天 使 が 舞 い 降 り た
Chapter 6
いつのころからだろう・・・
私のそばにずっといる子がいる。
神様がおいでになるとき、
目をきらきらと輝かせているけど、
最後にはいつもふたりだけ・・・
あの日から何回も・・・
最初に気がついたのはいつのことだったかしら?
新しいお友達がきても、
いつの間にか私のそばへきている。
お友達と楽しく遊んでいてもいつの間にか
二人だけになってしまっている。
時々寂しそうに遠くを見つめているけど、大丈夫。
きっとあなたのパパとママも待っていてくれるはず・・・
今日、神様はおいでにならないはずなのに、
神様のお部屋のドアがそっと開いて、
天使長様がおいでになった。
周りにいるお友達は気がついていないみたい・・・
ふたりで不思議そうに見つめていると、
天使長様が手招きをしている。
「何か御用ですか?天使長様?」
ふたりでそばによって聞いてみる。
「神様がお前たちを呼んでいる。
こちらへ来なさい」
呼ばれて入っていった大きなお部屋。
ここはどこなんだろう・・・
ふたりでお部屋の中を見回していると、
神様が奥のドアからおいでになった。
白いおひげの神様、
いつも見かける神様とは
ちょっと違うような気がするけど・・・?
神様が私たちの前まで来て、
やさしい微笑を浮かべながら
そっと抱きしめてくれた。
「ずいぶん待たせてしまったようだね。
お前たちのパパとママが待っているよ。
さあ、このゆりかごにお乗り・・・」
そういってさしだされたゆりかごがひとつ・・・
「でも、神様。
パパたちのところへ行くのにひとつ足りません。
私はこの次でかまいませんから
この子を先にパパたちのところへ
連れて行ってあげてください」
隣に立っている子の背中を神様のほうへ押す。
「二人一緒に乗っていくんだよ」
そう私たちに言ってから
天使長様のほうへ歩いていった。
天使長様と何かお話になったあと
ゆりかごがポウっと淡く光った。
光が消えた後ゆりかごの中は
ふたりが乗っても大丈夫なくらい大きくなっていた。
「さあ、ふたりともこれにお乗り。
パパとママのところへ連れて行ってくれるから・・・」
おひげで隠れている神様の口元が
にっこりと笑っている。
「神様はパパたちのことをよく知っている人なの?」
「ああ、よく知っているよ。
ほんとは、
お前たちを地上で待っていたかったんだが・・・
うんと偉い神様がここで会えるようにしてくれたんだよ。
パパたちのこと、二人に頼んだよ」
そういってもう一度抱きしめてくれた。
白いおひげがくすぐったくて、
ふたりでクスクス笑ってしまった。
やさしくてあったかいおじいちゃまみたい・・・
「さあ、今日最後のゆりかごを送り出そう。
皆さん、この子達に祝福をお願いします・・・」
用意されたゆりかごにふたりで乗って待っていると、
心地よい子守唄が聞こえてきた。
どちらかともなく手を繋いで、
静かに目を瞑ろうとしたとき、
神様の声が聞こえてきた。
「ふたりともパパとママのことを頼んだぞ。
お前たちがいれば
あのふたりも無茶なことはしないだろう・・・
いつか遠い未来またここで
会える日を楽しみにしている・・・」
神様の声が遠くなっていった・・・
ヤマトの仲間からプレゼントされた
旅行を満喫してきたふたりは
それぞれの職場へと復帰して行った。
しばらくの間、
宇宙と地上を行ったりきたりしていた僕に
嬉しい知らせが届いたのは
二度目の航海が終わってからだった。
いつものように、宇宙港へ、ユキが迎えに来ていた。
「進さん、お帰りなさい」
「ただいま、ユキ。変わったことはなかった?」
「いつもと同じよ。それよりこれからどうするの?」
「う〜ん・・・ドライブに行くにはちょっと遅いし、
夕食食べに行くには早い時間だよなぁ・・・
買い物して家でゆっくり食事にしようか?
