はるのひととき
同じ日に休暇の取れた進は、恋人とのデートにでかけようとしていた。
エアカーのエンジンをスタートさせたとき携帯がなった。
「はい、古代です」
『進、今日、休みだよな』
「休みだけど、これからユキと出かけるんだ・・・」
『悪いが、ユキと俺の官舎へ着てくれないか?』
「何で兄さんのところへ行かなければならないんだよ」
『わけは後で説明するから・・・
30分後に部屋で待っている』
「兄さん!!」
と、進が叫んだときには通話を切ってしまった後であった。
「まったく・・・
俺の言い分も聞いてくれてもいいのに・・・
30分後ってぎりぎりじゃないか!」
もう一度携帯を取り出し、ユキの携帯へかける
「もしもし、ユキ。
俺だけど、今から迎えに行くよ。
ちょっと予定変更して付き合ってくれるかな?
そう、兄貴のところへ・・
じゃぁ、10分後に・・・」
ユキの住む官舎(女性職員用)前で待つユキを拾う
ユキが車に乗ったことを確認した進は車を走らせる。
「守さんから呼び出しなの?
指令本部ではなく自宅の官舎って・・・?
まさかサーシャちゃんの具合でも悪いのかしら?」
「う〜〜ん・・・
詳しいことはついてからはなすって切ってしまったんだよ。
時間まで指定してさ・・・」
「しょうがないお兄さんね・・・」
「お互い防衛軍の官舎住まいなんだけどね・・・
同じ敷地内の官舎だともっと助かるんだけど・・・」
「そうね・・
私のところと守さんのところは、本部に近くて、
古代君のところは宇宙港に近いのよね」
たわいもないことを話しているうちに守の住む官舎に到着した。
車を来客用のところへ止め守の住む部屋番号を押す。
「兄さん、ついたよ」
『進、早く上がってきてくれ・・』
入り口のドアが静かに開く。
部屋の前まで来て
「兄さん、何かあったの?」
ドアフォンを押しながらたずねると
制服を着た守が出てきた。
「進、すまない。
ちょっとサーシャの面倒を見ていてくれ。
急な呼び出しがあってこれ方本部へ行かなくてはいけないんだ」
守るがすまなそうに進に向かっていう。
「いつものベビーシッターの人は?」
「それが、今日俺が休みだから断ってしまったんだよ・・・
そうしたら急に呼び出されちまってなぁ・・・
急遽ほかの人をお願いしようとしたんだけど・・・」
「見つからなかったのか・・・」
すまなそうにしている守に
「いいよ、久しぶりにサーシャ面倒見てあげるよ。
いいよな、ユキ」
「ええ、私もサーシャちゃんと遊びたいわ」
にっこり笑うユキに
「じゃぁ、頼むよ。
お昼は適当に冷蔵庫の中のもの使っていいから・・・」
「夕方までには帰ってきてくれよ、兄さん」
「わかった、出来るだけ早く済ませる・・」
リビングに一人遊ぶサーシャがいる。
サーシャの前にかがみこんだ進が
「サーシャ、何して遊んでいるんだ?」
進の声ににこりと笑顔をみせ手に持っている積み木を進の前に差し出す。
「積み木かぁ〜。上手につめるかな?」
「うん、しゅーくんみて、みて」
進を座らせ、ひとつずつ積み重ねていく。
進の足のあいだにちょこんと座り込んだサーシャ。
何度も積んでは崩すということをして遊んでいる。
ユキも傍らのソファーに座り、叔父と姪の楽しい時間を見守っている。
ILLUSTRATION:ひとみさん
「しゅーくん、おしろちゅくって・・・
うちゃぎのみみちゃんとあそぶの」
「お城かぁ・・・
丸いのと四角どっちがいいかな?」
「んと・・・しかくいの」
「四角いお城だね。積み木を四角く並べて・・・
サーシャが遊びやすいように一箇所開ける・・・」
もくもくと積み木を重ねて行く進に
「あまり高くしてはダメよ。
サーシャちゃんがお城の下敷きにならないていどにね」
ユキが忠告する。
「わかっているよ。それに、そんなの高くつめるほど積み木の数はないよ」
手前を低く、奥を少し高く、最後に三角の屋根を所々に置いて行く進。
「う〜〜ん。こんなものでいいかな?サーシャ」
「ありがと、しゅーくん」
ニコニコしながら遊び始める。
そんなサーシャを見ながらユキが
「そろそろお昼の準備始めるわね。
古代君も手伝ってくれると助かるんだけど・・・」
あまり自信がないユキは進に太助舟を出す。
「いいよ、僕が作ってくるから、ユキはサーシャを見ていて・・・」
サーシャのそばを離れる。
冷蔵庫に何が入っているか確かめて進は
「兄さん、サーシャがいるのに・・・」
