天 使 が 舞 い 降 り た
Chapter 2
マコと別れてユキの実家へと向う。
車の中で、マコの事を聞かれた。
「ねぇ、まことさんって同級生なの?」
やっぱり聞いてきたな。
「うん、小学校の頃からのね。あの頃のあいつって女の子みたいだったんだよ。
それで、よくほかの男の子にからかわれていたんだ。
ほら、前に兄貴にからかわれたことあっただろう。おままごとの相手の一人だよ。
近所の小さい子の面倒を見ていただろう、そのときから一緒だったんだ。
はじめは俺も女の子だと思っていたんだ。
手先が器用で花飾りなんか上手に作ってほかの子にあげてしまっていたんだよ。
どうしてあげてしまうのかって聞いたら、だって女の子には優しくしなさいって言われているって言うだろ、
そこで、ああこいつ男の子だって気がついたわけ。
それからからかわれようが二人して小さな子達と遊んでいたんだ」
そこまで言うと、
「でも、いつ再会したの?だって古代君の……」
「え?ああ、気にすんなって。イスカンダルから帰ってきて偶然あったんだよ。
向こうから声をかけてくれたからわかったんだけどね。
その時にはもう、今の仕事を始めていたんだ。
昔から手先が器用だったし宝石のデザイナーになりたいって言っていたから……
ユキもあいつのアクセサリー気に入ってくれていたみたいだから任せてみたんだ。
思っていたのよりいいのが出来ていたから、ユキ、君も満足でしょう」
そっとユキの左手を握った。その手をユキがそっと包み込むようにさわっている。
「ええ、でも最初の電話があまりもの思わせぶりだったから……
『マコ』って親しそうに呼んでいたし、女の人かと思っていたの……」
そんなユキの手をポンポンと軽く叩いて
「もともと女の子みたいな子だったし、
昔からアクセサリー作っては小さな女の子にあげていたから
こういうことをしていても可笑しいとは思わなかったんだ。
さあ、そろそろ着くよ」
とユキに声をかけた。
車を指定されたところへ止め、ユキの両親の住む部屋へ行く。
ドアフォンを押すと、中からユキの母親の声がする。
「ただいま、ママ」
「お邪魔します」
そう声をかけて玄関の中へ入っていくと、そこには嬉しそうに笑っているお義母さんの姿があった。
「お帰りなさい、ユキ。
いらっしゃい、進さん。
さあ、そんなところにいないであがってらっしゃい……」
勧められるままリビングに向うと、そこにはユキの父親が待ち構えていた。
「ご無沙汰しています、お義父さん」
そういって頭を下げた。
「そんなに畏まらないで、さあ、座って、座って……
母さん、何か飲み物を……」
「もう、用意してありますよ」
トレイに人数分のカップを載せて持ってくる。
「進さんは紅茶のほうがよかったのよね。
好みに合うかわからないけど飲んでみて……」
そういいながらテーブルの上に並べていく。
部屋の中に紅茶の香りが広がる。
「いただきます」といって紅茶を一口含む。
「美味しいですよ、ユキもこれくらい頑張ってくれると……」
隣で睨みつけているユキがいる。
「どうせ、私が入れる紅茶は美味しくないんでしょう?