それとも、ユキはどこかへ行きたいところあるの?」
「ううん、別にないわ。
じゃあ、お買い物行きましょうか」
僕の腕を取り駐車場へと歩いていく。
家に帰る途中にあるショッピングモールで
買い物を済ませる。
家についてから、
「進さん、先に汗ながしてくるといいわ。
その間に食事の準備しておくわ・・・」
ユキに言われ、バスルームへ向かい汗を流してくる。
部屋着に着替えリビングへ戻ってくると、
青い顔をしたユキがソファーにうずくまっていた。
「ユキ!どうしたんだ。
具合が悪いのなら病院へ連れて行くけど・・・」
あわててユキに駆け寄りソファーに横たえる。
青い顔をしたままユキが、
「大丈夫・・・病気じゃないから・・・」
「大丈夫って、そんな青い顔をしているのに?」
「ええ・・・食事が終わってから話そうと思っていたのに・・・
進さんが帰ってきたことで安心してしまったのかしら・・・」
ホウっとひとつ息をつき、ゆっくりと起き上がってくる。
ユキの後ろ側へ回り、そっと支えてやる。
「ありがとう・・・進さん。
びっくりさせてしまったわね・・・」
すまなそうに話してくるユキに、
「病気じゃないって言ったけど・・・?」
「うん、病気ではないの・・・あのね・・・」
と、言ったきり話が進まない。
「はっきり言ってくれないと、わからないじゃないか。
帰ってきたときに変わったことはないって言っていただろう・・・
でも今のユキは病人より顔色悪いぞ」
背中からそっと抱きしめユキの言葉を待つ。
しばらく黙っていたユキが
「進さんが今回の航海に出てから気がついたの。
はっきりするまでは言いたくないし・・・
こんな大事なことメールで済ませるのも・・・」
「ん、だから?」
「今日帰ってきたらきちんと伝えるつもりだったのよ」
僕の右手をとって
ユキのおなかのあたりへ持っていきながら、
「ここにね・・・私たちの赤ちゃんがいるみたいなの・・・」
「えっ?」
驚いて聞き返してしまった。
「ユキ、もう一度言って・・・」
「ん、だから・・・私のおなかの中に、
進さんと私の赤ちゃんがいるの」
「ほんとに・・・」
「ほんとうよ。佐渡先生に産婦人科の先生紹介してもらって
ちゃんと調べてもらったの。
そうしたら今、12週目になるのかな?」
「12週目って?」
「ちょうど3ヶ月かしら?
出産予定日が
来年の2月25日前後になるだろうって言われたの」
「って、ユキの誕生日に近いな・・・」
「そうなの・・・・・・
でも、初めては遅れるかもしれないって言うから・・・」
「そうか・・・でもしばらくユキ一人で大丈夫なのか?
