる。
一年以上訪れることのなかった墓地なのに
荒れ果てていることはなかった。
きちんと管理をしていてくれる人がいるのだろう・・・
墓地の前に跪き、手を合わせる。
「父さん、母さんしばらくぶりです。
この前っていってもずいぶん前になってしまったけど、
一緒にきたユキとあさって結婚式をあげることになったんだ。
いつまでも待たせていてはいけないから・・・
兄さん、スターシアさん、やっとここまできたよ。
兄さんにも心配かけてしまったけどユキと二人で幸せになるよ。
たった一人の姪っ子のサーシャ。
お父さんとお母さんに甘えているかい?
サーシャにはもっと地球のいろいろな所へ
連れて行ってあげたかったな」
そんな思いに耽っていると、
どこからか懐かしい匂いがしてきたような気がする。
優しいにおいと風に乗せられて
どこからともなく懐かしい声が聞こえてきた。
『進、おめでとう・・・
ユキさんと幸せにね。
お父さんとずっと見守っていますからね』
『進・・・やっと決めたか・・・
まったくいつまでも待たせていて、
ユキさんに嫌われてしまったんじゃないかと
スターシアと心配していたんだぞ。
こっちのことは俺に任せてユキさんと幸せになるんだぞ』
『叔父様・・・幸せになってね。
私もお父様とお母様にいっぱい甘えているから安心してね』
優しい風が僕の周りを駆け抜けていく。
「父さん、母さんありがとう。
兄さん、いつまでも見守っていてくれるかい?
サーシャ、今度来るときはサーシャの従妹が増えているいいんだけど・・・
なんかしんみりしちゃったね。そろそろ行くよ・・・」
もう一度墓前に手を合わせてから車へと戻る。
背中から「幸せに」というメッセージを乗せた風に見送られながら・・・
墓地を後にしてしばらく思いついたまま車を走らせていると
見覚えのある景色が広がってきた。
そこは地下都市にある僕所有のマンションの近くだった。
「そうだ、今日はあそこに行ってみようか・・・
ユキも家族みずいらずで過ごしていることだし、
僕もあそこでゆっくりしてこよう・・・」
そう思った瞬間、
ハンドルを地下都市のある駐車場のほうへきっていた。
駐車場から地下都市へ向かうエレベーターはしんと静まり返っていた。
それでも、ところどころに非常灯のオレンジの電灯がついていた。
エレベーターを降り、
マンションの入り口でカードキーを入れパスワードを打ち込むと、
静かにドアが開いた。
自分の部屋の前に立ってドアにキーを差し込み、
出てきたキーを持ってドアを開ける。
誰もいないとわかってはいるが
「ただいま・・・」
と一言声をかけてしまった。
そうしたら、どこからか母の声で
『お帰りなさい、進』
と聞こえたような気がした。
うっすらと積もった埃を払い、
この前来たときにおいていった紅茶のティーパックを出して
紅茶を入れる。
ソファーに腰をおろしてふと見上げてみると、
そこにはたった一枚残された両親の写真がこちらを向いていた。
「久しぶりに父さんたちと過ごしていたころを思い出したよ。
あのころのように幸せに暮らしていけるように、
ユキと二人歩いていくよ・・・」
そんなことを呟いていると、
なんだか昨日までの疲れが出てきたようで、
いつのまにか眠りの中に落ちていこうとしたとき、
遠くから兄さんの声が聞こえてきた。
『進、ふたりっきりでしばらく暮らそうと思っているだろう?
そんなこと考えている暇がないくらいすぐににぎやかになっていくぞ、
なぁ、サーシャ』
『そうよ、おじ様。早く私の従妹たちに合わせて頂戴ね。
お父様もお母様もとっても楽しみにしているのよ。
それから、たくさんのヤマトの乗組員の人たちも、
私に向かってユキさんと叔父様の子供なら
ユキさんに似てかわいい女の子がいいだとか、
ひょっとしたら二人にそっくりなお転婆さんだと
勝手なこといっているのよ』
『まぁ、お前のことだから育児の協力もきちんとするだろうけど、
ユキさんのフォローもきちんとしてやるんだぞ』
はっとして目を覚ましてしまった・・・
「サーシャも、兄さんも、いいかげんなことばかり言いに来るなよ・・・
でも、サーシャのやつ変なこといっていたな?従妹達って??」
頭の中に疑問符がいっぱいになってしまった。
部屋を出る前に簡単に掃除を済ませ、
両親の写真をもう一度手にとり、
「行ってきます」
と、小さく呟いて部屋を後にした。
気ままなドライブを続けていたら
いつのまにか夕暮れが近づいてきていた。
部屋に戻って明日の準備でもしようと思ったとき、携帯のベルが鳴った。
「はい、古代です」
「古代さん、どこに出かけていたんですか?
