心を込めて・・・







三年目の記念日にプレゼントを渡そうと考えていた進は、雪の目を盗んで何処かへ出かけていく。

愛する妻に何をプレゼントしていいのか、前もってリサーチなど出来るわけがない。

いつものように親友の意見を聞こうと島のところへ連絡を入れる。

ツーコールで島が出る。

「島、悪いんだけどちょっと相談に乗ってくれないか・・・」
遠慮がちに島に聞いている進に対して、島の返事は呆気ないものだった。
『雪に贈るプレゼントの相談なら他をあたれ。
俺もこれから出かけるんだから・・・
いつまでもお前の相談ばかり乗っていられるか。
じゃぁ、時間に遅れると彼女に悪いから切るぞ』

進の返事も聞かずに切ってしまう。

携帯のこちら側で呆気にとられている進はしばらくの間携帯をにらんでいた。

「しょうがないか・・・
これからデートのところへ電話したんじゃ・・・」

一言つぶやいて町の中を歩き回る・・・




12月から訓練学校の特別講師を臨時で受けていた進は、結婚記念日が年明けすぐに来ることを思い出していた。

去年は、宇宙勤務から帰ってきた日がちょうどその日で、前日相原から連絡してくれたがなんの用意もしていなかった。

慌てた進は相原に頼み込み何とか二人だけのディナーを楽しんだ。

今年もディナーでもと思っていたのだが、雪の体調が余りよくなさそうなのでそれはパス。

そうすると、家で食事をすることになる。

雪が喜びそうなものをとあちこち探しまわっているが、男一人で店に入っていく勇気が出ない・・・

それでも何とか知り合いのいるフラワーショップへ足を運んでみる。

「あのぉ・・・すみません、平井さんいますか?」

恥ずかしさいっぱいで尋ねてみる。

「平井さん?悠子さんね。ちょっとお待ちください。
悠子さん、お客様よ」

店の奥から顔を出した瞬間に、

「進お兄ちゃん、いらっしゃい・・・
今日はなんの御用ですか?」

明るく尋ねてくる。

「うん・・・、実は結婚記念日がもうすぐなんだ・・・
それで何かプレゼントをと思ったんだけど、アクセサリーショップには恥ずかしくて入りづらかったんで・・・
それで、悠ちゃんに花束を作ってもらおうかなって思ったんだ・・・」

「そういえはそろそろでしたよね。
ええっと・・・三年目でしたよね。おめでとうございます。
それで何かご注文はあるんですか?」

「いや別に注文は・・・
あっ、あまり色のきついものや今ちょっと、におい敏感になっているからそれだけ気をつけてもらえばいいよ」

「もしかして二人目のお子さん?ダブルでおめでとうございます。
においのきつくないものでかわいいアレンジ作っておきますね。
取りに来ます?それともご自宅へ送ったほうがいいのかしら・・・」

「夕方取りに来るからそれまでに作っておいてくれないかな?」

花束は何とか注文できたけど、後もうひとつは・・・

もう一度携帯を出し電話をかけてみる。

「マコ?これからそっち行ってもいいかな?
いや、ちょっと相談に乗ってほしいだけなんだ・・・
うん、近くまできているから10分ぐらいで着くよ。
それじゃあ・・・10分後・・・」

電話を切り目的地に急いだ。




10分後、デザイン工房MAKOと、書かれたドアの前に進は立っていた。

大きく息を吸い、覚悟を決め入っていく。

「すみません。木村さんいますか?」

遠慮がちに声をかける進に、奥からまことが顔を出す。

「進君、いらっしゃい。
今日はどうしたの?また雪さんに何かプレゼント考えていたんでしょう・・・
簡単に出来るペンダントなら材料あるよ」

進が何も言わないうちから説明されている。

「なぜわかる・・・・」

小さくつぶやく進を見ながら

「だってそろそろ結婚記念日でしょう・・・
去年は忘れていたってぼやいていたじゃない。
だから今年は来るかもしれないと思って材料だけはそろえておいたんだ。
まあ、進君が来なかったとしても後で使えるものだったし・・・
今日は、時間はあるの?」

