天 使 が 舞 い 降 り た
Chapter 4
久しぶりにゆっくりと眠ったような気がする。
隣にユキの気配がないのに気づき、あわててベッドから起き上がる。
すると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。
ユキが朝食(今何時だ?)の準備をしているらしい・・・
起こされるまでこのままでいようか、それともびっくりさせようか・・・
そんなことを思っていたら・・・
「進さん・・・」
小さな声でユキが寝室に入ってくる。
「ねぇ・・・進さん。そろそろ起きてくれないかしら・・・
そろそろ11時になってしまうわよ・・・」
「う〜ん・・・11時?・・・・
もうそんな時間になるのか・・・
何か予定していたんじゃないのかい?」
すまなそうに聞いてみると、
「いいのよ。進さん疲れているんでしょう・・・
あっ、それから、さっきまことさんから連絡あったわよ。
マリッジ出来ているからいつでもいいから取りに来てくれって・・・」
「ああ・・・わかった。明日にでも連絡して取りに行って来るよ。
ユキは明日仕事だろう?」
「はい、お仕事してきます。
お食事済んだらちょっとドライブに行きましょうよ。
この先休日にはいろいろとやらなければならないことが増えるから・・・」
「やらなければならないことって何だぁ・・・・」
「ふふふ・・・いろいろと。
さっき南部君から連絡があって明日の午前中にうかがいますって、
詳しい打ち合わせしたいそうよ」
「詳しい打ち合わせね・・・
どうせ俺の意見なんか聞いてくれるはずはないだろうけれど・・・」
ブツブツと文句を言っていると、
「いいから、早くしないと日が暮れてしまうわよ。
今朝のニュースでとってもいいところ見つけたの。
進さんも気に入ってくれると思うの。
ちょっと遠いけどそこまでドライブしましょう・・・」
嬉しそうに言ってくるので・・・
「ちょっと遠いって・・・どこまで連れて行けばいいんですか?」
聞き返してみるけど、
「うふふふ・・・内緒。
とにかく、はやく食事を済まして頂戴。
進さんが食事している間に準備しておくから・・・」
そういいながら寝室を出ていってしまった・・・
食事を済ませ、車に乗り込む。
「で、どこまで行けばいいんですか?
行き先を教えていただきたいんですけど・・・」
「あのね、郊外にある緑化公園のひとつに
桜の木がたくさん植えてあるところがあるでしょう・・・
その桜の花が満開になってきているんですって。
満開の桜の花の下をお散歩してみたくなったの・・・」
「今から行って車止められるかなぁ・・・
まあ、俺たちは休みだけど世間一般は平日だから大丈夫か・・・」
安易な考えだったかもしれない・・・
それでも何とか車を止めて公園の中を歩き始める・・・
公園の中はたくさんの人が桜を見物している。
小さい子供づれの人たちもいれば、年を重ねた御夫婦の姿も見える。
人それぞれ楽しいひと時をすごしているようだ。
隣を歩いているユキを見ると、
「綺麗ねぇ・・・
満開の桜、見たのってずいぶん前になるのよね・・・
進さんもそうでしょう・・・」
「そうだなぁ・・・
子供のころ見たきりかな?