ユキさんに聞いてもどこに行っているかわからないって言われるし・・・」
「ユキにはきちんと行き先を言ってきているよ。
ユキも親子みずいらずで過ごしているんだから
俺だって家族と過ごしてきたっていいだろう・・・
それにもうすぐ家に着くから心配するな」
「いえ、心配はしていませんよ。
明日の朝迎えの車を出しますからそれに乗ってきてください。
それだけを伝えたかっただけなので・・・」
「わかった・・・明日よろしく頼むよ・・・」
『わかりました。そういったからには覚悟が出来ているようですね。
明日のことは私と相原にお任せください。
それでは、明日、くれぐれも寝坊などしないようにしてください』
「まったく一言多いんだから・・・南部のやつは・・・
明日のことあいつらに任せて大丈夫なんだろうか・・・・
なんだか心配になってきたぞ・・・」
そんなことを思いながら帰路に着いた。
結婚式当日、朝から晴天。
身支度を整え官舎を出たところで
「おい、古代・・・時間通りに出てきたな」
後ろから声をかけられ振り返ってみると、スーツ姿の島が立っていた。
「島・・なんでお前がここにいる・・・」
「お前のお目付け役だよ。
まったく朝からあんなものを家の前に止められたときには・・・」
困りきった顔で島が?あんなもの”と言ったほうへ目をやると、
黒塗りのリムジンが止まっていた。
「南部のやつ・・・どこまでもやるつもりでいるらしいな・・・
式場に行く前に寄りたいところあったのに、これじゃよれないか・・・」
「そういうことだ、俺もこんなに朝早くから
お前のお目付け役をやらされるとは思わなかったよ・・」
ため息混じりにぼやいてしまった・・・
「俺のところに島がきたってことは、
ユキのところにも誰か迎えに行っているんだろう」
「ああ、相原と、晶子さんが迎えに行ったはずだ・・・
そのまま晶子さんは雪についていることになっていたと思うぞ。
ほら、ウダウウダ言ってないでさっさと乗ってくれ。
遅れて文句を言われるのは俺なんだからな・・・」
「はいはい、わかりました」
用意されている車に二人で乗り込む。
結婚式を挙げる教会は、ユキの希望通り、
英雄の丘の小さな教会だった。
教会に着くまでの間に、
結婚式の後の予定を島に聞いてみることにした。
「なぁ、島。結婚式の後の予定ってどうなっているんだ?」
「ああ、式が終わってから南部が用意してくれた車に乗って
披露宴会場に行くんだが・・・
後の楽しみにしておいたほうがいいぞ。
お前に知られたら絶対式場から逃げ出すからと
南部に口止めされている」
いいかげん諦めろと背中を叩かれてしまった。
そんなことを話しているうちに教会の駐車場へと車は入っていく。
車から降りて新郎控え室とかいてある部屋の前まで
ついてくる島に向かって、
「ここまでくれば逃げも隠れもしないから何処かでゆっくり休んでいろよ」
「ああ、わかった。
お前がその部屋に入ったらユキのところへ報告に行ってくるよ」
そういって右手を上げた。
その島に向かって
「ユキに変なこと言うなよ」
とだけつけ加えておいた。
控え室のドアを開けるとそこには
「古代さん、お待ちしておりました」
丁寧に出迎えてくれた人は、
この前スーツを仕立てたお店の人たちだった。
「なぜ?あなた達が・・・?」
「はい、南部様より今日の結婚式の衣装の着付けを
頼まれていたもので・・・
さぁ、古代さんもこちらの部屋で着替えていただけますか?
