Coming-of-age?
2202年・・・1月・・・・・
ヤマト乗務員の大半を占めている若造連中が成人の日を迎えることとなった。
防衛軍の方も英雄たちの成人式に配慮してこの年、20歳を迎える軍職員(戦闘員輸送艦隊乗務員含めて)に休暇を与え軍主催の式典に出席させる手はずを整えた。
ヤマトの乗務員達は強制的にこの式典に出席するよう・・・・お達しを受け取っていた。
「ヤマト乗務員新成人に・・・」コレは軍にとって民間への高感度UPへのアピールであった。
始めは参加を渋っていたヤマトの乗務員達もこれも「職務のうち」といわれいたしかたがなく出席することにしていた。
「おい!!誰か、古代を知らないか?」
軍の独身寮・・・・・
ヤマト乗務員達が憩う寮の中心たるリビング兼食堂・・・・
本日新成人を迎える予定の旧ヤマト乗務員達も各々・・・一張羅をきて集まっていた。
そこに、真新しいスーツに身を包み・・・これまた真新しそうなスーツケースを手に抱えた島が現れた。
「古代さん?知らないですよ?」
いかにもブランドという・・・しかもそれを粋に着こなした南部がイスの背にもたれるかのように島の方に目をやった。
「なんかあったんですか?」
「逃げられたか・・・・」
いかにも忌々しそうにつぶやくと、島は手にしたスーツケースを脇に放り出し、どっかとイスに腰をかけた。
「今日あいつ・・・新成人代表で挨拶をする予定なんだよ。」
「あぁ・・・一応一番上の役職ですからね・・・あの人は・・・俺らの間で・・・」
「だからきちんとした格好をさせようと思っているのに・・・あいつと来たら『軍の式典なんだから軍の制服で出席して何が悪いっ!』
とか抜かして・・・・・ったく・・・・ほぼ全員がスーツで出席するから・・・制服なんかで式典出席などしたら逆に悪目立ちになるだけなのに・・・・」
「わっはっは・・・・・古代さんと来たらスーツにネクタイといった格好が苦手だからな・・・・・・」
島のボヤキに南部が大声で笑い飛ばした。
「笑ごっちゃないんだぞ・・・・直々のお達しなんだ。
『慣例上式典出席時の服装を“軍制服及び式服もしくはそれに相応しい服装とす”としてあるが・・・・代表者の古代には軍の式礼服を着て出席するよう説得して欲しい・・・・』
なんていわれちまったんだよな・・・・藤堂長官に」
「・・・・・ということは?そのスーツケースの中身は?・・・・」
「あいつが作って以来一度たりとも袖を通したことも見向きもしたことのない軍式礼服★」
「・・・で、逃げ出した当の張本人の行き先は誰も知らないのか?」
「あぁ・・・・古代さんなら1時間ほど前に出て行きましたよ。なんでもユキさんをエスコートするそうで・・・・」
「して、その時の服装は?」
「・・・・・・・・・・通常の勤務制服・・・・・」
「やっぱり・・・・・あいはらぁ〜〜〜〜〜★なんだってその時にあいつをふん捕まえておいてくれなかったんだぁ?」
「そんなこと言われても、前もってそのことを知っていたら考えもしましたけど・・・・」
恨みがましくにじり寄る島に相原はたじろぎながら反論。
「ユキの家に彼女をエスコートに行ったということは・・・式典をボイコットする気はないようだな・・・・」
ホッとしたような加藤の一言に一同頷きあう。
こうなったら現地で捕獲を考えても遅くはない・・・・・この連中の一致した考えであった。
「でも・・・・ユキさんどんな格好での出席なんだろうな?」
・・・・・・本人も式典に相応しいとは言い切れない・・・・・皮の上下にビシッと装った加藤が口を出す。
「ワンピースなんかいいなぁ・・・・それもフワァ〜としたスカートの・・・」
「太田・・・もしかしてフレアスカートのことを言ってるのか?そいつはまず、期待薄だな」
「なんで?ユキさんのイメージにはぴったしだと思うんだけどな・・・・それも淡いピンクなんかの・・・・あったかぁ〜い感じの色でさ・・・・
胸元にボアでもついたやつだったらちょっとしたアイドルなんか顔負けの清純さだぜ・・・・少なくとも見た目だけは・・・・」
最後にユキが聞いていたら目をむいてくるような余分な一言をくっつけつつ、夢見ているようにぼぉとした口調でつぶやく太田の肩に腕をかけ、南部はチッチッと舌打ち
「太田ぁ・・・・式典には当然来賓として佐渡先生もヤマトの関係者として出席するんだぞ・・・。そして先生のおまけでいつもくっ付いているのは?」
「あ・・・・・・・アナ公か・・・・・」
「ソッ・・・・そんなアナライザーを喜ばせるだけのような格好をそんな公の席にしてくるようなユキさんとも思えないがな・・・俺としては・・・」
「じゃ、南部はどんな予想なんだ?」
「そうだな・・・・確かユキさん、一人娘だろ?ご両親は目に入れても痛くない・・・・箱入り娘・・・とくれば・・・・・成人式にもリキが入る・・・・!