家族と出かけたり、友達と桜の花びら集めたり、色々なことをしてすごしていたよ。
あのころは自然の中で遊んでいたけど、小さい子も一緒だったからね・・・
そういうユキはどんなお花見していたんだい?」
「それは・・・」
「まぁ、ユキのことだから近所の子達と駆け回っていたんだろう・・・
そのころから活発に動き回っていたんじゃないかなぁ・・・」
思ったことを口にしてみたら、案の定・・・
「ん、もう!進さんなんか知らない!」
プイッと横を向いてしまった。
「あははは・・・そんなに怒ることないだろう・・・」
先に歩き出そうとするユキの肩を抱き寄せて、
「怒った顔も可愛いよ♪」
と、耳元で囁いてみると、真っ赤な顔をして睨んでくる。
「そんなに睨んだってしょうがないじゃないか。
ユキはユキだろう・・・
それにそんなユキだから好きになったのかも・・・」
自分で言って恥ずかしくなってしまう・・・
「進さん・・・
そんな事いっても何にも出ませんよ。
それより、もう少し歩いてから帰りましょう・・・
来年もきれいな桜が見られるといいわね」
ハラハラと舞う桜の花びらを見ながら散策をした。
休暇だからのんびりできると思っていたけど・・・
そろそろあいつらがやって来るころ。
告げられた時間のしっかり5分前、官舎のエントランスから来客のチャイムがなった。
「はい、どちら様?」
わざと知らない振りをすると、
『古代さん、何とぼけているんですか。
早くあけてくださいよ』
『おい、古代。いい加減あきらめてあけろ。
それでなくてもいろいろなもの持たされているんだから・・・』
「島まで駆り出されてのか・・・
今あけるから上がって来いよ」
そういいながらロックをはずす。
しばらくすると、ドアのチャイムとともに、南部と島の声が聞こえてきた。
「古代さ〜ん、早くあけてくれませんかぁ〜」
「古代、早くしてくれ・・・・」
しぶしぶドアをあけると、荷物を抱えた二人の姿があった。
「南部・・・・その荷物は何だ・・・
それになんで島までここに来るんだ?」
「そんなことどうでもいいでしょう・・・
お邪魔させていただきますよ。
島さん、その荷物もこっちへ持って来てくれますか」
「まったく人使いが荒いんだよ・・・
ほら古代、半分もってってくれ・・・・」
島にそういわれて荷物を受け取りながら、
「こんなに持たされてきたのか・・・」
小声でつぶやくと
「何でもお前に見せながら説明するからって、あちこち引っ張りまわされたんだよ。
ほんとは、相原あたりに頼む予定だったらしいんだが、
あいつ今出張でいないらしくて、それで俺のところに電話がきたんだよ」
荷物をリビングに運び入れてから島が文句をひとつ・・・
先に入ってきていた南部はというと、テーブルの上に資料を並べている。
「古代さん、これ読んでおいてくれませんか?
結婚式当日の古代さんのスケジュールです。
それで、これが島さん、こっちがユキさんの分」
そういいながら次々と資料を渡される。
「おい、南部・・・なんで俺のスケジュールまであるんだ?」
島の質問に対して、
「島さん、付添い人やるんでしょう・・・
だったら当日のスケジュール頭の中に入れておいたもらったほうが
色々とこちらの都合がいいんですよ。
当日主役の一人である古代さんが逃げ出さないように
みはっていてもらいたいんですよ。
俺や相原はほかの事で忙しくて古代さんの面倒まで見ていられないので・・・」
「おい、それはどういう意味だ?
俺が逃げ出すって、何かやらせようとしているのか?」
ちょっとにらみつけて南部に聞いてみると、
「いいえ、別に何もやらなくていいですから
当日そこに書いてあるとおり会場まで来てくださいよ。
後はこっちで指示を出しますから」
渡された資料を見ながら
「ずいぶん早くから会場に入らないといけないんだなぁ・・・
俺が10時までに行くことになっているけど、
ユキのほうはもっと早く行かないといけないんだなぁ・・・
しかし、よくこんな細かくスケジュール組んだもんだ・・」
「それは時間をきちんと書いておけば古代さんのことですから
時間前には来て頂けるでしょう・・・
何か突発的なことが起こっても対処していただけますから・・・」
「はい、はい・・・
言われたとおりにするからあまり困らせるなよなぁ・・・」
小さなため息ひとつ付きながらつぶやいてしまう・・・
「それより古代。ユキは当日どうするんだ?