上着を着る前に髪を少しセットさせていただきますので・・・」
それだけ言うと、奥の部屋へ案内をされてしまった。
そこで、ハンガーにかかっていた衣装を見て
「これって・・・この前仕立てたのと違いませんか?」
尋ねた僕に、
「いいえ、間違ってはいませんよ。
南部様よりオーダーどおりですから・・・
さぁ、お時間もないことですからお着替えを済ませてきてください」
有無を言わせない口調で言われてしまった。
しぶしぶ着替えて控え室のほうに出てきたところへ、
ノックの音と主に南部が入ってくる。
「古代さん、準備できましたか?」
のんきな南部の声に
「お前は・・・なんて衣装の注文をするんだ」
「なんてって・・・だって新郎新婦は白でしょう・・・
ユキさんのウェディングもとってもよく似合っていましたよ」
「お前は・・・」
「そんなに怒ったって怖くありませんよ。
さぁ、早く支度してください。皆さんお待ちかねですよ」
そういってドアから出て行ってしまった。
「古代さん、最後の仕上げですから、ここへ座ってください。
早くしないとユキさんをお待たせしてしまいますよ」
その一言で仕方なく椅子へと座った。
「古代さんの髪ってやわらかくてくせがあるんですね。
少し抑えさせていただけますね」
そういって髪の毛ムースをつけられ整えられていった。
いつもとは違った自分が鏡の中にいる。
なんとなくこそばゆくなってしまって
自然と手を髪の毛を持っていこうとした時突然ドアが開いて、
「古代、時間だそうだ。式場のほうにきて準備をしてくれって・・・」
入ってきた島が今にも笑いそうになっているのを
「何がおかしい・・・
俺だってなんとなく落ち着かないんだよ!!
それに時間なんだろう、ほら行くぞ」
「そんなに照れるなって。
いつもぼさぼさにしているからギャップがあるんだよ」
くくくっと含み笑いをしながら着いてくる。
祭壇に向かって指定されたところへ立ったとき、
「花嫁入場」
という、相原の声がスピーカーから聞こえてきた。
静かに入り口のドアが開き、
父親に寄り添うように花嫁姿のユキが入場してくる。
真っ白なウェディングドレスは
何年も前に買ったものだとはわからないほど、
今のユキに似合っていた。
シンプルなデザインにリボンで出来たレースをふんだんに使ったドレス。
少しずつ近づいてくる姿に見とれていたらしく、
後ろから島につつかれてしまった。
少し手前で立ち止まった二人のところへ近づいて行き、
ユキの手をそっと受け取った。
そっと載せられた手はかすかに震えているようだった。
ユキの父親に目礼をしてから、
二人で静かに祭壇の前まで歩いていった。
祭壇の前に立つと神父様が結婚の義を執り行うことを述べられた。
「これより、古代 進、森 ユキの結婚の儀を執り行う。
古代 進、汝、健やかなる時も、病める時も、
喜びのときも、悲しみのときも、
森 ユキを妻とし、ともに人生を分かち合うことを誓うか」
「はい、誓います」
「森 ユキ、健やかなる時も、病める時も、
喜びのときも、悲しみのときも、
汝、古代 進を夫とし、ともに人生を分かち合うことを誓うか」
「はい・・・誓います」
「それでは、指輪の交換を」
後から島が指輪を乗せたクッションを持って近づいてくる。
クッションから指輪を取り、ユキの左薬指にそっとはめる。
同じくユキもクッションから指輪を取り僕の左薬指にはめてくれる。
一通りの指輪の交換が終わったところで
「それでは誓いの口づけを・・・」
もう一度向き直りユキの顔の前にかかっていた薄いベールを
そっと持ち上げたとき、ユキの目には涙が盛り上がってきていた。
そんなユキの肩をそっと抱き寄せ、口づけをする。
ユキの目からこぼれた涙をそっと指で拭っているところで、
「このふたりを夫婦と認める。
これにて、古代 進、森 ユキの結婚の儀を終了する。
それでは、新郎新婦以外の方は後ろのドアより退出してください。
しばらくしてから新郎新婦が退出しますので
お祝いの用意をお願いします」
結婚式に参加してくれた人たちが静かに外へ出て行く。
ふたりっきりになった祭壇の前で、
「やっと、結婚できたね。
今まで待っていてくれてありがとう・・・」
と、いう僕に、
「ううん・・・いいのよ・・・
だって、進さんの奥さんにこれでなれたんですから・・・
それに、進さんのタキシード姿も見れたもの」
「今回だけだからな。こんな堅苦しい格好・・・
