パーティーの後は・・・
仲間達とわいわい騒いだパーティー会場をこっそり抜け出すことに成功した二人。
預けてあった荷物を持ち、逃走用に用意してあったエアカーに乗り込んだ。
「この車だれが用意してくれたの?」
と、聞いてくるユキに、
「さっき、兄さんが今夜の泊まるところは心配するなって鍵をくれたんだ。
それがさっきクロークに渡したカード。
その中に入っていたのがこの車のキーとこれからでかけるところのホテルのカード」
ポケットからおもむろに出して見せた。
「着替えはさっきの更衣室から兄貴に頼まれていた人がこの車に積んでおいてくれたから心配ないよ。
それに、そのドレス姿もう少し眺めていたいからこのまま行くね」
そういって、そっと引き寄せキスをひとつ。
するとどこかでフラッシュが焚かれた。
あわてて窓の外へ視線を移すとそこに立っていたのは・・・
「南部、相原、ま〜たお前達か・・・」
あきれて何もいえない。
「ええ、また僕達ですが、今回は写真だけではないので、ご報告だけしておきます」
「後のお楽しみは、そうですね。お二人の結婚式のときまでこちらで預かっておきますので。」
といって、そそくさと走って逃げ出すふたり。
「おい!結婚式って・・・」
講義しようとしてドアを開けたが後の祭りである。
「写真以外って?」
「通信班長と砲術長の考えそうなこと。
どこかに隠しカメラでも隠してあるんだろう?」
何回同じことをすれば気が済むのやら・・・
「しょうのない二人ね。
でも、結婚式っていつになるのかしら?」
にっこり笑った顔がとても眩しくて
「はいはい、そのうちに。もう少し考えさせてくださいな。お嬢さん」
そういって車を出した。
兄貴の用意してくれたホテルは郊外に建つコテージ。
二人だけのパーティー開始。
兄貴が用意してくれたものだろうか?
テーブルの上にワインが置いてあった。
今日は何かの記念日たったかな、なんて思いながらワインの栓をあけた。
二つのグラスに注いで、一つをユキに。
かちりとグラスを合わせて飲み干す。
グラスを持ったままユキのドレス姿を見つめていると
「なあに、そんなに見つめて・・・」
ほんのりほほを染めながら訪ねてくる。
「いや、そのドレスさっきも言ったけどよく似合っているなぁと思ってね。」
ウィンクしておどけて見せる。
「そういう古代君だって、似合っているわよ。そのスーツ。
でも誰が見立てたのかしら・・・」
そういって考え込んでいる。
「どうせ、兄貴あたりじゃないかな。俺やユキの好みはわかっているはずだよ。」
グラスをテーブルに置きながらそう答えた。
「そうね、守さんの趣味はとってもいいもの・・・」
上目遣いに僕のほうを見て何かいいたげなユキに
「どうせ俺には出来ないことですよ」
ちょっと拗ねてみる。
「そんなこと、期待していません。でもね、今日はちゃんと誉めてくれたから・・・」
お礼よという意味でキスをひとつ。
「ワインもう少し飲む?」と言いながら僕のグラスにワインを注ぐ。
「そうね、もう少し頂こうかしら」と言ってグラスにワインを注ごうとする手を押さえて、抱きしめる。
「ワインなら僕が飲ませてあげるよ」
グラスを持ち上げワインを口に含む、びっくりしているユキの顎の手を掛けそのまま深い口付けをする。
コクリとユキののどがなるのがわかった。
「もう一口いかが?」と悪戯っ子のように微笑むと、真っ赤な顔をしたユキが小さくうなずいた。
引き寄せてもう一度深く口付けを交わす。
そのままユキのドレスのファスナーを下ろした。
衣擦れの音と共にドレスが足元に落ちる。
そのまま抱き上げてベッドへ・・・
その後は・・・・・・
二人だけの世界へいつものごとく・・・
長い秋の夜を誰にも邪魔をされずに堪能?した二人のお目覚めは?
そっと覗いてみたいと思いませんか?
それでは、みなさんドアを開けましょうか?