これから紅茶入れるのやめようかしら……」
「おいおい、冗談だって……
「ユキが入れてくれるものは何でも美味しいよ」
あわてて弁解していると、クスクスと笑い声が聞こえた。
その声に二人して俯いてしまう。
「いつも仲のよろしいことで……」
「もう、ママったらからかわないでってば……」
ぷぅっとホホを膨らませる。
「うふふふ」「あははは」
笑い声がおさまるのを待ってから、
「あのぉ、ちょっといいですか」
改まった口の利き方になったしまったが
「今までお待たせしてしまって、大変ご心配をかけましたが、やっと決心がつきました。
僕達二人の結婚式に出席していただけますでしょうか?」
一気に言った僕の顔を見つめながら、
「私たちは何もしてあげる事はもうないと思っていたけど、喜んで出席させてもらうよ。
ねぇ、母さん」
「ええ、喜んで。やっと……やっとユキのウェディングドレスが見られるのね……」
うっすらと涙を浮かべながら微笑んでくれた。
隣に座っていたユキも涙を浮かべていた。
そんな二人の姿を見ていると、今まで待たせてしまったこと申し訳なくて……
ユキの手をそっと握り締めてしまった。
キッチンから楽しそうな話し声が聞こえてくる。
ソファーに座っていた僕に
「進君、少し話をしないか」
手にグラスを持ったお義父さんに声をかけられた。
「はい…」
そういってグラスを受け取ると
「今まで辛いことのほうが多かったけどこれからは自分たちのことを考えていけるようになったのかな?」
「はい、今まで大変ご心配をおかけしましたが、やっと気持ちを切り替えることができるようになりました。
まだまだこれからも色々と悩むことはあると思うのですが、一人ではないということが今回のことでわかりました。
ユキにも、お義父さん達にもほんとにご心配かけました」
そういって頭を下げたところに、
「さあ、食事にしましょう。
お話はその後にでもゆっくりすればいいじゃないですか。
パパもユキの料理どれだけ上手になったか確かめてください」
ユキのお母さんらしい言いかたに、
「もう、ママったら……一言多いんだから。昔みたいな失敗は、もう、してません」
プイっと横を向くユキの姿を見て、くくくっと小さく笑ってしまった。
それを聞きとがめたのか
「もう、進さんまで何よ!!」
「ははは…ごめん、ごめん。
時々失敗するみたいですけどね。
僕の口の入る前にどこかに消えているもので……
痕跡だけは消せないときがあるみたいですけど……」
おどけて答えてみる。
「あははは……」
「うふふふ…やっぱりねぇ……」
二人の笑い声が重なる……
「もう、パパもママもいい加減にして。
だからどれだけ上手になっているか確かめて。早くしないと冷めちゃうわよ」
半分怒ったような口ぶりのユキにせかされて席に着く。
テーブルの上には心づくしの手料理が並んでいた。
「さあ、さあ、冷めないうちにいただきましょう。
進さんも沢山食べてね」
「はい、いただきます」
家族でテーブルを囲んでこれからのことをいろいろと話しをした。
日時や会場は、南部と相原が設定してくれること。
出席者は軍関係が多くなるかもしれないことなどを伝えておいた。
ユキが席をはずしたときに、
「お義母さんにお願いがあるのですけど…」
いいにくそうにしている僕に、
「何かしら?難しいことでないといいのだけど」
「いえ、難しいことではありません。
お義母さんが使っていらっしゃるアクセサリーか何かありませんか?
僕もあまり詳しくないのですが、アクセサリーをデザインしている友人から聞いたことなのですが、
サムシングフォーのひとつで、サムシングオールドというのがあるらしいのです。
それで、お義母さんが使っていらっしゃるアクセサリーを式の当日貸していただけないでしょうか」
一気にいってしまった僕に
「アクセサリーねぇ…何でもいいのよね。探してみるわね。
ユキには内緒にしておくのかしら?」
ニコリと面白そう笑って
「進さんも色々と考えているのね。
それで、進さんは結婚式のときのお衣装きまっているのかしら?」
突然衣装の話を振られてドギマギしてしまう……
「ええっと……今そのことで悩んでいるのです。
ユキにはドレスに合わせてくれって頼まれているのですが……」
言葉をそこで切ってしまった。
「うふふ……進さん、苦手そうですものね。
でも一回きりだから出来るだけお願いしておきますよ」
そんなふうに言われていたところへ、ユキが戻ってくる。
「なあに?パパもママも進さんからかっていたのでしょう?