でもこの後の披露宴にはどんな格好をさせられるのか・・・
このまま裏口から逃げ出したい気分だよ・・・」
「まぁ・・・せっかくみんながお祝いしてくれているのに・・・
逃げ出そうなんて・・・」
ユキがちょっとむくれた時に
「逃げ出そうなんて考えるなよ」
後から突然声をかけられて振り向いた。
「島・・・まだ残っていたのか・・・」
「残っていて悪いか・・・
お前が逃げ出さないようにお目付け役だといっただろう・・・
ほら、そろそろ外の準備も整ったようだから覚悟を決めて出て行けよ。
ドアからまっすぐ歩いていけばそこに南部が用意した車があるはずだ。
それに乗って披露宴の会場へ行くことになっている。
俺は違う車で向かうから、もう逃げることは考えるなよ」
「わかったよ・・・まったくお前達は、なに考えているんだか・・・」
ここでも思いっきりため息をついてしまった。
「ここまできて逃げ出すことは出来ないわよね、進さん
それじゃぁ、島さん今日は進さんのお目付け役ありがとう・・・
これからも、迷惑かけるかもしれませんけどよろしくね」
「ああ、夫婦喧嘩の仲裁だけはごめんこうむるよ」
島の励ましなのかわからない言葉を受けてドアの前に立つ。
ドアが静かに開いた。
二人で歩き始める最初の一歩を確実に踏んで行く。
一歩ずつ歩き始めたとき、あちこちから
「古代、ユキ、おめでとう」
「ユキさんの幸せに」
という言葉とともに、
ライスシャワーやフラワーシャワーの飛び交っている道を歩いていく。
ゆっくりと前へ進んでいくと車のドアを開けている相原と、
ドライバーと話をしている南部を見つけた。
「南部に相原・・・おまえたちここでなにしてる・・・」
「何してるって・・・ここから披露宴会場までのお目付け役です。
島さんには先に披露宴会場のほうへ行ってもらいますので・・・
それに勝手に何処かへいかれても困りますから
僕達がついていくことになっているんですよね、南部さん」
「そういうことです、古代さん。
時間もありませんから早く乗ってください」
そういわれて仕方なく車に乗り込むと
「あ、それから古代さん、
この車中からドアが開けられないようになっています。
真田さん特注の鍵ですからいくら古代さんでも開けられませんよね」
そういいながら鍵をちらつかせている。
「お前ら・・・」
「おおっと・・・怒られる前に出発しましょう、南部さん」
「それでは古代さん、ユキさん、出発しますよ。
着くまでお二人でゆっくりなさっていて下さいね」
後部座席につけられている小さなスピーカーから
南部の声が聞こえてきた。
それを聞いてため息をひとつつくと
「大きなため息ね。
南部さんたちに頼んだこと今になって後悔してる?」
「いいや、後悔はしていないよ。
次に何をやらかしてくれるかが問題なんだけどね」
「そうね、何を考えているのかわからないけど
私たちのことを考えてくれているのには違いないわ。
だから今日一日我慢してあげましょう・・・」
「それもそうなんだが・・・
このまままっすぐ披露宴会場に行くとは思わないんだよ。
打ち合わせのときの南部の言い草が気になって・・・」
「え?何を言っていたの?」
「うん、出席者のことを言っていた時にね。
長官や参謀長の名前はあがったんだけど
その他大勢というのが気になって・・・」
「その他大勢って・・・」
そこまでユキが言ったときに
「古代さんつきましたよ」
といいながら相原がドアを開けた。
開けられたドアを出た瞬間・・・
「ここは本部・・・」
ユキと二人で顔を見合わせていると、
「ええ、そうです。地球防衛軍の本部ビルです。
ここのカフェテリアで少し休憩していってください。
30分程度ですが、
本部の皆さんもお二人の晴れ姿を見たがっていたので
ちょうどいいでしょう・・・」
と、言う南部。
「今日、参加できない連中にどうにかしてくれって泣きつかれましてね。
それで、本部にもよることになったんですよ。
披露宴会場のほうでは島さんと晶子さんが準備をしていてくれるので
しばらくここで足止めって言うことです」
相原まで面白そうに言ってくる。
「なんかしっかりおもちゃにされているな俺達・・・
お前たちに任せたのがいけなかったみたいだ・・・」
大きなため息をひとつついたときに、
「早くしてください、皆さんもうお待ちかねなんです」
慌てて本部ビルから職員が出てきた。
「ほら、古代さん、ユキさん急ぎましょう・・・」