お前と時間が違うから別々に会場に入ることになるんだろう・・・?」
島の疑問に
「あぁ・・・、ユキは結婚式の二日前から実家に帰ることになっているんだ。
今までこっちで暮らしてきてしまっただろう・・・
けじめをつけるつもりで実家からのほうがいいと思ったんでね。
それにお義父さんやお義母さんとゆっくり話してくるといいって俺から勧めたんだ・・・」
「ふ〜ん、お前にしてはいい考えじゃないか。
今までユキがしてくれていたことを感謝する期間ってわけだ。
ユキのご両親にとっても家族水いらずで過ごす時間なんだな・・・」
「そういうこと」
僕と島の話が終わるのを待っていたように、
「そうそう古代さん、次のパトロール一緒に勤務になりそうですよ。
その時でもゆっくり話すこともできますけど、
その資料だけは目を通しておいてくださいよ。
それと、当日ユキさんが着る“ドレス”と古代さんが着る“フォーマル”
俺が預かって会場のほうに運んでおきますから取りに行かなくていいですよ。
ブーケのほうも、古代さんの知り合いの方と話が付いていますから
こちらの心配もいいです。
それから、古代さん結婚式をはさんで休暇何日取れました?」
「休暇・・・式の二日前から2週間、特別に長官から休暇を頂いているよ。
ユキのほうは確か俺より前から取らせてもらっているらしいけど・・・
それが何か・・・?」
「そうですか。それじゃ大丈夫ですね。
10日前後の旅行の準備もしておいてくださいよ。
それとも、もうどこへ出かけるか決めてしまいましたか?」
そう、聞かれると・・・
「いや、まだ何も決めていない・・・
この前出かけた南の島にでもと思っていただけなんだ・・・
休暇がどのくらい取れるかわからなかったからまだ予約もしてないよ・・・」
そうつぶやいた僕に、
「そうだろうと思って古代さんのスケジュールの確認を取ってきました。
明後日から10日間のパトロール勤務、帰還後2日間の休暇。
その後結婚式2日前まで地上勤務になってました」
スラスラと言う南部に向かって、
「お前・・・よく調べてきたな・・・」
ため息交じりに呟くと、
「そんなこと簡単ですよ。
ユキさんは今どこの部署にいるんです?」
眼鏡を指で持ち上げながら答える。
「そういうことか・・・」
島と二人でため息を吐く・・・
「そういうことです。
それから、結婚式に出席してくれる方々も全部決まりましたから・・・
藤堂長官をはじめ、総参謀長と、元ヤマトのクルー全員。
それとユキさんの親戚の方々・・・
後はその他大勢としておきましょうか・・・」
「何だ、その、その他大勢というのは・・・」
「意味はありませんよ。
ユキさんと古代さんの晴れ姿を見たいという防衛軍職員ですよ。
仕事の都合上結婚式の出られる人数は決まっていますから・・・・
後は当日のお楽しみということで・・・」
僕の知らないところで話が変なほうへ進んでいっているらしい・・・
溜息ひとつついた僕に、
「それでは、私はこの辺でお先に失礼します・・・
島さんはどうするんですか?」
南部の質問にちょっと考えてから、
「もうしばらくお邪魔しているよ。
こいつともう少し話もしたいし・・・」
「そうですね・・・
今までゆっくり話もできなかったようですから・・・
それじゃ古代さん、明後日からのパトロール、よろしくお願いしますよ」
「こっちこそよろしく頼むよ」
そういって南部を送り出した。
ソファーに体を預けている島に、
「まだ、体辛いんじゃないのか?
