はじめての…

注:このお話に出てくる古代君と雪ちゃんの子供の名前については、
  「古代君と雪のページ」のオーナーのあいさんの了解を得ています。




無事何事も無く地球に降り立つことが出来た。

今回の勤務日程は夜遅くに宇宙港に着く予定だったのだが、

ちょっとした手違いで月基地にはよらずそのまま地球に帰還となった。

到着ゲートを抜けていつもなら向け枝に来てくれる雪を探してしまう。

「そっか…予定変更の連絡は行っているはずだけど急に休みは取れるはず無いよなぁ…」

溜息混じりに小さく呟いていると後ろから声をかけられた。

「古代さん、到着は夕方じゃありませんでしたか?」

「相原、ちょっとした手違えで早く着いたんだ。そういうおまえは何しているんだ?」

声をかけてきた相原に聞き返してみた。

「僕も今ついたところですよ。月基地まで出張だったもので。

古代さんはこれからどちらへ?」

「もう帰るところだよ。

夕方到着だったから迎えに来てくれる人はいないから

チューブにでも乗って帰ろうと思っていたんだが、相原おまえは?」

「僕もですよ。ご一緒しましょう。

それから古代さん、今回の休暇はいつまでですか?」

「ん?休暇ね、2,3日はゆっくり出来るはずなんだけどなぁ…。

後は暫く地上勤務になりそうなんだよな」

溜息混じりに呟く俺を見て、

「ほんと、古代さんって地上勤務好きじゃありませんよね。

そんなことばかりしているからお子さんの行事に参加できないんですよ。

もう少し僕をみならってくれてもいいじゃないですか?」

「それはそうなんだが…」

(まったく俺が一番気にしていることをあっさり言ってくれるよなぁ…)

たわいも無い話をしながらチューブに乗り家の近くの駅で降りようとしたとき相原が

「今日の夜にでも連絡します。たまには飲みに行きましょうよ」

「ああ、わかった。連絡待ってるぞ。奥さんにもよろしく言っておいてくれ」

右手を上げて別れた。









家の中は思っていた通り誰もいなかった。

荷物を置き部屋の暖房を入れて、

カレンダーに書かれている子供達の予定を見てみると『音楽会』と書いてある。

「そうか、今日だったのか」

今回の航海の前に雪が言っていたのを思い出していた。

保育園に通っている二人の息子のことを考える。

「そういえば、保育園の行事に参加するのって初めてだよなぁ…」

運動会やクリスマス会など保育園の行事には出席したことの無い。

始めて参加することの出来ると思うと楽しくなった。

時間と場所を確認しようとしたがどこに書かれているのかわからない。

「仕方ないなぁ。お義母さんにでも聞いてみるか」

テレビ電話に登録されている番号に掛けてみる。

数コール後

『はい、森です』と、雪の母親が出た。

「お義母さん、お久しぶりです。

今日、守達の音楽会があったと思うのですが、時間と場所を教えていただけないでしょうか」

『あら、進さん。お帰りなさい。

雪は何にも言ってなかったからまだ帰ってこないのかと思ったわ』

きつい一言をいわれても何も言うことが出来ない。

「ええ、予定では今日の夜の帰還だったのですが、予定変更になったもので・・・・・・」

『そうだったの。場所はね保育園の講堂よ。

時間は10時からになっているから今から行けば間に合うわね。

進さん、子供の行事には出来るだけ出席してあげてね。

守も航もパパに来てもらうの楽しみにしているのよ』

「はい…出来るだけ出席できるように心がけておきます。

いつも子供達のことをお願いばかりして申し訳ありません。それではこれで失礼します」

テレビ電話を切るとホッと溜息を漏らしてしまう。

(雪のお義母さんいい人なんだけどなぁ…

さて急いで出かけようかな。雪も俺が行くの知らないみたいだし・・・)

カジュアルな服装に着替えてから行くことにした。

エアカーは雪が乗っていってしまっているのでタクシーを使っていくことにする。






保育園の少し手前で降ろしてもらい歩きながら周りを見てみると若い父親の姿も見られる。

制服を着ていないせいか古代進だとばれている様子はない・・・と思う・・・

普段は子供達が元気に遊びまわっている体育館のようなところなのだろう。

中は綺麗にイスが並んでいる。

このイスや舞台もボタンひとつ押せば自動的に出てくるようになっている。

入り口付近から中を覗いてみると、舞台の上を良く観ることのできる位置に雪の姿があった。

膝の上には今年2歳になったばかりの愛の姿も見える。

後ろからそっと近づき肩を叩き、隣の席に座る。

「あら、進さん。お帰りなさい。ずいぶん早かったのね。

確か予定では今日の夕方じゃなかったかしら?」

首をちょっと傾げて尋ねてくる雪に、

「ああ、そうだったんだけどね。ちょっとした手違いで早く帰れたんだ。

そのおかげで始めて子供達の行事に参加できて嬉しいよ。

場所と時間がわからなくってね、お義母さんに電話して聞いてしまったんだ。

そしたら出来るだけ子供に行事には参加しなさいって言われてしまったよ」

愛を膝の上に抱きながら雪に答えた。

「うふふ…初めての音楽会参観パパはどんな気持ちで見ることになるのかしら?

