ようやく終わった航海だったが・・・・・
やり切れない思いだけが残った。
助ける事が出来なかった二つの命・・・・・・
その重さ・・・・・・・
人類滅亡から救ってくれた英雄を迎える雰囲気の中・・・・
ただ古代だけはじっとそれを実感がないような顔で見詰めていた。
ワアワアとはやし立てる歓声すら彼の耳には届かない・・・・・
残った乗組員達が下艦していく中彼はずっと艦長室からその報告だけを聞いていた。
「艦長!残りチーフだけ残ってるが、退艦させて構わないな?」
真田が出て来ない古代を心配して覗きに来た時も彼はただ前を向いて艦長席に座っていた。
「・・・・・・・・・あ、ああ、そうさせて下さい・・・・・・」
返って来た返事も歯切れの悪いもので・・・・・・
「・・・・・・気にするなと言って忘れるヤツじゃないって判ってるが・・・・・
あれはお前の所為だけじゃない・・・・・・
ちゃんと動くか最終点検を怠ってた俺の所為でもあるんだぞ」
「・・・・・・・真田さん・・・・・・・」
「お前はホント優しいヤツだよ・・・・・・古代・・・・・
忘れるよりは覚えてる方がいいと思うぞ」
真田は古代の肩を軽くポンと叩いて艦長室を後にした。
艦長室に備えられた各部署の表示ランプが一つずつ消えていく・・・・・・
出発前は一つずつ点灯していくのを見ていたと言うのに・・・・・・
全てのランプが消え・・・・・・
ドック内の僅かな照明だけが艦長室を照らしていた・・・・・・
にぎやかな喧騒は消え・・・・・・
ドック内もその周りも警備員だけが行きかっていた。
乗組員達が下艦する際に司令本部から古代用にエアカーが迎えに来ていた。
この度の航海に関する報告と報道の為である。
危機を何とか脱出する事が出来た地球連邦幹部は今までの不満を解消する為にもヤマト帰還を宣伝しそれによって矛先を変えようと画策していたのだが・・・・・
古代はそれを良しとはしなかった。
翌日以降の出勤を早々と決めると報告書のあらましをPCで送って送迎を辞退したのである。
艦長である自分がさっさと退艦してしまうのはおかしい・・・・・・
今までの慣例どおり最後に退艦するともっともらしい言い訳までつけて・・・・・・
照明の落とされた艦内を見回り・・・・・・
最後に一礼してタラップを降りた古代の前に・・・・・・・人影が現れた。
「ユキ・・・・・・」
「ご苦労様でした。艦長・・・・・・」
穏やかな笑みであったがまだ生活班長としての態度は崩していない・・・・・・
「・・・・・・・・・お疲れ様」
公私の別をつけようと提案したのは自分である。
今までの航海とは違うのだ。
艦長と言う責任も大きい立場の自分が恋人に甘えてどうすると・・・・・・・
だがしかしいつも以上に彼女に助けられていた。
彼女の存在がこれほど大きな航海はなかった。
前回の航海で不安にさいなまれ眠れなかった日々を思えばただ同じ艦にユキがいると言う事実だけで助けられていた古代である。
ドックを横切り最終ゲートをくぐってエアカーへ向かった時に古代はユキの手を握ると早足で歩き出した。
「こ、古代くんっ!」
驚いてそれでも歩調を合わせるようにユキが付いて行く・・・・・
乗り込む前一人乗って来たエアカーにユキを押し込むと古代は何も言わずに発進させた。
外は一面の星空が二人を包み込むように輝いていた。
今まであの星空にいたなんて信じられないほどに・・・・・・・
だがその流れる星空すら古代の目に入ってないらしく・・・・・
制限速度ギリギリでエアカーを走らせていた。
「・・・・・・実家明日送っていく・・・・だから今日は・・・・・・」
続かない言葉・・・・・合わない視線・・・・・・
だがその続きはユキに確かに伝わったらしく真っ赤な顔で小さく頷いたのがバックミラーに映った。
二人はそれから何一つ話さなかった。
エアカーから降りる時も古代の官舎に入っても・・・・・・・
何一つ散らかってないリビングにはテーブルの上に一通の手紙が置いてあった。
白い封筒に宛名すら書いてないそれは古代が長期の航海に出る時に必ずしたためるもので・・・・・
さっとそれを取るとサイドボードの引き出しにしまい込んだ。
そんな事しなくてもユキにはバレているのだが・・・・・
それでも見られたくない物の一つではある。
しまったと言う顔をして古代はそのまま台所へ消えた。
ユキはクスクス笑いながら閉まったままのカーテンを開けた。
メガロポリス近くにある官舎からはドッグの帰りに見たほどに星空は瞬いてはいない・・・・・
一等星が瞬くその星空を眺めていたユキの横に紅茶の香気を漂わせて古代が近づいてきた。
「そんな光景・・・・・・ヤマトから見慣れてるだろ・・・・・・」
ぶっきらぼうに言う古代に微笑みながらユキはカップを受け取って
「全然違うわ・・・・・こことヤマトでは・・・・・」
と言った。
女性の考えてる事は判らない・・・・・
古代が見てもその違いは判らなかった。
それよりもメガロポリスが近づく度に人々が暮らす街灯りを見た時に機械が作ったその灯りにホッとしている自分を感じていた。
あの灯り一つ一つにそれぞれの暮らしを営む人がいて・・・・・・
太陽の核融合が進んでいた地球であってもまだそんなに夜だと言うのに気温が下
がってない中でも・・・・・・
人々の暮らしは変わりなく過ぎて行って・・・・・・
それを守れたんだと言う充実感がやっと胸に実感出来た。
いつか・・・・・・いつの日か同じようにキミと・・・・・
結婚を考えて長い時間共にいる彼女と同じように日々の暮らしを送れたのなら・・・・・・
そう思って愛しさがこみ上げてくるのを感じてそっとユキの肩を抱き締めた。