進さん、先にシャワー使わせてもらう?」
「お義父さん達より先にかい?」
聞き返した僕に、
「明日もお仕事でしょう。
ユキも進さんものんびりしていないで先にどうぞ。
私たちは後からゆっくり入るから」
「それでは先に失礼します」
軽く頭を下げ部屋を後にする。
シャワーを済ませユキの部屋でくつろいでいると、
「進さん、ドア開けてくれる?」
ドアの向こうからユキの声が聞こえてきた。
ドアを開けるとトレイを持ったユキが立っていた。
いつもの癖で寝る前のティータイム。
「お家と違って落ち着かないかもしれないけど…
お茶にしましょう」
いつものように隣に座っているユキに
「やっぱり落ち着かないな…」
ポツリと呟いた。
「ここも、進さんの家になるのだから…
パパもママも喜んでくれてよかったわ…
後は、進さんが私のお願い聞いてくれると嬉しいのだけど……」
「うっ……それは……考えたく無いんだが………」
隣に座っているユキを抱き寄せてそっと口付けをする。
「今日のところはこれだけ、ここではこれ以上は出来ないからね」
耳元で囁いてみると、真っ赤な顔をしたユキが、
「もうっ!進さんったら……
そろそろ休みましょうか。明日の朝はいつもより早起きしてね」
「はいはい。寝不足だとお母さんに何か言われそうだしね」
お休みのキスをちょっぴり熱くユキの唇へ落として……
いつもより少しばかりの早起きをして、ユキの実家を後にする。
司令本部へ向う車の中で、
「近いうちに、南部に連絡入れてみようと思うけど、あいつ今どこにいるか調べておいてくれるかな?」
「南部君?確かどこかの基地に出張中だったと思うわ。
後でスケジュール調べておくわね」
こういう時に秘書として勤めているユキから情報が入る。
司令本部の指定されている駐車場に車を止めて、それぞれの仕事場に向った。
数日後南部と相原から連絡があり、自宅に来るという……
あの二人にあったら勝ち目はないな…
諦め半分で二人を迎えた。
「こんにちは、古代さん」
「お邪魔しますよ」
ドアを開けた途端に入ってくる。
「よく来たって言いたくない……
おまえたち、ある程度計画立ててきているだろう……」
溜息混じりに呟いてみる。
「えぇ、しっかり立ててありますからご安心ください」
そういいながらテーブルの上に書類を広げる。
「披露宴会場のほうは、南部さんが押さえてくれました。
式場は教会、神前、どちらにします?
それによって式場を決めますから…」
と、相原がまくし立てる。
「会場のほうはどんなに人数が増えても大丈夫ですよ。
ほとんどが軍関係者になるでしょうけど…
それから、古代さんの衣装ですが、
僕もここで仕立ててもらっているので、
いいものが出来ると思いますよ」
南部も負けないようにとフォーマルを仕立ててくれる店を紹介してくれた。
「オイオイ…式場は、ユキに任せているからユキに聞いてくれ…
それから衣装なんだが……やっぱりこれじゃなきゃ駄目かな?」
こんなもの着たくないと、顔に出ていたみたいだ。
二人そろって
「勿論、着て頂きます」
「ユキさんからも、古代さんに何とか着せてくれと頼まれていますし、
ほかのメンバーも古代さんの軍服以外を楽しみにしているのですから…」
やっぱり断りきれなかったか…
フゥ…と溜息をもらしてしまう…
「わかったよ…もう、おまえ達に任せろって言われたときから覚悟はしていたけど…
それより南部。おまえのお母さんに借りたいものがあるんだけど……」
「なんです?改まって…」
「別に……改まっているつもりは無いんだが……
南部の家ならとっておいてあるだろうと思って……」
言いよどんでいると
「だから、はっきり言って下さいよ。
戦闘班長らしくないですよ」
「ほら、サムシングフォーって言うのがあるだろう?
それで、おまえのお母さんが使った衣装の一部でも借りられたらと思ったんだけど……」
二人の顔を見ると、ニヤニヤと笑っている。
「へぇ……古代さんでもそんなこと気がついたんですか?」
と、南部。
「古代さんが思いつくわけがありませんよ。
きっと誰かに聞いてきたのでしょう……」
と、相原。
ほんとのことだから何もいえない……
「それで、ほかの物はそろっているのですか?」
と、聞かれたので、
「それは大丈夫だ。
サムシングオールドはユキのお義母さんにお願いしてあるし、
サムシングブルーはこの前渡したのがある。
サムシングボローだけは伝がなくて…」
「サムシングニューはどうするんです?」
と、聞かれたので、
「それは、俺も見ていないものがあるから……」
そういうと、南部も相原も顔を見合わせて、
「それって……」
「…あの時の…」
南部と相原の呟きに頷いた。
詳しい日取りと時間は後日連絡してくれるということで落ち着いた。
暫く話し込んでいたが、相原も晶子さんとの約束があるということで帰っていった。
残っていた南部も
「さっきの話し、お袋に聞いてみるよ。
色々と文句も言いたいと想うけどユキさんのためになるのだから…
それじゃぁ、日にちが決まり次第連絡ください」
そういって帰っていった。
ひとり部屋の中で考えをめぐらしているうちに、眠ってしまったようだ。
人の気配を感じて目を開けてみると、ユキが覗き込んでいた。
「ただいま。こんなところで転寝していると風邪引いてしまうわよ」
「お帰り、ユキ。
南部たちが来ていたんだ……」
ソファーから身体を起こしながら呟いた。
「それで?どうなったの?」
「うん…結婚式を挙げる場所を、教会にするのか神前にするのかって……
それと、ここでフォーマル仕立てておけって……」
テーブルの上のパンフレットを指して、ユキのほうを見てみる。
「うふふふ……断りきれなかったの?