無理しないで帰って休んだらどうなんだよ・・・」
ぶっきらぼうに言ってみたら、
「ちょっと体力が戻ってないだけだよ。
佐渡先生からは無理しない程度に体力づくりをするように言われているし・・・
それに、ちゃんとインストラクターの指示通りのことしかやらせてもらっていないよ。
お前の結婚式当日までは何とかしないといけないよなぁ・・・・」
当日のスケジュールを眺めながら呟いている。
「あまり無理するなよ・・・
紅茶入れてくるよ・・・」
キッチンで二人分の紅茶を入れてひとつを島の前に。
「なに考えているんだ?」
紅茶に口をつけながら島に聞いてみる。
「お前と出会ってから何年になるんだろうって・・・
あのころのお前は一匹狼だったよな・・・
触れるとこっちが怪我をしそうだった・・・」
「あのころは・・・誰も信じちゃいなかったよ。
中等課程から宇宙戦士訓練学校に入って
ガミラスを叩きのめすことばかり考えていたから・・・
島、お前に出会ってからだよ、少しずつ人を信じてみようと思ったのは」
「それにしてはずいぶん突っかかってきたよなぁ・・・
お前は、何をするかわからないから結構ひやひやして見ていたんだぜ。
クラスの連中と揉め事は起こす。
教官に対してだって自分が納得するまでくってかかる・・・
そんなお前に付き合えるのはクラスで俺だけになってしまったんだよ」
「そういえば、いつの間にか二人で行動していたよな。
宿舎まで同室になって・・・
あれから10年近く過ぎているんだよなぁ・・・」
二人して思い出話に心を弾ませていた。
「なぁ・・・古代」
「ん?何だよ・・・」
「ユキと二人で幸せになってくれよ。
今まで、辛抱強くお前のことを見守ってきてくれたんだから・・・」
「あぁ・・・わかっているよ。
ユキと二人で幸せをつかみに歩いていくよ・・・
そうすれば、島、お前も自分の幸せを見つけに歩いていけるだろう・・・」
「俺の幸せねぇ・・・
見つけることができるんだろうか・・・俺にも・・・・」
「見つかるはずさ、お前にもきっと・・・」
「そうだよなぁ。
しっかり未来を見つめて生きていかないと俺の中の彼女にすまない事になるから・・・
さて、ずいぶん長いこと話し込んでしまったみたいだな・・・
そろそろ失礼するよ。
この次あうときはお前の結婚式当日だな」
「そういうことだ。無理して体調崩すなよ」
夕焼けの中、帰っていく島の後姿を見送った。
夕食準備が整ったころユキから電話が入った。
あわててビジフォンをとると
『進さん、今本部を出たわ。後20分ぐらいで帰ります。
何か、買っていくものある?』
「別にないよ。
今日は迎えにいけなくてごめん。
気をつけて帰って来いよ」
『いいのよ。今日は南部さんたちが来ていたのでしょう・・・
詳しいことは還ってから聞かせてもらうわ。
それじゃあ切るわね』
きっちり20分後
「ただいまぁ〜・・・」
「お帰り、仕事疲れたろ・・・」
いつもとは逆に、ユキのほほへキスをひとつ。
「食事の準備できているよ。着替えておいで・・・」
寝室へ着替えに行くユキの後姿を見送り、ワインの準備をする。
しばらくして部屋着に着替えたユキが出てくる。
「おなかペコペコなの…
お昼食べる時間なくて、コーヒーだけで済ましてしまったから・・・」
「忙しいからって無理してはいけないよ。
今から体調崩していたらユキが楽しみにしている結婚式
また延期になっても知らないからな」
「そんなやわなユキちゃんではありません。
でも、気をつけておかないと笑い話ではなくなってしまうわね。
進さんの手料理も久しぶりだし、いっぱい食べるわよ」
「そんなにあせることないって・・・
たくさん作ってあるから慌てないで食べよう・・・」
一日の疲れをシャワーで流し就寝前のひと時・・・
今日あったことをお互いに話しているうちに、
「そういえば、今日南部さん来ていたのでしょう・・・
何を話していったの?」
「う〜ん・・・それはあんまり言いたくないんだけど・・・
話さないとダメ?」
「何でも隠さないで、話すって約束でしょう・・・
どんなこと話し合ったのか教えていただきたいわ。
私も主役の一人なのよ。さあ、早く・・・」
「わかりましたよ、このお嬢さんを怒らせると後が怖いから・・・
はい、これユキの分。ちゃんと読んでおくようにって、南部がおいていった」
不思議な顔をして受け取ったユキ。
ページをめくっていくうちに困った顔をし始めた。
「何でこんなに詳しく書いてあるの?
