CONSCIOUSNESS(自覚)



                                                                                              by  秋月 紗羅さん


「そこにいたのね・・・探したわ・・・」

後ろから聞こえてきたユキの声にも振り向こうとはしない・・・ 

「突然医務室からいなくなるんですもの・・・びっくりしたわ・・・」

近付いてくるユキに進の態度は変わりがなかった。



「俺が何処にいようと勝手だろ・・・」

拗ねたような声・・・そんな声を聞いたのは随分久しぶりの事である。

「今日は医務室にいてくださいって言いましたよね・・・艦長」

「あそこにいると気が滅入る・・・だからここへ来たんだ・・・」

そこは側方展望室であった。

進はよく気分転換にここに来る・・・そしてずっと星を眺めていた。

「艦長室から見る星とここで見る星・・・一緒のはずなのに何故か違って見える・・・」

呟く声・・・

「ここで見る星はキラキラと輝いていて・・・まるで君みたいだ・・・」

進は横に立っているユキを見た。

「ここに来ると君が来そうで・・・だからなんとなくここへ来た・・・」

医務室での触れ合いが進を変えていた。

柔らかく微笑む彼は艦長ではなく・・・古代進だった。



「古代くん・・・」

「やっとそっちで呼んでくれたね・・・嬉しいよ」

進はそっと肩を抱き寄せた。

「君にも心配かけた・・・俺一人の問題じゃなかったのに・・・一人で解決した気がしていた・・・ごめんね・・・」

「いいのよ・・・貴方が悩んでいる事は知っていたから・・・」

二人は互いの目を見た。そこにはお互いしか映っていなかった。

顔が近づくのがわかる・・・だが進は手前で止めた。



「おっと・・・ここまでだ・・・君にキスできるのは俺じゃない・・・ただの古代進だ・・・戻るよ・・・」

進は何事もなかったかのように立ち去って行った。(しても良かったのに・・・)ユキは一人呟いた。



居住区にある医務室に向かって歩いていると一つの部屋から明かりが漏れているのに気がついた。

「平田・・・」そこは生活班の補助ルームだった。

「艦長・・・どうしたんだ・・・今日は医務室じゃ・・・」

「散歩行ってた・・・ユキにも言われたよ・・・」

「お前本当に頭が上がらないな・・・」

進は照れたように笑った。

その顔は昨日までの進とは違っていた。

「笑えるようになったんだな・・・」平田は呟いた。

「どうにかな・・・所でお前・・・こんな時間まで起きているのか・・・」

「次の探査のときに食材補充をしておきたくて・・・それで調べてた」

平田の手元には分厚い資料が握られていた。

「それ・・・読んだのか・・・」

進の顔が瞬時に変わる・・・それは進が作った調書だった。



「良く出来ている・・・他の恒星系の植物についてこれほど詳しく載っている資料は何処にもない・・・」

平田はパラパラと捲りながら言った。

「他の調書の片手間に書いた物だから・・・そんなに詳しくはない・・・」

進がぶっきらぼうに言う時・・・それは照れ隠しである事が多かった。

「だが助かる・・・自分で調べている時間はないからな」

平田が言うとやっと進の表情が元に戻った。

「役に立ったのならそれでいい・・・だけど他には見せるなよ・・・」

進はそれだけ言うと医務室に向かって歩き出した。



(わかっているのだろうか・・・)平田は思う・・・

生活班が植物について調べるときその調書を元にしている事を・・・

彼が今も植物について調べている事を誰もが知っていることを・・・

彼が植物の話しをしている時の顔が嬉しそうだという事も・・・



進が医務室に戻るとしかめっ面をした佐渡が待っていた。

「先生・・・」

「艦長・・・無断はいかんよ無断は・・・」

「すみません・・・すぐ戻ってくるつもりでした・・・」

進はそのまま大人しくベッドに横になった。

「動くなとは言わん・・・そう言ってじっとしているお前さんじゃないってことぐらいわしは充分承知している。

だが休める時には休んでおけよ・・・今は緊急時でもなんでもないんじゃからな・・・」

「先生・・・ありがとうございます・・・」

「無茶をするのはヤマトの伝統みたいな物だからな・・・」

「そうですね・・・」

進は佐渡が沖田のことを言っているのだと思った。あの人のようになりたい・・・

だけど自分は古代進でしかなく・・・それに気がついた進であった。



自分がやれるようにやろう・・・そう思いきった進は見違えるほどであった。

頻繁に出ていた溜息は消え自信に満ちた態度が戻ってきた。

まだユキとの関係はギクシャクしたものだったがそれでも最初の頃とは違ったように見えた。



「あいつも分かって来たみたいだな・・・」

真田は島に話し掛けた。

「みたいですね・・・こりゃうかうかしてられませんよ」そう言う島の声は嬉しそうだった。

近頃ユキの態度が柔らかくなったと噂がたった。

そしてその横で微笑む艦長の姿を見かけると・・・

その噂が流れるようになるのはヤマトが正常に機能している証でもあった。