夜遅くまで、色々と楽しんだ二人はまだ、夢の中。
気持ちよさそうに眠っているけどそろそろ起きたほうがいいような気がしますよ。
「こだい・・・く・ん・・・・・・。ねぇ、古代君そろそろ起きて」
遠くで呼ばれている気がしてうっすらと目を開けると、目の前にユキの顔・・・
「おはよう」と言って優しいキスが降りてきた。
「おはよう、ユキ」と僕も言ってそのまま抱き寄せてもう一度キスをする。
「もう、いつまで寝ているの?そろそろ起きないと・・・・・・」
と、言いかけたときにドアベルが鳴った。
あわててユキがドアのほうへ駆けていく。
ユキの応答でドアの外に居るのは兄貴らしい・・・
ベッドの中に居た僕はあわてて洋服に着替えた。
「どうぞ、入ってください。古代君、守さんがいらしてますよ」
ドアから聞こえるユキの声に
「兄さん、朝から何のようだい?」
不機嫌そうに答えた。
「いや〜、悪いな。休暇明けの仕事について昨日言いそびれたから伝えにね」
おどけて言う兄貴をちょっと睨みながら、
「今のプロジェクトの仕上げじゃないの?」
と聞き返した。
「今お前がやっているプロジェクトは、大体終わっているだろう。
後は、技術的なことだと聞いている。
そこで、この休暇が明けてからしばらくの間、俺の補佐として何ヶ所か基地の視察に付き合ってもらおうと思っているんだ」
「しばらくって、どのくらいの期間なんだよ」
参謀の説明を聞く態度じゃないけど・・・
「一ヶ月ぐらいの予定だ。その間ユキには淋しい思いをさせてしまうかな?」
そう言ってユキのほうを見る。
「そんなこと・・・今までだって一ヶ月近く宇宙勤務で居なかったことがありますから」
そう言って僕のほうを見る。
「兄貴のお供ね。早い話が飛行艇の運転手だろう?
嫌だって言っても長官命令だって言うんだろ?」
「そうだ。古代進、長官命令を伝える。
11月20日より古代守参謀と共に宇宙基地の視察を命ずる」
参謀として響く兄貴の声に対して
「わかりました」とだけ答えた。
その答えを聞いてほっとしたように
「出発まで2日ほどある。ゆっくり休暇を楽しんでくれ」
そう言って部屋を後にした。
「ふう・・・いきなり何を言いにくるんだか」
溜息交じりの言葉がもれる。
「いいじゃないの。たまにはお兄さんと二人だけって言うのも」
楽しそうに微笑んでいる。
「そう言ってもなぁ。兄貴と一緒に仕事をすることになるとは思っていなかったから・・・
一ヶ月も基地めぐりとは、ね」
そういう僕のほうを見ながら
「あら、宇宙にいけるのよ。あなたのだ〜いすきな。
一ヶ月なんてすぐよ、来月帰ってきてから休暇をたっぷり貰えばいいじゃないの。
それより、休暇が少し延びたんでしょう?
どこか出かけましょうよ」
「ユキと出かけるところって決まっているからなぁ。
買い物にでも行こうって言うんだろ?
僕としては買い物よりこっちのほうがいいんだけど・・・」
いきなり抱き寄せ深いキスを送る。
真っ赤な顔をしたユキが
「もう、そんなことばかり言う古代君なんか・・・」
文句を言う唇をもう一度塞ぎ、
「明日、どこにでも付き合うからいいだろう?
一ヶ月もユキに逢えないんだから・・・」
小さくうなずいたユキを抱き上げベッドへ。
後はもう周りの事など気にすることもできない。
そんなことをしていた午後のティータイム。
「明日のことなんだけど・・・」と、紅茶を飲みながら呟いてくるユキ。
「どこへでも付き合いますよ。約束しましたから・・・」諦め半分で答えた。
「もう!どうしてそういう顔するの?
守さんとの視察で必要なものを買いに行きましょう。
それに、サーシャちゃんのお土産も買いたいの・・・」
「サーシャにって・・・どこに居るかも教えてくれないのに・・・
でも、ユキの気が済むならサーシャのお土産一緒に探そう。
ちょっと早いクリスマスプレゼントだと思えばいいんだから」
午後のティータイムのひと時の優しい想い。
ユキと僕から可愛い姪っ子のプレゼント探し……
午前中にチェックアウトをして買い物に出かけた。
平日だというのにショッピングアーケイドの中の賑わい。
ビックリしていると
「クリスマスシーズンだからけっこう賑やかね。
サーシャちゃんのプレゼント何にしようかしら?」
ちょっと小首を傾げながら嬉しそうに探している。
そんな風に、近い将来僕たちの子供のものも探すのだろうか…
そんなことを考えていたら
「古代君?何?」と話しかけられてしまった。
「いや、何でもない。プレゼントを探しているユキって楽しそうだなと思っていたんだ。
それで、決まったのかい?」
「ええ。これなんかいいんじゃないかしら?」
と、手に持っていたものは、柔らかそうな人形と、その人形と遊べるようになっているおままごとセット。
「ちょっと早いような気もするけどいいんじゃないかな。
一つだと一緒に遊ぶ子もいるんだろうからこの男の子の人形も一緒にプレゼントしよう。
ひとりよりふたりでいるほうが人形だって寂しくないはずだよ」
そういいながら買い物カートの中にいれた。
「これ以上大きい荷物になると兄貴も持っていけないだろうな。
サーシャのものはこれくらいにして、次はどちらへ?」
カートを押しながらレジへと向かう。
そんな僕に
「今度は、古代君の出張に持っていくものを見ましょう?」
「もっていくものって言ってもそんなにあるとは限らないよ。
大体1ヶ月だろう?