それともまだあきらめていないの?」
悪戯っぽく微笑んで隣に座ってくる。
そんなユキの方を引き寄せて、
「人事だと思って…楽しんでいるだろう…」
耳元で囁くと、
「うふふ…」
そんな笑い声が聞こえてきた。
「そんなに面白いかぁ…
とにかく式場のことはユキに任せるから……
明日は仕事休みだろ?久しぶりにゆっくり出来そうだな」
意味深な言葉を残して抱き寄せていた手を離す。
その言葉の意味をどういう風に取ったのか真っ赤になっているユキに、
「久しぶりに一緒に入る?」
ウィンクひとつ送ってみる。
「もう!お先にどうぞ!」
困った顔をしたユキに手を振ってバスルームへ向う。
ドアを閉める間際に、
「気が変わったら……ね」
ますます赤くなるユキに期待をしつつ???
濡れた髪を拭きながら、
「お先、入って来るの、待っていたのに…」
ソファーに座るユキを後ろから抱きしめた。
そんな僕に、
「だって……お風呂ぐらいゆっくりしたかったの!
それじゃ、入ってくるわね」
抱きしめていた手を解いてバスルームへ向っていった。
そのユキの後姿を見送り、ユキが出てくるまでの間にお茶の用意をしておく。
バスローブに身を包んだユキが、ほんのりとほほを染めて上がってくる。
「お茶、用意してあるけど飲む?」
両手にマグカップを持ってリビングに現れる。
カップを手渡しながら
「お疲れさま」
「進さんこそ、お疲れさま。
相原君と南部君のお相手までお願いしてしまって…」
「しかたないさ、あいつら俺が休みで一人でいるから来たんだよ。
あいつらなりに俺達のこと気にしていてくれているのだろう…」
カップの中の紅茶を飲み干して、
「それより、明日の予定はどうするんだ?
俺としてはのんびり家の中で過ごしたんだけど…」
ユキの肩を抱き寄せながら聞いてみる。
「お買い物にも行きたいけど…
そうだわ、善は急げ、って言うでしょう?
このお店に行って進さんの衣装、オーダーしてきましょうよ」
南部が置いていったパンフレットをさして言う。
「うっ…まだ…早いって…」
しどろもどろになりながら反抗してみても、
「だぁめ、そんなこと言っているといつになるかわからないのだから…
それに、式場は私が決めていいのでしょう?
二人のスケジュールも調整しないといけないし…」
ほほを染めて上目遣いに僕を見つめる。
(やっぱりその瞳、反則だよなぁ…)
ふぅ、と溜息ひとつ、
「わかった…その代わり…」
もたれかかっていたユキの頬を、両手で挟み、そっと口付ける。
「今夜は、付き合ってもらうからね」
ウィンクひとつユキに送ってそっと抱き上げる。
「えっ…ちょっと…」
困り果てた顔も可愛い…
文句を言おうとする唇にもう一度唇を合わせる。
「明日、姫に付き合うのだから、今日のうちのご褒美を戴いておこうと想いまして…
明日だと疲れきってしまうだろうし……ね」
ちょっぴり困った顔をしていたユキも、仕方がないわねと微笑んでいる。
ベッドの上にそっと横たえたユキの上に覆いかぶさっていく。
唇から首筋へキスを繰り返しながら……
バスローブの紐を解きマシュマロのように柔らかい胸にも、キスの雨を降らせる。
ところどころに、小さな赤い花を散らせて…
恋人同士の熱い夜をいつまでも…いつまでも…
気がつくと、腕の中にすっぽりと入り込んでいるユキの寝顔を覗き込んでみる。
(ちょっと無理させたかな?)
スヤスヤと寝息を立てているユキの頬に触れてみると、
「おはよう、進さん。ずいぶん早起きなのね」
「おはよう、そうでもないと思うけど…
今日の予定を考えるとそろそろ起きたほうがいいのかと思っていたんだけど…
もう少しこのままでいる?」
そばにおいてある時計を指して聞いてみる。
「ええっ!もう、こんな時間なの?