今回の休暇3日しかないし、
その後しばらく宇宙勤務になっているはずなんだけど・・・」
「大丈夫よ。明日ママに相談してくるから・・・
食事の準備するときちょっと辛いだけだし・・・」
「お義母さんがついていてくれるのなら安心して行って来られるな。
その後のことは長官に相談して見るよ・・・
今日の食事のしたくは僕がするからユキはここで休んでいて」
「もう落ち着いたから大丈夫なのに・・・」
文句を言うユキをリビングにおいて夕飯の支度を始める。
においのきついものは辛そうだったのでサラダと簡単にできる煮物。
久しぶりの僕の手料理をおいしそうに食べている。
3日間の休暇の間に僕にできるだけのことをしていくことにする。
まずは家の中のことと思って見回して見たが
ユキがきちんと整理してあるのですることがない。
次に僕自身の仕事のこと。
次の航海はキャンセルできそうもないので、
帰ってきてからの仕事を選ぶことにした。
地上勤務、パトロール勤務、護衛艦・・・
できるだけユキのそばで過ごせるように、
地上勤務を選択したほうがいいのだろう・・・
いくつかの希望を出しておいた。
帰ってくるころには決まっていることだろう・・・
そんなことをしている間に休暇はあっという間に過ぎていく。
出航当日の朝
「今日からから2ヶ月、帰ってこられないけど大丈夫?」
「大丈夫よ。悪阻も今のところそんなにひどくないし・・・
調子悪くなったらママがすぐ来てくれることになっているから。
だから安心して行ってきて・・・」
「無理しないで、ほんとに調子悪かったら
すぐお義母さんに来てもらうんだからね。
なんだか僕がいない間無茶しそうで怖いんだけど・・・」
「もう、そんなこといわないで。
検診に行った日には、メールで報告するから・・・」
「わかった。ユキを信じるよ。今日はここでいいからね」
宇宙港まで見送りに来そうなユキにそういうと、
「え?だってエアカー私も使うのよ」
「エアカーには乗っていかないよ。
今回、島も一緒なんだ。だから迎えに来てもらうことになっている。
そうすればユキもあわてないで仕事に出かけられるだろう」
「そう、島さんも一緒なの・・・
なら安心ね。進さん、島さんがいると無茶なことしないから・・・」
「こら、そんなこというな。これからも無茶はしないって・・・
じゃぁ、いってきます」
ユキの頬にひとつキスを落とす。
「いってらっしゃい。気をつけて・・・」
ユキの声に見送られて官舎を出る。
島が車で迎えに来るまで少し時間があったので、
管理人の相田さんにユキのことをお願いしていこう。
相田さんの部屋のベルを押す。
中から女性の声で
「はい、どちら様?」
「古代です。ちょっとお願いがありまして・・・」
「古代さん、今開けますね」
カチャリという鍵をはずす音が聞こえ中から相田さんの奥さんが顔を出してくれた。
「すみません、こんな早い時間に・・・」
「いいのよ・・・
それより何かしら、お願い事って・・」
「ユキのことなんですけど・・・」
「ユキちゃん?どうかしたの?」
「いえ・・・ちょっとお願いがあるだけなのですが・・・
僕もこの休暇のときに始めて聞いたのでちょっとびっくりしてしまったのですが・・・」
なんとなく恥ずかしくなった口ごもっていると
「なに恥ずかしがっているのよ・・・
あ、もしかしてユキちゃんおめでた?」
「ええ・・・それでユキのことお願いしたいのですが・・・
今日から2ヶ月帰ってこれないもので・・・」
「はいはい、わかりましたよ。
古代君がいない間無理をしないように気をつけていればいいのかしら?」
「お願いします。
ちょっと目を離すと無理をしそうなもので・・・
それではよろしくお願いします」
相田さんの奥さんに頭を下げた。
「古代君も無理しないで気をつけて行ってらっしゃい」
見送りの声をかけられもう一度頭を下げる。
島がまっているはずの駐車場へ
待ち合わせた時間ぎりぎりになってしまった。
「待たせたかな?」
島のエアカーに乗り込みながら聞いてみる。
「いや、時間通りだ。
