想い
久しぶりの休日、
『のんびりしていてね』って言われたけど・・・
ユキは長官のお供で出張中・・・
帰りは明日のよう遅くなるという・・・
仕方ない、あいつに電話でもするか。
そう思ってあいつの携帯に電話をかけて見る。
待つこと数コール、
「もしもし、ああ、俺。今日夕方あいているか。
ちょっと付き合ってくれないかなぁ・・・
えっ、ユキ?ユキは出張で明日の夜までいないよ。
だから、ちょっと付き合ってくれてもいいだろう・・・
それじゃぁ6時にそこで、待っているよ」
携帯の電源を切り、ユキへメールを送っておく。
いつもの時間に帰ってこれらない可能性が大きいから・・・
待ち合わせ場所に着くと、あいつはもう来ている。
「よう、久しぶり。今回も地上勤務が続いているのか?」
「ああ、誰かさんが宇宙ばかり飛んでいるからな」
相変わらずのへらずぐちを利いてくる。
「悪い、悪い・・・。地上勤務は鬱陶しいからなぁ。
そのうち嫌でもするようになるよ。それまで、我慢してくれ」
しょうがない奴だと言わんばかりの目で見ている。
「ったく、いい気なもんだ。
それより、急にどうしたんだ、人のこと呼び出したりして・・・」
「いや、なんでもないんだ。ただちょっと飲みたい気分だったもので・・・
それでおまえが始めに浮かんだ、ということさ」
「そうか、それならいいだが、また何か悩み事でもあるのかと思ってしまったよ」
何でそんなに気にするんだ?とばかりにちょっと睨みつけて、
「まったくいつまでたっても面倒見のいい奴だよ。
いい加減自分のこと考えろよ。そうすれば人のことばかり気にならないだろうに…」
「それこそ余計なお世話だよ」
そういってグラスを傾ける。
何気ないことを色々と話しているうちに、ユキのことになる。
「そろそろいいんじゃないか?ユキだって何年も待っていてくれたんだろう?
自分に気持ちに正直になれよ。誰も文句は言わないはずだって」
最後の忠告だと言わんばかりに絡んでくる。
「おいおい、もう酔っ払っているのかよ。
まったく、そんなこととっくにわかっているよ。
いつまでも待たせていてはいけないことぐらい・・・
最初におまえにいっておこうと思って呼んだのもあるんだ。
そろそろきちんと決めようと思ってはいるんだけどな。
あまりにも長く一緒にいすぎたためか中々言い出しにくいんだよ。
一言言えばいいって思っているだろう?」
呟きとも溜息とも聞き取れる言葉を取って、
「わかっているだぁ。それなら早いとこ決めて来い。
後のことは俺達が準備してやるよ。
おまえに任せて置いたらいつまでたっても準備なんかしそうにもないよなぁ・・・」
まあ任せて置けと、いうふうに背中を叩く。
「痛いって。この酔っ払い。
もう、好きにしてくれよ、どうせ嫌だといっても聞いてくれないんだろう?
だったら勝手にやってくれ」
こんなことで文句を言うために呼び出したんじゃないんだぞ!
「ははは・・・そう怒るなって、みんな楽しみにしているんだからいいじゃないか。
おまえが用意しておくものだけは用意しろよ。
後はこっちで全部用意してくれるはずだからな」
二人っきりでこんなふうにグラスを傾けられる日が来るなんてな。
「わかったよ。それより明日も仕事だろう。そろそろ引き上げるか?」
そういうと、島も時計を気にする。
「そうだな、あまり飲みすぎても明日の仕事に差し支えるといけないしな。
それにまだ本調子とは行かないものだしな」
二人で会計を済ませ少し歩くことにした。酔いを醒ますために・・・
「それにしても、長かったなぁ・・・。
もうとっくに子供の一人や二人いてもよかったんだろうに・・・」
そういわれてしまった。
「しょうがないじゃないか。結婚しようと思うと色々とあったんだから・・・
もう、あんな大変なこと早々起こるとは思いたくないし、
いつまでも待たせていてもいいもにじゃないだろう?
ユキのご両親にも心配ばかりかけてしまっているし、親孝行のつもりだよ。
俺の両親もきっと喜んでいてくれると思うしなぁ・・・」
空を見上げて呟いてみる。
「そうだな、俺もそろそろ吹っ切らないとな。
両親も次郎にも心配かけてしまったし、
次郎なんか『兄ちゃんは直ぐ黙って行ってしまうから心配なんだ』なんていう始末だしな」
兄貴も大変なんだぜといっているみたいだった。
「有名な兄貴を持つ弟も大変なんだぜ」
そう言って二人して大笑いをする。
こんなふうに大声を出して笑ったのは何年ぶりだろう・・・
大笑いをしながらまた飲もうと約束をして別れた。
明かりのついていない部屋に一人で戻るのなんていつ以来だろう・・・
ユキと暮らすようになってからは考えたことが無い。
部屋のキーを開けて中へ入るとメールの着信を知らせるランプがついている。
開けてみるとやっぱりユキからだった。
『明日の予定の変更はなし、あまり飲み過ぎないようにね』
とだけ書かれたメールを見ていると無性に会いたくなってしまう。
こんなことじゃいけないよな、なんて思うけどやっぱり一人でいるのは寂しいものだな。
ユキもこんなふうに思っているのだろうか?
俺の帰りをひとりこの部屋でどんな思いを込めながら・・・
そう思うとしている自分がいることを確認してしまう。
島にも言われたことだが、
ユキを思えば宇宙ばかり飛んでないで
地上にきちんと足を付けておかないといけないのかもしれない。
出来るだろうか?
地上と宇宙、どちらも大変なことには変わりない。
結婚して暫くの間は地上と宇宙を行ったりきたりしていると思う。
いつの日か地上に降りてこなくてはいけないと思う。
それまでは少しの我侭を聞いてもらえるだろうか。
ユキと幸せになることがみんなの願いならきちんと叶えよう・・・
笑いの耐えない家庭を作ることは大変かもしれない。
みんなの幸せ、そして自分達の幸せをきちんと見つめて生きて行こうと思う。
父さん、母さん。見ていてくれるかい?
兄さん、義姉さん、そして小さなサ−シア、見ていてほしい、きっと幸せになって見せるよ。
時々ユキを悲しませてしまうかもしれないけど、その時は叱ってほしいな。
それから、ユキ。今までありがとう・・・
これからも迷惑かけるかもしれないけど、よろしく頼むよ。
リビングに飾られているユキの写真を手に持って頼んでいる。
結局俺は、ユキなしじゃ生きていく気力も出ないのだろうなぁ・・・
今頃気づいたなんていったらあいつらに何を言われるかわかったものじゃないな。
ユキ、これからも色々と心配かけるかもしれないけどよろしく頼むよ。
アルコールの匂いを消すためにシャワーを浴びて休むとしよう・・・
明日帰ってくるユキがビックリするようなことを考えながら・・・
(背景:AZUKI)