クリスマス・メモリアル
  






いつもの同じ時間にかかる電話のベルの音。

急いで受信をオンにする。

画面の中には大好きな彼。

「お仕事ご苦労様。お休み取れたの?」

画面の中の彼の顔が申し訳なさそうにしている。

「何かあったの?」

「何もないよ。休みは取れたんだけど…」

と、くちごもっている彼に

「はっきり言って、何か言いたいことあるの?」

チョッと睨み加減でせまってみたら…

「あのね、明日都合が悪くなってしまったんだ。

次の休みにうめあわせするから……」

知らないうちに涙がこぼれていてみたい。

あわてた彼が

「泣くなよ。雪の泣き顔見るの、辛いんだから…」

「だって……楽しみにしていたのよ。

久しぶりに会えると思ったのに。

次のお休みっていつになるの?」

半べそをかきながら聞いてみると

「24日から3日間休みが取れたよ。

だから今回はごめんね。連絡だけ入れるから。

それに、次の休みまでは地上勤務だから何かあっても大丈夫だろ?」

ちょっとおどけた彼にわらいが。抑えられなくなってしまう。

「仕方がないわね。

その代わり次のお休み何があろうとも絶対わたしとあってね、古代君」

「わかりました。次の休みは雪に付き合いますよ。

どこへ行くか計画立てておいてくれる?

24日は、僕の方に付き合ってもらうけどいい?」

いつもはこんな気の使い方が出来る人じゃないのに……

「どこに連れて行ってくれるのか楽しみにしているわ。

それじゃぁ、また明日ね。おやすみなさい、古代君」

「おやすみ雪、いい夢を」

画面から彼が消えてしまうとなんとなく寂しい気がする。

直接会えるまで1週間の辛抱……

早く会えるといいなぁ……







明後日には彼に会える。

でも変な噂を聞いてしまった。

彼が、古代君が綺麗な人と歩いていたと…

それも、この前の休みの日に……

それからここ数日も…

いつもの連絡は変わりなくかかってくる。

よ〜し、今日こそ後をつけてみようかな?

一大決心で彼の後をつけてみた。

そうしたら、噂どおりの綺麗な人が現れた。

楽しそうに話しながら歩いていく。

どこまで行くのかしら?

そんなこと思っていたら…見失ってしまった。

もう、嫌!古代君なんか知らないんだから…

彼から連絡があっても出てやらないんだから…

でも、きっと何かわけがあるのだと思ってそれとなく聞いてみようかな。







結局何も聞けないまま今日になってしまった。

10時には迎えに来るって言っていたからそろそろ来るころよね。

時計を見ると五分前、その時チャイムが鳴った。

「おはようございます。古代です」

律儀な彼らしい挨拶が聞こえた。

「古代君、いらっしゃい、お待ちかねよ」

ママったらなんてこというのよ。

あわててドアまで走ってしまった。

「古代君、時間通りね。それで今日はどこへ連れて行ってくれるの?」

「それは、ついてからのお楽しみ…それでは、行ってきます」

ママに向って挨拶をする彼。

私も元気に

「いってきまぁす」

彼の腕にそっと腕を絡ませてみた。

ちょっとビックリしていたけど何にも言わないで微笑んでくれた。

エアカーに乗り込んで

「それで、何処へつれていってくれるの?」

「内緒。直ぐ着くよ、変なとこじゃないから安心しなよ」

内緒って、ほんと何処へ連れて行ってくれるのかなぁ。

ちょっと心配……

でも今日はクリスマスイブだから……

ちょっと期待しちゃおうかなぁ……

なんて考えていたらどこかのビルの地下駐車場へ入ってしまった。

車を止めて、古代君にいわれるままエレベーターに乗り込んだ。

「このビルに知り合いがいるんだ。

雪のクリスマスプレゼントに悩んでいたら相談にのってくれてね」

照れくさそうに説明しているけど、

「知り合いって、どんな人?」

「幼馴染なんだ。

途中で引っ越してしまってつい最近再会したばかりなんだけど、良い奴だよ」

「えっ!」

驚いていると

「着いたよ」

そこは何かの工房のようなところ。

ドアを開けて中に入るとビックリ。

「ここは、デザイン工房ですよ」

見知らぬ人が声をかけてきた。

「マコ、悪いな、忙しいのに」

「なに、進君の頼みだもの。

それに、久しぶりにいろいろ話が出来たしね」

二人して私のこと忘れていない?