俺はユキさんの装いは和装とみたね」
「今時ありかな?和装・・・・でも俺見て見たいよな・・・・ユキさんの和服姿・・・・」
「当然あでやかな振袖だよな・・・・きっと・・・」
「清楚な雰囲気が2乗だろうな・・・・・いいなぁ〜・・・やっぱり彼女・・・・」
「古代になんかにゃ勿体無かったよな・・・・やっぱし・・・・」
「俺早くみてぇよ〜〜〜〜ユキさんの正装姿♪」
「俺も」
「もちろん僕も・・・・・・」
一同異口同音。まだ見ぬ仲間の彼女の装いに夢をはせるまだまだ青い新成人たちなのであっ・・・・・
さ・・・・・寂しい・・・・・★
「お前ら・・・・いくらなんでも空しくないのか?」
こちらは・・・・彼女には事欠かない南部・・・そして、遅れて現れた山本(こちらも彼女には事欠かない)が小さくため息をついた。
さて・・・・こちらは無事?島の手から逃げおおせた古代・・・・・
愛しい彼女を出迎えに嬉々とユキの家に現れた。
ピンポォ〜ン・・・・
マンションのエントランスに設置されたインターフォンを古代はうれしげに押した
《はい、森です》
インターフォン越しに聞こえた声は・・・・ユキよりもかなり年長の・・・女性の声だった
「あ、古代です。ユキさんをお願いします」
相手を確認した古代はいつも以上の緊張をその身ににじませつつ・・・・・応えた。
《あら・・・古代さん・・・・ユキの用意もう少しかかりそうなのよ。申し訳ないけど、上に来て待っていてやってもらえるかしら?》
声と同時にエントランスの硬く閉ざされた扉が機械音と共に開いた。
「じゃ、お邪魔します」
「すみませんね、古代さ・・・・・・あら?古代さんは正装ではないの?」
下から上がってきた古代を玄関で迎え入れたユキの母は、古代の装いを見て眉を潜めた。
「え?は・・・・はぁ・・・・・すみません・・・・」
何か一言二言は言われるだろうな・・・・と覚悟はしていた古代・・・・
『やはりな・・・』
とばかりに苦笑いをしつつ・・・・頭をかいた・・・・・。
「もう・・・・成人式なんですからせめて正装で出席くらいしなければダメではないの・・・・。っとに・・・
いくらなんでもそんな仕事着で出席するなんて・・・・・」
ユキの母は古代の上から下へとぶしつけに眺めながら・・・・ブツブツ・・・・
そんな様子の彼女に・・・・古代はいやな予感がしつつも何もいえず、借りてきたネコのように固まってしまった。
「う〜〜ん・・・・そうね・・・・パパのスーツじゃあなたには幅が大きすぎますからね・・・・・どうしましょうか・・・」
一人古代を見つめつつブツブツ・・・・・いい続ける母・・・・しばらくしてポン♪と手を叩いた。
「そうだわ♪パパが若い頃着ていた・・・・・そうだわ・・・あれなら今日のユキの装いにピッタシだし・・・・
うんうん・・・・似合いのカップルになるわ・・・・・ユキのを虫干しする際についでだからって出しておいたし・・・・・古代さん、来てくださいな」
「はい??あ・・・・お・・・お義母さん??」
うもすもなく腕を取られ・・・・・ドンドン引きづられてゆく古代・・・・の後姿を・・・・・
ユキの父はリビングに彼らが入ってきたと同時に目に留めた・・・・
「あ・・・・・お義父さん、おはようございますぅ・・・・」
「あ?あぁ・・・・いらっしゃい」
「そんな挨拶なんかいいから・・・早くいらっしゃい!古代さん」
「わ・・・わかりましたから引っ張らないで下さいっ!お義母さん(汗)」
