Xmas Gift
「10日か・・・まだ早いかな?」
カレンダーを見ながら、ユキは一人つぶやいた。
白色彗星帝国との戦いから一ヶ月・・・
大きなダメージを受けていた指令本部や各宙港は、なんとか機能を取り戻していたが、
人材不足は急になんとかなるというものでもない。
そんな中、修理を終えたヤマトは、再び地球を出発した。
宇宙戦士訓練学校に所属していた200名余の総合訓練――――それが、今回の任務であった。
既に地球を出発してから10日余り。
連日連夜の訓練で、新人達はもうヘトヘトに疲れきっている。
彼らを指導する旧乗組員達の中にも、不調を訴えるものが出てきていた。
もっとも、まだ体調が戻りきっていないまま乗船した旧乗組員も多かったので
無理のないことであるのだが。
その夜、ユキは一人ヤマト農園へ向かっていた。
ユキは生活班の班長として、乗組員達の健康管理に心を砕いていた。
宇宙食もかなり改善され、栄養はもちろんの事、色や形も豊富になってきている。
だが、イスカンダルへの旅の経験から、ユキは栄養管理された宇宙食だけでは
補えないものがあると知っていた。
一輪の花が、新鮮な果物や野菜が、みなの心を潤し元気を取り戻させる事を。
「何か食べられるものが出来てるといいんだけど・・・」
そうつぶやきながらユキはヤマト農園のドアを開けた。
艦内時計はもう12時を回っている。
だが、既に夜用の暗い照明に変わっているはずの農園は、明るい光に満ちていた。
どうやら先客がいるらしい。
「生活班、森です。」
声をかけて中に入ると、先客はのそのそと立ち上がった。
「古代く・・・」
思わずそう呼びかけて、はっとなった。
「・・・艦長代理。」
「艦長代理は止めてくれよ、ユキ。もう、時間外だよ。」
照れくさそうに言葉を返す古代の顔にも、やや疲れが見える。
連日の訓練を課すということは、裏を返せば連日その訓練の準備に追われるということだ。
メインスタッフが効果的に訓練を進めるためのシミュレーションを深夜に行っている事を新人達は知らない。
「こんな時間にどうしたんだい?」
「ええ。みんな段々と疲れがたまってきてるみたいで食欲がおちている・・・って報告があったの。
それで、明日の朝食に果物を出してあげようと思って様子を見に来たんだけど・・・。」
「そうか。みんな喜ぶな。」
にこりと微笑む優しい顔。眼差し。
久しぶりに古代と向き合うユキは、頬が熱くなるのを感じた。
それを隠そうと慌てて後ろを向き、手近にある木に手を伸ばす。
「古代君こそ、何かあったの?」
「ん・・・いや、別に・・。僕も手伝うよ。」
二人はあちこちの実のなる木や草を見て回ったが、残念ながら乗組員全員を賄うには足そうもない。
「やっぱり、もう2,3日経たないと無理みたいね。」
「成長促進剤を使えば、明日に間に合うだろうけど・・・」
「ええ。でも・・・・。」
「それは、使いたくないんだろう?」
「木の生きる力がなくなってしまうんですもの。
残念だけど、明日は見送る事にするわ。」
口ではそういいながらもあきらめきれないらしく、ユキは、まだあちこちの木々を見回っている。
そんなユキの姿に、古代はユキの母親が教えてくれた言葉を思い出していた。
「式が延期になったとき、白いウェディングドレスをそれは寂しそうに見つめていたのよ・・」
あんなに楽しみにしていた結婚式の直前に出航し、挙句、ユキを危険な航海へ巻き込んでしまった。
何とか無事に地球へ帰りついたものの、結婚という華やかさが今の自分にはふさわしくない気持ちがして、
とうとう、古代は結婚をしばらく延期したいと申し出たのだ。
ユキは一緒にいられるだけで幸せだといってくれ、何も変わらぬ態度で過ごしていたのだが、
出航前にある日、彼女の母親がこっそりと教えてくれたのだった。
ユキの細い身体で耐えているその気持ちを思うと、古代は堪らなくなってユキへそっと近づき、
背中からぐっと抱きしめた。
「えっ」
ふいに抱きすくめられて、驚いて振り返ろうとするユキに、古代は囁いた。
「ユキ・・・しばらくこのままでいてくれないか。
顔を見ると、何にも云えなくなってしまうから・・・
ユキ、ごめんよ。
君が楽しみにしていた結婚式なのに、とうぶん延期しようだなんて・・・。
僕のわがままで、君を振り回してしまっているよな。
普通ならとっくに振られているんだろうけれど、君はこうやって僕の側に居てくれる。
そんな君の気持ちに甘えっぱなしで・・・僕は・・・。」
「古代くん・・・」
「でも、一つだけ確かな事がある。ユキ、君を心から愛している。」
ユキはその言葉を聞くと、くるりと身を交わして古代を見つめた。
「私も、あなたを心から愛しているわ。
あなたが何と言おうと、私はあなたの側にずっといる。これからも一緒にいさせてくれるでしょう?」
「もちろん。もちろんだよ、ユキ」
「古代クン・・・・」
第一艦橋では、集まったメインスタッフがパネルを眺めながらため息をついていた。
艦内の状況を映し出すそれはヤマト農園に切り替わり、固く抱き合う二人の映像を映し出している。
「うらやましいなあ。」と南部。
「元気回復にはこれがイチバンだよな」そういって太田もニタニタ笑っている。
「もう、日付が変わったし・・・。そろそろ初めていいんじゃないか?」と云ったのは島。
「準備は完了しています。航海長」
島の言葉をうけて、相原はパネルをいくつか操作した。
その間に南部は真田に命じられて、シャンパンのグラスを運んできた。
「これが技師長特製のシャンパンですか。」
横からグラスに手を伸ばしたのは、機関長の山崎だ。
「ええ。乗り組み前に試験済みですから、安心して飲めますよ。」
「じゃあ、早速・・・」
「古代、もうユキを離すなよ。」
見ていることに気がついたのか、パネルの中では二人がこちらへ手を振っている。
「メリークリスマス!」
みんなは真田の合図で、カチンとグラスを合わせた。
一方。ヤマト農園ではふいに流れてきた音楽にふたりは驚き顔を見合わせていた。
”きよしこのよる”のメロディー
「そうだわ。今日はクリスマスだわ・・・」
「・・・・あいつら、また覗いてたな・・・・」
二人は恥ずかしさと怒りに赤くなったり蒼くなったりしていたが、やがて寄り添いカメラへと手を振った。
「メリークリスマス、ユキ。」
古代はそういって、小さなスミレを差し出した。
どうやら、古代の用件はこれだったらしい。
「これを探しに? ありがとう古代くん・・・お・か・え・し・♪」
ユキからのプレゼントを受け取った古代は、
しばし、二人きりの時間を楽しんだ。
Merry Christmas・・・・
END