愛はまだ小さいから参加できないけど、守も航もがんばって練習していたのよ。

パパに見てもらえないのが残念だって今日も言っていたのに…

ビックリするかしら、パパがここにいるのを見つけて。

守も航も緊張しないといいけど・・・

見ているパパのほうが緊張しちゃうみたいね」

クスクス笑っている・・・

「何でもお見通しだな。さっきからちょっと緊張気味なんだ・・・

自分のことみたいにね」

ドキドキしながら演奏される順番を待っていた。

最初は航、緊張しきっている顔を見るとこっちまで緊張しそうだ。

「なぁ、雪?航は何をやるんだ?」

「ええっと、きらきら星の演奏と歌は、かえるのうたの合唱とシャボン玉」

4歳児の小さな手で一生懸命演奏し、大きな声で歌を歌っていた。

緊張のあまりギュッと愛を抱きしめていたようだ。

「パァパ、あいちゃんくるしいよ、もっとやさしくだっこして」

膝の上の愛が訴えている。

「ごめん、ごめん。航お兄ちゃんカッコよかったね。今度は守お兄ちゃんだ」

愛の頭をなぜながら雪のほうを見て

「守は何をするの?」

プログラムを見ながら

「守は山の音楽家とメリーさんのひつじの演奏と、歌は、大きな古時計とおもいでのアルバム。

守は保育園最後の音楽会だから張り切っていたのよ」

そういって雪はホームビデオの撮影を始めた。

舞台の上に上がってきた守は航と違ってニコニコと笑っている。

(こういうところって兄貴に似ているな)と思う。

積極的な守と内気な航。まるで兄貴と自分を見ているようで…

そんなことを思って見ていると、キョロキョロと様子をうかがっている。

雪が小さく合図をすると満面の笑みを見せてくれた。

「あいつ緊張してないな。こっちの気も知らないで…」

ポツリと呟いたのをしっかりと雪が聞いていた。

「守はしっかりしているもの。名前負けはしていない証拠でしょう?」

そこまで言われるとは…

「確かにね。兄貴そのままだよ。でも、愛や航の面倒もよく見てくれているんだろう」

やっと始まった演奏を聞き始めた。

航とは違いしっかりした演奏と歌声を聴いていたらなんとなく目頭が熱くなる。

初めての参観ってこんなものなのだろうか…

ひととおり終わったところで

「雪、先に帰るよ。緊張していたせいか疲れてしまったからね。

子供達につかまる前に帰っているよ」







音楽会から帰ってきてソファーでのんびりしていると

「ただいま〜〜〜」と元気な声が聞こえた。

「お帰り」といって玄関まで迎えに出る。

「パパ、音楽会来てくれたんだね。パパを見つけたときとっても嬉しかったんだよ。

だから頑張って演奏したんだ。上手に出来たでしょう?」

ニコニコ笑って感想を聞いてくる。

「ああ、守も航も上手だったよ」

二人の頭をグリグリとなぜてあげる。

嬉しそうな顔をして部屋の中は入っていく。

後から入ってきた雪に

「パパはどうして先に帰ってしまったのって、守も航もしつこいくらい聞いてきたのよ。
で、初めて参加した感想は?」

微笑みながら話しかけてくる雪に

「疲れたけど子供達の成長を見せてもらいました。

これも奥さんが一生懸命子育てしていてくれたおかげかな?」

ちょっとおどけてお帰りのキスをひとつ。

「うふふ、ありがと。パパには頑張ってお仕事もしてもらわないといけないけど、子供達のこともよろしくね」

「ああ、出来るだけ努力するよ。

でも、雪にも協力してもらわないといけないこともあるからね」

ウィンクひとつ、雪の送ってリビングへと戻っていく。






その夜、

「緊張した一日だったなぁ…」

一言呟いた僕に

「お疲れ様。パパの初めての参観どうでした」

「参観ねぇ…こんなに緊張するものなのかい?

仕事しているより疲れたんだけど……」

そう言って雪を見つめてみると、

「うふっ、それじゃ、早く休みましょうか?」




                        おわり?  



この後どうなったかは皆様のご想像にお任せいたします。