まさか進さんももらっているの?」
「そのまさかだよ。俺のほうが細かく書かれているみたいだな。
それに、島も渡されていたから当日ほとんど島と一緒の行動になりそうなんだ・・・」
「島君も・・・
それはきっと進さんのお目付け役でしょう・・・
島君も大変ね。こんな親友持って・・・」
「しょうがないだろう・・・
そんなこといっているけどユキだって何をさせらるかわからないんだぞ。
ほら、ユキの当日のスケジュール見てみろよ。
式場に入ってからは何も書いてないだろう・・・
ウェディングドレスとタキシードは、南部たちが式場まで持ってくるって言っているから
当日まで二人とも出来上がったものは見られないそうだ・・・」
「どういうこと?」
「だからユキにも何か仕掛けているみたいだ・・・
ユキのほうにもお目付け役がいたと思うけど・・・」
「ええっ・・・ほんとだ・・・
誰かなぁ・・・名前かいてないわよ・・・」
「ほんとだ、なにやっているんだろう・・・あいつら・・・
ところで、話は変わるけど、明日ユキは休み取れたのか?」
「それがねぇ・・・
急に予定が入ってしまったの・・・
なんでも長官の親しい人も結婚が決まっているんですって・・・
それで明日、晶子さんとお買い物に行かなくちゃいけないのよ。
お買い物は午後からだから午前中はゆっくり出来るわよ」
「そういうことか・・・
明日の夜には宇宙港に出かけないといけないから、
ゆっくり出来るのは今夜だけなんだけど・・・
ねぇ・・・ユキちゃん。
今日、南部の話、聞いておいたんだからご褒美くれてもいいよね」
ちょっとおどけてユキの唇に軽くキスをする。
「もう・・・なに言っているんです?
ユキちゃん、お仕事してきたから疲れているんですけど・・・」
上目遣いに文句をいってくる。
「そんな疲れなんか吹き飛ばしてやるよ」
そういって、まだ文句を言いたそうにしているユキの唇をふさぐ。
はじめは軽く、そしてだんだんと深く・・・
唇を離して、ユキを抱き上げそのまま寝室へ・・・
今回のパトロールは南部が言っていた通り10日間という変則的な勤務だった。
いつもなら、最低2週間のパトロールに出るのだが、今回は10日間・・・
休憩時間になるたびに、南部から色々とレクチャーされる。
当日逃げ出さないと何度約束させられたことか・・・
毎日同じことを繰り返し聞かされている身にもなってほしい・・・
「古代艇長、そろそろ休憩時間になりますよ。
一緒にラウンジ行きませんか?」
南部に声をかけられて、
「いや、今日は遠慮しておく・・・
毎日お前に言われていることでなんとなく頭痛がする・・・
自室で少し仮眠してくるよ」
席を立ちながらそう答えると、
「気をつけてくださいよ。
あと少しで本番なんですから・・・」
僕にしか聞こえないようにささやいてくる。
「わかっているよ・・・」
逃げるように自室に戻った・・・
そんなことが何日か続いた・・・
地球帰還当日、重い体を気力で動かしていると、
「古代さん、なんか、顔色悪いですよ」
心配そうに南部が聞いてくる。
「大丈夫だよ・・・そろそろ着くぞ・・・」
着陸準備のため、それぞれが自分の仕事に没頭し始める・・・
定刻どおり無事到着すると、ふぅっと小さなため息が出た。
「古代さん、無理しないでゆっくり休んでくださいよ」
「お前たちが邪魔しにこなければゆっくりできるよ。
もう、大体のことは頭の中に入っているから・・・」
そういいながら最後の点検をしていく。
「さあ、俺たちも降りるぞ、南部」
「ほんと無理しないでくださいね。
当日までお邪魔しませんから・・・」
二人そろって到着ゲートへと向かって歩いていった。
ゲートの前ではいつものように、ユキが迎えに来ているはず・・・
ゲートを抜けたところで南部が、
「ユキさん、迎えに来るんですか?」
「うん、来ているはずなんだけど・・・」
ロビーを見渡してみても姿が見えない・・・
そのとき携帯の着信が鳴った。
「はい、古代です」
『進さん、ごめんなさい。
急に仕事が入ってしまって抜けられなくなってしまったの。
定時で帰れると思うから・・・