お前にしてはちょっとぎりぎりってところだろうけど・・・
何かあったのか?」
「ん?ユキのこと・・・」
「ユキ?」
「ああ、俺がいない間無理しないように・・・」
「なんだ?調子悪いのか?」
「ん・・・つわりが始まったらしい・・・」
「え?古代それって!!」
「おい、時間がないんだろう?」
「ああ・・・向こうについてから詳しく聞くからな」
怒ったのかぶすっとした顔のまま車を出した。
新型巡洋艦「ブルードラゴン」の点検と新人クルーの乗り組みに
少し時間がかかるようだった・・・
空いた時間でこのテスト航海と新人訓練の計画を立てているところへ
「艦長・・・」
ドアの外から声をかけられた。
「島か?開いているぞ」
返事をすると同時にドアを開け島が入ってきた。
「今大丈夫か?」
「何だ?」
「さっきの続きだ・・・」
立ち上げていたPCを閉じ、島に顔を向ける。
「さっきのって・・・?ユキのことか?」
「ああ・・・つわりって・・・?」
「俺も3日前にはじめて聞いたんだ・・・
何でも3ヶ月になるらしい・・・」
「3ヶ月って・・・そばについてやらなくていいのか?」
「この航海から帰ったら地上勤務になるように申請は出してある。
お義母さんも見に来てくれるとは言っていたが
念のため相田さんにも願いして来たというわけさ」
「ユキもお前と一緒で無茶なことしそうだからな・・・
そばに頼りになる人がいるってことはユキにとっても安心できるんだろうなぁ・・・」
「まったく・・・人を何だと思っているんだか・・・
ま、とにかく、この訓練航海が何事もなく終わってくれるといいんだけどな・・・」
「あまり厳しくすると新人たちに嫌われるぞ」
「お互い様だ。
基本的なことを叩き込んでくれって、訓練学校の校長から言われているからな・・・」
なんてことを言ったとき通信機がなった。
「はい、古代です」
『艦長、新人の乗り組み完了しました』
「わかった・・・すぐ艦橋のほうへ行く」
『お待ちしています』
という通信士の返事を聞いてスイッチを切る。
「さて・・・今回の新人たちはいつまでもつかな」
「明日の訓練、お手柔らかに頼むよ・・・
先に降りてるからな」
「そっちこそお手柔らかにな」
新型巡洋艦のテスト航海と新人訓練も無事終わろうとしている。
事故もなく無事終わったことでほっとしている。
まあ、新人たちにはちょっときつかったかもしれないが・・・
乗組員が退艦してから最後に島とタラップを降りていく。
「そういえば明日南部たちがお前のところへ行くって言っていたけど
聞いているか?」
島に聞かれて、
「いや、聞いていない・・・
と、言うことはあいつら押しかけてくるつもりだな・・・」
「そうみたいだな。ユキの調子はどうなんだ?」
「昨日のメールではだいぶ落ち着いたと、
書いてあったから大丈夫だと思うのだが・・・
何で明日なんだ・・・?」
「南部があさってから月基地へ出張なんだって言っていたな。
それで明日お祝いを持っていくんだって言っていたようなんだけど」
「なんだかんだと邪魔しに来たいみたいだな。
ユキに負担のかからない程度で済ませてくれるのならいいんだけど・・・」
「まあ、それは大丈夫だろう・・・
あいつらだって喜んでいるんだから・・・」
「そうだな、あまり羽目をはずさないように言っておいてくれ」
お互い迎えが来ている人たちのところへ歩いていった。
人ごみを避けるように立っているユキを見つけ
「ただいま、ユキ。調子はどうだ?」
「お帰りなさい、進さん。だいぶ調子はいいのよ」
そういってにっこりと微笑む。
「明日、南部たちがくるってきいたんだけど・・・」
「ええ、今日連絡が来たわ。
あんまり早く連絡すると進さんにだめって言われるからって・・・
それに、何も用意しなくていいって言われたの」
「全部用意してくるからってか・・・
明日、ユキは何もしなくていいからな」
そういってから車のとめてある駐車場へ向かう。
時間通り荷物を持って、元ヤマトの仲間たちがやってきた。
「ユキさん、ご懐妊おめでとうございます。