相原に促されてエレベーターに飛び乗る。
カフェテリアのある階まで一気に上っていく。
カフェテリアの中は本部に詰めている職員達でいっぱいになっていた。
そんな中を二人で歩いていくと、
「古代さん、ユキさんおめでとう・・・」
「二世の誕生はまだですか」
などいろいろな声がかかってくる。
中央に設けられている椅子に座らせられ、見世物パンダのごとく、
冷やかされたり、羨ましがられたり・・・
あっという間の30分が過ぎていってしまった。
相原と南部が慌てて走ってくるのが見えた。
「古代さん、ユキさん、時間になりましたので行きましょう・・・」
相原たちが道を開けるように言うと自然と花道が出来ていた。
その中を駆け抜けるように歩いていくと
フラワーシャワーが降り注がれるとともに、
お祝いの言葉も降り注いできた。
エレベーターに乗り込み、
もう一度振り返りお礼のために二人で頭を下げた。
披露宴会場で一度控え室に入るように言われた僕達は、
何の疑いもなくドアを開けて一瞬固まってしまった・・・
奥からあらわれた島が、
「今度はこれに着替えてほしいそうだ」
島が指を差した先にあったものは、
シルバーグレーのフォーマルと淡いグリーンのドレス・・・
呆気にとられていると
「さぁ、古代さんはこちらへ、ユキさんはあちらへ」
何もいえないままいわれた通り従っていく。
二人の支度が整ったころ、ひょっこりと顔を出す南部。
「お二人さん準備はいいですか?」
「南部!!これはどういうことなのか説明してもらいたいな」
着替えた衣装に指を指し南部に詰めよると
「だって披露宴では、お色直しって言うのがあるでしょう・・・
途中で席を立たなくていいように
はじめから着替えていただいたんですよ。
そろそろ時間になりますからこちらへきていただけますか?」
そういわれて仕方がなく従って歩いていく。
ドアの前に立たされて、
「古代さん、ドアがあいたらユキさんと入場してきてください。
中央に道が出来ていますから
そのまままっすぐ正面の席へつけるはずです。
相原、古代さんたちの準備はいいぞ」
そう南部が合図を送ると静かにドアが開いていく。
「さあ、古代さん、披露宴の開始です。
何が起こるかわかりませんけど楽しませていただきます」
そう言うと南部は会場の中へ消えていった。
残された僕達は、
「どうする・・・このまま逃げちゃおうか?」
「そんなことしたらみんなに恨まれるわよ。
今日は我慢する約束でしょう・・・
それに、晶子さんから聞いているんだけど、
途中で逃がしてくれるって言っていたわ。
それを信じましょう・・・」
「そうだな、どうせみんな酒が入ると、
俺たちがいてもいなくてもよくなるはずだから、それまで我慢しているか。
その代わり、今日のご褒美たくさんいただきたいな」
頬にキスをひとつ落としたところでスポットライトが当てられた。
「新郎新婦に入場です。皆様大きな拍手を・・・」
わぁぁ・・・という歓声と大きな拍手に迎えられて
中央の花道を歩いていく。
そばを通るときにそれぞれお祝いの言葉をかけられた。
中央の席に着くと、
「それでは、これから古代さん、ユキさんの披露宴を開始します。
無礼講ということなのでどうぞ、
古代さんやユキさんに質問をしていただいていいですよ。
古代さんとユキさんは出来るだけ質問に答えてください。
それでは皆様、グラスをお持ちください。
乾杯の音頭は、藤堂長官にお願いします」
相原に紹介され長官がまえに出てくる。
「堅苦しいことは抜きにして乾杯の音頭をとらせてもらうよ。
古代、ユキ、結婚おめでとう。
いつまでも仲良く幸せに・・・
二人の前途を祝って、乾杯!」
「「乾杯!!」」
長官が席へ着くと、
「それではここから質問タイム・・・ではなくて、
お祝いの言葉を言っていただきましょうか。
まずは、古代さんのライバルで親友の島さん、何かありますか?」
マイクを持って相原が飛び回っている。
「質問というよりお願いかな?とにかく、喧嘩をしてもなきついてくるな。
ユキのことはお前が一番わかっているんだから・・・
ま、時々一緒に酒を飲むくらいなら付き合うが・・・」
わっははは・・・という笑いが広がっていく。
「ほかにどなたかいらっしゃいますか?」
ハイ、ハイと、あちこちで手があがっていく。
「コスモタイガー隊隊長、加藤四郎が質問します。
お二人の初めてのキスはどこでどんな風に済ませたのですか?