「あぁ、1時間ぐらいなら大丈夫だよ。
時間もないからこったものはダメだろうけど・・・」

工房の中へ案内されながら答えている進に

「前にも使ったことあると思ったけど・・・
銀細工の粘土、これなら簡単に形になるし、失敗もすくないよ。
雪さんでも出来た細工だから大丈夫でしょう?進君」

材料を受け取り、形を整える進に

「はいこれ」

と、言われて渡されたものは、小さな銀細工。

「ペンダントトップに二人のイニシャルでも入れる?
どちらが見えてもいいように作ってあるから・・・
二人にイニシャルを絡ませたデザインになっている。

「マコ?これって用意してあったんだろう・・・
誰かの注文の品なんじゃないのか?」

「それは僕から二人へのプレゼント。
といっても試作品みたいなものなんだ。
どうせ作るなら誰かに使ってもらえるものがいいと思ってね」

にこりと笑いながらまことは言った。

「それならいいんだけど・・・
いつもマコにばかり世話になってしまって・・・」

すまなそうに頭を下げる進に

「僕が勝手にやっていることだから気にしないで。
こういうときでもないと進君に会えないし、僕も今度はいつ来るかなって楽しみにしているんだから・・・
それで、出来上がったの?」

「ああ、こんなもんだろう・・・」

作業台の上に小さな長方形のものが載っている。

「進君って結構器用だったんだぁ・・・
それじゃぁ、これを釜に入れて焼いておくよ。
いつとりに来る?」

「明後日の夕方になるかな。一箇所寄ってから来るよ」

「わかった・・・それまでに最後の仕上げしておくよ」

「頼んだよ・・・おっと、遅くなっちまったな。
明後日の夕方に・・・」




結婚記念日当日仕事を少し早めに上がった進は、マコのところ行く前にフラワーショップへ顔を出した。

「すみません、お花お願いしてあった古代ですが・・・」

奥の部屋から声が聞こえ、花束を持った人が出てきた。

「はい、古代さん頼まれていた花束です。
あまり香りの強いものは入れていませんから・・・」

ニコニコと笑いながら手渡してくる。

「ありがとう・・・これなら雪も喜んでくれるよ、悠ちゃん」

一言お礼を言って会計を済ませる。

「お兄ちゃん、まっすぐ帰るんですか?」

「いや、これからマコのところによってからだよ・・・」

不思議に思った進は振り向いて、

「何か用事でもあるの?」

「いいえ、いい記念日になるといいなぁって・・・
雪さんによろしく言って置いてくださいね」

「わかった、伝えておくよ。これありがとう・・・」

花束を大事に抱えて駐車場へ走っていく。




約束していた時間に少し遅れてしまったため慌ててドアを開ける。

「マコ、遅くなって・・・」

言いながらドアを開けた進は、中にいる人を見て驚いてしまった。

「雪・・・なんでここに・・・それより守は?」

「うふふ・・・驚いた?
実は私もまことさんにお願いしていたものがあったの。
今朝、まことさんに電話をしたら進さんが夕方来るって聞いたので待っていたのよ。
守はおばあちゃまたちと遊んでいるわ」