お迎えに行けなくて、ほんとにごめんなさい』
「いいよ、仕事じゃしょうがない。
ちょうど寄りたいところがあるからエアトレインに乗って帰るよ。
それじゃぁ、仕事がんばれよ」
『進さんも気をつけて帰ってね』
携帯をしまうと
「ユキさん仕事ですか?」
「ああ、急に仕事が入ったらしい・・・
エアトレインで帰るからここで・・・」
そういって別れようとしたら
「エアトレインだったら一緒に帰りますよ。
寄るところって、佐渡先生のところでしょう・・・」
「何でわかる・・・」
「だって、そんな疲れた顔して帰れば、ユキさん心配しますもの。
栄養剤か何かもらって帰るのでしょう・・・
途中で倒れてもいい様につきあいますって。
ユキさんが帰って来る前に家に着きたいんでしょう・・・」
「まったく・・・誰のおかげでこんなに疲れる仕事になったんだか・・・」
ポツリとつぶやき南部の後を追う・・・
「佐渡先生・・・いらっしゃいますか・・・」
鍵のかかっていないドアを開けて中に入っていくと、ミー君相手に一杯やっている。
「なんじゃ、古代か・・・・
ん?顔色悪いな・・・ちょっとこっち来い・・・」
診察室で簡単な診察を受けていると
「佐渡先生・・・古代さん大丈夫ですよね・・・」
南部の心配そうな声が聞こえてきた。
「なんじゃい、南部も一緒だったのか・・・
ただの疲れだろう・・・
まったく、もうすぐ結婚するんじゃからしっかり健康管理してもらえ・・・」
「そんなこといっても・・・
今までこいつとパトロールしてきたんですよ。
そのおかげで疲れも倍になったんですけど・・・・」
ちょっと困った顔をしてみせると
「なんじゃい、南部・・・
またあーでもないこーでもないとパトロールの間言っていたのか・・・
まぁ、ユキにうまいもんでも作ってもらってゆっくりしていれば大丈夫じゃよ。
ほれ、念のためビタミン剤でも出しておくからもらって帰るんじゃな。
結婚式、楽しみにしておるからのぉ・・・
ん?ミー君も出席するか・・・」
冗談ともいえないことをいって笑わせてくれる。
制服を整えながら
「そういうことだからあまり心配するなよ、南部」
「わかりました。その代わり今日は官舎まで送らせていただきますから・・・
もう、下に車ついていると思うので・・・」
何もいわないでくださいと無言のまなざしで見つめている。
「南部もああゆっとる、たまには送ってもらうのもいいもんじゃぞ」
「わかりました。佐渡先生、ありがとうございました。
それから、ココに僕が来たことユキには内緒にして置いてください。
彼女も仕事で疲れているので余計な心配をかけたくないので・・・」
頭を下げ出ていこうとしたとき
「そんなこといってもなぁ・・・
どこからか耳に入ることは確かだぞ。
ユキが帰ってきてからきちんと話すんじゃぞ」
そういう佐渡先生に、もう一度頭を下げ治療室を後にする。
官舎の前まで送ってもらった南部に
「あまり気にするなよ。
まだ2週間近くあるからそれまでには体調戻しておくよ。
ユキが帰ってくるまで、一眠りしているよ」
「そうしてください。
今回、私もちょっと調子に乗りすぎてしまったようで・・・
当日までゆっくりしていてください・・・」
「ゆっくりできるのは2日間だけ。
後は仕事だろう・・・お前も」
笑いながら冗談を言ってみる。
「そうでしたね・・・
それでは、また仕事一緒にできる日を楽しみにしていますよ」
南部の車を見送ってから官舎へ足を運ぶ。
部屋に入ったとたん、ふうっと大きなため息をついてしまった。
処方されたビタミン剤を飲み、そのままベッドに倒れこむように眠ってしまった。
人の気配がして目を覚ますと、心配そうに覗き込んでいるユキの顔が見えた。
「進さん、大丈夫・・・」
「ユキ・・・お帰り・・・」
そういってベッドから起き上がった。
「ちょっと横になったつもりが眠ってしまったんだな・・・
そんな心配そうな顔するなよ。
南部と一緒だったけど、あいつ張り切りすぎてこっちが疲れてしまったよ」
ちょっとおどけて見せたけど・・・
「ほんとになんでもないの?