ぶつぶついいながら手際よく材料を刻み料理を始める。
10分後
「ほらできたぞ。サーシャ、手を洗ってご飯食べよう。
ユキ、サーシャ頼むよ・・・」
テーブルに食器を並べながらユキに言う。
「サーシャちゃん、おてて綺麗にしてご飯食べましょう・・・
食べ終わってからまた遊べるように、お城はそのままにしておきましょうね」
「は〜い」
ユキに手を火から洗面所へと歩いていく。
しばらくして
「しゅーくん、きれいしてきた」
そういいながら自分専用のイスへよじ登っている。
サーシャがきちんと座ったところで
「簡単なものしけ出来なかったけど・・・
いただきます」
「いたた〜きましゅ」
「いただきます、チャーハンにしてしまったのね」
「おにぎりにでもしようかと思ったんだけどね。
冷蔵庫の中の材料見たらチャーハンしか出来なかったんだよ・・・
もうちょっと食材そろえてあるかと思ったんだけどね」
「そうなの・・・
でも、いつもより味付け薄くない?」
「サーシャ用に薄味にしています。
物足りなかったら胡椒かけるといいよ」
ユキの前に粒胡椒を出す。
「サーシャ、美味しいかい」
「うん」
黙々と食べている姿がどこか守に似ていると思う進だった。
食後遊びの続きを始めたサーシャは
リビングに差し込む日差しで、うつらうつら始める。
そっと抱きかかえお昼寝用のマットを引く。
無邪気な寝顔を覗き込んだユキが
「うふふ・・・可愛いわねぇ・・・
眠っている姿、どことなく古代君に似ているわ・・・」
「そうかなぁ・・・
どことなくユキにも似ているけど・・・」
そう、ユキとスターシアはどこか面差しが似ていた。
サーシャの寝息を聞きながらゆっくりと話を始める。
進の勤務のことやヤマトの仲間のこと。
いつしか進もユキの肩にもたれ寝息を立て始める。
「昨日帰ってきたばかりだから疲れているのね・・」
やさしくささやく声を子守唄代わりに、進の意識は夢の中へ
そんな進を見つめていたユキもうとうとと始めるしまつ。
守が玄関の鍵を開けると同時にサーシャが目を覚ました。
マットの上にちょこんと座っているサーシャに
「ただいま、サーシャ。いい子にしていたかな」
「ぱぁ〜ぱ、おかえりなしゃい。
しゅーくん、ゆーちゃん、ねんね」
ILLUSTRATION:ひとみさん
「疲れているところ、無理やり頼んだからなぁ・・・
しかし、ちゃんと面倒見ていたのか・・・
サーシャ、お昼は何を食べたのかな」
「しゅーくんがつくったごはん」
サーシャの言葉にほっとする。
「進が作ったのか。なら大丈夫だな・・・」
話し声と気配を感じた進が大きなあくびをひとつつきながら
「ふぁ〜あ・・・兄さんお帰り。
いつの間にか寝てしまったみたいだ・・・」
あきれた守が
「まったく、子守を頼んだのに寝ているやつどこにいる・・・」
「んなこといったって・・・
午前中積み木で遊んで、お昼食べさせて、
眠ったサーシャをちゃんと寝かせておいただろう・・・
兄さんはお昼食べたのかよ」
ぶっきらぼうに答える進に
「食べ損ねた・・・何かあるか?」
「チャーハンの残りものならある。
自分で味調節して食べてくれよ。
ほかの用事頼まれる前に帰るから・・・
ユキ・・・兄さん帰ってきたから僕らも出かけよう・・・」
隣で眠っているユキに声をかける。
「あ、お帰りなさい、守さん。
守さんが帰ってきたのならこれで失礼しますね」
守に抱かれているサーシャに
「また遊びましょうね、サーシャちゃん」
そっとサーシャのほほをなでて別れの言葉を言う。
「また、今度ゆっくり来いよ、進、ユキ。
それから進、遅くまでユキを引っ張りまわすんじゃないぞ」
「兄さんじゃないよ。ちゃんと送っていくから安心して
じゃあな、サーシャ、また来るよ」
「しゅーくん、ゆーちゃんばいばい」
車に戻った二人は
「さて、これからどこかへ出かけるって行ってもなぁ・・・
どうする?ユキ・・・」
「お買い物して古代君の官舎でお食事にしましょう・・・
お夕飯は私が作るから・・・」
「それでは、買い物に行って、ユキの手料理をご馳走になりますか」
初めの予定を大幅に変更して恋人たちを乗せた車は、
ショッピングモールへと消えていった。
「ユキの手料理がうまくいったかって・・・
それは皆さんのご想像にお任せするよ。
薬のお世話にはならなかったとだけ言っておくよ・・・」 by進
(背景:幻影素材工房)