仕事で行くんだから私服はいらないと思うけど?
今までのもので十分だよ。
サーシャの買い物も済んだことだし、明日の準備もあるし、食糧を買って帰ろうか」
ショッピングアーケイドの地下で材料を買い揃えて自宅へ戻った。
明日からの視察の(連絡艇の運転手だよなぁ)準備をするため寝室へと入っていった。
その間にユキは夕飯の準備を始めたらしい。
キッチンからゴソゴソと音が聞こえる。
「お〜い、ユキ。野菜洗うだけでいいぞ。
今日は僕が作るから、たまにはのんびりしていろよ」
明日に準備をしながら声をかけた。
「古代君、作れるの?
わたしは、作ったことないのに……」
最後のほうはほとんど聞こえなかった。
ドアを開けながら「何か言った?」と聞いてみると、
「なんでもない」といって横を向いてしまった。
そんなユキの姿が可笑しくて笑いをこらえていると
「古代君の意地悪。手伝ってなんかあげないから」
プイっと膨れて寝室へ向かっていった。
そんなユキに、
「食事ができるまで休んでいいよ。
出来上がったら起こしてあげるから…」
クスクス笑いながら声をかけた。
返事もせずドアが閉まる。
「しょうがないなあ。さて、作り始めるか」
洗ってあった野菜を乱切りにして、牛肉に塩・コショウをふって準備オッケー。
フライパンで肉を焼き、厚手のなべに野菜と焼き色のついた肉を入れる。
あとは、灰汁を取りながらコトコト煮るだけ。
「こんな簡単なこと出来ないかな?
そんなところにいないでこっちに来れば?」
キッチンの入り口でこっちを覗きこんでいたユキが恥ずかしそうに立っている。
「野菜が柔らかくなってから、デミグラスソースを入れてもう少し煮込むだけだよ」
そばに寄ってきたユキに説明してあげる。
「デミグラスソースは市販のもの?」
「市販のもののほうがユキには扱いやすいかな?
そのうちきちんとした作り方お母さんに聞いてごらん。
きっと詳しく教えてくれるはずだから」
そう言うと、
「そうね、古代君が帰ってくるまでに教わっておくわ。」
にっこり笑って答えてきた。
「あとは、サラダか何か作りましょうね。」
機嫌の直ったユキが楽しそうに作り始める。
そんな後姿を眺めながら食事の準備を整えていく。
ビーフシチューにサラダ、ワイングラスに簡単なオードブル。
テーブルに着いたユキが寂しそうに一言
「明日から1ヶ月会えないのね。
お仕事ですもの、無理だけはしないでね」
寂しそうに微笑みながらグラスを持った。
「あの兄貴だから無理を通すと思うけど、出来るだけ連絡するよ」
ワインを飲み干し、食事をとることにした。
就寝前のティータイム、明日からの仕事を思い小さなため息を漏らした。
隣に寄り添うように座っている雪が
「どうしたの」と、聞いてくる。
「明日から1ヶ月、気が重いなぁと思ってね。
ユキに直接触れることが出来ないのもなんとなく寂しいし…」
小さな呟きに寂しそうな微笑を浮かべて
「寂しいのはおたがおさまよ。
でもクリスマスは一緒にすごせるのでしょう?
それを楽しみにしているわ」
僕の方にもたれながらそう言うユキをそっと抱きしめた。
「そうだね、クリスマスを楽しみにしているよ。」
そのまま抱き上げて寝室へ。
1ヵ月後の約束をするために……
見送りのためにエアポートまできたユキを見つけた。
「こら、仕事さばって来たな?」
冗談交じりでいう僕に
「だって…今朝は急がしくて言えなかったから…」
俯き小声になる。
そんなことをしていると後ろから兄貴の声が聞こえてきた。
「進、そろそろ時間だぞ。なんだ、ユキが来ていたのか。
別れを惜しむのもいいが、時間は守れよ」
ウィンクして先に行ってしまった。
「時間だから行くね。」
ほほに口付けをして「いってきます」
「いってらっしゃい、気をつけて」
微笑むユキに右手を上げて答え、ゲートへ急いだ。
そこにはニヤニヤ笑っている兄貴が立っていた。
「何を笑っていらっしゃるんですか?古代参謀?」
仕事モードに入ってしまえば兄貴のそんな顔も気にならなくなる。
後はどれだけからかわれるかだけど…
時間になりもう一度小さな声で「行って来るよ」と呟いた。
勿論誰にも聞こえないように……
END