これは僕たちからのささやかなお祝いの品です」
パステルカラーの箱の中に入っていたものは
白い柔らかな生地で出来ているベービードレスだった。
「まぁ、可愛い・・
皆さん、ありがとう・・・」
ユキが南部たちに向かってお礼を言っている。
「いいえ・・・
それで、これは僕からのプレゼントです」
ユキの座っているソファーの上においていく。
南部のほかにも、お祝いだといってユキの周りに
プレゼントの山を作っていく。
ほとんどがベビーグッズ。
洋服に、おもちゃ、おくるみ。
それぞれ打ち合わせをして買ってきたようだった。
テーブルの上に並べられていた食事と飲み物を
きれいに片付けた仲間たちが
あまり長居はしていけないと席を立ち始めた。
そんな仲間を官舎の入り口まで見送っていく。
トクン・・・トクン・・・
ママのおなかの中・・・
『ねぇ、一緒にいる?』
『一緒にいるわよ』
『よかった。神様がおっしゃったとおりね』
『ほら、また外から声が聞こえてきたわ。
今話しかけているの、ママよね』
『そうみたいね。今は優しい声で子守唄を歌ってくれるけど、
ママってちょっぴりおっちょこちょいなのかな?』
『どうして?』
『だって、時々“キャー”って言っているときあるもの。
そういう時必ず誰かが笑っているの。
きっとパパだと思うんだけど・・・』
『それを言うならパパだって時々何かしているみたいよ。
たくさんのおじ様たちの声の中で
パパが大きな声出しているときあるもの・・・』
『そうね、きっと楽しい人たちに見守られているのね』
『なんだかまた眠くなってきちゃった・・・』
『ママの子守唄気持ちいいわね・・・』
『う・・ん・・・』
「おなかをさすって子守唄を歌っていたら眠ってしまったのかしら・・・
今日からしばらくパパもおうちにいるわよ。
さっきそっとあなたたちに挨拶していたけど、わかったかな?
そろそろ進さんに、ほんとのこと話さないといけないわね・・・」
ソファーに体を預け目を瞑っていただけなのに・・・
いつの間にか眠ってしまっていたみたい・・・
南部たちを見送ってリビングに足を運んで見ると、
ソファーで転寝をしているユキを見つける。
「ユキ・・・そんなところで転寝していると風邪を引いてしまうよ」
そっと声をかけると
「お帰りなさい・・・
いつの間にか眠ってしまったのね。皆さんは無事帰ったの?」
「ああ・・まったく、人の家に何しに来たんだか・・・
ユキは疲れなかったかい?疲れているのならちょっと横になってきたら・・・」
ソファーに腰を下ろしながらたずねると
「うふふ・・・大丈夫よ。
後片付け、みんな進さんがしてくれたから・・・
それより、聞いてほしいことがあるの・・・」
「ん?なに?」
「ちょっと待っていて・・・」
ソファーから立ち上がり小さなかばんを持って戻ってくる。
「あのね、驚かないで聞いてくれるかしら?」
「そんなに驚くことなの」
ちょっと心配になってきてしまう・・・
「そんなに心配そうにしないで。
この前の検診に行く前にこれをもらってきたの」
小さなかばんの中から小冊子のようなものを
2冊テーブルの上においた。
「これ、母子手帳なの」
「え?二冊あるけど・・・」
びっくりしていると、
「そう・・・2冊なの・・・・
最初はもしかしたらって言われていたの。
だけどもう少し大きくならないとわかりづらかったみたいなの。
進さんが長期の航海に出てすぐ検診日だったでしょう・・・
そのときはっきり双子だってわかっていたのだけど、
こんな大切なことメールで言うのもいやだったし、
安定期に入るまではいえなかったの。
妊娠を伝えたときも心配かけてしまったでしょう・・・」
小さな声でうつむき加減に言うユキの肩をそっと抱き寄せ
「いっぺんにふたりかぁ・・・
いいなぁ・・・お前たちは・・・
最初から仲良くママのところへ来てくれたんだね」
少し膨らみかけたおなかをそっとさすっていると
”ピクン・・・ピクン・・・ポコ・・・”
何かが動いたような気がした。
「進さん、動いたのわかった?