兄の三郎も知りたがっていたことなのでお答えください」
「それでは古代さんに答えていただきましょう」
相原が面白そうにマイクを近づけてくる。
「そ・・そんなこと・・・忘れた!!」
ぶっきらぼうに答えると
「忘れたなんてことあるわけないだろう・・・
それではユキさんに答えていただきましょうか。
ユキさんは覚えていますよね」
「・・・・それは・・・内緒ではいけません?」
ユキも言いたくないと見えてとぼけている。
「それでは質問を変えましょう・・・・次は・・・」
「ハイ。お二人が喧嘩をするとどちらが強いんですか?
それで仲直りはどのように・・・」
「徳川・・・そんなわかりきったこと聞くな。見てわかるだろう・・・
古代さんがユキさんの下に引かれているってことは・・・」
マイクを取り上げて南部が言う。
「な、南部!!」
「南部さん!!」
同時に怒鳴ってしまった。
相原の掛け声に次から次へと質問攻めに合ってしまう。
そんなことをしばらくしていると相原も南部も
みんなの輪の中に入っているようだった。
この時を待っていたかのように佐渡先生とミー君がひょっこりと現れて、
「古代、ユキ、みんな楽しそうに飲んでいるのぅ・・・
お前達もそろそろ引き上げる準備をしなさい。
いつまでもこんなドンちゃん騒ぎに付き合っていなくていいぞ。
ほれ、向こうで島と晶子さんが待っているからのぅ・・・
みんなが気がつく前に早く行った、行った・・・」
入り口とは反対のドアの前で手招きをしている二人を見つけて
「島、晶子さん、ありがとう・・・」
「いいから早く行け。後のことはこっちに任せて・・・・
あ、そうそう・・これを渡しておくよ。ヤマトのメンバーからの結婚祝だ・・・
なんでも南の国への旅券と宿泊券だそうだ。
早く荷物を持って出かけないと時間がないようだぞ」
島からチケットの入っている封筒を渡された。
「ユキさん、これ、おじい様から頼まれたものです。
受け取ってもらえますか?」
晶子さんからユキへ小さな包みを渡されている。
「え?これって、この前買い物したときのもの?」
「ええ、そうなんです。
おじい様ったら、何を渡したらいいかわからないって言うから・・・
この前一緒に行ってユキさんが気に入ったものを
買ってきてほしいと頼まれていたの・・・
だからこれは、おじい様からユキさんへの結婚のお祝いです」
「ありがとう・・・晶子さん。長官にもお礼を言っておいてくださいね」
晶子さんとの話が終わるのを待っていたかのように、
「早く行かないとつかまっちまうぞ」
と、言う島の一言で慌てて控え室へ戻っていった。
控え室には、着替えと旅行鞄が準備してあった。
ユキのものはご両親が届けてくれたものらしい・・・
僕のは島が持ってきたみたいだった・・・
出してあった着替えを持ってそれぞれ、更衣室へ向かっていった。
ネイビーブルーのコットンシャツとオフホワイトのコットンパンツ。
見立ててくれたのは島だろう・・・
着替えが済んでユキの出てくるのを待つ。
15分後更衣室のドアが開き
「進さん、お待たせ・・・」
ユキの声に振り向いた僕は何もいうことができなくなってしまった。
「進さん?何びっくりしているの?」
「・・・・・ユキ・・・その格好は・・・?」
「え?可笑しいかしら・・・?」
ユキが自分の服装を見直している。
ユキの服装は、
淡いピンクのコットンシャツとオフホワイトのフレアースカート。
どう見てもペアでそろえたような感じ・・・
「いや・・・似合っているけど・・・
この格好じゃぁ、思いっきり新婚カップルに見えるじゃないか・・・・」
大きなため息をつくと、
「あら、いいじゃない♪私たち結婚したばかりなんだから・・・
それより早く出かけないと飛行機の時間に間に合わないわよ」
ユキにせかされ荷物を持ち部屋から出ると、
笑いをこらえた島が立っている。
「何が可笑しい・・・」
