夏のおわりに・・・
昨日の約束どおり、これからドライブへ・・・
ちょっと遠いので早起きをして出かけよう思っていたのに・・・
古代君の通信機に緊急連絡・・・
「どうしたの?何か悪い連絡?」
苦虫をつぶしたみたいな顔をしている古代君に声をかけた。
「うん、兄貴がね、2,3時間空けてくれないかって・・・」
「古代参謀?仕事のこと?」
「いや違うみたいなんだけど・・・なんか様子が変だから行ってくる。」
そう言って出かけようとしている古代君の後姿・・・
「守さんの呼び出しなの?」
寂しそうな声に聞こえたのかな?
振り返った古代君に突然抱きしめられてしまった。
「すぐ帰ってくるよ。兄さんマンションにいるみたいだから・・・
お弁当でも作って待っていて。戻ったらすぐ出かけよう。邪魔が入る前に」
そう言って挨拶代わりのキスをひとつ・・・
「いってくる」という彼に
「いってらっしゃい」としか言えなかった。
だって楽しみにしていたんだもの・・・
今回のドライブ・・・
せっかく古代君が連れて行ってくれるのに・・・
守さんたらこんなときに・・・
文句を言ってのしょうがないかな、だって二人きりの兄弟ですもの・・・
さて、気を取り直して準備・準備。
お弁当何にしようかな?
おにぎり、玉子焼き、から揚げ(これは時間がないので冷凍のもの)。
野菜は・・・ブロッコリーにミニとまと、遠足に行く前みたい・・・
こんな風に楽しみながら作ったのって何時以来かな?
お弁当も出来たし、後は古代君の帰りを待つだけ・・・
でも、なかなか帰ってこない・・・
もう2時間近くになるのに・・・
ソファーに座っていたのにいつの間にか眠ってしまったみたい・・・
気がついたらブランケットが掛かっていた。
誰かいる・・・
「古代君?」
「うん、ただいま・・・よく眠っていたから起こさなかったけど・・・
今から出かけようか?急げばまだ間に合うから・・・」
微笑みながら抱き起こしてもらっちゃった。
「荷物これだけ?早く出かけないととんでもないことになりそうなんだ。」
あわてて出かけようとしていたら、ドアフォンの音にびっくり。
「あ〜あ、来ちゃった・・・どうしよう・・・」
困った顔をしてこっちを見ている。
「何があったの?お客様なんでしょう?」
そう言ってインターフォンに出ようとした私に
「出なくていいよ。どうせ兄貴なんだから・・・
まったく、人の休暇の時ばかり狙ったように来るんだから・・・」
ブツブツ言いながらインターフォンに答えている。
「なんか用?さっきのことならお断りだからね。
真田さんでも島でも何なら相原だって協力するんじゃない。俺はお断り!!
僕達もうでかけるから・・・それじゃぁ」
怒ったようにインターフォンを切ってしまった。
「ネエ!何があったの?教えてよ」
「とにかく急ごう。説明は後で教えてあげるから。」
そういって引っ張っていかれちゃった。
途中何か言いたそうな守さんと擦れ違ったけどいいのかしら?
フリーウエーをしばらく走ってから大きなため息が聞こえてきた。
「どうしたの?何かあったんでしょう?そろそろ話してくれてもいいでしょう?」
彼の横顔を見つめて聞いてみたら・・・
「聞かないほうがいいと思うけど・・・どうしてもと言うなら話してもいいけど・・・」
言いたくなさそうにしているけど、ここで諦めてしまうユキちゃんじゃないんですけどね。
「いいから早く説明して!!」
「ほんとにいいんだね。後で後悔したって知らないよ。」
あっ、ほんと困った顔をしてる。
「この休暇明けから暫らく地上勤務になるだろう?
その時に一日だけ兄貴と休暇が重なるんだ。
その時にサプライズ・パーティーを開こうなんていうんだ・・・
何をさせられるかわかったもんじゃない」
「だから何があったの?ちゃんと教えて頂戴」
「全員正装で出席をさせるって・・・
そんな格好島や相原なら似合うと思うけど・・・
それに、ユキにはドレスを着せて来いっていうんだ。
エスコート役は俺に任せるって言うけど、なぜかとっても嫌な予感がするんだ」
「あら、パーティーはいいの?」
「ああ、堅苦しくなければね。仲間と楽しく過ごせるならいいよ。
それより急ごう。せっかくのドライブ台無しにしたくないからね」
東京シティーから三時間あまり走ってきたところは自然がいっぱいの山間部。
ここはガミラスからの攻撃で一時は干からびた山肌をさらいていたところ。
会津富士とも呼ばれている独立峰。
雄大な裾野を広げている。
山の中には大小さまざまな湖が点在している。
緑の木々に囲まれて色とりどりの湖が復活している。
その湖は見る時間、場所、角度によって色々な色に変化をもたらしている。
「綺麗ね。夕日の中の湖って」
「もっと早く着ければもっと色々な湖に会えたのに残念だね」
そう言って私の肩を抱き寄せてくれた。
「しょうがないわ、守さんから電話があったんですもの・・・」
「そう、その兄さんからもらってきたものがあるんだ。
この近くのペンションの宿泊招待券なんだけど・・・行ってみる?
これから帰るんじゃ夜中になってしまうしおなかも空いてきたしね」
いたずらっこのように微笑んで私のほうを見ている。
なんだかドキドキしてきちゃう。なんて返事したらいいのよ!