おなかの子達からあなたに挨拶しているみたい・・・
さっきまでよく眠っているみたいだったのに・・・」
やさしい笑顔を向けている。
「挨拶・・・ね。
おい、お前たち・・・ユキ・・じゃなくて、ママを困らせるなよ・・・
それからユキも、あまり無理をしないこと。
仕事続けるのならできるだけ無理をしないところへ
変えてもらったらどうなんだ・・・」
「それは大丈夫。双子だってわかったときに長官に伝えてあります。
秘書室に詰めてはいるけど今までのように動き回るところではなくて
長官のスケジュールを調整しているだけなの。
それに、私がやっていた仕事を晶子さんに
引き継がないといけないのよ。
晶子さんも秘書としてがんばっているけど
まだわからないところが多いからそばにいてほしいって言うし・・・
後2ヶ月ぐらいしたら産休に入れるように申請してあるから大丈夫よ」
「そうか・・・
あまり無理するなよ・・・
俺もできるだけ地上にいられるように申請してあるから・・・」
「ありがとう・・・進さん」
もたれかかってくるユキをそっと抱き寄せる・・・
「あと半年後には賑やかになっているんだろうなぁ・・・
そういえば、ユキと結婚式をあげる前の日に
変な夢を見たんだけど、このことを言っていたんだろうか」
「え?何のこと」
びっくりしているユキに夢の話をする。
「結婚式の2日前、ユキを実家に送っていってから
報告がてらお墓参りに行っただろう・・・
そのとき、久しぶりに地下都市にあるマンションへ行ってきたんだ。
あのころハードスケジュールだっただろう。
部屋の中に入って紅茶を飲んだら
ホッとしてしまってそのまま寝てしまったんだ。
そしたら夢の中に、兄さんとサーシャが出てきて、
すぐ賑やかになるって言っていたんだ。
そのときのサーシャの従妹たちって言っていたような気がする・・・」
「私が気づく前にサーシャちゃんには、わかっていたのかしら?
この子達が生まれて、暖かくなるころ
また一緒にお墓へ報告に行きましょう・・・
きっと、守さんもサーシャちゃんも喜んでくれるはず・・・・」
「そうだね、みんなで行こう・・・」
休暇明けからの勤務先が決まったと司令本部から連絡があった。
訓練学校の特別教官・・・
ある程度無理も利くし、ほとんど定時で帰れること、
それと、月に一回1週間程度宇宙空間での訓練もあるという・・・
これでユキの送り迎えもできるだろう・・・
訓練学校で勤務初日からあいつらと会うとは思ってなかったけど・・・
ユキを本部へ送り、郊外にある訓練学校へ車を走らせる。
受付で自分の名前を申告して、自分の向かうべきところを教えてもらう。
特別教官室、僕のほかにも何人か一緒の部屋だと聞いていた・・・
ドアを開け、自分に与えられて机の上の資料を見ていると、
「古代さん」
という声に振り向いてみると、そこには・・・
「南部!お前月基地に出張だったんじゃないのか?」
びっくりして大声を出したしまった。
「やだなぁ・・古代さん。
月基地への出張は一昨日まで。
今日から僕らもここに勤務になったんですよ」
しらっと答える南部に・・・
「僕ら?」
「ええ、加藤が飛行科の特別教官、島さんが航海科、僕が砲術科。
ほんとは相原もこっちへ申請していたらしいのですが、
本部が離してくれないってないていましたよ。
で、ここの室長が古代さん」
「まったくお前たちは・・・
何を考えているんだか・・・・」
「こんな楽しいことみんなで希望を出したんですよ。
でもね、ひよこの訓練にベテランをそんなにつけられないって言うことで
僕らは1ヶ月で交代しますから・・」
「交代って・・・お前たちの他にも来るのか・・・」
「ええ、古代さんがここの勤務を続ける限り・・・」
大きなため息をつきながら頭を抱えてしまった。