「いや・・・よく似合っているからさ。
その洋服も俺たちからのプレゼントだ。
はじめは南部が用意するといっていたんだが、
あいつの趣味だときっと派手なものになってしまうと想って、
俺が代わりに選んできた。
ま、新婚さんなんだからそれくらいの服装がいいと想ってな」
「ああ・・・ありがたくもらっておくよ。
まったくお前たちにはびっくりさせられっぱなしだ・・・
時間がないから帰ってきてからゆっくり話をつけてやる。
じゃ、いってくる」
「ああ、楽しんで来いよ。土産話まっているから・・・」
お互いの右手をパンと打ちあう。
「島さん・・・ありがとう・・・」
立ち止まってお礼を言うユキに
「いいから早く行けって・・・
今までの分古代に甘えて来いよ」
島とユキの話が終わるのを待ってから
「ユキ急いで・・・・」
用意されていた車へ乗り込む。
車に乗り込んでからほっと一息・・・
「進さん疲れたの?」
「いや・・・ユキほどではないけどね・・・
しかし・・・まだ会場では大騒ぎしているんだろうなぁ・・・」
「そうね、みんな今日のこととっても楽しみにしていたみたい・・・
プレゼントもたくさんもらってしまったし・・・
こんなことでもないと進さんとこんな格好で出かけられないもの」
にこりと笑いかけられて
「今回だけだぞ・・・おんなじ格好するの・・・・」
「はい、はい・・・うふふふ・・・」
ユキの笑い声を聞きながら飛行場へ向かった。
ふたりで前回行った南の島とは違いのんびりとした島だった。
予約されていたホテルは、本館から離れたコテージ。
コテージから目の前に広がる海へは直接出られるようになっている。
「進さん、見て、目の前が海よ。
海岸沿いに歩いてみましょうよ・・・」
荷物をとき窓辺から外を見ていたユキに声をかけられた。
「う〜ん、散歩か・・・
いまからなら間に合うかな?
ここの夕焼けも綺麗だってパンフレットに書いてあったから
いってみようか」
「ええ、行きたいわ。歩いていける距離なの?」
「ああ、往復で1キロちょっとみたいだな。
ゆっくり散歩しながら夕日を眺めるのもいいんじゃないか?」
「そういうことなら早く行きましょう・・・」
ふたりでゆっくりと夕日に向かって歩き始める。
夕日の沈むポイントには色々な人々が集まってきていた。
そんな中に僕たちも混ざって沈み行く夕日を眺めていた。
夕日が地平線に完全に落ちるまで・・・
コテージへ戻り忙しかった一日の疲れをシャワーで流して、
就寝前のティータイム。
「進さん、今日はお疲れ様」
「ユキこそ疲れただろう・・・
あいつらいつまで騒いでいたんだろう・・・」
途中で抜け出した披露宴を思い出して
「ほんと、皆さん大丈夫かしら?
明日お仕事の人もいるんでしょう・・・」
「あいつらのことはほっておいても大丈夫だよ。
それより、ユキ・・・」
ユキのほうに向き直り、
「なぁに?進さん」
「今まで待たせたけど、僕の奥さんになってくれてありがとう・・・
これからもユキに心配かけてしまうかもしれないけどよろしく頼みます」
頭をぺこりと下げる。
「こちらこそ、私のだんな様になってくれてありがとう・・・進さん。
心配するのには、なれてしまったけど、必ず私のところへ戻ってきてね。
ふたりで歩いていくって決めたんだから・・・」
そういいながら僕の胸に飛び込んでくる。
ユキの背中をさすりながら、
「約束するよ。どんなことがあっても必ずユキの元へ帰ってくるって・・・」
ユキのあごを持ち上げ、約束のキスをひとつ。
「約束したわよ。必ず帰ってきてね」
そういってユキからもキスをひとつ。
そっとユキを抱き上げ、寝室へ向かう。
夫婦になってから初めての夜。
恋人時代よりも熱く、互いを求め合って今回の旅行は終わってしまった。
帰国後、お互いの仕事場へと戻っていく二人。
ユキは長官秘書。
僕は、護衛艦の艦長。
今までとあまり変わらない生活が待っていた。