「そうなんだ・・・この前来たときマコ何にも言ってなかったから・・・
それで、頼んでおいたもの雪はもう受け取ったんだろう・・・」

「ええ、受け取ったわよ。進さんも早く受け取ってくれば・・・」

「そうするよ・・・」

一言雪に断ってからまことのほうへ歩いていった。

「マコ?雪に見せてないよな・・・」

「見せてないよ。それより進君も確認して」

手渡された小さな箱を受け取る。

中を確認すると、

「へぇ・・・こんな風になるんだ・・・」

感心している進に

「ちょっと変わっているだろう・・・
光の加減でイニシャルのところの色が変わるからね」

そういいながらラッピングをしている。

「光の加減で・・ねぇ・・・」

感心していると

「ほら、早くしないと雪さん待ちくたびれているよ」

マコに言われ慌てて雪のところへ向かう進に

「いい記念日になるといいね、進君」

「ああ、ありがとう」

ドアを開け雪のところへ向かう。

「雪、お待たせ。
マコ、また次も何かお願いに来るかも・・・
そのときはよろしく・・・」

二人そろって工房を後にする。




自宅に向かって車を走らせながら

「雪?ちょっと寄り道しとぃいかな?」

「どこへ行くの?」

「英雄の丘まで・・・」

一言言った進はそのまま車を走らせる。

高台にある英雄の丘から見上げる空は、星のきらめきまで違って見える。

隣に佇む雪は、

「綺麗ねぇ・・・
あの星の海を旅していたなんて・・・
進さんは今も宇宙に行っているけど・・・」

「でも、宇宙空間で見る星は瞬かないよ。
それに雪と一緒に見る星じゃないと・・・」

しばらく黙って星を見上げていた進は、そっと雪の後ろに回りさっき受け取ってきたペンダントをそっと雪の首へかけた。

ビックリして振り返った雪に

「僕らの記念日に・・・」

そう言うと雪の唇へキスをひとつ・・・

「それからこれを・・・」

淡い色でまとめてもらった花束を差し出した。
大きな瞳をさらに大きくして驚いている雪の頬に、そっと手を当て

「何をそんなに驚いている・・・やっぱり俺らしくないか・・・」

進の手の上に雪も手を乗せ

「ううん・・・違うの・・・
とっても嬉しいの・・・
だって進さんが覚えていてくれたことが・・・」

瞳にたまった涙が零れ落ちる。

「そんなに泣くようなことなのか・・・
いつも雪に寂しい思いをさせてしまっているから・・・」

そういって進は雪を抱き寄せた。

雪の涙が止まるころ二人の影がひとつに重なった。




しばらく寄り添うようにしていた二人。

ゆっくりと歩き出し車に乗り込む。

車を自宅へ向けて走り出そうとしたとき雪が、

「あっ、忘れていたわ。
私も進さんに渡すものがあるの」

バックの中から小さな包みを取り出し進へ渡した。

「これ、マコのところで作ったのかい?
開けていい?」

「どうぞ・・・」

雪の了解を得てから包みを開ける。

中から出てきたのは、進が作ったものと色違いのペンダントTOP・・・

「・・・俺もつけるの?」

一言余計に言ってしまう進に、

「もう!何も無理につけてくださいなんていってないでしょう・・・
まことさんがちょっと工夫してくれているのよ」

進の手から取り上げて

「鎖の長さを変えればキーホルダ−にもなるし、ここを開けると・・・
はい、進さん」

開いたペンダントの中には雪の写真が入っていた。

「これならいつでも一緒にいられるでしょう・・・」

「そうだね・・・
フォトフレームを持ち歩くよりいいかもしれないね。
俺にも着けてくれる?」

鎖を元の長さに戻し、雪に手渡す。

進の首にペンダントをつけた雪をそっと抱きしめて

「ありがとう・・・
ちょっと恥ずかしいけど、この長さなら服の下に隠れるから・・・
雪にあげたペンダントにも仕掛けがしてあるみたいだから・・・」

「えっ・・・
普通のペンダントじゃないの?
何が仕掛けてあるのぉ・・・
ねぇ・・・進さん、教えて頂戴・・・」

「家に着いたら教えてあげるよ・・・」

いたずらっ子のように微笑んで運転をしている。




守を雪の実家から連れて帰り子供部屋で寝かしつけてきた雪は、ソファーに座っている進の脇に腰を駆けた。

「ねぇ、進さん。
そろそろ教えてくれてもいいでしょう・・・」

それでも黙っている進に、

「そんなに教えてくれないのならまことさんに訊くからいいわ」

プイッと横を向いてしまった雪に進は少しおかしそうに

「そんなに怒ることないだろう・・・
ちょっとここに座ってごらん」

ソファーを手でたたきながら雪に座るように言った。

隣に座った雪のペンダントを持って

「ここに小さな飾りがついているだろう・・・
それを右に回してごらん・・・」

恥ずかしそうに雪に説明する。

ペンダントを手に持ち直して進むに言われて通りまわしてみると、

『雪、愛している。』

と、小さく囁くような進の声が繰り返される。

びっくりしている雪の肩を抱き寄せ

「愛しているよ、これからもずっと・・・」

進の顔を見つめて

「今日のあなたは、まるでビックリ箱ね。
でも、ありがとう・・・
進さんの声がいつでも聞けるなんて・・・
まことさんにきちんとお礼しないといけないわね」

二人の記念日に、お互いの心を込めた贈り物を・・・・

END