「そういうことなのでよろしくお願いしますね、古代教官」
思いっきり人の背中をたたいて自分の机に向かっていく南部に、
「加藤や島はまだ来ないのか?」
「ええ、あの二人は引継ぎが終わってからくるって言ってましたから
明日あたりじゃないですか?」
「わかった・・・それでは、南部教官、今日の訓練計画なんだが・・・」
初日の勤務が終わってユキを迎えに行く。
車に乗り込んできたユキに、
「ユキ・・・南部たちも一緒だって知っていたな・・・」
「うふふ・・・だって、南部さんたちも長官に直接申請しに来るんですもの・・・」
「そうやって君は楽しんでいたのか・・・」
はぁ・・・と思いっきりため息をついてしまった。
「いいじゃない、知っている人たちが一緒なんですから・・・」
「それはそうだけどね・・・」
「進さん、みんなが一緒だからって訓練生達を怖がらせてないでしょうね?」
「怖がらせてはいないと思うけど・・・」
「けど?」
「今日は南部と二人だけだったから砲術科の訓練生を訓練したんでけど・・・
明日の朝起きれるかなぁ・・・」
「まあ。進さんったら・・・
ストレス解消にされて訓練生達お気の毒ね・・・」
「いいの、あいつらのためになることをやっているんだから。
それよりおなかが空いてしょうがないんだ。
何か食べて帰ろう・・・」
「進さんにお任せします。
あ、できれば和食がいいなぁ・・・」
「了解・・」
和風レストランへ向けて車を走らせた。
訓練学校初日、無事終了・・・
翌日から島や、加藤も出勤して来た。
今日の訓練は・・・
「加藤。飛行科の訓練はどうなっている?」
「今日は、テイクオフとタッチダウンを繰り返して訓練です。
その後自分の機体の整備・点検の実地テストをします。
これで合格できない訓練生には基礎講座をもう一度受講させるつもりです」
「あまり無理をさせるなよ。
基礎講座を受けさせるといっていたが?」
「ええ、真田さんにお願いしようと思っています」
「真田さんまで・・・・」
今年の訓練生は特別大変かも・・・
ふと、そう思ってしまう・・・
「島のほうは?」
向かいの席にいる島に声をかけると
「いまだにシュミレーションだ・・・
探索艇クラスの操縦から実践していこうと思っている。
1ヵ月みっちり仕込んでおくから次の訓練航海楽しみにしていろ」
にやりと笑う島に
「楽しみにしているよ。
じゃぁ、それぞれ訓練を行ってくれ。
まずは、昼食時間まで・・・」
各自カリキュラムの書かれた資料を持ち
それぞれの訓練生のところへ走っていく。
昼休み、お互いの情報を交換しながら次の計画を立てる。
毎日、こんなことの繰り返し。
2月に入り出産準備のため実家に帰っていたユキが入院したと連絡が入る。
予定日より少し早い
ユキの誕生日の次の日に元気な双子の女の子が誕生した。
お姉ちゃんのほうはユキに、妹のほうは僕に似た面影がある。
新生児室の前でぐっすり眠っている二人を見つめ、
「僕たちのかわいい天使、美希(みき)と美優(みゆ)。
大きくなったらいろんなこと話してあげるね」
小さくつぶやいてからユキの病室へと足を運ぶ。
「ユキ?お疲れ様・・・」
小さな声で問いかけてみるが、双子の出産で疲れきっている様子。
しばらくそっとユキの寝顔を見ていると、
気配を感じたのか瞑っていた瞳をゆっくりと開ける。
「進さん・・・」
「ユキ、お疲れ様。ふたりの名前決めてきたよ」
「なんてつけてくれたのかしら?」
「お姉ちゃんのほうが美希、妹のほうが美優」
「みき、とみゆ。かわいい名前ね。
ありがとう・・・
これから4人で一緒に歩いていきましょうね」
「ああ、兄さんたちの分まで・・・」
『パパ、ママ、素敵な名前をありがとう』
FIN
(背景・ICON:アンの小箱)