古代君の背中をつついてみると

「あ、ごめん。

マコ、紹介するよ。婚約者の森 雪さん。

雪、幼馴染の木村まこと君」

「はじめまして、木村まことです。進君からお噂は聞いていますよ」

まこと君って紹介されたけど…

「雪?どうしたの、ぼけっとして」

「え?ごめんなさい。森 雪です。どうぞよろしく……」

どぎまぎしちゃう…

「もしかして雪さん、僕のこと女性と間違えていた?」

突然確信をつかれちゃった。

「え、えぇ。古代君が綺麗な人と歩いていたなんて噂を聞いてしまったからてっきり女の人かと……」

恥ずかしくて古代君の後ろに隠れてしまった。

「なんだ、それでここのところおかしな態度でいたんだな。

マコは、れっきとした男だよ。

ただ昔から女に間違われていたけどね」

「最初に間違えたの進君だよ。

まことなんて名前だとどっちにも取れるからね。

それより進君、雪さんに説明したの?ここにきた理由」

「理由?」

「実はね、マコが銀細工のアクセサリーのデザイナーなんだ。

それで雪のクリスマスプレゼントを作ってもらおうとしたら…」

口篭ってゴニョゴニョ言ってる彼をせかすように

「作ってもらおうとしていたら?」

「自分でやってみろっていわれたのがこの前の休みの前日なんだ。

それで、この1週間ここへ通って今日出来上がる予定なんだ。

気に入ってくれると良いけど…」

真っ赤になって照れている。

奥の部屋からまことさんが手に何かを持ってきた。

「進君、綺麗に出来ているよ。結構手先がきようなんだね。

雪さん見てみる?」

頷いてそっと覗いてみるとそこにはイニシャルをモチーフにしたペンダントトップっとリングがあった。

「素敵なデザインね。まことさんのデザインなのかしら?」

手にとって見ると二人のイニシャルに色の違う石がはめ込まれていた。

「二人の誕生石を入れてみたんだ。これは進君のアイデアだよ。

リングのサイズは大丈夫だと思うけどちょっとはめてみて」

リングを取ろうとしたら横から古代君の手が伸びてきた。

「これはまだ完成していないんだ。

だから見せられないけどサイズの確認だけしてくれる?」

そう言って指にはめてくれた。

「ちょうど良いみたいだね。それじゃ進君仕上げてきなよ。

雪さんはこちらで待っていてくれますか?

進君なら10分ぐらいで戻ってきますから」

案内されたソファーで待っていると、ほんとに10分で戻ってきた。

「雪お待たせ。マコありがとう。いいものが出来たよ。

また今度飲みに…そっか、マコは飲めなかったんだよなぁ」

頭をかきながら困っているから

「今度は違うリングの注文にきますね」

って、言ったら古代君あわてている。

うふふ……黙っていた罰よ。







ドライブしてお買い物に付き合ってもらって、

おいしいお食事までご馳走になったのに何かが足りない気がするのはなぜかしら?

そうだ、大事なものまだ貰っていなかったんだ……

考え込んでいたら、目の前に見慣れない箱。

「はい、クリスマスプレゼント」

照れくさそうに渡してくれた。

「開けてみてもいい?」

ドキドキしながら開けてみると、そこにはさっき見たペンダントとリングが入っていた。

リングにも何か彫ってある。

なんて書いてあるんだろう……

「lovin'you……」

どこでこんなこと覚えてきたのかしら…

「気に入ってくれた?小さいけど雪の誕生石も入っているんだよ。

これなら気兼ねなくつけていられるだろうと思ってね」

そう言って指にはめてくれた。

なんだか嬉しいな。

こんなに幸せでいいのかしら……

黙り込んでしまっていると

「気に入らなかった?」

「ううん、とっても素敵なリングね。ありがとう、古代君」

貰ってばかりいたけど古代君のクリスマスプレゼントどこにしまったかしら…

ごそごそと鞄の中から出したものは、小さな箱。

「はい、これ古代君へのプレゼント。

この前のスーツに合うと思って…」

箱の中には、タイピンとカフスボタン。

シンプルなデザインが気に入って買ってきたんだけど…

「ありがとう、シンプルだけどとってもいい感じだね。

大切に使わせてもらうよ。でも、いつ使えるかわからないけど…」

「そんなこと、いつでも使えるようなデザインにしたのだから気にしないで」

楽しい、楽しい時間は直ぐに過ぎてしまう。

あまり遅くなるといけないからってレストランを後にする。

家に帰る前にちょっと寄り道。

誰もいない海岸を寄り添って歩くのも良いわね。

夜空を見上げると星が瞬いている。

呼ばれた気がして振り向くと、そっと抱きしめられた。

このままでいたいけど…

そう思ったのは私だけなのかな?

古代君の顔が近づいてきたので瞼を閉じた。

やさしいキスをしてもらっちゃった。

明日のデートはどこへ連れて行ってもらおうかしら?


                             おわり









                                              (背景:)
(MIDI:Carol)