俯いたまま黙っていたら、そっと抱きしめられた。
耳元で囁くような古代君の声が聞こえた。
「大丈夫。スポンサーにはちゃんと断ってきているから・・・」
小さく頷くとエアカーまでゆっくりと歩いていった。
30分ぐらい走ったところにあるペンションに着いた。
湖畔の建つ小さなペンション。
「お菓子の家みたいに可愛いのね」
チョッピリはしゃいでしまった。
古代君、あきれた顔している・・・
チェックインを済ませて、案内された部屋でくつろいでいると、ノックをする音が聞こえた。
「古代様にメッセージが届いています。」
メッセージカードを受け取って古代君に渡すと
「兄さんから・・・楽しんで来いって。わざわざこんなカードよこさなくてもいいのに」
「古代参謀らしくっていいと思うわ。
そろそろ食事の時間でしょ。おいしいもの沢山あるといいわね」
楽しい食事のひとときを過ごしていると、どこからか大きな音が聞こえてくる。
「花火が上がったみたいだよ。今日は湖畔祭りがあるってペンションの人たちが言っていたから・・・
湖まで散歩がてらいってみようか?」
食後のコーヒーを飲みながら誘ってくれた。
「浴衣で花火見物するのもいいのにね。残念だわ、もってくればよかった」
残念そうに小さく呟いてしまった。
「兎に角、一回部屋へ戻ろう。渡したいものあるんだ」
そういって引っ張ってこられたけど何があるのかしら・・・
「ねぇ、古代君。渡したいものってなぁに?」
「うん、これ・・・ユキに似合うかなと思って仕立ててもらったんだ。」
たとう紙に包まれていたものは・・・
「まぁ、浴衣じゃない。どうしたの?いつに間に用意したの?」
立て続けの質問に困った顔の古代君が居る。
「この前の休暇のときにね、ユキに似合いそうな浴衣の生地を偶然見つけたんだ。
その呉服屋さんで全部合わせてもらったんだけど、気に入ってくれたかな?」
「誰も、気に入らないなんて言ってないでしょう!
ありがとう、とっても素敵ね。」
チョッピリ照れている古代君の頬にお礼のキスをひとつ。
「浴衣、着付けられるよね。その間外に居るから・・・
着替えが済んだら花火を見に行こう。」
そういって部屋の外に出て行ってしまった。
古代君がプレゼントしたくれた浴衣に手を通してみると、サイズもぴったり。
どうやってお店に人にサイズを説明したのかそれを思うとおかしくなっちゃう。
ダークグリーンから淡いグリーンへ所々に絞りの模様が入っている。
大急ぎで着替えて外で待つ古代君に声をかけた。
「お待たせ、花火見に行きましょう。どうしたの?どこか変?」
「いや、よく似合っているよ。このまま花火見に行くのやめたくなるくらいだよ・・・」
照れながら耳元で囁かれてしまった。
「嫌な古代君。早く行きましょう。花火終わってしまうわ」
彼の腕を取り花火の見える湖畔に歩き出した。
湖畔には色とりどりの浴衣を着た人達が集まってきていた。
「逸れるといけないからちゃんとつかまっていて」
優しく声をかけられた私はそっと彼の腕にもたれかかった。
上空に上がる花火を見ていると、後ろから声がかかった。
「よう!お熱いお二人さん!」
「島!それに南部まで何しに来たんだ?」
「何しにって、花火見物に決まっているだろう?
南部のところの別荘がこの近くにあるからみんな出来たんだよ」
くいっと指で後ろを指した。
いつものメンバーがニコニコしながら寄ってきた。
「古代さん、ユキさん偶然ですね。一緒にいかがですか?」
「遠慮しておく、せっかくの休暇台無しにしたくないからな。
それから南部、兄貴に変な話持っていくなよ。
サプライズ・パーティーなんか開いてみろ、今度ヤマトに乗ったときの覚悟は出来ているんだろうな?」
びっくりしている南部君達に手を振りながらもう一言
「兄貴にも言っておいてくれよ。弟で遊ぶなって!
言いたいことはわかるけど・・・もう少しほっておいてほしいから・・・」
優しく微笑むと私の手を引いて歩き始めた。
散策しながらペンションへ足を向けた。
部屋に入るなり大きなため息が聞こえてきた。
「お疲れ様。驚いたわ、みんな来ているんですもの・・・」
「ここの宿泊券も南部がらみだろう。
そうでなけりゃみんなが居るわけがないよ。
これ以上邪魔はしてほしくないからね」
そう言って私の手をとって抱きしめてくれた。
「サプライズ・パーティーで何をさせるつもりだったのかしら?」
古代君の腕の中でこんなことを呟いていると
「わからないよ。でも、おせっかいな仲間達のことだからとんでもないことをさせられるのだけははっきりしていると思うよ。」
「今度来るときは、古代君の浴衣も用意してきましょうね。
守さんや島君たちと浴衣パーティーでも開いて楽しく過ごしましょう。」
「そうだね。このまま何も起こらないことを祈ったらいいのかなぁ。
この平和を思いっきりたのしまなくてはね。」
抱き寄せられて、そのまま二人だけの世界へと・・・
夏の終わりの思いで作りは成功かしら?
End
(背景:トリスの市場)