焦る声を残しつつ・・・古代はリビングの隣室に引きずり込まれていった。
「あら?今、古代君の声しなかった?」
「おぉ・・・・ユキ・・・・」
すっかり支度を終えたユキがリビングから現れたとき、ことが終ったのか・・・始まったのか・・・・
とにかく古代は別室に引きづりこまれた後のことだった。
「すっかり支度できたな・・・よく似合うよ、ユキ」
「ウフ♪ありがとう♪パパ・・・・・で、古代君は?あの人が時間に遅れるはずがないもの・・・来ているんでしょう?」
うれしそうに父の前で一周くるりとかわいらしく廻ったユキは尋ねた。
「あ・・・・・ま・・・・まぁ・・・・・古代君な・・・・来てはいるにはいるんだがな・・・・・」
「何?そのなんか含んだようないい方・・・・ママは?」
ユキはいるはずの母が、目の前にいないことに疑問をもった。
「まさか・・・・・・またママったらなにか余分なこと・・・・」
「んま、失礼ね!ユキ・・・ママは余分なことしてないわよ。さ、古代さん隠れていないでさっさと出ていらっしゃい」
ユキの母に引きずられるように現れた古代の姿を見て、ユキは目を丸くして我が目を疑った。
「こ・・・・古代君?????」
「ウフ・・・・よく似合ってるでしょ?パパが若い頃に着ていたものなのよ・・・・思い出のものだからとっておいてよかったわ・・・・
ユキが着ている着物は私が若い頃のものだし・・・・・まるで20年以上前が戻ってきたようだわ・・・・・ね?パパ♪」
浮かれ気味のユキの母を尻目に若い二人は顔を見合わせてナイショ話
「・・・・似合っちゃいないだろ?ユキ・・・・」
「・・・・そんなことないわ、よく似合ってるわよ、古代君・・・・」
「こんな格好で会場に行ったらあそこでてぐすね引いている連中に何を言われるか・・・・」
「ま、覚悟した方がいいわね・・・・・でも、確かに今日の私をエスコートしてくれるには最高のTPOの装いだわ・・・・」
ユキは華やかにニッコリと微笑んだ。
「ほらほら・・・・いつまでそんなところで立ち話をしているの?早く出かけないと式典に遅刻してしまうわよ・・・・・パパ?パパ!!古代さん慣れてないものを着ていらっしゃるんだから二人を式典会場まで送っていってあげてちょうだいな」
「いや・・・・ちゃんと運転くらいできま・・・・・・とっと・・・・ッタッ!!!」
案の定ソレを着慣れていない古代は裾を思いっきり踏みつけてしまい・・・・・顔面から床に激突してしまった。
「・・・・古代君・・・・この際遠慮せずに送っていってもらいましょ?ね?」
ユキは古代の手をとって助けつつ・・・・彼に提言をするのだった・・・・・・。
式典会場で・・・・・やはり古代はあらゆる意味で目立っていた。いい意味でも・・・・悪い意味でも・・・・・
「素直に最初ッから式礼服を着ていけばそんな目にあうこともなかったのにさ・・・・バカなヤツだ・・・おまえはさ」
その夜・・・・・・昼間マスコミに追いかけられ、渋い顔でインタビューに答えている親友が映るニュー画面を眺めつつ・・・・隣で仏頂面のままうずくまる当の本人をからかう島であった。
「しかし・・・・和装たぁ・・・・・・思いっきり目だってたな、いやいや・・・・・七五三のようでよく似合っていたぞ♪」
「うるせぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
古代の雄たけびが深夜の独身寮に響き渡った★