帰ってきてびっくりしちゃったんだから・・・」
そういいながらベッドに腰をかける。
「ごめん・・・ほんといなんでもないんだ。
念のため佐渡先生のところ寄ってきたけど・・・
疲れが出ているだけだから、
ユキに美味しいもの作ってもらってゆっくり体を休めろって・・・
明日一日のんびりしていれば大丈夫だよ。
明後日には必要な買い物付き合うから・・・」
「無理しないで・・・
何か栄養のつくもの作ってくるから、それまで休んでいて」
ベッドへもう一度横になるようにいわれた。
「いいよ、リビングで待っているよ。
一眠りしたからだいぶ楽になったし・・・
それに、何を食べさせられるか心配で・・・」
「もうっ!!進さんの意地悪・・・
今日はユキちゃん、お預けですからね!!」
膨れて部屋を出て行ってしまった・・・
(膨れた顔も可愛いよ)
と、小さくつぶやいてリビングへ向かった・・・
手馴れた手つきで簡単だが栄養のあるものを作ってくれたユキに、
「美味しかったよ・・・
ユキもずいぶん料理のレパートリー増えてきたよなぁ・・・」
「うふふ・・・
そうでしょ、ずいぶんママに特訓させられたのよ。
特に、一緒に住むようになってからは1ヶ月に1回はママの料理教室へ通っていました」
ペロット舌を出しておどけて見せている。
「そっか・・・お義母さんに特訓してもらったんだ・・・
それじゃぁ、これからも美味しいものたくさん作ってもらおうかな?」
「いいわよぉ・・・その代わり進さんも手伝ってね」
逆にお願いされてしまった・・・
「はい、はい・・・
結局ユキのほうが強いんだよなぁ・・・」
小さくつぶやいた声が聞こえたのか
「何か言った?進さん?」
「いいえ、な〜んにも言ってません。
怖い看護婦さんに怒られる前にシャワー浴びて先に休みます」
キッチンから顔を出したユキの唇にKissをひとつ・・・
「病人はそんな悪戯しないでさっさと寝なさい」
ユキのお小言を背中で聞き流してバスルームへ入って行った・・・
2日間の休日を有意義に?過ごした二人はそろって地上勤務。
2週間後に行われる二人の結婚式に出席予定の人たちから
からかわれながらも仕事をこなしていく。
南部からは結婚式の準備すべて整ったと連絡が来た。
後は当日のお楽しみだといわれ何も教えてはくれなかった。
あっという間に、結婚式の2日前・・・
今日これから雪を実家に送っていくことになっている。
「ユキ・・・準備できた?」
「ちょっと待って・・・はい、お待ちどうさま」
「忘れ物はない?あっても届けることできないよ」
「大丈夫、もう何回も確かめたから・・・
それより、ちゃんとお食事とってね」
「大丈夫だよ、一人暮らしはユキより長いんだから・・・
それより、早く行かないと、お義母さんたち待ちくたびれているぞ」
ユキを車に乗せユキの実家へと車を走らせる。
道の込み具合で変わってしまうが、30分程度のドライブ。
たわいもない話をしながら恋人としての最後のドライブ。
指定されていた駐車場へ車を止める。
「俺はココでいいかな?」
「どうして?一緒にお食事とっていけばいいのに・・・」
「う・・・ん、そういうけど・・・
家族水いらずで、ゆっくりしてくるといいよ。
俺はこれからちょっと野暮用・・・」
ちょっと言いよどんでいると、
「そうね、進さんもゆっくりお話してくるといいわ・・・
守さんたちにもよろしく言っておいてね」
「ありがとう・・・
それじゃぁ、お母さんたちによろしく言っておいてくれよ」
車から降りようとするユキの腕を取り、口付けをする。
ほほを染めたユキからお返しにKissをもらう・・・
「明後日まで親孝行しておいで・・・」
「進さんも・・・」
もう一度Kissをしてからユキを降ろした。
バックミラーに移るユキの姿が見えなくなるまでゆっくりと走り出す。
あさって会えるのを楽しみに・・・
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