大変、すぐご飯の支度始めるわね。
進さんも早く支度してきて頂戴ね」
軽く口づけをしてベッドからでて行ってしまった。
「そんなに焦らなくても…」
その声が聞こえたのか、
「そんなこといっていると、暫くの間ユキちゃんお預けになってもいいの?」
着替えを済ませ真っ赤になりながら言ってくる。
「それは…困るかな……」
ブツブツ言いながら着替えを始めた。
食事を済ませ、しぶしぶ車を出す。
「それで、今日の予定は、南部お勧めの店だけでいいのかい?
それともほかにいくところがあるなら早めにいってくれ…」
半分自棄で呟いた。
「うふふ…今日は南部君の紹介してくれたお店だけで進さん疲れてしまうはずよ。
その後はちょっとドライブに行きましょう。
そんなに遠くまででなく、緑化地区あたりでお散歩なんて素敵でしょうね」
「散歩ね。俺としてはそっちのほうがいいかな…
さて…そろそろ例の店が見えてくるはずなんだけど…
あそこがそうみたいだな」
店の看板と駐車場の案内が出てきた。
指定されているところに車を止め、店の中に入ると、
「いらっしゃいませ、古代様でしょうか。
南部様よりうかがっております。
こちらの部屋のほうへお願いします」
案内された部屋の中へ入ると、三人の女性が待っていた。
「いらっしゃいませ。
早速ですが古代さんの採寸をはじめたいので古代さんこちらのほうへお願いします。
森さんはここでお待ちください。
古代さんの採寸が終わるまでこの者と森さんは打ち合わせをしていてください」
反論する暇も無く隣の部屋に連れて行かれた。
「古代さん、すみませんが上着を脱いでいただけますか?」
言われた通り上着を脱ぐと、メジャーを持った人が指示を出し始める。
肩幅、背丈、袖丈、ズボン丈、終いには、身長まで測られた。
こんなことは防衛軍に入ったとき以来だと小さく溜息をついていた。
「古代さん、ご苦労様です。
これで古代さんの型紙を起こして仮縫いの準備が出来ます。
2週間後にもう一度お越し願いたいのですが、いかがでしょうか?」
「2週間後ですか。帰ってからスケジュールを確認しますので、返事はそれからでもかまいませんか?」
2週間後のスケジュールがどうなっていたか、
このところ変則的なスケジュールを組まれているせいで自分でも把握しきれていなかった。
「かまいません。それでは連絡お待ちしております」
「よろしくお願いします」
簡単に挨拶を交わして部屋の外へ出る。
ユキはというと、ソファーに座ってにっこりと笑っている。
「進さん、お疲れさま。
私のほうも今終わったところなの」
さっきよりも嬉しそうな顔をしているユキに
「ほんと疲れた。2週間後のもう一度来なくてはいけないのだけど…
俺のスケジュール、どうなっていたかユキ知っているか?」
ほんとにしょうがない人ね、という顔をして
「2週間後?
その頃って月にいるのではなかったかしら?
今詳しいことはわからないわ」
「そうだよなぁ…
後で連絡するって言っておいたから、明日にでも知らせておくよ」
そんな話をしているところに、先ほどの人が現れた。
「お疲れ様でした。
いいものが出来上がりそうですね。
仮縫いの後、本仮縫いを済ませて仕上げますので、
出来上がるのが2ヵ月後ぐらいになると思いますがいかがでしょうか」
「大丈夫です。よろしくお願いします」
二人してお礼を言い、店を後にする。
車に乗ってからさっきから気になっていることを聞いてみた。
「ユキ?さっき、君が相談していたのって何?」
聞かれると思っていてらしくユキの返事は、
「内緒。当日の、お・た・の・し・み」
うふふと笑ったきり教えてくれなかった。
「当日ね…ってずいぶん先じゃないか…
服が出来上がる日にちも大体決まったから南部に連絡してみるか」
ポツリと呟いてみた。
「そうね、はっきり決まっていたほうが後々の調整が出来ますものね」
ユキも頷きながら答えてくれた。
「さて、これからの予定はどこへ出かけますか?
といっても、もう夕方だね。
食事をして帰ろうか」
「ええ、美味しいものご馳走していただきたいわ」
恋人同士の幸せな時間を少しでも取り戻そうとしている。
結婚式の日時は南部と連絡取ればすぐにでも決まるはず…
それまでは恋人気分を味わっておこう……